英文契約書によくある文言解釈を巡るトラブルとその解決法

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 ここでは,実際にあった英文契約書の文言解釈を巡るトラブルとその解決法について解説します。

 

 日本法人であるABC商事㈱は,フランスにあるXYZ製造㈱と大規模な取引について契約をしました。

 

 ABC商事㈱は,単価の大きい機械類をXYZ製造㈱に輸出し,代金を段階に応じて分割して払ってもらうという内容の基本売買契約書(Basic Sales Transaction Agreement)を締結しました。

 

 その契約書の中では,XYZ製造㈱が発注したい年間ボリュームがかかれ,これに応じてABC商事㈱が製品を卸すようにすると合意されました。

 

 もっとも,ABC商事㈱は商社ですので,当該製品を必ずXYZ製造㈱のオーダーに応じて卸せるかどうかは確約できない状況でした。

 

 そのため,ABC商事㈱の法務担当者は,XYZ製造㈱のオーダーに対する対応は,あくまで目標とすべきと考え,英文契約書における文言を「aimed volume」と規定しました。

 

 日本側は,このようにすることで,あくまで英文契約書に定めた年間取引ボリュームは,「目標値」であり,達成が法的に義務付けられているものではないと考えていました。

 

 その後,日本側は,概ねドイツ側の発注に対応できていたのですが,年度の後半になって,一部についてXYZ製造㈱のオーダーに対応できない取引が生じてしまいした。

 

 すると,その後の支払期日になっても,XYZ製造㈱から入金がありませんでした。

 

 ABC商事㈱がXYZ製造㈱に対して未払いについて問合わせると,XYZ製造㈱は「契約違反があるから,払えない。」と回答してきました。

 

 ドイツ側は,「aimed volume」という表現は法的拘束力のあるものと考えていたのです。

 

 ABC商事㈱は,代金が巨額であるため,法的に争うことも考えました。

 

 そこで,英文契約書を見てみると,準拠法(Governing Law)管轄裁判所(Jurisdiction)もドイツとされており,実際に争うとなると不利益が大きいと考え結局断念しました。

 

 その後,ABC商事㈱は,代金全額の回収は諦めざるを得なくなり,和解により,大幅に減額した代金を回収するにとどまりました。

 

本事例の解決法

 本事例において,ABC商事㈱は,最低限何をしておくべきだったでしょうか。

 

 それは,英文契約書の用語について,「その意味内容を正確に把握しドラフトする」「相手方とその意味内容を齟齬なく明確に共有しておく」ことが必要でした。 

 

 Aimed volumeとして,これに法的拘束力を持たせず,単に目標にするとしたいのであれば,その旨を明確に記載しなければならなかったということになります。

 

 上記の例で,もしABC商事㈱が文言解釈を法廷闘争に持ち込み,XYZ製造㈱を訴えていたら,ドイツの裁判所で,XYZ製造㈱の言い分のとおり上記文言には「拘束力がある」と判断されるかはわかりません。

 

 しかしながら,裁判で勝てるかどうかという以前に,そもそも争いになってしまうこと事態が大きなマイナスを生むので,争いが生じること自体避けなければならないのです。

 

 そのため,例えば,The aimed volume is not legally binding on the parties and means a forecast only.(目標の取引量は当事者を法的に拘束するものではなく予測値に過ぎない。)などと契約書に記載し,相手方とその内容についてきちんと確認すべきだったのです。

 

 このようにした上で英文契約書にサインしていれば,上記のようなトラブルは回避できたでしょう。

 

 特に数字的な目標に関する文言はトラブルを生じやすいです。他にもtargetなどの用語を使う際は,その数字が法的拘束力を持つものかどうかを明らかにするようにしましょう。

 

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英文契約書によくある代金支払リスク・納品リスクとその解決法

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日本の㈱ABC製造(部品メーカー)は,タイの㈱XYZ製造から引き合いを受け,自社製品の輸出について取引を持ち掛けられました。

 

 そこで,英文契約書を作ることになり,条件交渉をしていると,㈱XYZ製造から,「この部品は精密性が何より重要だから,うちの検査基準にきちんと合格するまでは,代金を支払えない。」と言われました。

 

 しかし,本件取引はL/C決済でもなく,一回当たりの取引金額も相当に高額なものです。もし,先に製品を納品して,検査合格しないなどという理由で代金の支払いが遅延したり,支払拒絶,減額要求などに至れば,大きな損害につながりえます。

 

 そのため,㈱ABC製造の社長は,「うちは発注後,代金を全額前払いしてもらってから,製造に着手し納品している。そのため,貴社にもそのように対応してもらいたい。」というスタンスで交渉を継続していました。

 

 しかし,交渉は平行線をたどってしまいました。㈱ABC製造としては売掛回収リスクを負いたくないし,㈱XYZ製造としては,納品の遅延や検査不合格などによる損害発生のリスクを負いたくないというわけです。

 

 ㈱ABC製造の社長は,「では,発注後すぐに50%だけ前払いしてください。そうでないとうちもキャッシュフロー上厳しい。」などとお願いしてもみましたが,㈱XYX製造の方は,「精密機器なのできちんと検査合格しない限り代金は一切払えない。」と一切応じません。

 

 ㈱ABC製造としては,良い話なので何とか取引開始にこぎつけたいのですが,リスクも大きいのでどうしようか思案していました。

 

本事例の解決法

 本事例では,結局,㈱ABC製造の粘り強い交渉の結果,発注ごとにまずサンプル品をいくつか作り,そのサンプルについて検査を行い,サンプル品が検査合格した場合には,70%の代金を先払いしてもらい,残金は引き渡し後の検収合格した場合に支払われるということで合意に至りました。

   

 これによって,代金回収のリスクと納品遅延や欠陥品納品リスクのバランスがとれたものと言えます。

 

 当然ですが,このような合意に至った後は,合意した内容を,誤りなく英文契約書に書き込まなければなりません。

 

 売掛が残ってしまうと,特に国際取引では,回収は相当に困難です。

 

 英文契約書で,準拠法を日本,裁判管轄を日本にしているから,日本の弁護士に頼んで訴訟を提起して回収すれば良いという単純な問題ではありません。



 海外での強制執行は非常に困難を伴います。上記の例で日本の裁判所で勝訴判決を得ても,それに基づき外国にある外国企業の財産に強制執行をかけるのは容易ではありません。

 

 したがって,英文契約書締結の段階でこうしたリスクを十分に洗い出し,それについて,オペレーションレベルであらかじめ手当てを施しておくのが最良の方法であると言えるでしょう。

 

 具体的には,上記の例のように,なるべく前払いを受けられるように交渉し,全額前払いが無理でも,せめて製造原価分は発注時に前払いしてもらうように交渉することが大切です。

 

 仮に製造原価が代金の40%なのであれば,少なくとも代金の40%分を製造着手前に支払ってもらうことにより,万一製造後に買主が製品を引き取らないなどの問題を生じても,赤字になることを避ける狙いがあります。

