企業の法務部員が英文契約書を翻訳・修正・作成する際に役立てられればと思い,英米法のポイントを解説した連載記事「英文契約書の翻訳・作成に役立つ英米法のポイント解説1」です。
なお,具体的に意味を知りたい英文契約書に関する英米法の概念がある場合は,その語句を左メニュー下にあるサイト内検索に入力して頂くと便利です。
お役立て頂ければ幸いです。
法務部員が英文契約書を作成,チェック(レビュー/審査),翻訳(英訳/和訳),修正をする際に役に立つ英米法の基礎知識です。
今回は,battle of formについて解説します。
契約交渉中に両当事者が自己に有利になるように,お互いに自社が持っている書式を送り合うことがあります。
これを「契約書式の戦い」(battle of form)などと呼んでいます。
法的には,こうした契約書式の戦いの中,どの段階で契約が成立したのかが問題になることがあります。
契約が成立するためには,offer(申し込み) の意思表示に対して,これを受諾する内容のacceptance(承諾)の意思表示がなされる必要があります。
そのため,通常は,battle of formの勝者は,最後に条項等のofferを提示し,これが相手にacceptされたと認められた者,つまり最後の申込者となります。
ただし,Uniform Commercial Code(UCC)(米国統一商法典)が適用される場合などは,異なる取り扱いとなる場合もありますので注意が必要です。
こうした問題は,契約書に調印する型式では,その性質上あまり顕在化しません。
当事者がサインする予定の契約書の場合は,最終的に両当事者が1通の契約書にサインして成立するため,どの書類でいつ契約が成立したかは明らかな場合が多いからです。
それよりも,注文書(Purchase Order),請書(Purchase Order Acceptance)などの裏面などに条項が記載されていて,お互いがそれを引用するなどと主張しあっているうちに,物品の引渡しがなされたというような場面で,一体どの段階のどの条件で契約が成立したのかという内容でしばしば問題化します。
このようなトラブルは,全体的な契約内容に影響を及ぼすものです。
したがって,このような紛争を避けるため,契約成立の時点,どの条項で合意したのかについては,できる限り明確になるように,交渉開始から取引開始まで十分に注意しなければなりません。
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今回は,契約の成立時期について詳しく説明します。
Battle of formについての記事で述べたとおり,契約の成立時期については,契約書のサイン・調印がある場合にはそれほど問題になりませんが,個別契約において注文書(Purchase Order),請書・受注書(Purchase Order Acceptance)などを利用する場合には注意が必要です。
英国法の下では,隔地者間が郵送により契約における承諾の意思表示を行う場合には,発信主義が採用されています。
発信主義とは,意思表示を発したときに当該意思表示の効果が生じるというものです。
これと反対の概念は,到達主義と呼ばれ,意思表示が相手方に到達して初めて効力を生じるというものです。
承諾の意思表示は発信主義であるため,申し込みを承諾する旨の通知を郵送で発送したが,通知が郵便事故等により申込者に到達しなかったとしても,発信した日付をもって契約は成立したものとして取り扱われます。
したがって,この場合でも,既に契約は成立している以上,申込者は契約の履行義務を負います。
そのため,例えば,売主が既に目的物を第三者に売却したなどの理由で,買主に対し目的物の引渡義務を履行できないということになれば,売主は買主に対し損害賠償等の責任を負うことになります。もっとも,この発信主義は,当事者に何も取り決めがない場合の原則的な処理ですから,当事者の合意で排除したり,変更したりできます。
そのため,例えば,商品の個別の売買契約の成立をどのように取り扱うかについて,基本契約書などで明確にしておくと良いでしょう。
特に国際取引などの隔地者間では,この点の取り扱いを定めることには重大な意味があります。
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今回は,privity of contractについて解説します。
現代では当然と言えば当然のことかもしれませんが,基本的な考えとして,契約は契約当事者間においてのみ効力を有するという,doctrine of privity of contractという原則が英国法にもあります。
