英国University of Southampton LLMコースワーク修了・ロンドンの法律事務所勤務経験を持つ弁護士が、英文契約書において最も重要な条項の一つである「Indemnity(補償)」と「Warranty(保証)」の違いを詳しく解説します。M&A・売買・ライセンス・サービス契約など幅広い英文契約書に登場するこれらの概念を正確に理解することは、法務担当者に不可欠なスキルです。
【目次】
1. IndemnityとWarrantyの基本的な違い
2. Indemnity(補償)の概念と典型的な条文
3. Warrantyの概念と違反の効果
4. M&A契約における Representation, Warranty & Indemnity
5. 売買契約・サービス契約における実務
6. IndemnityとWarrantyの組み合わせ——実務上の使い分け
7. Warranty条項の違反効果を明確化する重要性
8. 英米法・日本法・その他法制度の比較表
9. よくある質問(FAQ)
英文契約書において頻出するIndemnity(インデムニティ)とWarranty(ワランティ)は、しばしば混同されますが、法的な性質・機能・効果において明確に異なります。
IndemnityとWarrantyの本質的な違い
Indemnity(補償):ある当事者が、相手方が第三者等に対して負うことになった損失・費用・損害を肩代わりして支払うという約束。損失が実際に発生した場合に、その損失を補償する(make whole)機能を持つ。
Warranty(保証):ある当事者が特定の事実・状況・品質について保証するという約束。Warrantyが虚偽であったことが判明した場合、相手方は損害賠償・解除等の救済を求めることができる。
一言でまとめると、Indemnityは「損失の補填」であり、Warrantyは「事実・品質の保証」です。
Indemnityは「補償」と和訳されます。英文契約書では、典型的に"Party A shall indemnify Party B against any losses, costs, damages..."という形で使われます。
Indemnityの典型例
Seller(売主)がBuyer(買主)に対して製品を販売したとします。Buyerが当該製品を販売していたところ、第三者の知的財産権を侵害したとして当該第三者からBuyerが損害賠償請求を受け、Buyerが第三者にその賠償額を支払ったとします。
この場合、"Seller shall indemnify Buyer against any claims arising out of the infringement of third party intellectual property rights"という条項があれば、SellerがBuyerに賠償金・弁護士費用等を補償します。
BuyerはSellerに補償され、第三者に対する責任を最終的にSellerが負うことになります。
Indemnityの重要な特徴として、損害が現実に発生・支払われた後にその補填を求めるものであるため、相手方の過失の立証が不要であることが多く、Mitigation of Damagesの原則の適用が限定的とされることがあります。
Warrantyは「保証」と和訳されます。英文契約書では"Seller warrants that..."や"Party A represents and warrants that..."という形で使われます。
英米法上、Warrantyの内容に違反した場合は、通常は買主は損害賠償ができるとされますが、場合によっては契約の解除等が認められることもあります。
Warranty違反の効果——明確化が重要な理由
Warrantyという英文契約書用語を使用して、その違反があった場合の効果について記載しないと、効果があいまいになります。例えば、「損害賠償のみか」「解除もできるか」「代替品の交換を要求できるか」「代金の減額を要求できるか」が不明確になります。
これは両当事者にとって不利であり、Seller側としてもWarranty違反があった場合にどのような対応をしなければならないのかを事前に明確にすることで、過大なリスクを制限できます。
よく定められるWarranty違反の効果としては、商品の交換・代金の減額・修理・契約の解除が挙げられます。契約書には、これらのうちどの救済手段が適用されるかを明示することが実務上の鉄則です。
M&A取引において、表明保証(Representation and Warranty)とIndemnityは特に重要な役割を果たします。
M&A契約における機能の違い
Representation(表明):契約締結時点での事実についての言明。例:「対象会社は訴訟係属中ではない」
Warranty(保証):対象会社の状況・財務・コンプライアンス等について一定の状態を保証するもの。期間中の継続的な保証を含む場合も。
Indemnity(補償):特定のリスクが顕在化した場合(例:税務調査による追徴課税、環境汚染の発覚)に売主が買主に生じた損失を補償するもの。Warrantyより直接的な補償機能を持つ。
M&A契約では、Warrantyに基づく請求は損害賠償として認められますが、Indemnityに基づく請求はより直接的に損失全額の補填を求めることができ、Mitigation義務の適用が限定されます。特定の高リスク項目(税務・環境・訴訟リスク等)については、Warrantyよりも強力な保護となるIndemnityを取得することが実務上有利です。
M&A以外の一般的な売買契約・サービス契約においても、IndemnityとWarrantyはそれぞれ重要な役割を果たします。
売買契約・サービス契約における主な利用場面
Warranty(保証)の例
・製品が仕様・品質基準を満たすことの保証
・ソフトウェアが著作権を侵害しないことの保証
・製品が適用法規に適合することの保証
・サービスが業界標準のケアと技能を持って提供されることの保証
Indemnity(補償)の例
・第三者からの知的財産侵害クレームに対する補償
・製品の欠陥による第三者への人身傷害・財産損害に対する補償
・データ漏洩による罰金・損害に対する補償
・規制当局による調査・制裁に対する補償
実務上、IndemnityとWarrantyはしばしば組み合わせて使用されます。その典型的なパターンを説明します。
典型的な組み合わせパターン
パターン1:Warranty + Indemnity
製品が第三者の知的財産権を侵害しないとWarrantyし、かつ万一侵害クレームが生じた場合にはIndemnityを提供する。これにより、買主はWarrantyの違反を証明しなくても、実際のクレームに基づくIndemnityを直接請求できる。
パターン2:Warranty のみ
一般的な品質保証については、Warrantyのみを設けることが多い。違反があった場合は損害賠償・修補・交換等で対応。