 

 とりわけ国際取引においては,問題を生じてから事後的に対処するのは非常にコストが大きくなるので,できるだけ未然に防ぐという姿勢で対策を講じる必要があります。

 

 外国で外国の弁護士に依頼して,外国企業を相手に裁判をしたり,強制執行をしたりすることが,多額の費用と膨大な時間を要することは想像に難くないと思います。

 

 契約書で約束をしたのだから,守られなければ裁判すれば良いというような安易な考えは非常に危険です。

 

 まずは実務上のリスクを最大限回避するように交渉し,その内容を契約書に落とし込むのだという意識を徹底する必要があるでしょう。

 

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英文契約書によくある品質を巡るトラブルとその解決法

 日本の㈱ABC企画は,ベトナムの㈱XYZデザインに,ソフトウェア開発について業務委託をしました。

 

 ベトナムの人件費は,日本よりも安く,ABCとしては,全体の制作過程コストを下げることにより,受注を多くしていくことが狙いでした。

 

 ベトナムのXYZは,かねてからの日本の取引先から紹介を受けた会社でした。ベトナム人は真面目だとも聞いており,ABCの社長は,この取引を大変楽しみにしていました。

 

 ABCは,国内で使用していた日本語の「業務委託契約書」を英語に訳し,それを英文契約書にしてXYZと締結しました。

 

 プロジェクトはスタートし,ベトナムでのソフトウェア制作が始まりました。ところが,2か月ほど過ぎると問題が発覚しました。

 

 XYZの制作するソフトウェアの「品質」が明らかに問題だったのです。納期は2か月後となっており,このままのペースでは間に合いません。

 

 何とか,現場を指揮してさらに1か月やらせてみましたが,作業工程は全体の30%ほどしか進まず,納期までに納品できないことは明らかでした。

 

 そこで,ABCの社長は,「このままだと契約違反だから,代金は一切払えない。真剣にやってほしい。無理なら契約を解除してデータを引き渡してもらう。」とXYZに伝えました。

 

 ところが,XYZは「品質が劣るというのは,根拠がない。自分たちは真面目に指示通りに動いている。まだ納期も来ていない。今の段階で納期を過ぎてないのだから契約違反はない。」と主張しました。

 

 英文契約書には,「XYZはABCが定める基準で検収合格しなければ代金の支払いは受けられない。」,「納期は重要であり,納期を過ぎた場合も支払いは受けられない。」という趣旨の条項が入っていました。

 

 そのため,ABCとしては,この条項を根拠に,XYZが支払いを受けられない事態を避けるため,品質の高い作業を繰り返してくれるものと期待していたのでした。

 

 しかし,XYZの作業は相変わらずで,ABCはとうとうしびれを切らし,契約を解除する旨を伝えました。

 

 ところが,XYZは,「まだ納期前なのだから,契約違反はない。解除は根拠がない。データを渡す根拠もない。データが欲しいなら代金を100%払え。」と主張しました。

 

 ABCの社長はこれ以上遅れるわけにはいかないと判断し,作業工程としては40%ほどしか進んでいないにもかかわらず,結局代金の80%を支払ってデータを引き渡してもらったのでした。

 

本事例の解決法

 この種の契約は,紛争になる可能性が高いと言えます。

 

 英文契約書の文言で相当にリスクヘッジしたとしても,完全にリスクを除去することはできず,依然トラブルになる可能性が高いと考えておくべきだと思います。

 

 この事例には重要な問題として2点挙げられます。

 

 1つは,「納期がまだ到来していないのだから契約違反(債務不履行)はない。」という点についてです。

 

 これは,形式的には正しい理屈です。しかし,例えば,英米法の考えにも,Anticipatory Repudiatory Breach of Contractというものがあります。

 

 これは,義務履行者が納期までに履行しないことが明らかなときに,発注者に解除権などの救済を与えようという考え方です。

 

 したがって,準拠法によっては,このような理屈でABCはXYZの主張に反論しえます。

 

 この点を,事前に英文契約書に明記しておくことも考えられます。

 

 ただし,いずれにせよ,どのような状況であれば履行しないことが明らかと言えるのかは当事者間で争いになるでしょうし,義務履行者は納期までに履行できると主張するでしょうから,英文契約書に記載したとしても,紛争に至るリスクは高いと言えます。

 

 2つ目は,「代金を支払わない限り,データを引き渡す必要がない。」という点についてです。

 

 これは,日本では,この種の契約が請負契約か準委任契約かなどの視点でも議論されている点にも関わってきます。

 

 制作者としては,代金を受け取れない以上,途中までの成果物などを引き渡すのは拒否したいでしょう。

 

 逆に注文者としては,完成させてくれない以上は,一銭も払いたくないと考えるでしょう。

 

 この点を解決するのはかなり困難ですが,現実的には,進んだ作業工程の分を評価してその分を払い,途中までの成果物の引き渡しを受けるという解決が最も妥当なのではないかと思います。

 

 この点を,あらかじめ英文契約書に記載するというのはあり得ます。しかし,どこまで作業工程が進んだのかについては,注文者と制作者で見解が異なり,紛争になりやすい傾向にあることは否めません。

 

 制作委託の契約類型は,国内でもそうですが,特に国際取引ではトラブルになりやすいものと認識すべきです。

 

 そのため,契約前に制作者についてのデューデリジェンス(信頼に足る業者かを細かく調査)を強化し,委託後は現場とのコミュニケーションを密にするなど,契約書以外でのリスクヘッジも重要視すべきでしょう。

 

 特に新興国では,「取引を継続してくれる保証を最初からくれるなら頑張るが,単発なら適当にやる」という風潮を感じる場面も少なくありませんので,より注意が必要と言えるでしょう。

 

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英文契約書によくある最低注文数量条項を巡るトラブルとその解決法

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 日本企業の㈱XYZ家具(仮称)があるヨーロッパの国(仮にイギリスとします)のベンダー㈱ABCファーニチャー(仮称)から,あるデザイナーがデザインした高級ソファーを輸入し,日本国内で独占販売することになりました。

 

 英文契約書を作成することになりましたが,その際,最低注文数量(minimum order quantity)(ミニマム・ノルマ)を定めることをベンダー側が要求してきました。

 

 ノルマは,それほど厳しいものではありませんでしたが,毎月単位で最低注文数量が定められていました。

 

 交渉の場面では,㈱XYZ家具は「この程度であれば十分に売れるという市場調査結果がありますので,それほど厳しいノルマではないでしょう。許容範囲内です。」と回答し,最低注文数量条項を承諾したそうです。

 

 当時,㈱XYZ家具としては,①最初の独占販売契約の契約期間が2年と比較的短かったこと,②マーケットリサーチの結果,これまでの単発の輸入販売実績を考えれば,十分に達成できる数字であったこと,③販売実績を㈱ABCファーニチャーにイニシャルタームで見せつけて,契約の長期更新を狙う必要があったことなどから,最低注文数量を受け入れる判断をしたとのことです。

