輸出による海外展開マニュアル

 

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 日本の内需が縮小する中,欧米やアジア新興国などの海外に販路開拓・拡大を狙う中小企業の皆様のお手伝いをさせて頂いています。

 

 

 輸出による海外展開は,独資や合資により現地法人を設立しての海外展開よりは,リスクが低いといえます。

 

 

 しかし,当然ですが,海外との取引は,日本国内の取引とは全く異なるもので,以下のように,簡単に記しただけでも多種多様のリスクが潜んでいます。

 

 

 海外展開を行う前に,これらのリスクについて十分に検討し,可能な限りリスクを除去または軽減したうえで,取引を開始することが重要です。

 

 

 輸出入規制

 

 各国には,独自の輸出入規制が存在します。

 

 

 そのため,日本で流通している商品でも,特定の国では輸入が禁止され,販売できないということはよくあります。

 

 

 また,輸入自体は許されても,一定の制限が課されていることもあります。さらに,いわゆる途上国では,貿易ライセンスを有する業者しか輸入が許されないという規制も存在します。

 

 

 したがって,入り口として,日本から当該製品を当該国に輸出し,当該国での販売が可能であるかは,チェックしなければなりません。

 

 

 輸出事業の展開プロセス

 

 当該国に製品が輸出できるとわかった場合,直接小売店などに販売することもありますが,多くは,現地のパートナーを見つけ,そのパートナーに販売店(Distributor)または代理店(Agent/Sales Representative)となってもらい,製品の販売を依頼します。

 

 

 その場合,いくつかのプロセスを踏むことをお勧めしています。

 

 

 まず,展示会などで引き合いがあり,パートナー候補が見つかったとします。このパートナーが信用できる相手なのか,当然事前調査(Due Diligence)(デュー・デリジェンス)をします。

 

 

 財務状況はどうか,代表者は信頼に足りるか,本当に現地法に基づいて設立された法人として存在するのか,この取引は取締役会で承認されたものなのか,コンプライアンスはどうか,自社と契約できる法的地位にあるのかなどを検討します。



 信頼できる相手だと判断できたとしても,すぐに製品サンプルなどを渡してはいけません。模倣リスクなどを負うことになります。

 

 

 その前に,きちんと守秘義務契約書(Non-Disclosure Agreement/NDA)を交わします。実際には,NDAがあっても,違反する業者もいますから,前述の事前調査は重要ですし,簡単にサンプルやテスト機などを渡さないことも重要です。



 その点,貴社の製品にブラックボックスが存在すると有利になります。製品情報として開示しなくても良い情報がブラックボックスとなり,分析してもわからない内容なのであれば,模倣リスクなどがかなり軽減されます。

 

 

 その後,サンプル等を渡し,いざ,取引を開始するという段階になったとしても,安易に販売店契約(Distribution Agreement)代理店契約(Agency Agreement/Sales Representative Agreement)を締結するのはお勧めしません。

 

 

 相手がどれだけの購買力と販売力があるのか,わからない段階で上記のような長期契約を締結するには,高いリスクがあるからです。

 

 

 そのため,最初は,単発での個別売買契約によって,取引を開始するのが危険が少ないといえいます。

 

 

 その後,取引を継続していると,パートナー側からも,正式な販売店契約または代理店契約の締結を要求されるでしょう。

 

 

 その段では,パートナーのこれまでの実績も加味しながら,非独占または独占の販売店/代理店契約を締結することがあります。

 

 

 独占契約とすると,契約期間中は,自ら顧客に販売できず,他の販売店/代理店を指名できないという制約を受けるため,非独占よりもリスクが高いことになります。

 

 

 そのため,独占契約とする場合には,契約期間を短く刻んだり,最低購入数量条項(Minimum Purchase Quantity)解除条項(Termination with or without cause)を入れたりします

 

 

 ただし,現地法には,販売店/代理店保護法が存在する場合があり,これらの対策では十分でないこともあるので注意が必要です。したがって,事前に現地法の調査が必要になる場合があります。

 

 

 中には,独占権を取得して,製品の販売努力をしないという業者もいます。競合品の市場参入を防止したりといろいろな目的でこのようなことが行われます。

 

 

 そのため,販促についての努力義務などを課し,このようなパートナーについては契約違反として契約を解除できるようにしておく必要性もあります。

 

 

 また,いざ契約が結ばれ,相当期間が経過したときに,パートナーのパフォーマンスがよくないとして,契約の更新を拒絶したり,契約を解約して,新しい販売店/代理店を指名したり,自社で販社を設立したりするということもありえます。

 

 

 しかし,これは,これまでの販売店/代理店が築き上げてきたブランド力や販路(Goodwill)(グッドウィル)に「ただ乗り」(Free Ride)(フリーライド)するようなものですから,トラブルになることが多いです。そのため,このような場合に備えた契約書を結んでおくことが必須といえます。

 

 

 製品クレーム

 

 輸出業を行う日本企業としては,製品をどのようなルールで検収させ,どのようなルールに基づいて製品保証をするのか,事前に取り決めて契約書に明記しておく必要があります。

 

 

 そして,契約書に明記された方法以外では,製品に関するクレームを一切受け付けないと記載しておく必要があります。

 

 

 製造物責任

 

 現地での製造物責任法(Product Liability Act/PL法)については,注意が必要です。

 