パターン3:Indemnity のみ
特定のリスクについて(税務リスク・環境リスク等)、当事者間で責任の所在を明確にするためIndemnityのみを設ける場合。
英文契約書のレビューにおいて、Warranty条項を確認する際には、違反が生じた場合の効果(Remedies)が明確に規定されているかを必ず確認してください。
Warranty条項レビューのチェックリスト
✓ Warrantyの具体的な内容(何を保証するのか)が明確か
✓ Warrantyが真である期間(存続期間)が定められているか
✓ 違反が生じた場合の救済手段(損害賠償・交換・修補・解除等)が明示されているか
✓ Warrantyクレームの通知期限が設けられているか
✓ Warrantyクレームの最低額(De Minimis)・累積上限(Basket)・最高限度額(Cap)が定められているか
✓ Warrantyに対する開示(Disclosure)の範囲が明確か
Seller側(Warrantyを提供する側)としては、Warrantyの範囲を可能な限り限定し、開示(Disclosure Letter)によりWarrantyの適用を排除することが重要です。Buyer側(Warrantyを受ける側)としては、Warrantyの内容を詳細かつ具体的に規定し、Indemnityでカバーされないリスクを適切に管理することが求められます。
IndemnityとWarrantyに相当する概念の各法制度における扱いを比較します。
| 比較項目 | 英国法 | 米国法 | 日本法 |
|---|---|---|---|
| Indemnity(補償) | 損失の直接補填。Mitigation義務限定的 | ほぼ同様。各州法で若干の差異 | 損害賠償・補償条項として規定。「補償」「免責」という用語を使用 |
| Warranty(保証) | 違反で損害賠償・場合によっては解除 | ほぼ同様。UCC§2-312〜318で製品保証を規定 | 契約不適合責任(民法562条〜)が近似。修補・代金減額・解除・損害賠償 |
| Representation(表明) | 虚偽でMisrepresentation法(1967年)適用 | 各州法で詐欺的・過失的不実表示の責任 | 詐欺・錯誤(民法95・96条)が近似 |
| Indemnity保険 | W&I Insurance(Warranty & Indemnity Insurance)が発展 | Rep & Warranty Insuranceとして普及 | M&A保険として近年普及中 |
| Indemnityのcap | 交渉で設定。Indemnityはcapなしのことも | 同様 | 損害賠償の予定・上限は契約で設定可 |
Q1. IndemnityはWarrantyの代わりになりますか?
A. 機能が異なるため、完全な代替にはなりません。Warrantyは「その事実が真実である」ことを保証するものであり、違反があって初めて救済が生じます。これに対してIndemnityは、特定のリスクが顕在化した場合に損失を直接補填するものです。実務上は両者を組み合わせることで、より強力な保護が得られます。特定のリスクについて、Warrantyに加えてIndemnityを取得することで、Warrantyの違反立証なしに損失の直接補填を求めることができます。
Q2. Indemnityに上限額(cap)を設けるべきですか?
A. Indemnityを提供する側(Seller・サービス提供者等)の立場からは、上限額(cap)を設けることが重要です。Indemnityは理論上、実際に発生した損失全額の補填を求めることができるため、上限なしでは無限の責任を負いかねません。実務上は、契約金額や取引の規模に応じた上限額(例:契約代金の100%)を設定することが一般的です。ただし、詐欺・意図的な不正行為に基づくIndemnityについては上限を設けないことも多くあります。
Q3. W&I Insurance(Warranty & Indemnity Insurance)とは何ですか?
A. W&I Insuranceは、M&A取引における表明保証(Warranty)の違反から生じるリスクをカバーする保険です。英国・欧米でのM&A取引で急速に普及しています。この保険を利用することで、買主は売主への直接請求ではなく保険会社への請求でWarranty違反の損失をカバーできます。売主にとっては売却代金の返還リスクを保険でカバーできるメリットがあります。日本のM&A取引でも近年急速に普及しており、大型M&Aでの利用が増えています。
Q4. 「represents and warrants」という表現はよく見ますが、RepresentationとWarrantyの違いは何ですか?
A. 厳密には、Representation(表明)は契約締結時点での事実についての言明であり、虚偽の場合はMisrepresentation(不実表示)として契約取消・損害賠償の原因となります。Warranty(保証)は契約条項の一部として、一定の事実・状態について保証するものであり、違反は契約違反として損害賠償・解除等の原因となります。実務的には両者は重なることが多く、"represents and warrants"と一体として使用することで、両方の救済手段が確保されます。
Q5. 日本語の「損害賠償」と英文のIndemnityはどう違いますか?
A. 日本法の「損害賠償」は、相手方の契約違反や不法行為を前提として(過失等の要件を満たして)損害を金銭で填補することを求めるものです。これに対してIndemnityは、必ずしも相手方の過失・違反を前提とせず、特定のリスクが顕在化した場合に損失を補填する約束です。Indemnityは、当事者が「このリスクはこの当事者が負う」とあらかじめ合意したリスク配分の仕組みとして機能します。また、Indemnityに基づく請求はMitigation of Damagesの適用が限定されることが多く、損害賠償よりも強力な救済手段となりえます。
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弁護士 菊地正登(片山法律会計事務所)
弁護士歴23年・国際法務歴17年。英国University of Southampton LLMコースワーク修了、ロンドンの法律事務所勤務経験あり。英文契約書の作成・翻訳・リーガルチェックを主な業務とし、英米法の実務的観点から国際取引をサポート。著書「海外取引の成否は『契約』で9割決まる」(幻冬舎)。
※本記事は一般的な情報提供を目的としており、特定の案件に対する法的アドバイスではありません。個別案件については必ず弁護士にご相談ください。※英国法・米国法の解説は2025年時点の情報を基にしています。法改正等により内容が変わる場合があります。
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