Misrepresentation(不実表示)——英国法における3種類の不実表示と契約実務への影響

英国University of Southampton LLMコースワーク修了・ロンドンの法律事務所勤務経験を持つ弁護士が、英国法・コモンローにおける「Misrepresentation(不実表示)」を詳しく解説します。詐欺的・過失的・無過失の3種類の区別、コモンローと制定法(Misrepresentation Act 1967)の違い、Entire Agreement条項の役割、スパイス・ガールズ事件の判例まで、実務的視点から解説します。

【目次】

1. Misrepresentationとは何か
2. 3種類のMisrepresentation
3. 「事実の表示」であることが必要——意見との違い
4. コモンローと制定法(Misrepresentation Act 1967)の違い
5. Remedyの内容——損害賠償と取消
6. Entire Agreement条項——Misrepresentation対策
7. 無言の行動(Conduct)によるMisrepresentation——スパイス・ガールズ事件
8. 英米日比較表
9. よくある質問(FAQ)

1. Misrepresentationとは何か

Misrepresentation(ミスレプレゼンテーション)とは、日本語で「不実表示」または「虚偽表示」と訳されます。表示者が事実と異なる言動を行い、その言動によって相手方が契約締結に誘引(induce)された場合に成立し得るものです。

英国法においては、Misrepresentationが認定されると、表示者はその内心の状態などに応じて損害賠償責任や契約取消(rescission)のリスクを負います。特に国際取引においては、契約書調印前の交渉段階での言動がMisrepresentationとされるリスクがあるため、注意が必要です。

2. 3種類のMisrepresentation

英国法上、Misrepresentationは表示者の主観・内心の状態によって3種類に分類されます。

1. Fraudulent misrepresentation(詐欺的不実表示)
 事実を表示した者が、それが虚偽であることを知っており、または真実かどうかを気にかけていない場合。故意に基づく最も重大な類型。

2. Negligent misrepresentation(過失的不実表示)
 虚偽の事実を真実と信じて表示したが、そのように信じた根拠が合理的でなかった場合。Misrepresentation Act 1967により制定法上も規律される。

3. Innocent misrepresentation(無過失による不実表示)
 虚偽の事実を表示したが、表示者がその事実を真実と信じており、かつそのように信じたことに合理的な根拠があった場合。

この3種類の区別は、認められるRemedyの内容に直結します。詐欺的なものは最も広い損害賠償が認められ、無過失のものは主に契約取消のみが認められるなど、類型によって責任の範囲が大きく異なります。

3. 「事実の表示」であることが必要——意見との違い

Misrepresentationが成立するためには、表示内容が「事実(fact)」に関するものでなければなりません。単なる「意見(opinion)」はMisrepresentationの対象外です。

意見として扱われる例:レストラン経営のためにある不動産を購入する際、不動産業者が「この場所は繁盛するでしょう」と述べた場合。→ 将来の見込みに関する純粋な意見であり、Misrepresentationとは認められない可能性が高い。

事実として扱われる例:既に営業しているレストランを買収する際、現オーナーが過去の来客数データに基づいて「今後も週平均500人来店する」と述べた場合。→ 過去の事実に裏付けられた意見として事実と区別されず、Misrepresentationになり得る。

4. コモンローと制定法(Misrepresentation Act 1967)の違い

英国ではMisrepresentationはコモンローだけでなく、Misrepresentation Act 1967(制定法)によっても規律されています。両者の主な違いは立証責任とRemedyの内容です。

コモンローの場合(過失的Misrepresentation):被害者が過失を立証する必要がある。損害賠償の範囲は予見可能な損害に限定。

Misrepresentation Act 1967の場合:立証責任が転換され、表示者側が合理的な根拠があったことを立証しなければならない。損害賠償の範囲は詐欺的Misrepresentationと同様に広く認められる(Royscot Trust Ltd v Rogerson [1991])。