 

 したがって,英文契約書の締結前に特に専門家に相談することもしませんでした。

 

 ところが,その後,為替が円安傾向に触れたことや,大きな卸先である百貨店が倒産したこと,購買層が安くてデザインの良い家具メーカーに流れ始めたことなどから,取引開始から約1年後にノルマを達成できない月を迎えることになってしまいました。

 

 また,その後も上記の負の環境が続くことが考えられたため,㈱XYZ家具としては,イギリス製の高級ソファーの輸入販売から撤退したいと考えました。

 

 そこで,ノルマの不達成を理由に契約を終了したいと㈱ABCファーニチャーに申し出ました。

 

 ところが,㈱ABCファーニチャーは,「契約はあと1年残っている。それまでは続けて貰う。ノルマ分を今月以降も購入してもらう。」と主張して来ました。

 

 ㈱XYZ家具は慌てて契約書を引っぱり出して条項を確認しました。

 

 契約書には,イギリス法を準拠法とするとされているほか,ノルマについては「達成できない場合には,ベンダー側が解除できる」と書いてありました。

 

 そのため,㈱XYZ家具は,イギリス法についてはよくわからないものの,ノルマを達成できずに発注をしなければ,㈱ABCファーニチャーによって契約は解除されるものと考えていたのです。

 

 ところが,実際には,ノルマが達成できない場合には,「ベンダーの選択により」解除もできるが,ノルマ分の発注を㈱XYZ家具に求めることができると書かれていました。

 

 また,㈱XYZ家具側から契約期間中に販売店契約を解除する条項としては,①㈱ABCファーニチャーに契約違反があった場合と,②同社が破産状態になった場合としか書かれていませんでした。

 

 したがって,英文契約書上は,㈱XYZ家具はあくまで契約終了までノルマ分を発注しなければならないという結果になっていたのです。

 

 この点は,実際に裁判で争った場合に結論がどうなるか,強制執行がどうなるかという問題はあったものの,裁判管轄はイギリスの裁判所とされていたため,費用などを考えると現実的ではありません。 

 

 ㈱XYZ家具の社長は,「そうは言っても,ノルマについてはそう厳しく追求するつもりはないと契約時に口頭で言っていたではないか。あれはなんだったんだ。」と抗議したそうです。

 

 しかし,英文契約書には完全合意(Entire Agreement)条項があり,「本契約書の内容がすべてである」と書かれていました。

 

 これらの点を㈱XYZ家具は明確に認識していませんでした。

 

 結果,ベンダー側が有利な立場にある状況で契約終了交渉をしなければならなくなり,㈱XYZ家具が残り8ヶ月ノルマ分を購入し契約を続け,その時点で契約終了という和解が成立したそうです。

 

 ㈱XYZ家具には大量の在庫が残ることになりました。

 

 その後,㈱XYZ家具は在庫処分に頭を悩ませましたが,最終的には次の販売店候補者に安く卸すことで決着しました。

 

 そして,次の販売店が商圏を変え,より有利な条件で㈱ABCファーニチャーと契約をし,日本で高級ソファーの売却を続けることになりました。

 

 こうして㈱XYZ家具は踏んだり蹴ったりの状態になったのでした。

 

本事例の解決法

 英文契約書に書かれたMinimum Purchase/Order Quantity(最低購入/注文数量)を達成できない場合に,具体的にどのような事態になりうるのか,制裁の内容を契約締結前にきちんと確認する必要があります。

 

 そして,制裁の内容があまりに自社にとって不利だと判断したのであれば,変更を要求する必要があったといえる事例です。

 

 一般に,海外の企業と取引をする場合,関係が良いときの関係性を前提に契約書のリスク判断をすると後で大きな問題になることがあります。

 

 「これから一緒にビジネスを立ち上げるために良好な関係だし,あまりこの段階でこちらからああだこうだいうと,契約がなくなってしまうかもしれない。ノルマの話も,実際に達成できないとしても,そんな厳しいことは言わないと言っているし,大丈夫だろう。」などと考えるのは黄色信号です。

 

 海外の企業は,契約時に言うべきことはすべて言うという発想でいることが多いので,こちらの要求を伝えても検討して飲めるか飲めないかを伝えてくるだけでそれで話がこじれることは私の経験ではほとんどありません。

 

 むしろ,契約時に伝えていなかったことを,契約締結後の取引中に伝えたりすると,「なぜ契約交渉中にそのことを話さなかったのか。今更言われてももう契約はなされたのだから,アンフェアだ。」と言われてしまう傾向にあります。

 

 また,いざトラブルになればそれまでの「やさしい態度」は一変し,途端に英文契約書の内容を盾に強硬姿勢に出てくることもしばしばです。

 

 このときに,契約締結交渉の際に,契約書の外でこのような話をしていたなどと主張しても後の祭りです。

 

 契約書に書いてあることがすべてであるという前提で相手は対応してくることがほとんです。

 

 実際に,英文契約書にはかなりの確率で上記の完全合意(Entire Agreement)条項が挿入されているので,契約書以外の約束などは持ち出せないことが多いです。

 

 この辺りは,日本の伝統的なやり方とは相当に違うものだという意識が必要だと思います。

 

 本件では,粘り強く交渉して,Minimum Purchase/Order Quantityを下回った場合には,ベンダー側から契約解除ができるのみとし,ノルマ未達分の購入義務は負わないとしたりすることもありえたでしょう。

 

 また,ノルマ未達の場合は独占権を奪われ,非独占の販売権に変更されるなどの条件に留めるように交渉することも考えられます。

 

 さらに,特に契約開始の1年目や2年目の初期の間は,ノルマは達成が義務付けられるものではなく,法的拘束力のない(Non Binding)単なる目標値(Forecast)や予算(Budget)に留めるなどの対策を取ることもできたと言えるでしょう。

 

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英文契約書によくある更新拒絶条項を巡るトラブルとその解決法

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 日本の㈱XYZ製造は,ドイツの㈱ABC販売に対して,スポーツ用品をドイツ国内で独占販売させていました。

 

 ところが,契約開始から3年目となった年度,㈱ABC販売の業績は芳しくなく,販促活動も精力的に行っている様子がありませんでした

 

 まだ契約期間は6か月ほど残っています。㈱XYZ製造としては,このまま,㈱ABC販売に独占権を付与していても,ドイツ国内で売り上げを期待通りに上げるのは難しいと考えました。

 

 そこで,契約途中での解約か,次の契約期間満了時に更新拒絶をすることを検討し,締結していた英文契約書を見ました。

 

 英文契約書には,何の理由もなく契約期間中でも中途解約ができるという条項(termination without cause)はなかったものの,㈱ABC販売の契約不履行があれば解除できる(termination with cause)との条項はありました。

 

 また,㈱ABC販売には販促活動について商業的に合理的努力(commercially reasonable efforts)をしなければならないという義務が課されていました。

