Privity of Contract(契約の相対性)——英国法における第三者への効力と Rights of Third Parties Act 1999

英国University of Southampton LLMコースワーク修了・ロンドンの法律事務所勤務経験を持つ弁護士が、英国法における「Privity of Contract(契約の相対性)」を詳しく解説します。ジンジャー・ビアー事件(Donoghue v Stevenson)の衝撃、Rights of Third Parties Act 1999による例外、Vicarious Liability(使用者責任)との関係まで、実務的視点から解説します。

【目次】

1. Privity of Contractとは何か
2. 原則——契約は当事者のみを拘束する
3. 例外1:Rights of Third Parties Act 1999
4. 例外2:Negligence(不法行為)——Donoghue v Stevenson
5. M&Aと第三者への権利義務の移転
6. Vicarious Liability(使用者責任)との関係
7. 第三者のためにする契約の実務的活用
8. 英米日比較表
9. よくある質問(FAQ)

1. Privity of Contractとは何か

Privity of Contract(プリビティ・オブ・コントラクト)とは、「契約の相対性」と訳され、「契約は契約当事者間においてのみ効力を有し、第三者には影響を及ぼさない」という英国コモンローの基本原則です。

この原則は日本法でも同様に認められており、自分が当事者でない契約から権利を得たり義務を負ったりすることは原則としてありません。ただし、英国法では制定法(Rights of Third Parties Act 1999)によってこの原則に重要な例外が設けられています。

2. 原則——契約は当事者のみを拘束する

Privity of Contractの原則を確立した重要な判例として Tweddle v Atkinson [1861] 1 B&S 393および Dunlop Pneumatic Tyre Co Ltd v Selfridge & Co Ltd [1915] AC 847が挙げられます。

原則の内容:契約上の権利義務は原則として契約当事者のみが取得・負担する。
帰結1:第三者は契約に基づく履行請求ができない(訴訟の当事者適格がない)。
帰結2:第三者に対して契約上の義務を課すことはできない。
帰結3:契約当事者間の合意は第三者の権利を勝手に変更できない。

3. 例外1:Rights of Third Parties Act 1999

英国では1999年に制定されたRights of Third Parties Act 1999(第三者権利法)により、一定の要件を満たす場合に第三者が契約上の利益を直接請求できる例外が認められました。

同法が適用される条件(どちらか一方を満たす場合):
1. 契約において第三者に権利を付与する旨が明示されている場合
2. 契約条項が第三者に利益を付与する場合であって、当事者がそれを意図していたと認められる場合

効果:第三者は直接、契約上の義務を負う者に対して履行請求または損害賠償請求ができる(訴訟の当事者適格が付与される)。

実務上は、免責条項において従業員等の第三者も免責の利益を受けると明示することで、当該第三者がRights of Third Parties Act 1999に基づいて免責条項を援用できるようになります(前記Exemption clauseの解説参照)。

4. 例外2:Negligence(不法行為)——Donoghue v Stevenson

Privity of Contractとは別に、不法行為(Tort)のNegligenceによって契約関係のない第三者に義務が生じる場合があります。これを確立した判例が英国法史上最重要判例の一つ Donoghue v Stevenson [1932] AC 562(「ジンジャー・ビアー事件」)です。

事案:カフェで友人からジンジャー・ビアーを奢ってもらった女性(原告・Donoghue)が、そのビアーを飲んだところ、ボトル内に腐敗したカタツムリの死骸が入っており、健康被害を被った。原告はビールのメーカー(被告・Stevenson)を訴えた。原告自身はドリンクを購入しておらず、カフェ経営者やメーカーとの間に契約関係がなかった。

判決:House of Lordsは、損害の発生が予見可能(foreseeable)であれば注意義務(duty of care)が生じると判示し、メーカーは直接の契約関係がない消費者に対しても責任を負うとした。

「Neighbour Principle(隣人原則)」:Lord Atkinは「自分の行為が影響を与えうる他者に対して、合理的な注意を払う義務がある」と述べ、「ネイバー(隣人)」として保護される者の範囲を示した。

この判例以来、メーカーがエンド・ユーザーに対して責任を負うケースが頻発しました。その後Consumer Protection Act 1987が制定され、メーカーのエンド・ユーザーへの責任がStrictLiability(無過失責任)として制定法化されました。

5. M&Aと第三者への権利義務の移転

Privity of Contractは、M&A(企業の合併・買収)の場面でも重要な論点となります。

例えば、消滅会社(A社)が取引先(B社)と締結していた契約は、合併後の存続会社(C社)に自動的には移転しません。Privity of Contractの原則から、B社は存続会社に対して消滅会社との契約上の権利を直接主張できないからです。