したがって,当該契約における権利義務は原則として契約当事者のみが取得・負担し,契約外の第三者は影響を受けません。
この原則は日本法の下でも同じです。自分が約束してもいない合意から自分が権利を得たり義務を負ったりすることは基本的にないことになります。
しかし,英国法下,これにも例外があり,契約当事者が,第三者に対して利益を付与すると契約において明言していれば,第三者のためにする契約となり,当該第三者は契約関係にはないにもかかわらず,直接義務者に対して付与された権利を行使できることになります(Rights of Third Parties Act 1999)。
このような第三者には民事訴訟の原告適格(訴訟の当事者として裁判を遂行しその利益を受けることができる権利です。)が認められるということです。
この第三者の権利・義務の移転については,例えば,M&Aが起こった場合に,消滅会社との取引があった第三者が,当該取引に基づく履行請求等を存続会社に行使できるかという問題として浮上することもあります。
合併契約時に,こうした消滅会社の取引先との契約を存続会社に対して移転させることが明示されていれば,問題なく存続会社に履行請求できることになります。
なお,契約関係がない者に対して,例外的に義務を生じるもう一つの例としてnegligenceという不法行為法(tort)の概念があります。
これは,ジンジャー・ビアーとカタツムリをめぐるHouse of Lords(当時の最高裁判所に相当する貴族院)の著名な判例Donoghue v Stevenson [1932] UKHL 100により確立されたものです。
同判例では,契約関係のない当事者においても,ある損害が生じることが予見可能(foreseeable)であれば,注意義務(duty of care)が生じる場合があり,これに違反する(breach of duty of care)ことで,negligenceとしての損害賠償責任が生じると判断されました。
同事例では,パブでジンジャー・ビアーを注文した客が,開栓したところ,中にカタツムリの死骸!が入っていたが,客はそのままジンジャー・ビアーを飲んでしまったため,病気を患ったという事実の下で,客がビールのメーカーに対して損害賠償請求できるかが問題となりました。
House of Lordsは前述のforeseeable→duty of care→breach of duty of careの流れを述べ,結論として原告の請求を認めました。
上記の場面では,パブの客はメーカーから直接ジンジャー・ビアーを購入したのではありませんから,客とメーカーの間には何らの契約関係がありません。
契約があるのは,パブとパブの客との間(飲食を提供する契約),また,パブとメーカー(ジンジャー・ビアーの販売契約)との間です。
そのため,本来privity of contractの理論からはメーカーはパブの客に対して義務を負わないはずです。
そのため,パブの客はパブを訴え,パブはメーカーを訴えることになるのが通常の契約責任追及での流れになります。
しかし,House of Lordsはこの原則を適用せず,メーカーはパブの客に直接責任を負うとしたのです。
上記判決以来,メーカーがエンド・ユーザーたる顧客に対して責任を負うケースが続発し,その後,この理論に一定の歯止めかける(floodgate)必要があることが提唱され始めました。
ユーザーが損害を被ることが予見できるのであれば,メーカーなどの第三者にその損害防止義務を認め,同義務に違反すれば当該第三者が責任を負うというのでは,責任の範囲があまりに広がりすぎるという懸念があるためです。
そのため,近年では,上記のnegligenceによる責任発生を正当かつ合理的な範囲(just and reasonable)範囲に狭める流れもあります。
(なお,余談ですが,サイダー(果実の炭酸が入ったお酒でいわゆるサイダーとは違います)好きのイギリス人とパブで飲んでいる時,サイダーをナメクジが大好きで,樽の中にはナメクジがたくさん入っているという話を聞いたことがあります・・・。)
また,ジンジャー・ビアー事件の後,Consumer Protection Act 1987が制定され,メーカーがエンド・ユーザーに責任を負う場面を制定法によって明確化しました。
同法は,因果関係の立証負担をユーザーに課してはいますが,他方でメーカーに過失がなくとも責任を生じるstrict liability(厳格責任・無過失責任)とし,一定の範囲でユーザーを保護しています。この点は,日本の製造物責任法も同様と言えます。