 

 この努力義務違反を契約違反であると主張して契約を解除できないかと考え,㈱XYZ製造で調査・検討したところ,㈱ABC販売が必ずしも商業的な合理的努力をしていないとまでは言えないのではないかという判断が大勢でした。

 

 そのため,契約違反を理由とした解除ではなく,より穏便に,期間満了時に更新しない旨を通知して終了させることにしました。

 

 契約書には3か月前までに更新をしない旨を相手方に通知せよと書いてあったため,余裕をもって㈱XYZは更新拒絶通知を出しました。

 

 「これで良かった」と安心していたところ,㈱ABC販売の代表からすごい剣幕で電話が架かってきました。

 

 「いったいどういうことだ。我々は自分たちのコストで初期のマーケティングに大変苦労して,ようやく売れ出したところなのに,どういうつもりだ。このままでは済まないぞ。」と怒鳴りつけられてしまいました。

 

 ㈱XYZとしては,英文契約書に記載している通りに,更新拒絶通知を出しましたし,特に更新拒絶をした場合の罰則なども契約書には書かれていません

 

 しかし,㈱ABCは,「契約書に書いていなくても補償金を支払わなければならない。補償金を受け取らずに契約終了は承服できない。」などと主張し,㈱XYZ製造の主張に聞く耳を持ちません。

 

 結局,交渉の結果,㈱XYZ製造は,これまで売上利益額から1年分の平均額を算出して,その6か月分を㈱ABC販売に支払い,その代わり,契約終了後すぐに別の販売店を指名できるし,新たな販売店の販売行為を妨害しないとの条件で,和解したということです。

 

 特に法律に従ったというわけではないのですが,あまりの剣幕で㈱ABC販売の代表から頻繁にせっつかれたため,今後のドイツでのスムーズな商品展開を優先し,苦渋の決断をしたとのことです。

 

 ㈱XYZ製造は,その後,同業者からなどの情報で,一部の国では,販売店や代理店が法律上保護されており,仮に契約書に更新拒絶について何らのペナルティがあるなどと書かれていなくとも,一定の場合に,メーカーなどが補償責任を課されることがあることを知ったのでした。

 

本事例の解決法

 この問題は,悩ましい問題です。海外で販売店や代理店を指名する場合は,契約解消のことまで予め考え,その対策も取ってから開始するべきでしょう。

 

 国によっては販売代理店保護法のような法律や判例が存在しており,このような法律などによって販売代理店が契約の終了時に手厚い保護を与えられているケースがあります。

 

 そして,このような法律は「強行法規/強行規定」と呼ばれ,当事者の合意により適用を排除できないとされていることが多いのです。

 

 強行法規/強行規定についてはこちらの記事で解説しているのでご覧下さい。

 

 本件では,現地法の調査を事前に行い,契約の解消にあたりどのような現地の規制があるのか把握し,その場合の予算なども組んだ上で取引を開始するのがベストであったと言えるでしょう。

 

 しかし,現実には,取引の規模やどこの国で取引をするかなどの事情によってそこまではできない,そこまでするような取引ではないということも多いと思います。

 

 その場合は,準拠法または現地法の規制内容はさて置き,少なくとも英文契約書には,当事者が合意した内容を明確に記載しておく必要があるでしょう。

 

 そうすることにより,少なくとも,契約当事者は英文契約書に書かれた内容で経営判断をしたということになりますから,その後,英文契約書に書かれた内容と異なる要求をしてくる可能性は低くなるでしょう。

 

 具体的には,本件では「いかなる理由であれ契約が終了した場合には,契約の終了を理由として,逸失利益などの補填をするための補償金その他の名目の金銭の支払いは一切なされないものとする」などと契約書に明記しておくべきだったということになります。

 

 上記の英文例は,"If this Agreement is terminated for any reason whatsoever, no compensation or other money by name shall be paid to compensate for goodwill or lost profits, etc., as a result of the termination of this Agreement."などとなります。

 

 このように明記しても現地の販売代理店保護法などでこのような規定は無効となる可能性がありますが,少なくとも販売店が納得してサインしたのであれば,大きなトラブルになる可能性は減らせると思われます。

 

 あくまで,次善の策ではありますが,最低限の対策として行っておく必要があったと言えるでしょう。

 

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英文契約書によくあるコミッションなどを巡るトラブルとその解決法

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 日本の㈱ABC製造は,スペイン人Xと知り合い,自社製品のことを話したところ,スペインでかなり売れると思うから,販売先候補を紹介させて欲しいと打診されました。

 

 ㈱ABCは,かねてから海外での販路開拓を考えていたため,願ってもないチャンスと捉え,Xに営業をお願いしました。

 

 その際,㈱ABCは,Xは友人の紹介だったこと,Xは普段はスペインのIT企業に務めるエンジニアであり販売先の紹介は特に事業とは関係ないことから,善意で紹介を受けられる,または,常識的な紹介料を後で払えば良いと考えていました。

 

 その後,Xは,現地で活動し,2社の販売先を見つけ,これを㈱ABCに紹介しました。㈱ABCは,無事にこれら2社に自社製品を販売することができました。

 

 ㈱ABCは,Xに御礼を言うと,Xはコミッションの支払いを要求して来ました。

 

 ㈱ABCは,検討しましたが,最終的に販売価格の5%を支払うことを決め,Xにその旨を伝えました。

 

 ところが,Xはそれでは少なすぎると主張し,売却が成功した製品の販売価格の15%のコミッションを要求してきました。

 

 ㈱ABCは,金額が想定よりもかなり高額だったので驚きましたが,あまり揉めるのも困ると考え,結局言い値通りに支払うことにし,支払いをしました。

 

 その後しばらくして,またXから連絡があり,結果的には取引は成立させられなかったが,これだけ営業をしたのだという自己が営業した活動報告書を送付し,日割りの活動実費の支払いも求めて来ました。

 

 ㈱ABCは,さすがにそれは払えないと抵抗しましたが,英語での交渉にも不慣れで,Xからしつこく要求されたため最終的には支払ってしまったそうです。

 

本事例の解決法

 本件のような場合,ベストな方法としては,最初に売り先の紹介を依頼する際に,コミッションの支払い条件や実費の精算方法などについて合意して簡単なものでも良いので契約書を作っておくべきでした。

 

 上記のように顧客を紹介してもらい,売上が上がった場合にコミッションを支払うという契約形態はいわゆる代理店契約(Agency Agreement)になります。

 

 しかしながら,本件では紹介の継続性を前提としていないので,代理店契約まで用意する必要性はなかったと思います。

 

 最低限,1度限りの紹介を前提にした金銭の支払い条件を取り決めた覚書のようなものを作っておいたほうが良かった事案でしょう。

 

 それができなくとも,その後,遅くともコミッションの支払いを要求された時点できちんと交渉し,支払い内容や和解の内容が確定したら,書面により合意すべきであったと言えます。