つまり、制定法の方が被害者にとって有利であり、実務上は制定法に基づく請求が選好される傾向があります。

5. Remedyの内容——損害賠償と取消

Misrepresentationが認定された場合に認められるRemedyを整理します。

損害賠償(Damages):詐欺的・過失的Misrepresentationで認められる。詐欺的なものは直接損害全額(予見可能性を問わない)が認められる。
契約取消(Rescission):Equity上のRemedyであり、全類型で認められる。ただし、裁判所の裁量による。
Indemnity(補償):Innocent misrepresentationの場合、Rescissionとともに認められることがある。

著名判例 Smith New Court Ltd v Scrimgeour Vickers [1996] UKHL 3では、詐欺的Misrepresentationにより株式を市場価格より高く購入させられた原告について、購入価格と実際の転売価格の差額という実際の損害全額の賠償が認められました。これは通常の損害賠償(購入価格と市場価格の差額)を上回る額であり、詐欺的Misrepresentationの責任の重さを示しています。

6. Entire Agreement条項——Misrepresentation対策

英文契約書の実務では、Misrepresentationのリスクを管理するために「Entire Agreement条項(完全合意条項)」が広く用いられています。

"This Agreement constitutes the entire agreement between the parties with respect to its subject matter and supersedes all prior negotiations, representations, warranties, and understandings of any nature between the parties."

(本契約は、その主題に関する当事者間の完全な合意を構成し、当事者間のすべての事前の交渉、表示、保証および了解事項に優先する。)

ただし、Entire Agreement条項があっても、詐欺的Misrepresentationについては免責できないと解釈されることが多いため、注意が必要です。また、UCTA(Unfair Contract Terms Act 1977)のReasonableness Testに服する場合があります。

7. 無言の行動(Conduct)によるMisrepresentation——スパイス・ガールズ事件

Misrepresentationは言葉による表示だけでなく、無言の行動(conduct)によっても成立することがあります。これを示す著名判例が Spice Girls Ltd v Aprilia World Service BV [2002] EWCA Civ 15です。

スパイス・ガールズがApriliaとのスポンサー契約を締結した際、当時すでに解散が見込まれていたにもかかわらず、グループ全員が広告撮影に参加するなど、あたかも解散などあり得ないかのように振る舞いました。この「無言のconduct」がMisrepresentationと認定されました。

この判例は、契約交渉・締結時の当事者の行動が、明示的な言葉がなくても不実表示となり得ることを示しています。国際取引においても、交渉段階での行動・態度が法的リスクを生む可能性がある点に留意が必要です。

8. 英米日比較表

比較項目 英国法 米国法 日本法
根拠 コモンロー+Misrepresentation Act 1967 州法・コモンロー(Restatement準拠) 詐欺(民法96条)・錯誤(民法95条)
類型区分 詐欺的・過失的・無過失の3種 Fraud / Negligent / Innocent 詐欺・錯誤(類型は少ない)
主な救済 Damages(損害賠償)+Rescission(取消) Damages+Rescission+Punitive Damages 取消・損害賠償
行動(Conduct)による成立 認められる(Spice Girls事件) 認められる 明示的規定は少ないが信義則で対応

9. よくある質問(FAQ)

Q1. Entire Agreement条項があればMisrepresentationの主張を完全に防げますか?

完全には防げません。詐欺的MisrepresentationについてはEntire Agreement条項があっても責任を免れないと解釈されることが多いです。また、合理性テストに服する場合があります。ただし、過失的・無過失のMisrepresentationに対する防御としては有効です。

Q2. 日本企業が英国企業と交渉する際、どのような点に注意すべきですか?

交渉段階での発言・メール・プレゼンテーション資料などがMisrepresentationの証拠として使われる可能性があります。根拠のない事実の断言を避け、見込み・予測については「estimate」「projection」などの表現を使用することが重要です。

Q3. 沈黙はMisrepresentationになりますか?