さらに,こちらもtort(不法行為)の問題ですが,vicarious liability(使用者責任)という責任も契約当事者の関係を超えて義務を生じる例として挙げることが可能です。
例えば,employer とemployee,principleとagent,partnershipにおけるpartner同士などで問題となります。
従業員が,従事する会社の業務において義務違反を行い,これにより相手に損害を生じさせたような場合,当該会社もまた責任を負うというものです。
使用者責任は不法行為の問題であり,典型例は,従業員が業務として自動車で物品を運搬中,歩行者を轢いてしまった場合,当該従業員の雇用者もまた賠償責任を負うという例が挙げられるのですが,取引的な不法行為というものも存在しており,企業間取引の場面でも使用者責任が問題となる場合があります。
一般に会社等は個人よりも賠償能力が高いこと,雇用主は被用者を利用して利益を得ているのだから損失も負担すべきという観念から認められている制度です。
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今回は,EU法の一般的な概念について簡単に解説します。なお,本記事では,英国が EU加盟国であるものとして記載しています。
英国法の基礎を理解するのに,忘れてはならないのがEU法です。
イギリスには議会優位の原則(parliamentary sovereignty)という概念があり,最高裁といえども議会の立法を無効化することはできません。
しかし,こうした強い効力を持つ議会制定法に対しても優位する法源がEU法です。
EU加盟国の裁判所は,国内法を可能な限りEU法に合致するように解釈しなければなりません。
国内法とEU法が抵触する虞があるときは,European Court of Justice(ECJ)にpreliminary rulingsという方法で,問題となるEU法の解釈につき照会することができます。
ECJの判断は結果として全加盟国及び全裁判所を拘束することとなります。
特に,企業間取引においてはEUのCompetition Law(競争法)が重要な意味を持っています。
EU加盟国間で独占的販売店契約(Exclusive Distribution/Distributorship Agreement)などを締結する場合には,このCompetition Law(競争法)の適用を受ける場面がありますので特に注意が必要です。
このように,英国を含むEU加盟国の法解釈においては,EU法をも視野に入れて検討することが必要となります。
Competition Law(競争法)は,日本の独占禁止法のようなもので,EU圏内での自由かつ公正な単一市場を目指すために,様々な工夫を凝らしています。
※ただし,2020年1月31日をもって英国はEUを離脱したため,以降上記は当てはまらなくなりました。
法務部員が英文契約書をレビューする際に役に立つ英米法の基礎知識です。
今回は,breach of contractについての解説です。
いわゆる債務不履行の概念について,英国法と日本法では違いがありますので,この点について簡単に説明します。
日本法の下では,債務不履行による救済が認められるには当事者の帰責性(過失)が必要とされていますが,英国コモン・ローでは,契約違反に基づく責任を生じるのに,当事者の過失を要件としていません。
Breach of contract(契約違反)があった場合,それが当事者の帰責性に基づくか否かは問わず,remedy(救済)が認められます。そして,このremedyの内容が,契約の内容または契約違反の内容・程度などによって変容することになります。
コモン・ローの下では,原則的なremedyは,損害賠償ですが,前述したとおり,例えば,違反した契約条項がwarrantyであれば,損害賠償請求のみが認められ,conditionであれば,損害賠償請求及び解除が認められ,intermediateであれば,損害賠償請求は常に認められるものの,解除については契約違反の程度次第とされるなど,remedyの内容が変わります。
未だ履行がなされていないという契約違反であれば,その債務がいわゆる「なす債務」(例えば,ミュージシャンの出演契約)でない限りは,specific performance(履行の強制)がremedyとして認められることもあります。
ただし,specific performanceはequity上のremedyであるため,必ず認められるという性質のものではなく,認められるかどうかは裁判所の裁量(discretion)によることになります。