 

 今後も依頼するのか,そうではなく今回のコミッションの支払いで終わりにするのか,当事者の考えていることを交渉のテーブルに乗せるべきでした。

 

 そして,もし合意ができたら,合意した内容をきちんと書面にして後で蒸し返しができないようにすることが重要です。

 

 1回のコミッションの支払いですべて終わりにすると決まったとした場合の具体的な書面の内容としては,①書面に記載された内容で当事者は確定的に本件を解決する(settle)するということと,②その書面に書かれた債権債務の他は,一切債権債務が存在しない(いわゆる精算条項)ことを記載することが重要です。

 

 そうすることにより,合意により解決してから後に,追加の請求を受けることを防ぐことができます。

 

 本件では,Xがコミッションの支払いを求めた際に,㈱ABCの社長が押しに弱く,結局はXの言い値のコミッションを支払ったことから,Xが味をしめて後から実費の請求もしてきたものと考えられます。

 

 このようなことを防ぐためには,自社の考えをきちんと伝え,合意した内容を書面化し,「後出しジャンケン」をさせないようにする必要があったと言えるのです。

 

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海外取引によくある並行輸入を巡るトラブルとその解決法

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 日本の㈱ABC販売は,フランスの㈱XYZ製造から「フォンセ」というブランドのアクセサリーを独占販売店として輸入し,日本国内で販売することになりました。

 

 ㈱ABC販売の社長は,何度もフランスを訪れ,㈱XYZ製造の社長を口説き,ようやく勝ち取った独占販売権(Exclusive Distribution Right)でした。

 

 独占販売店契約(Exclusive Distribution Agreement)についてはこちらの記事で解説しています。

 

 その後,㈱ABC販売は喜び勇んでオンラインと実店舗での商品販売を展開し,販促活動・マーケティング活動に勤しみました。

 

 雑誌やテレビに取り上げられることもあり,徐々にフォンセの知名度はあがり,20代・30代の女性をターゲットにブランド化されていきました。

 

 実店舗でもオンラインでも売れ行きは好調で,時折取材を受けるような状態となり,販売は好調でした。

 

 すべては順調だと思われたとき,ある問題が㈱ABC販売の社長の頭を悩ませることになりました。

 

 それは,いわゆる「並行輸入」の問題でした。いくつかの日本の小売店がフォンセの商品をオンラインで取り扱い,販売しているのです。

 

 ㈱ABC販売の社長は,立腹し「うちがフォンセの独占販売権も「フォンセ」の商標等のライセンスももらっているのだから,他の店舗は違法行為をしている。販売の差止や,損害賠償を求めるように。」と部下に指示しました。

 

 そこで,部下は,販売差止等ができるのか調べることにしました。

 

 確かに,外国ではこのような行為を禁止しているところもあるようですが,日本では,下記の一定の要件を充たすと,いわゆる並行輸入として適法であり,他の小売店もフォンセの商品を販売できるとの結論に達しました。 

 

 ①輸入商品に付された商標が,輸入元の国における商標権者等によって適法に付されたものであること(商品の真正商品性)

 

 ②輸入元の国の商標権者と日本の商標権者とが同一,または法律的・経済的に同一人と言える関係があること(内外権利者の同一性

 

 ③輸入商品と日本の真正商品との品質に実質的な差異がないこと(品質の実質的同一性)

 

 もちろん,㈱ABC販売は,㈱XYZ製造からフォンセの販売について日本での独占販売権を得ていますから,㈱XYZ製造が,フォンセを日本の他業者に流しているとすれば,㈱XYZ製造に対して契約違反を主張できます。 

 

 そこで,部下は,㈱XYZ製造に対して事情を説明し,事実を確認しました。

 

 ㈱XYZ製造の回答は,「うちは貴社以外に販売していない。」というものでした。

 

 部下は,その回答を受けて,さらに調査を進めたところ,㈱XYZ製造がフランス国内で販売している先の卸業者から,問題の日本の小売店が購入している事実が判明しました

 

 卸業者は,㈱ABC販売と契約関係にありませんから,これでは苦情は入れられません。

 

 もちろん,卸値は,㈱ABC販売の方が低いはずで,粗利率も高いはずなのですが,その他の意図もあり,日本の小売店は廉価でその商品を販売し続けていたのです。

 

 ㈱ABC販売の部下は,社長に報告しましたが,結局有効な手立てがないことがわかり,社長は納得がいきませんでした。

 

 一定の利益は得られるものの,廉価で他の小売店で販売されるため,結局ブランド戦略の変更を余儀なくされました

 

本事例の解決法

 本件では,法務を離れますが,そもそも,㈱XYZ製造のフランス国内での取引先,取引先との契約内容,卸値,商品の販売しやすさなど,商品選定の時にもう少し注意するべきだったと言えるでしょう。

 

 本件は,法的対処で解決することが困難な事案です。

 

 取りうる対策としては,㈱XYZ製造を通じて,フランスの卸売業者に対して,日本向けには㈱ABC販売以外には販売しないように交渉してもらうことが考えられますが,後述するとおり,これは独占禁止法違反になる可能性があります。

 

 また,新たに,㈱XYZ製造が契約する卸業者には予めそのように契約書に定めることを求めることも考えられます。

 

 その他の対策としては,直接卸業者に掛け合って,当該卸業者とも独占契約を結び,他社への販売を防ぐということも考えられます。

 

 ただ,こうした契約交渉を行う際は,独占禁止法,競争法,反トラスト法などの規制法に反しないかどうかもチェックの必要があります。

 

 ちなみに,日本の独占禁止法上,下記の場合は独占禁止法違反になるとされています。

 

 1.「並行輸入業者が供給業者の海外における取引先に購入申込みをした場合に、当該取引先に対し、並行輸入業者への販売を中止するようにさせること」


 2.「並行輸入品の製品番号等によりその入手経路を探知し、これを供給業者又はその海外における取引先に通知する等の方法により、当該取引先に対し、並行輸入業者への販売を中止するようにさせること」

 

 このように,並行輸入を妨害する行為をすると独占禁止法に違反する可能性を生じます。

 

 詳しくは公正取引委員会のこちらの記事の「第2 並行輸入の不当阻害」をご覧下さい。

 

 上記記事の内容を簡単に以下にまとめています。詳しくは上記記事を直接ご覧ください。

 

 まず,公正取引員会が問題になると考えている方法は下記の7つのパターンです。下記の(1)〜(7)事例でその行為が商品の販売価格を維持するためになされた場合に限り問題となる可能性があります。

 

 なお,当然ですが単に「目的は価格維持のためではない」といえば済むということではなく,あらゆる証拠を考慮して実質的にどういう目的でなされたかが判断されますのでご注意ください。

 

 つまり,公正取引委員会は,例えば

 

 [1] 商品仕様や品質が異なる商標品であるにもかかわらず,虚偽の出所表示をすること等により,一般消費者に総代理店が取り扱う商品と同一であると誤認されるおそれのある場合,または,

