英国University of Southampton LLMコースワーク修了・ロンドンの法律事務所勤務経験を持つ弁護士が、英文契約書における「Transfer(移転・譲渡)」と「Assignment(権利譲渡)」の違い、および契約上の権利・義務の第三者への移転に関する英国法の基本原則を解説します。M&A・事業譲渡・知的財産ライセンスなど多様な取引で重要となるテーマです。
【目次】
1. TransferとAssignmentの違い
2. 英国法における契約上の権利・義務の移転原則
3. 権利の譲渡(Assignment of Rights)
4. 義務の移転(Novation と Delegation)
5. 譲渡禁止特約(Anti-Assignment Clause)
6. サブコントラクティングと義務の委託
7. M&A・事業譲渡における契約の移転
8. 英米法・日本法・その他法制度の比較表
9. よくある質問(FAQ)
英文契約書において「Transfer(移転・譲渡)」と「Assignment(権利譲渡)」はしばしば混用されますが、厳密には異なる概念です。
TransferとAssignmentの使い分け
Transfer:一般に目に見える(tangible)有形財産の譲渡に使用されます。例:不動産(land)の移転、株式(shares)の移転、物品(goods)の所有権移転など。
Assignment:一般に目に見えない(intangible)無形財産の譲渡に使用されます。例:知的財産権(intellectual property rights)の譲渡、債権(receivables)の譲渡、契約上の権利(contractual rights)の譲渡など。
ただし、実際の英文契約書では両者を同義で使用することも多く、「transfer or assign」と列挙して両方をカバーする表現が広く用いられています。
英国法の下では、当事者が別に合意しない限り、契約上の権利・義務を第三者に対して譲渡することが原則として認められています。しかし、実際には自由な譲渡を認めることが当事者にとって好ましくない場合が多くあります。
例えば、特定のサービス提供者のスキルや評判を信頼して契約を締結した場合、そのサービス提供者が第三者(例:競合他社)に契約上の義務を移転することは、委託者の期待に反します。このため、通常は契約書に譲渡制限条項を設けます。
注意点:権利と義務では移転の扱いが異なる
英国法上、権利(right)の譲渡は比較的自由に行えます。例えば、代金請求権の第三者への譲渡(factoring等)は、原則として相手方の同意なく行えます(ただし、譲渡禁止特約がある場合を除く)。
これに対し、義務(obligation)の移転は、相手方の同意(novation)なしには原則として行えません。義務の移転には相手方も含む三者間の合意が必要です。
契約上の権利の譲渡(Assignment)は、英国ではLaw of Property Act 1925第136条により規律されます。法的(legal)なAssignmentが有効となるためには、以下の要件を満たす必要があります。
Legal Assignmentの要件(LPA 1925 s.136)
✓ 書面による絶対的譲渡(written absolute assignment)であること
✓ 譲渡人が債務者(obligor)に書面で通知すること
✓ 条件付き(conditional)または担保目的の譲渡は対象外
上記要件を満たさない場合でも、Equitable Assignmentとして認められる場合があります(書面不要、通知不要)が、効力が限定的です。
実務上、売掛債権の譲渡(receivables assignment)、保険金請求権の譲渡、知的財産権の譲渡など、様々な場面でAssignmentが活用されています。
契約上の義務を第三者に移転する方法として、主にNovation(更改)とDelegation(委任)があります。
NovationとDelegationの違い
Novation(更改):元の契約を消滅させ、新たな当事者との間に新しい契約を締結することで義務を移転する方法。元の当事者・新当事者・相手方の三者の合意が必要。元の当事者は義務から完全に解放される。
Delegation(委任):義務の履行を第三者に委託する方法。元の当事者は依然として義務を負い続けるが、実際の履行を第三者が行う。履行に問題が生じた場合、元の当事者が責任を負う。
M&Aや企業再編の場面では、Novationが広く使用されます。特に重要な取引契約においては、相手方の同意を得てNovation Agreementを締結することが標準的な実務です。
英国法の下では、当事者が別に合意しない限り、契約上の権利・義務を第三者に対して譲渡することが認められています。これを制限したい場合には、譲渡禁止特約(Anti-Assignment Clause)を定める必要があります。
譲渡禁止特約の典型的な条文例
"Neither Party shall assign, transfer, charge or otherwise deal with any of its rights or obligations under this Agreement without the prior written consent of the other Party, such consent not to be unreasonably withheld or delayed."
(いずれの当事者も、相手方の事前の書面による同意なく、本契約上の権利・義務の全部または一部を譲渡・移転・担保設定またはその他の処分をしてはならない。ただし、かかる同意は不合理に留保または遅延させてはならない。)
また、グループ会社への移転については例外を認める条項("except to an Affiliate"など)を設けることも多くあります。グループ再編に対応するために、かかる例外条項の範囲(関連会社の定義等)を明確に定めることが重要です。