Fault / Negligence(過失)――英米法における過失の概念と英文契約書への影響

Fault / Negligence(過失)は、英米法において不法行為(tort)および契約における責任の基礎となる重要な概念です。特に英文契約書では、損害賠償責任の発生要件として「過失」を要求するか否かが条項の設計上の重要な選択となり、英国コモンローと日本法では扱いが大きく異なります。本記事では過失の法的意味・種類・英文契約書での活用・免責条項との関係を詳しく解説します。

【目次】

1. Fault / Negligence の基本的意味
2. 英米法における Negligence の4要件
3. Gross Negligence(重過失)と Negligence(軽過失)の違い
4. Strict Liability(厳格責任)と過失責任の比較
5. 英文契約書における過失条項の設計
6. 免責条項(Exclusion Clause)と過失の関係
7. Contributory Negligence(寄与過失)と過失相殺
8. 英国法・米国法・日本法の比較表
9. よくある質問(FAQ)

1. Fault / Negligence の基本的意味

Fault(フォルト)および Negligence(ネグリジェンス)はいずれも「過失」を意味します。英米法では特に不法行為法(tort law)の文脈でこれらの用語が使われますが、契約法においても重要な役割を果たします。

Negligenceは、注意義務(duty of care)に違反することにより他者に損害を与えた状態を指します。不法行為としての negligence は、①注意義務の存在、②注意義務の違反、③損害の発生、④因果関係の4要素によって構成されます。

2. 英米法における Negligence の4要件

不法行為としての negligence が成立するためには、以下の4要件をすべて満たす必要があります。

① Duty of Care(注意義務):
被告が原告に対して注意義務を負っていること。英国では Donoghue v Stevenson [1932] AC 562(ナメクジ事件)が注意義務の基礎を確立した。

② Breach of Duty(義務の違反):
被告が合理的な注意(reasonable care)の基準を下回る行為をしたこと。

③ Damage(損害):
原告が実際に損害を被ったこと(物的損害・人身損害・経済的損害)。

④ Causation(因果関係):
被告の義務違反と原告の損害の間に因果関係があること。「But for」テストが適用される。

3. Gross Negligence と Negligence の違い

英文契約書では、Gross Negligence(重過失)Negligence(過失・軽過失)が明確に区別されることが多く、それぞれ異なる法的効果が生じます。

種類 英語名 内容 免責の可否
重過失 Gross Negligence 著しい注意の欠如。損害発生の予見が容易な状況での不注意 免責条項による免責は原則不可
軽過失 Negligence(simple) 相当な注意基準を下回る行為。重過失よりは軽微 明確な免責条項があれば免責可能(UCTA制約あり)

英国では、Unfair Contract Terms Act 1977(不公正契約条項法、UCTA)により、事業者間の取引においても、死亡・身体傷害に対する negligence 責任の免責は認められません。財産的損害の免責は合理性テスト(reasonableness test)を通過する場合に限り有効です。

4. Strict Liability(厳格責任)と過失責任の比較

英米法では、過失責任(fault-based liability)のほかに Strict Liability(厳格責任)という概念があります。Strict Liability とは、過失の有無にかかわらず責任を負う制度です。

Strict Liability の例:
・製造物責任(Product Liability):製品の欠陥により損害が生じた場合、製造者は過失なしに責任を負う(英国:Consumer Protection Act 1987)
・危険な活動(Rylands v Fletcher 法則):土地上で危険物を保管・使用する者は、その逸出による損害に対して過失なく責任を負う
・雇用主の替え責任(Vicarious Liability):従業員の職務上の不法行為について雇用主が責任を負う

英文契約書においても、相手方の義務を strict obligation(絶対的義務)として定めると、過失の有無にかかわらず責任を負う厳格責任に近い効果が生じます。

5. 英文契約書における過失条項の設計

英文契約書において、過失(negligence / fault)を損害賠償責任の要件とするかどうかは重要な設計上の選択です。

【過失を要件とする条項(自社に有利):】
「Neither party shall be liable for any loss arising from the other party's breach, unless such breach was caused by negligence or wilful misconduct.」
(相手方の違反が過失または故意による場合を除き、損失に対する責任を負わない)

【過失を要件としない条項(厳格責任):】
「The Supplier shall be liable for all defects in goods delivered, regardless of fault.」
(故意・過失にかかわらず、納品物の欠陥について責任を負う)