 

 [2] 海外で適法に販売された商標品を並行輸入する場合に,その品質が劣化して消費者の健康・安全性を害すること等により,総代理店の取り扱う商品の信用が損なわれることとなる場合には,

 

下記の並行輸入に対する行為も違法となるものではないと考えているといえます。

 

(1) 海外の流通ルートからの真正商品の入手の妨害

 

 公正取引委員会は具体例として以下のケースを挙げています。

 

 [1] 並行輸入業者が供給業者の海外における取引先に購入申込みをした場合に,当該取引先に対し,並行輸入業者への販売を中止するようにさせること

 

 [2] 並行輸入品の製品番号等によりその入手経路を探知し,これを供給業者又はその海外における取引先に通知する等の方法により,当該取引先に対し,並行輸入業者への販売を中止するようにさせること

 

 上記の行為が商品の価格維持のために行われたと認められる場合は独占禁止法違反として違法になりますので注意しましょう。

 

(2) 販売業者に対する並行輸入品の取扱い制限

 

 (2)は,並行輸入品の取扱業者に対し商品の出荷を停止したりして並行輸入品を取り扱えないようにするような妨害行為を指し,それが契約対象商品の価格を維持するために行われる場合には,不公正な取引方法に該当し,違法となるとされています。

 
(3) 並行輸入品を取り扱う小売業者に対する契約対象商品の販売制限

 

 本来,卸売業者が独占販売店から仕入れた商品をどの小売業者に販売するかは卸売業者が自由に決定できるものであるから,卸売業者に対し,並行輸入品を取り扱う小売業者には契約対象商品を販売しないようにさせる行為は,それが契約対象商品の価格を維持するために行われる場合には,不公正な取引方法に該当し,違法となるとされます。

   

(4)並行輸入品を偽物扱いすることによる販売妨害

 

 商標権者は,偽物の販売に対しては商標権侵害を理由として,その販売の差止めを求めることができるのですが,「並行輸入品を取り扱う事業者に対し,十分な根拠なしに当該商品を偽物扱いし,商標権の侵害であると称してその販売の中止を求めることは,それが契約対象商品の価格を維持するために行われる場合には,不公正な取引方法に該当し,違法となる」とされています。

 

(5)並行輸入品の買占め

 

 独占販売店が変更輸入品を取り扱う業者から対象商品を買い占める行為は対象商品の価格を維持するために行われる場合には,不公正な取引方法に該当し,違法となるとされています。


(6)並行輸入品の修理等の拒否

 

 上記の公正取引委員会の記事を下記のとおり引用します。

 

 「総代理店は自己の供給する数量に対応して修理体制を整えたり,補修部品を在庫するのが通常であるから,並行輸入品の修理に応じることができず,また,その修理に必要な補修部品を供給できない場合もある。したがって,例えば,総代理店が修理に対応できない客観的事情がある場合に並行輸入品の修理を拒否したり,自己が取り扱う商品と並行輸入品との間で修理等の条件に差異を設けても,そのこと自体が独占禁止法上問題となるものではない。


 しかし,総代理店若しくは販売業者以外の者では並行輸入品の修理が著しく困難であり,又はこれら以外の者から修理に必要な補修部品を入手することが著しく困難である場合において,自己の取扱商品でないことのみを理由に修理若しくは補修部品の供給を拒否し,又は販売業者に修理若しくは補修部品の供給を拒否するようにさせることは,それらが契約対象商品の価格を維持するために行われる場合には,不公正な取引方法に該当し,違法となる」としています。

 

(7)並行輸入品の広告宣伝活動の妨害

 

 商標権侵害や不正競争防止法違反などの理由がないのに,総代理店がその取引先である雑誌,新聞等の広告媒体に対して,並行輸入品の広告を掲載しないようにさせるなど,並行輸入品の広告宣伝活動を妨害することは,それが契約対象商品の価格を維持するために行われる場合には,不公正な取引方法に該当し,違法となるとされています。

 

 以上から,並行輸入対策を講じる際には販売代理店のほうが法律違反にならないように十分に注意が必要です。

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英文契約書によくある総代理店/総販売店契約のトラブルとその解決法

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 ABC製造㈱は,自社商品の輸出を検討することとなり,香港の展示会に出展しました。

 

 そうしたところ,早速スペインの代理店であるXYZ販売㈱から,引き合いがありました。

 

 話を詰めると,XYZ販売㈱の社長は,ABC製造㈱の製品を非常に気に入ったようでスペインを一手に引き受けたいと申し出てきました。

 

 XYZ販売㈱の社長は,販路開拓に非常に自信を見せており,類似のスペイン製の商品よりも付加価値の高いこの商品は絶対にスペインで受けると話していました。

 

 ABC製造㈱の社長は,XYZ販売㈱の社長の熱意と自信と実績を信頼し,その後,メールで何度かやりとりをした後,同社を訪問し,総代理店(販売総代理店/一手販売店)に指名することにしました。

 

 契約書は,スペイン語でしたが,「標準契約書なので,どの業者にもこれで対応してもらっています。」という説明があったのと,一応英語に翻訳したものをざっと読んで,特に不信な点もなかったことから,サインしました。

 

 スペインでの成長という期待を胸に意気揚々と帰国したABC製造㈱の社長。しばらく様子を見ることにしました。

 

 すると,XYZ販売㈱からは,最初の数ヶ月こそ相当数のロットの注文があったものの,その後は減少し,8ヶ月が経ったあたりから注文がピタッと止まってしまいました。

 

 何度も販促,マーケティングに力を入れるようプッシュし,ABC製造㈱からも販促資料を送ったり,商品知識の教育を行ったりと努力をしたのですが,埒が明きません。

 

 やむをえず,ABC製造㈱の社長は,最近引き合いのあった大手の別の代理店を指名することにしました。

 

 部下に契約書をチェックさせると・・・2年間という契約期間で,中途解約条項はなく,販促についての努力義務も規定はなく,最低購入数量条項(Minimum Purchase Quantity)もありませんでした

 

 他方で,Exclusive Agency Agreementとなっており,契約期間中,スペインでは,XYZ販売㈱以外に代理店/販売店の指名は許されておらず,また,子会社などを利用した販売も禁止されていました。

 

 また,準拠法もスペイン法とされ,裁判管轄もスペインの裁判所とされていました。

 

 結局,強行に別の代理店を指名したりすれば,XYZ販売㈱から損害賠償請求を受けるリスクがあり,スペインの裁判所での訴訟などになったら対応コストも膨大になるため,別の代理店指名は避けることとなりました。

 

 とはいえ,残り1年以上も契約期間が残されており,その期間の機会損失を受けることも避けたかったため,ABC製造㈱は,XYZ販売㈱との間で合意による契約解除を目指し交渉をすることにしました。

 

 XYZ販売㈱は,自社の低いパフォーマンスはさておき,「契約期間がまだ残っているのに途中で独占権を奪うのであればこれくらいは支払って欲しい」ということで,多額の賠償金を求めてきました。