英国コモンローの原則として、単なる沈黙はMisrepresentationにはなりません。ただし、保険契約など特定の類型では開示義務(Duty of Disclosure)が課されます。また、一部の事実を開示することで全体として誤解を招く場合は沈黙もMisrepresentationとなり得ます。

Q4. Non-reliance条項とは何ですか?Entire Agreement条項と違いますか?

Non-reliance条項は「当事者は相手方の表示に依拠していない」と明示する条項です。Entire Agreement条項と組み合わせて使われることが多く、Misrepresentationの成立要件である「依拠(reliance)」を否定するために機能します。ただし、詐欺的Misrepresentationへの対抗力には限界があります。

Q5. MisrepresentationとWarrantyの違いは何ですか?

Warranty(保証)は契約条項として組み込まれた事実の表示であり、その違反は契約違反として損害賠償請求の対象となります。Misrepresentationは契約締結前の表示で契約内容にはなっていないものの、相手方の意思決定に影響を与えた表示です。Warrantyは契約違反、Misrepresentationは不法行為類似の枠組みで処理される点が大きな違いです。

英文契約書のレビュー・作成はご相談ください

Misrepresentation対策・Entire Agreement条項の設計をサポートします

正式ご依頼まで料金不要 / 当日または翌営業日中に見積回答

✉ 無料見積依頼はこちら

この記事の執筆者

弁護士 菊地正登(片山法律会計事務所)
弁護士歴23年・国際法務歴17年。英国University of Southampton LLMコースワーク修了、ロンドンの法律事務所勤務経験あり。英文契約書の作成・翻訳・リーガルチェックを主な業務とし、英米法の実務的観点から国際取引をサポート。著書「海外取引の成否は『契約』で9割決まる」(幻冬舎)。

※本記事は一般的な情報提供を目的としており、特定の案件に対する法的アドバイスではありません。個別案件については必ず弁護士にご相談ください。※英国法・米国法の解説は2025年時点の情報を基にしています。法改正等により内容が変わる場合があります。

お問合せ・ご相談はこちら(無料)

 まずはお気軽にご相談・見積依頼をどうぞ

正式ご依頼まで料金不要/当日または翌営業日中に見積回答

 お問合せフォーム・メールがスムーズです

✉ お問い合わせはこちら(見積無料)

メール・電話・Web会議で対応可能 / 正式ご依頼まで料金不要

お電話でのお問合せ・ご相談はこちら
03-6453-6337

担当:菊地正登(キクチマサト)

受付時間:9:00~18:00
定休日:土日祝日

※契約書を添付して頂ければ見積回答致します
受付時間:24時間

 英文契約書の作成・翻訳・リーガルチェック(全国対応),実績多数の弁護士菊地正登です。弁護士歴23年(国際法務歴17年),約3年間の英国留学・ロンドンの法律事務所での勤務経験があります。英文契約・国際取引を中心に取り扱い,高品質で迅速対応しています。お気軽にお問合せ下さい。

お気軽にお問合せください

お電話でのお問合せ

03-6453-6337

<受付時間>
9:00~18:00
※土日祝日は除く

弁 護 士 情 報

弁護士  菊  地  正  登
片山法律会計事務所

東京都港区芝5-26-20
建築会館4F
tel: 03-6453-6337
email: kikuchi@mkikuchi-law.com

片山法律会計事務所

住所

〒108-0014
東京都港区芝5-26-20
建築会館4F

アクセス

都営三田線・浅草線三田駅またはJR田町駅から徒歩約3分です

受付時間

9:00~18:00

定休日

土日祝日

 弁護士インタビュー動画

書  籍

士業・翻訳業者・保険会社・金融機関の方へ

各士業の先生方,翻訳業者,保険会社,金融機関のお客様の英文契約書に関する案件についてお手伝いさせて頂いております。

ご紹介頂いたお客様の初回相談料は無料ですので,お気軽にお問合せ下さい。

ご相談方法

メール・電話・Web会議・対面の打ち合わせによる対応を行っております。

サイト内検索 - 英文契約書用語の検索ができます -