Burden of Proof(立証責任)――英米法における証明責任の分配と英文契約書への影響

Burden of Proof(立証責任)は、訴訟において「どちらの当事者がどの事実を証明する責任を負うか」を定める概念であり、訴訟の勝敗を左右する極めて重要な要素です。英国法では民事訴訟の証明度として「balance of probabilities」(蓋然性の均衡)が採用されており、日本法の「高度の蓋然性」より低い証明度で足ります。英文契約書においても立証責任に関する条項が重要な意味を持ちます。

【目次】

1. Burden of Proof の基本的意味
2. 立証責任の分配(どちらが証明するか)
3. Balance of Probabilities(民事訴訟の証明度)
4. Beyond Reasonable Doubt(刑事訴訟の証明度)
5. 立証責任と証拠の種類
6. 英文契約書における立証責任条項
7. 立証責任が問題となる典型的な紛争場面
8. 英国法・米国法・日本法の比較表
9. よくある質問(FAQ)

1. Burden of Proof の基本的意味

Burden of proof(バーデン・オブ・プルーフ)は「立証責任」を意味します。訴訟において、ある事実の存否を証明する責任を負う当事者のことを「立証責任を負う者」といい、その証明に失敗した場合は不利益を被ることになります。

英語では「burden of proof」のほかに、「onus of proof」(オーナス・オブ・プルーフ)という表現も使われます。また、「burden of proving that...」という形で、特定の事実の証明責任を明示することもあります。

2. 立証責任の分配(どちらが証明するか)

立証責任の分配は訴訟の勝敗に直結するため、その原則を理解することは非常に重要です。

【原則】
一般に、ある事実の存在を証明することで利益を得る側(主張する側)が立証責任を負います。

例:契約違反を主張する側は違反の事実を証明する責任を負う
例:代金を請求する側は代金請求権の発生を証明する責任を負う

【例外:立証責任の転換(Reverse Burden)】
法律の規定や契約の定めにより、通常とは逆に立証責任が課される場合があります。例えば、過失の推定(negligence per se)により、加害者側が無過失を証明しなければならない場合などです。

3. Balance of Probabilities(民事訴訟の証明度)

英国法の民事訴訟において、事実を証明するための基準は 「balance of probabilities」(蓋然性の均衡)です。

Balance of probabilities の意味:
「当該事実が存在する可能性が、存在しない可能性よりも高い」こと、すなわち51%以上の可能性があれば事実が認定されます。

つまり、完全な確実性は不要で、「どちらかといえば証明された」という程度で足ります。これは日本法の「高度の蓋然性」(おおむね80%超)よりも低い証明度です。

この証明基準は英国の民事訴訟においてほぼあらゆる事案に適用されますが、詐欺(fraud)の立証など、より重大な事案では実質的により高い証明度が求められることもあります。

4. Beyond Reasonable Doubt(刑事訴訟の証明度)

刑事訴訟では、民事訴訟よりはるかに高い証明度が要求されます。英国・米国ともに 「beyond reasonable doubt」(合理的な疑いを超える証明)が必要です。

「合理的な疑いを超える」とは、陪審員が有罪に合理的な疑いを持たない状態を指します。具体的な数値では95〜99%程度の確信が必要とされています。検察官がこの高い証明度の立証責任を負います。

5. 立証責任と証拠の種類

立証責任を果たすために提出できる証拠の種類を理解しておくことも重要です。

主な証拠の種類:
・Documentary evidence(書証):契約書・メール・請求書・報告書等
・Witness evidence(人証):証人の証言(宣誓供述書)
・Expert evidence(鑑定):専門家(技術者・医師・会計士等)の意見
・Physical evidence(物証):製品・設備・サンプル等
・Circumstantial evidence(間接証拠):状況証拠

国際取引の紛争では、書証(特にメール・契約書・議事録)が非常に重要な証拠となります。日頃から適切な記録管理を行うことが立証準備の基本です。

6. 英文契約書における立証責任条項

立証責任は本来訴訟手続上の問題ですが、英文契約書において事前に規定することも可能です。ただし、裁判所が必ずしも契約上の規定に拘束されるわけではありません。

典型的な立証責任条項の例:
「The burden of proving that the goods do not conform to the specifications shall lie with the Buyer.」
(商品が仕様に適合していないことを証明する責任は買主が負う)