 

 ABC製造㈱は,結局,社内で事業計画を練ったところ,多額の賠償金を払ってでも総代理店(販売総代理店/一手販売店)契約を解除したほうがよいという結論に至り,大きな損失を計上することとなったのでした。

 

本事例の解決法

 この事例では,以下のように対応すべきだったと言えるでしょう。

 

 ①代理店の実績・財務状態・販売計画などを精査せずに安易に総代理店(販売総代理店/一手販売店)指名をすべきではなかった。

 

 まずは,単発での取引からスタートし,その後基本売買契約などを締結し,代理店/販売店のパフォーマンスをチェックし,成績評価が可能になった段階で,総代理店(販売総代理店/一手販売店)としての指名を検討するというプロセスを踏むのが安全であったと言えるでしょう。

 

 ②総代理店(販売総代理店/一手販売店)とするとしても,期間の設定にはより一層の慎重さが必要だった。

 

 総代理店(販売総代理店/一手販売店)とすると,他の代理店を指名したりできなくなるため,契約後に終了させたい事情が生じることを予測して,中途解約条項を入れたり,契約期間を短めに設定したりするなどの対策を施す必要があったと言えるでしょう。

 

 ③最低購入数量(Minimum Purchase Quantity)または発注の努力目標等を課すことを検討すべきだった。

 

 最低購入数量などが定められていないと,原則的には,代理店は,販促などの努力をせず,販売が少量にとどまっていたとしても,特にペナルティはなく,契約は存続してしまうことになります。

 

 最低購入数量についてはこちらの記事でも解説しています。

 

 そのため,最低購入数量をノルマとして定め,未達となった場合には,契約を解除できるとしたり,独占権を奪って非独占契約に変更したりできるようにすべきだったと言えます。

 

 もし罰則のある最低購入数量を定められない場合でも,せめて販促の努力義務を課すべきだったと言えるでしょう。

 

 そうすることで,数値に法的拘束力までは認められないにしても購入の目標値が定まります。

 

 これにより,代理店のパフォーマンスが悪い場合には,契約解除までは主張できないとしても,契約終了の補償金交渉などで有利な立場を得られた可能性があります。

 

 ④販促,マーケティング活動についての計画と実績を定期的に報告する義務を課すことを検討すべきだった。

 

 販促,マーケティング活動について,完全に代理店に任せているとなると,ベンダー側でコントロールがきかなくなってしまうので,活動報告程度は少なくとも義務付けるべきだと言えるでしょう。

 

 ⑤業績等が不信の場合に,中途解約または最低購入数量条項違反で解除ができるような条項を挿入することを検討すべきだった。

 

 最低購入数量未達の場合の解除権については前述しましたが,このような契約違反がない場合でも,一定期間の予告期間を設けた上で,契約を期間中でも途中で解約できる中途解約条項(termination without cause)を入れておくことも考えられました。

 

 こうしておけば,契約期間が長めに設定されていても,契約の途中で解約を主張できる根拠があったことになります。

 

 以上のような対策が考えられた事例ですので,すべての対処ができなくとも,最善の対処を事前にしておくべきだったと言えると思います。

 

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英文契約書の守秘義務契約書/NDA違反をめぐるトラブルとその解決法

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 日本の㈱ABC販売は,医療機器メーカーで日本国内向けに医療機器を販売していました。

 

 ある日,ヨーロッパのある国の㈱XYZ製造から問い合わせがありました。「ABC販売の医療機器の販売を自国で展開したい。」というものでした。

 

 サンプルを送り,検討してもらうと,㈱XYZ製造の社長の反応は上々でした。ただ,ローカルな法律により一点改良すべき部分があり,その点について共同開発をして改良品を販売したいということになりました。

 

 ㈱ABC販売も新たな可能性に期待を膨らませ,具体的な交渉をしたいと申し出ました。

 

 ㈱XYZ製造は,快諾し,「それでは,交渉前にNDAを交わしましょう。」と言ってきました。

 

 具体的な交渉に入る前に守秘義務契約(Non-Disclosure Agreement/Confidentiality Agreement)を交わすのは,日本の実務でも珍しくないため,㈱ABC販売はこれに応じました。

 

 NDAはよく目にするため,簡単に翻訳してそのままサインして送り返しました

 

 その後,㈱XYZ製造からは,いくつかのEmailが㈱ABC販売のもとに送られてきました。

 

 添付ファイルでいろいろと契約締結に向けて関係のありそうな資料が付けられていました。

 

 ㈱ABC販売は,これらの資料を検討し,社内で契約の可能性などについて検討しました。

 

 すると,ある日,突然,「㈱ABC販売は,NDAに違反している。したがって,損害賠償金としてXX$支払え。」という不穏なEmailが㈱XYZ製造から届きました。

 

 よくNDAを見直してみると,機密情報の範囲,管理・利用方法が事細かに書かれてあり,確かに㈱ABC販売の利用法はNDAの規定内容に形式的には違反していました。

 

 もっとも,㈱ABC販売の秘密情報の利用方法は,一般的なNDAであれば許されている方法でした。

 

 また,NDAには,損害賠償の予定条項(Liquidated Damages)があり,契約違反の場合の損害賠償額も書かれていました。当然,損害賠償の予定額は高額なものでした。

 

 ㈱ABC販売は,NDAの内容を検討している際に,自社がNDA違反などするはずがないと判断していたのと,㈱XYZ製造から「全社そうしてもらっている。形式的なものだ。」と説明を受け,サインしてしまったのです。

 

 ここから,㈱ABC販売が,タフな交渉を㈱XYZ製造との間で行うことを余儀なくされ,和解のために相当額の支払いをすることになったことは想像するに難しくありません。

 

本事例の解決法

 本事例では,言うまでもなく,事前にNDAの内容を精査し,また,㈱XYZ製造の企業情報を可能な限り事前に調査する必要がありました。

 

 具体的な取引交渉に入ればお互いの機密情報をやり取りすることになりますから,その前にNDAを締結することは確かにあります。

 

 他にもMOU(Memorandum of Understanding)LOI(Letter of Intent)などを交わし,守秘義務が課されることもあります。

 

 NDAの内容はどれも同じような内容が多いので内容を精査せずに安易にサインしてしまいがちです。

 

 しかしながら,NDAを交わすのであれば,機密情報の定義,禁止事項の内容,例外規定の内容,損害賠償についての条項の内容などを精査しなければなりません。

 

 本事例のような明確な詐欺的案件はそう多くはないとは思いますが,中には現実的に遵守するのが難しい内容が含まれているにもかかわらず,「NDAは定型的だから」と考え,安易にサインしている企業をよく見ます。

 

 契約書を見せて頂くと,事業上必要な場合でも顧客や下請業者に対してさえ,開示するのに事前の書面承諾が必要と解釈される内容になっていたり,開示された情報が相当後から相手方の一方的な通知で機密情報とされ得たり,などと問題があることも多いです。