これを解決するためには、合併契約書に消滅会社の契約を存続会社に承継させる旨を明記し、また可能であれば取引先(B社)の同意(Novation:更改)を取得することが必要です。M&AにおけるDD(Due Diligence)では、承継する契約のリストアップと各契約のAssignment/Novation条項の確認が不可欠です。

6. Vicarious Liability(使用者責任)との関係

Privity of Contractとは別の枠組みで、契約当事者の関係を超えて義務が生じる例として「Vicarious Liability(使用者責任)」があります。

Vicarious Liability(使用者責任):従業員が業務執行中に第三者に損害を与えた場合、当該従業員の使用者も連帯して損害賠償責任を負う。
典型例:従業員が業務として自動車を運転中に歩行者を轢いた場合、当該従業員の雇用会社も賠償責任を負う。
理由:会社は従業員を利用して利益を得ているため、損失も負担すべきという衡平(equity)の観念と、会社の方が賠償能力が高いという政策的考慮。

7. 第三者のためにする契約の実務的活用

Rights of Third Parties Act 1999を活用した実務的な契約設計の例を確認します。

グループ会社への利益付与:親会社が契約を締結し、子会社・関連会社も当該契約上の利益(例:製品保証・免責)を享受できると明記する。
従業員・請負業者への免責付与:A社がB社との免責条項でA社の従業員・再委託業者も免責の利益を受けると明示し、これらの者がRights of Third Parties Act 1999に基づいて免責を援用できるようにする。
Act 1999の適用除外:当事者が合意でRights of Third Parties Act 1999の適用を明示的に除外することもできる(第三者への権利付与を意図しない場合に有用)。

8. 英米日比較表

比較項目 英国法 米国法 日本法
基本原則 Privity of Contract(第三者効力なし) 同左(ただし例外あり) 契約の相対効(民法)
第三者権利の法的根拠 Rights of Third Parties Act 1999 Restatement (Second) Contracts §302(第三者受益者) 民法537条(第三者のためにする契約)
不法行為による例外 Donoghue v Stevenson以降明確 認められる 不法行為(民法709条)で対応
使用者責任 認められる(Vicarious Liability) 認められる(Respondeat Superior) 認められる(民法715条)

9. よくある質問(FAQ)

Q1. グループ会社間での契約でも、Privity of Contractの問題が生じますか?

生じます。法的には親会社と子会社は別法人であるため、親会社が締結した契約の権利義務は、明示的な規定なく子会社に移転しません。グループ会社が同一の契約から利益を受けるためには、Rights of Third Parties Act 1999に基づく明示条項が必要です。

Q2. 契約の譲渡(Assignment)とNovation(更改)の違いは何ですか?

Assignmentは権利のみを第三者に移転するもので、相手方の同意なく行える場合があります(義務は移転しない)。NovationはA・B間の契約をA・C間の新契約に置き換えるもので、相手方(B)の同意が必要です。義務の移転にはNovationが必要です。

Q3. Rights of Third Parties Act 1999の適用を排除する条項を設ける理由は何ですか?

当事者が意図しない第三者に対して契約上の権利を付与するリスクを避けるためです。特に、広範な「利益付与」と解釈され得る条項がある場合、第三者が突然請求権を主張してくるリスクがあるため、「本契約はRights of Third Parties Act 1999を適用しない」旨を明示することが一般的です。

Q4. 日本法のもとで「第三者のためにする契約(民法537条)」と英国のRights of Third Parties Act 1999はどう違いますか?

日本法では、第三者が受益の意思表示をすることで権利が確定します(受益の意思表示が必要)。英国法では、原則として受益の意思表示なく第三者が権利を取得し、その後の権利変更・消滅に第三者の同意が必要になる場合があります。英国法の方がより積極的に第三者に権利を付与する傾向があります。

Q5. Donoghue v Stevensonの「Neighbour Principle」は現代でも有効ですか?

有効です。現代では「Caparo test」(Caparo Industries plc v Dickman [1990])として精緻化され、①損害の予見可能性、②近接性(proximity)、③注意義務を認めることが公正・合理的かという3段階テストに発展しています。製造物責任、専門家責任など多くの分野でDonoghue v Stevensonの「Neighbour Principle」が基礎となっています。

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この記事の執筆者

弁護士 菊地正登(片山法律会計事務所)
弁護士歴23年・国際法務歴17年。英国University of Southampton LLMコースワーク修了、ロンドンの法律事務所勤務経験あり。英文契約書の作成・翻訳・リーガルチェックを主な業務とし、英米法の実務的観点から国際取引をサポート。著書「海外取引の成否は『契約』で9割決まる」(幻冬舎)。

※本記事は一般的な情報提供を目的としており、特定の案件に対する法的アドバイスではありません。個別案件については必ず弁護士にご相談ください。※英国法・米国法の解説は2025年時点の情報を基にしています。法改正等により内容が変わる場合があります。

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