英国University of Southampton LLMコースワーク修了・ロンドンの法律事務所勤務経験を持つ弁護士が、英文契約書における「Exemption clause(免責条項)」の英国法・コモンロー上の扱いを詳しく解説します。UCTA 1977のReasonableness Test、Contra proferentumの原則、Privity of contractとの関係まで、実務的視点から体系的に説明します。
【目次】
1. Exemption clause(免責条項)とは何か
2. コモンローによる免責条項の制限
3. Contra proferentumの原則——曖昧な条項の解釈
4. UCTA 1977(不公正契約条項法)とReasonableness Test
5. Reasonableness Testの5つの判断基準
6. Privity of contractとの絡み——従業員への免責付与
7. 実務上の免責条項設計のポイント
8. 英米日比較表
9. よくある質問(FAQ)
Exemption clause(イグゼンプション・クローズ)とは、契約当事者の一方または双方が特定の責任を負わないと定める条項の総称です。英文契約書では「Limitation of Liability」「Exclusion of Liability」「Indemnification」などとも呼ばれます。
英国コモンローでは契約自由の原則が認められており、当事者は原則として自由に免責条項を設けることができます。しかし、コモンロー自身やEquity(衡平法)、制定法によってこの自由は制限される場合があります。余りに酷で重荷となる条項は、裁判所により無効とされる場合があるのです。
コモンロー上、免責条項が無効とされる可能性がある場面を整理します。
1. 特殊で重荷となる条項の組込みの問題
内容が異例(unusual)で一方当事者に過大な負担をかける条項は、ハイライト等で特に目立つ形で提示されていなければ、裁判所により無効とされることがある(Parker v South Eastern Railway [1877])。
2. Negligenceの免責に関する問題
Negligence(過失)に基づく責任を免除する条項については、その旨が明確に定められていない限り、免責を認めない傾向がある(Alderslade v Hendon Laundry Ltd [1945])。
また、ビジネス上の優位な立場を利用して一方的に自己に都合の良い免責条項を定めたとしても、場合によってその効果が限定されたり、効力が否定されたりすることがあります。
Contra proferentum(コントラ・プロフェレンタム)とは、「曖昧な条項は、その条項の起草者(またはその条項によって利益を受けようとする者)に不利に解釈される」という原則です。
典型判例:Hollier v Rambler Motors (AMC) Ltd [1972] 2 QB 71
事案:自動車のオーナー(原告)が修理のために被告に自動車を預けたところ、被告の過失により被告のガレージ内で火災が発生し自動車が損傷。契約書には「premises内での火災による顧客の車への損害を免責する」条項があった。
判決:Court of Appeal(控訴院)は、この免責条項が曖昧であるとしてContra proferentumを適用。条項は被告の過失に基づかない火災による損害のみを免責するものであり、被告の過失による火災被害は免責されないと判示した。
このような判例から、免責条項は起草する側が不利益を受けるリスクがあることを示しています。免責条項は曖昧さをなくし、できる限り明確・具体的に記載することが不可欠です。
英国の制定法として、免責条項を規律する最重要法令が Unfair Contract Terms Act 1977(UCTA)です。
絶対的無効:人の生命または身体への損害について、Negligenceによる責任を免除することは絶対に禁止される。
Reasonableness Testへの服従:財産への損害についてのNegligence免責、B2B契約における品質・仕様保証の免責などは、合理性テスト(Reasonableness Test)をパスしなければ無効となる。
なお、UCTAはB2B(企業間)取引でも適用されます(消費者取引にはさらに厳格なConsumer Rights Act 2015が適用)。日本企業が英国企業と取引する場合、UCTAの適用範囲を必ず確認することが必要です。
UCTAのReasonableness Testには判断ガイドラインが存在し、以下の5つの要素が考慮されます。
1. 交渉力の力関係(Bargaining strength):当事者間の交渉上の優劣関係
2. 誘引・代替取引の有無:免責条項を承諾する見返り(価格減額など)があったか、または他者と免責なしで契約できる機会があったか
3. 知識・告知:慣習や過去の取引から、相手方が免責条項の存在と範囲を知り得たか
4. 条件充足の現実的可能性:免責条項の発動条件(例:一定期間内の通知)を充足することが現実的に可能か
5. 特別注文による製造等の有無:商品が相手方の特別注文に基づいて製造・加工されたか