 

 NDAであっても,遵守が難しい内容が含まれていないか,簡単に違反になってしまうような内容がないか,違反した場合のペナルティが法外なものではないかなど,しっかりと内容を検討することは当然必要です。 

 

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英文契約書によくある雇用契約書を巡るトラブルとその解決法

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 日本法人の㈱ABC製造は,イギリスに販社を作り,販社を使って自社製品を販売展開することにしました。

 

 もっとも,スタート時のイギリスの販社の規模はそれほど大きくなく,現地採用の人数も数人に限られていました。

 

 また,現地の販社の採用者も当初は日本人に絞られていました。

 

 そのため,特に現地法に基づいた雇用契約書や就業規則などは用意せず,日本の雇用契約書をそのまま流用して使用していました。

 

 その後,事業は順調に拡大し,イギリス販社の売上も向上していきました。

 

 その最中,現地でヘッドハンティングをしたDirectorの一人と本社がイギリス販社の経営方針をめぐって争うようになりました。

 

 そのため,本社は,そのDirectorを解任することにし,解任通知を交付,Directorは販社を去りました。

 

 それから,何ヶ月かして,Directorが販社と日本の本社を相手取り,イギリスで訴訟を提起してきました。理由は解任の不当性を理由とした損害賠償請求などでした。

 

 また,なぜ本社も訴えたかについては,販社を事実上コントロールしているため「法人格否認の法理」が適用されるという理由からでした。

 

 本社がそのDirectorとの雇用契約書/委任契約書を確認すると,準拠法は日本法とされていました。そこで,日本の弁護士にこの事態について相談に行きました。

 

 弁護士の回答は,「雇用問題や現地の会社との委任契約については現地の法律が適用されるので,販社と本社ともに応訴しないと敗訴する可能性がある」というものでした。

 

 結局,本社はイギリスでの裁判に対応するほどの財務的な余裕もなく,多額の賠償金を払って和解するほかありませんでした。

 

本事例の解決法

 法律には強行法規/強行規定という概念があり,一定の法律は当事者がどのように合意しても(例えば準拠法としてある国の法律が適用されると合意しても),その合意を無視して適用されることがあります

 

 労働法関係はその典型例と言えるでしょう。したがって,海外に子会社を設立して,現地で雇用をする場合には,基本的には現地の労働法規にしたがった雇用契約書等を作成するのが安全といえます。

 

 そのようにせずにいた場合,現地法人の役員や労働者との間で思わぬトラブルになることがあります。

 

 労働法規は,当然,国によってかなり内容が異なっています。

 

 内容によっては,労働法に違反したがために高額の補償金を支払わなければならなかったり,罰則が適用されたりします。

 

 そのため,事前に適切な契約を締結しておくことが非常に重要となります。実際には,現地の弁護士などのアドバイザーに協力してもらい,現地法に従って作成していくことになります。

 

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国際取引によくある売掛けを巡るトラブルとその解決法

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  日本の㈱ABC販売は,ある自社製品を香港に輸出するビジネスを始めました。

 

 輸入者となる香港の㈱XYZには,非独占の販売店(Distributor)として香港全域に商品を販売してもらおうと考え,英文で非独占の販売店契約書(Non-Exclusive Distribution Agreement)を作成し締結しました。

 

 その際,㈱ABCの社長は,クロスボーダー取引においては,掛け売りはできるだけ避けるようにした方が良いという貿易アドバイザーの言葉を思い出し,100%前払いという条件を英文契約書に書き入れて安心していました。

 

 そして,その契約書を基に取引が始まりました。

 

 まず手始めに,㈱XYZは,日本円にして500万円程度のロットで,商品を発注しました。㈱ABCとしては,初回から大口の注文が入り,幸先が良いと喜んでいました。

 

 この取引では,㈱XYZから発注がかかった段階で,㈱ABCがメーカーに商品を発注し,支払いをした上で,商品をいったん在庫として抱え,その後,㈱XYZからの着金を待って,商品を輸出するという流れで納品することになっていました。

 

 そこで,㈱ABCの社長は,喜び勇んで,メーカーに発注し,仕入れ代金の支払いを済ませました。その後,メーカーから商品が到着し,検収を済ませました。

 

 こうして㈱XYZから着金があれば,すぐに商品の輸出の手配ができる状況となりました。

 

 ところが,待てど暮らせど一向に㈱XYZから着金しません。何度催促しても,お茶を濁すような返答があるばかりで支払いがされない状況が続きます。

 

 ㈱ABCの社長は,途方に暮れて,日本の顧問弁護士に次の対応について相談しに行きました。

 

 顧問弁護士は,「支払いがなされないなら,契約を解除したほうが良いでしょう」とアドバイスをし,㈱ABCはそれに従って,契約を解除しました。

 

 これにより,㈱ABCは,着金を待って商品を輸出する義務から免れました。

 

 そして,仕入れてしまった商品については,他社に転売することで損失補填することを検討することになりました。

 

 ところが・・・。この商品は,㈱XYZのかなり特殊な仕様に従ってメーカーに製造してもらったものでした。

 

 そのため,そのままでは㈱XYZ以外の第三者への転売がかなり難しい商品だったことが判明したのです。

 

 転売先の要望に沿って商品の仕様を変えるためにはかなりの追加コストがかかると聞きましたが,後の祭りです。

 

 このようにして,㈱ABCは踏んだり蹴ったりの損害を被ることとなってしまったのです。

 

本事例の解決法

 本件のような場合は,商品の発送前の全額前払いとなっているので,代金が着金しない限り,商品の発送をしなくて良いことになるので,その意味では,代金回収リスクはないことになります。

 

 しかし,買主からの着金を待たずに,商品を仕入れる必要があり,かつ,その商品が仮に在庫化した場合に転売が難しい場合は注意が必要です。

 

 この場合,輸入者の発注に基づき,メーカーから仕入れたものの,輸入者が代金を払わない場合に,売主は,転売できない在庫を抱えるというリスクがあります。

 

 本件はまさにこれに当たる事例だったということになります。

 

 このような事態を避けるためには,事前に商流を確認しておく,場合によっては,英文契約書に,代金着金後に製造の発注をする旨を明文化し,それを前提としたスケジュールで発注をするように注意喚起することなどが考えられます。

 

 製造着手前に代金の全額を販売代理店から支払ってもらうことが難しくても,せめて製造原価に相当する分は製造着手前に払ってもらうべきでしょう。

 

 こうすることで,もし販売代理店が後に何らかの事情で商品を必要としなくなり,残りの代金を支払わなかったとしても,製造原価分の支払いは受けているので,一応損害は回避できることになります。

 

 国際取引では,日本国内での取引よりも債権回収が困難ですので,よりシビアに考える必要があります。

 

 一概に対応に正解があるわけではないですが,今回の事例は注意しておいた方が良い点といえます。

 

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