 

 PLクレームリスクのある製品を輸出する場合,現地のPL法を調査した上,契約書で,PL責任について対処しておく必要があります。



 リコールになるような事態が想定される場合,その対応方法,責任の所在・割合なども決めておく必要があります。



 メーカーと販売店でPL保険(生産物賠償責任保険)などをどうするのかも定める必要があります。

 

 

 現地法で有効になるかどうかはさておき,可能であれば,PL法における責任が生じた場合,最終的に補償すべき当事者は現地の販売店/代理店である旨を規定したいこともあるでしょう。

 

 

 現地での商標権や特許権登録の検討

 

 輸出製品の商標権や特許権などは,登録していても日本でしか有効ではありません。そのため,これらの知的財産権について,当該国でも保護を受けようとする場合,原則として,現地国にて登録が必要となります。

 

 

 もっとも,特許の場合,技術的情報も公開されてしまい,一定期間の経過により,保護が受けられなくなってしまうという問題があるため,ブラックボックスがあるのであれば,あえて登録をしないということもあります。

 

 

 登録維持には,一定のコストもかかりますし,いざ侵害行為があった場合にどこまで対処するかによりコストが大きく異なってくるため,これら知的財産権についてどのような戦略をとるのかは事前に決めておく必要があります。 

 

 

 支払方法

 

 輸出業を行う日本企業にとって,高いリスクを負うことがあるのが,この支払方法,代金決済方法です。

 

 

 この点のリスクヘッジで有効なのは,前払いのT/T送金やL/C決済などと言われています。

 

 

 しかし,全部を前払いの条件で行えるかについては,取引内容や相手方の立場上の強さにも影響されますし,すべての業者がL/C決済可能なわけではありません。

 

 

 中小企業にとって,貿易保険なども保険料を考えると現実的ではない場合もあります。

 

 

 そのため,原価分のみ前払いで送金してもらい,残りを納品後に払ってもらう,実績が相当に積まれた後には一部掛け売りに応じるなど,一定程度の譲歩をしているのも現実といえるでしょう。

 

 

 もっとも,中には,100%前払いでなければ,輸出に応じないという事業者様もいらっしゃいます。

 

 

 販売地域(Territory)

 

 特に独占の販売店/代理店契約を締結する場合には,重要な内容です。

 

 

 一般的には,販売店/代理店の実力がわからない段階では,独占権を与えるとしても,販売地域を限定的にするということが行われます。

 

 

 広い地域で独占権を与えてしまうと,そのパートナーのパフォーマンスが悪かった場合に,自社の販売戦略に重要な影響を生じるおそれがあるためです。



 この販売地域の指定については,独占禁止法や競争法(Competition Law)の規制が問題になることがあるので,注意が必要です。

 

 

 更新条項(Renewal Clause)

 

 販売店/代理店契約については,有効期間を定めることは必須といえるでしょう。

 

 

 その際,よく見かける条項は,「契約期間は3年とし,契約期間の満了日の30日前に,いずれの当事者からも更新拒絶の書面による通知が相手方に出されなかった場合には,自動的に3年間更新し,以降も同様にする」というような内容のものです。

 

 

 これによると,更新拒絶をしない限り,自動的に更新されるという内容になっているため,現地の販売店/代理店からすれば,更新の期待を抱きやすいといえます。

 

 

 そこで,「契約期間は3年とし,同期間の経過をもって自動的に終了する。ただし,期間満了の30日前までに当事者が期間の延長について書面により合意した場合は,合意した期間のみ存続する。」などと定めることもあります。



 メーカー,サプライヤーとしては,相手のパフォーマンス次第で契約を終了させたいという場面もあるでしょうから,あえて更新には触れないこともよくあります。



 ただし,販売店側からは,契約終了につき補償金の支払いや契約継続を求めるクレームが来ることが多いです。このようなクレームを予想して,事前にどのような文言にするかを検討する必要があります。

  

 

 準拠法・紛争解決方法

 

 準拠法というのは,販売店/代理店契約などに関し,現地の販売店/代理店と争いが生じたような場合,どこの国の法律を適用して契約などを解釈するかという問題です。

 

 

 また,紛争解決方法とは,上記のような紛争が起こったとき,どのような方法,例えば,裁判や仲裁で解決するか,さらに,どの裁判所や仲裁機関で解決するかなどの問題を指します。

 

 

 これは,紛争時には重要な問題です。はじめて海外取引を行う中小企業の経営者の方もこの点を非常に気にされます。

 

 

 しかし,本当に紛争が起きた際に,これらの条項にしたがって紛争解決ができるか,または,解決して実効性があるかということは,事業開始前に十分に検討しておく必要があります。

 

 

 仮に日本法に準拠し,日本を仲裁地とするという条項を勝ち取れたとしても,中小企業にとっては,実際に紛争を裁判や仲裁によって解決し,それを外国で執行するということは,コスト的に非現実的である場合があります。

 

 

 また,外国法を準拠法とし,外国において仲裁を行うとされた場合,そもそも仲裁における弁護士費用も負担できないということもよく起こります。

 

 

 したがって,有事の際の準拠法・紛争解決条項に頼るのではなく,例えば,代金決済方法について粘り強く交渉し,いかにトラブルや紛争を生じさせないようにするかの方がはるかに重要といえるでしょう。



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