これらのガイドラインは、UCTAの適用があるかどうかにかかわらず、免責条項の合理性を評価する際の一般的な指標としても有用です。
免責条項に関して、Privity of contract(契約の相対性)およびVicarious liability(使用者責任)との関係で注意すべき問題があります。
問題のシナリオ:A社とB社が契約し、A社がある責任について免責条項を設けた。A社の従業員CがB社との契約上の業務執行中にB社に損害を与えた場合、CはA社との契約の当事者ではないため(Privity of contractの原則)、免責条項を援用できない。他方、A社はVicarious liabilityでB社に責任を負う。結果として免責条項は機能しない可能性がある。
解決策:契約書でA社の従業員Cも免責条項の利益を享受すると明示する。Rights of Third Parties Act 1999により、Cも免責条項を援用でき、A社もVicarious liabilityを回避できる。
英国法準拠の英文契約書における免責条項設計の実務上のポイントをまとめます。
1. Negligenceを免除する場合は明示的にその旨を記載する
2. Gross negligence / Wilful MisconductはUCTAを問わず免責できない旨を確認する
3. Reasonableness Testの5要素を意識した合理的な範囲に免責を限定する
4. 上限額(Cap)を設ける場合は、契約金額や保険金額との整合性を取る
5. 従業員・代理人への免責拡張を明示する
6. 人の生命・身体への損害は絶対に免責できないことを確認する
| 比較項目 | 英国法 | 米国法 | 日本法 |
|---|---|---|---|
| 規制法令 | UCTA 1977 / Consumer Rights Act 2015 | 州法(UCC等) | 民法(信義則)・消費者契約法 |
| 生命・身体への免責 | 絶対禁止(UCTA s.2(1)) | 多くの州で無効 | 消費者への全部免除は無効(消費者契約法8条) |
| 合理性テスト | UCTA Reasonableness Test(B2Bにも適用) | 公序良俗テスト(state-by-state) | 信義則・公序良俗による制限 |
| 曖昧条項の解釈 | Contra proferentumにより起草者不利に解釈 | 同左 | 作成者不利解釈(民法548条の2等) |
Q1. 英国法準拠の契約書でNegligenceを完全に免責することはできますか?
人の生命・身体への損害については、Negligenceによる責任を完全に免責することはUCTA上絶対的に禁止されています。財産損害については、Reasonableness Testをパスすれば免責できる可能性があります。
Q2. B2B契約でも消費者契約法のような保護が受けられますか?
英国では、B2B取引でもUCTA 1977が適用され、一定の免責条項はReasonableness Testに服します。消費者取引にはより厳格なConsumer Rights Act 2015が適用されます。日本法では、消費者契約法はB2B取引には適用されません。
Q3. 責任上限額(Cap)はどのように設定すればよいですか?
一般的には、当該契約の対価(契約金額)または一定期間の対価を基準とすることが多いです。また、付保している保険金額との整合性を取ることも重要です。あまりに低い上限額はReasonableness Testで不合理と判断されるリスクがあります。
Q4. 準拠法を英国以外の法律にすれば、UCTAの適用を回避できますか?
準拠法合意だけではUCTAの適用を完全に回避できない場合があります。特に、当事者の一方が英国で業務を行っている場合や、契約が英国で履行される場合には、UCTAが強行規定として適用される可能性があります。
Q5. 免責条項の有効性を高めるために最も重要なことは何ですか?
明確性・具体性が最重要です。Negligenceを免責する場合は明示的に記載し、曖昧な表現を避けることが不可欠です。また、免責の対象・範囲・金額上限を明確に定め、Reasonableness Testに耐えられる合理的な内容にすることが必要です。
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この記事の執筆者
弁護士 菊地正登(片山法律会計事務所)
弁護士歴23年・国際法務歴17年。英国University of Southampton LLMコースワーク修了、ロンドンの法律事務所勤務経験あり。英文契約書の作成・翻訳・リーガルチェックを主な業務とし、英米法の実務的観点から国際取引をサポート。著書「海外取引の成否は『契約』で9割決まる」(幻冬舎)。
※本記事は一般的な情報提供を目的としており、特定の案件に対する法的アドバイスではありません。個別案件については必ず弁護士にご相談ください。※英国法・米国法の解説は2025年時点の情報を基にしています。法改正等により内容が変わる場合があります。
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