6. 免責条項(Exclusion Clause)と過失の関係

英文契約書において、negligence(過失)による損害を免責する条項(exclusion clause)は、英国の UCTA(不公正契約条項法)による規制を受けます。

特に重要なのは、死亡・身体傷害(personal injury)に対する negligence 責任の免責は、事業者間取引においても UCTA によって無効とされる点です。財産的損害の免責は、合理性テストを通過する場合に限り有効です。

また、gross negligence(重過失)や wilful misconduct(故意の不正行為)については、免責条項で免責することは原則として認められません。

7. Contributory Negligence(寄与過失)と過失相殺

Contributory Negligence(コントリビュートリー・ネグリジェンス)は、損害の発生に原告自身の過失が寄与した場合に、損害賠償額を過失割合に応じて減額する法理です。日本法の「過失相殺」に相当します。

英国では Law Reform (Contributory Negligence) Act 1945 により、原告の寄与過失に応じて損害賠償額が比例的に減額されます。例えば、原告の過失が30%・被告の過失が70%と認定された場合、損害賠償額は70%に減額されます。

8. 英国法・米国法・日本法の比較表

Fault / Negligence(過失)に関する英国法・米国法・日本法の主な相違点です。

項目 英国法 米国法 日本法
契約責任の過失要否 原則不要(strict liability) 原則不要(strict liability) 原則として必要(民法415条)
不法行為の過失 Duty of care + breach + damage + causation 同様(州法により差異あり) 故意または過失 + 違法性 + 損害 + 因果関係
過失免責の可否 死亡・傷害は不可(UCTA)。財産は合理性テストで判断 州法による(消費者取引は広く規制) 消費者契約法で一定の免責条項を無効化
寄与過失(過失相殺) 1945年法による比例的減額 Comparative negligence(州法) 民法722条2項による過失相殺
Gross Negligence 免責不可(コモンロー原則) 免責不可(多くの州) 重過失は免責不可(通説)

9. よくある質問(FAQ)

Q1. 英国法準拠の契約では、相手方の過失がなくても損害賠償を請求できますか?
A. はい。英国コモンローでは、契約上の義務を履行できなかった場合、過失の有無にかかわらず損害賠償責任を負う可能性があります(strict liability)。ただし、契約書に「過失がない場合は責任を負わない」と明示している場合や、force majeure 条項で免責される場合は別です。
Q2. 「gross negligence」と「wilful misconduct」の違いは何ですか?
A. Gross negligence は、著しい注意の欠如であり、損害発生のリスクを当然認識すべきであったにもかかわらず無視した状態です。Wilful misconduct(故意の不正行為)は、損害発生を認識しながら意図的に行為した場合を指します。どちらも免責条項による免責は認められないのが原則です。
Q3. 英文契約書の責任制限条項(limitation of liability)は negligence にも適用されますか?
A. 適用するためには、negligence に対して責任制限が適用されることを明示的に規定する必要があります(「including negligence」等の文言が必要)。UCTA の合理性テストを通過する必要があり、死亡・傷害については責任制限も認められません。
Q4. 日本法では過失がなければ損害賠償責任を負わないのですか?
A. 日本の民法415条の下では、債務不履行による損害賠償は「債務者の責めに帰することができない事由による場合」は免責されます。すなわち、原則として過失がなければ免責される可能性があります。これは英国コモンローの strict liability とは対照的な規定です。
Q5. 英文契約書に「fault」と「negligence」が並記されている場合、意味の違いはありますか?
A. 多くの場合、「fault or negligence」として並記され、ほぼ同義として使われます。ただし、「fault」はより広い概念で、negligence(過失)・gross negligence(重過失)・wilful misconduct(故意の不正行為)を含む場合があります。契約書の定義条項(Definitions)でいずれかが定義されている場合はその定義に従います。

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この記事の執筆者

弁護士 菊地正登(片山法律会計事務所)
弁護士歴23年・国際法務歴17年。英国University of Southampton LLMコースワーク修了、ロンドンの法律事務所勤務経験あり。英文契約書の作成・翻訳・リーガルチェックを主な業務とし、英米法の実務的観点から国際取引をサポート。著書「海外取引の成否は『契約』で9割決まる」(幻冬舎)。

※本記事は一般的な情報提供を目的としており、特定の案件に対する法的アドバイスではありません。個別案件については必ず弁護士にご相談ください。※英国法・米国法の解説は2025年時点の情報を基にしています。法改正等により内容が変わる場合があります。

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