英文契約書を作成,チェック(レビュー/審査),翻訳(英訳/和訳),修正をする際に登場する英文契約書用語に,Exclusive/Non-Exclusiveがあります。
これらが,英文契約書で使用される場合,通常,前者は「独占的/排他的」,後者は「非独占的/非排他的」という意味で使われます。
日本では,独占的販売権を有する販売店(自ら商品を仕入れて在庫を持ち,自ら商流に入る)のことを,総代理店(販売総代理店/一手販売店)などと呼んでいますが,より正確にいうと独占販売店ということにはなります。
このExlucive/Non-Exclusiveという英文契約書用語は,販売店契約(Distribution Agreement)や,代理店契約(Agency Agreement)などで頻出します。
非常に重要な英文契約書用語の一つといえます。Exclusiveとするのか,Non-Exclusiveとするのかによって,根本的なビジネスの内容に影響を与えるといえます。
メーカーがExclusiveの独占販売権(総代理店の権利)を一定の地域について販売店に与えるということは,当該地域においては,メーカーは直接自ら当該製品を販売できませんし,その他の販売店を指名することも禁止されることを意味するのが通常です。
これに対し,Non-Exclusiveの非独占販売権を与えたということであれば,メーカーは,直接販売も可能であり,他の販売店を指名することも可能であることを通常意味します。
なお,これらとは別にSoleという表現が英文契約書で使用されることもあります。
これは,通常,「唯一の」という意味ですので,ある地域で唯一の販売店・代理店であるということを定めたものと解されます。
つまり,メーカーは,当該地域において,他の販売店・代理店を指名することは禁止される(他を指名すれば唯一でなくなるため)が,メーカー自らが顧客に販売することは禁止されないということを意味することになります。
なお,exclusiveという表現をしたとしても,必ずしも,メーカーが自分で商品をその販売地域において販売することまでは禁止されているかどうかは明らかでないという人もいます。
Exclusiveという表現をした場合にも,メーカーの直接販売まで禁止されているかどうかは明確ではないという見解を示す人もいるので,メーカーの直接販売も禁止したい場合は,念のため,その旨を英文契約書に明記するほうが良いかもしれません。
他にも,Exclusive(総代理店/販売総代理店/一手販売店)としながら,メーカーがオンラインショップで売却することは可能であると定めたりすることもあり,いろいろなバリエーションがあります。
オンラインショップについては,どの国の顧客でも注文で来てしまい,逐一売却して良いかどうかを選別することが煩わしい,高コストであるという理由から,例外にされることがあります。
Exclusiveの独占販売権(総代理店/販売総代理店/一手販売店契約)を与えるのか,与るとして例外を設けるのか,または,Non-Exclusiveとするのかは当然ですがメーカーと販売店双方にとって極めて重要です。
契約期間や最低販売数量などの他の条件も検討しながら,慎重に決定しなければなりません。
また,EUでは,ExclusiveやSoleの契約は,競争を制限するものの有効とされています。
ただし,販売地域(Territory)制限については保護の程度に注意が必要です。
例えば,あるメーカーが,EU加盟国で販売店を指名して,販売地域を限定し,「それ以外の地域には能動的にも受動的にも一切商品を販売してはならない」と取り決めていたとします。
この場合,受動的な販売まで禁止しているのでこの部分は無効になってしまいます。
能動的な販売というのは販売店(Distributor)が自ら積極的に働きかけて販売地域外の顧客に商品を販売していくことを指します。
こちらは禁止できるとされています。
これに対し,受動的な販売というのは,積極的に働きかけているわけではないのに,販売地域外から例えばオンラインストアに注文が来たような場合に,これを受けて販売するような場合を指します。
この受動的な注文も断らなければならないというという制限は自由競争の範囲を大きく制限するものと考えて,無効だとされているのです。
そのため,EUでの販売店(Distributor)指名の際には,受動的は販売までは禁止できないという前提で事業戦略を立てる必要があるでしょう。
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