「The Party claiming Force Majeure shall bear the burden of proving the existence of the Force Majeure event.」
(不可抗力を主張する当事者が不可抗力事由の存在を証明する責任を負う)

7. 立証責任が問題となる典型的な紛争場面

国際取引における紛争で立証責任が重要な争点となる典型的な場面を紹介します。

① 品質クレーム:商品の欠陥の立証(買主 vs 売主)
② 不可抗力(Force Majeure):不可抗力事由の立証(主張する側)
③ 損害の立証:損害額・因果関係の立証(損害賠償請求側)
④ 秘密情報の漏洩:NDA違反の立証(被害を受けた側)
⑤ 表明保証違反:違反の事実・損害額の立証(買主)
⑥ 支払い遅延:支払義務の発生・金額の立証(売主)

8. 英国法・米国法・日本法の比較表

立証責任(Burden of Proof)に関する英国法・米国法・日本法の主な相違点です。

項目 英国法 米国法 日本法
民事訴訟の証明度 Balance of probabilities(51%超) Preponderance of evidence(51%超) 高度の蓋然性(おおむね80%超)
刑事訴訟の証明度 Beyond reasonable doubt Beyond reasonable doubt 合理的な疑いを超える証明
原告の立証責任 請求を基礎づける事実 請求を基礎づける事実 請求原因事実
推定による転換 多数の法律上の推定あり 多数の法律上の推定あり 法律上の推定・事実上の推定
陪審員の役割 民事は裁判官のみで判断(通常) 民事でも陪審制あり 裁判官のみ(職業裁判官制)

9. よくある質問(FAQ)

Q1. 英国法では51%の証明で事実が認定されるのですか?日本より立証が容易なのですか?
A. はい、英国の balance of probabilities は「どちらかといえば当該事実が存在する」という比較的低い証明基準です。日本法の「高度の蓋然性」より低く、理論上は立証が容易です。ただし詐欺・重大な不正などの案件では、実質的にはより高い証明度が要求される傾向があります。
Q2. 英文契約書で立証責任を自社に有利に定めるにはどうすればよいですか?
A. 相手方が証明しにくい事実(例:仕様不適合の不存在、力不可抗力事由の不存在)について、相手方に立証責任を負わせる条項を設けることが有効です。また、自社の検査記録・納品確認書等が prima facie evidence(一応の証拠)となることを契約書に明記することも有用です。
Q3. 「悪魔の証明」(事実の不存在の証明)は英国法でも困難ですか?
A. はい。英国法でも「事実の不存在」を証明することは困難です。ただし、balance of probabilities の基準であれば、「当該事実が存在しない可能性の方が高い」ことを示せば足ります。通常は、存在を主張する側が立証責任を負うことで、この困難さを回避します。
Q4. 仲裁(Arbitration)の場合も同じ証明度が適用されますか?
A. 仲裁においては、仲裁廷が適用する証明度を決定します。英国法準拠の仲裁では balance of probabilities が適用されることが多いですが、仲裁廷の判断や仲裁規則によって異なる場合があります。仲裁条項の設計段階で証明度についての合意を検討することもあります。
Q5. 紛争になった時に備えて、どのような記録管理をすべきですか?
A. 主要な取引に関するメール・議事録・指示書・検査記録・納品確認書等を体系的に保管してください。特に英国の訴訟では discovery(開示)手続きがあり、相手方から証拠の開示を求められます。証拠隠滅と疑われるような書類の廃棄は避けてください。また、立証を意識した交渉記録・クレーム対応記録の作成も重要です。

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この記事の執筆者

弁護士 菊地正登(片山法律会計事務所)
弁護士歴23年・国際法務歴17年。英国University of Southampton LLMコースワーク修了、ロンドンの法律事務所勤務経験あり。英文契約書の作成・翻訳・リーガルチェックを主な業務とし、英米法の実務的観点から国際取引をサポート。著書「海外取引の成否は『契約』で9割決まる」(幻冬舎)。

※本記事は一般的な情報提供を目的としており、特定の案件に対する法的アドバイスではありません。個別案件については必ず弁護士にご相談ください。※英国法・米国法の解説は2025年時点の情報を基にしています。法改正等により内容が変わる場合があります。

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