Cooperate with...(英文契約書用語の弁護士による解説)

 

 英文契約書を作成,チェック,翻訳(英訳/和訳),修正する際によく登場する英文契約書用語に,Cooperate with...があります。

 

 これは,特に,英文契約書に特有な用語というわけではないですが,英文契約書で使用される場合,通常,「…に協力する」という意味で使用されます。

 

 英文契約書により当事者が何らかの取引関係に入るということは,その後,様々な問題に遭遇する可能性が高くなります。

 

 そのため,英文契約書には,通常,何か問題が起きた場合には,どちらの当事者がどのように責任を負うのかを定めておくことになります。

 

 もっとも,何か問題が起きたときに,いずれかの当事者が100%責任を負うとしても,最良の解決ができず,結局,他方の当事者にも何らかの不都合が起きるということもありえます。

 

 例えば,売主が買主に対し販売した商品が,第三者の知的財産権を侵害するとして,当該第三者から知的財産権侵害のクレームがなされたとします。

 

 この場合,英文契約書では,売主が,販売する商品が第三者の知的財産権を侵害することはないことを保証し,仮に第三者から知的財産権侵害のクレームがなされた場合には,売主が全責任を負うと定められることがあります。

 

 しかしながら,実際には,売主(例えば北米企業)から商品を買い付けて現地(例えば日本)で転売している買主が,第三者から知的財産権侵害のクレームを受けるという場合が多いです。

 

 そのため,いくら英文契約書上は,売主が全責任を負うと定めておいたとしても,第三者からすれば,外国企業の売り主に対し,直接クレームを入れたり,その後の交渉をするのはハードルが高い場合が多く,そう簡単に全責任を売主に転嫁できないことも現場ではよくあります。

 

 こうなると,買主としても,事実上,第三者に対し何らかの対応をせざるを得なくなります。

 

 そのため,売主,買主双方の立場にとって,お互いが役割分担をして,協力をしながらクレームを処理する方が適切な場合も多いといえます。

 

 このような場面を想定して,Cooperate with...という文言が英文契約書で使われることがあります。

 

 上記の例でいうと,仮に,買主が第三者から知的財産権侵害のクレームを受けた場合,直ちに売主に通知し,売主が当該クレームに対応するのに,合理的な協力をするという条項がこれにあたります。

 

 もっとも,合理的に協力するという表現はあいまいですので,程度問題となり,あとでこの点が係争になることもあります。

 

 他方で,何をすべきなのか,どの程度の協力をすることが義務なのか,どこまでが無償でどこからが有償なのか,そのあたりを事前に事細かに決められないことも多いです。

 

 このようなややあいまいさを残さざるをえない規定を作るときは,抽象的ですが,ある程度具体的で,ある程度裁量を残しあまりがんじがらめにしない文言で約定するのが良いことが多いです。

 

Reasonably necessary(英文契約書用語の弁護士による解説)

 

 英文契約書を作成,チェック(レビュー),翻訳(英訳/和訳),修正する際によく登場する英文契約書用語に,Reasonably necessaryがあります。

 

 これは,通常,英文契約書で使用される場合,「合理的に必要な」という意味で使用されます。

 

 例えば,Distribution/Distributorship Agreement(販売店契約)や,Agency Agreement(代理店契約)で,売主がDistributor(販売店)やAgent(代理店)に対し,商品の販促活動に必要な商品のサンプルや販促資料を無償で提供するという定めをする際によく登場する英文契約書用語です。

 

 販売店や代理店側からすると,商品サンプルや販促資料などは,無償でできるだけ多く提供してほしいと考えるのが通常です。

 

 そのため,販売店や代理店側がドラフトするDistribution/Distributiorship Agreementには,necessaryなサンプルや販促資料を無償提供すると定められることが多いです。

 

 これを,売主側でチェック・レビューする場合には,最低限reasonablyという単語を入れて修正したいところでしょう。

 

 そうしないと,販売店や代理店が自分たちの販促活動に主観的に必要だと判断する限りは,無償にて商品サンプルや販促資料の提供を受けられると解釈されるおそれがあるためです。

 

 もちろん,どこまでがreasonably(合理的)に必要であるかどうかというのも結局は程度問題ですので,reasonablyを加えたところで万全ということはありません。

 

 しかしながら,売主と販売店/代理店の取引の規模や,対象となるマーケットの大きさ,商品や業界での慣習などを考慮すれば,ある程度,どの程度の供給量が合理的な範囲内といえるかどうか絞りこめるでしょう。

 

 したがって,単にnecessaryである限り,無償提供すると定められるよりは,reasonably necessaryと定められている方が,売主にとってはより安全といえるでしょう。

 

Individual Contract(英文契約書用語の弁護士による解説)

 

 英文契約書を作成,チェック(レビュー/審査),翻訳(英訳/和訳),修正をする際に登場する英文契約書用語に,Individual Contractがあります。

 

 これは,英文契約書で使用される場合,通常,「個別契約」を意味します。

 

 基本売買契約書(Basic Sales Transaction Agreement)や販売店契約書(Distributorship Agreement)などの,継続的な契約関係に関する英文契約書を作成する際にこのIndividual Contractはよく登場します。

 

 基本売買契約書や販売店契約書は,売主と買主が継続的に何度も商品の売買をしていくことを想定しています。

 

 その際,取引のたびに売買契約書を交わしたり,条件を取り決めたりするのが不合理です。

 

 そのため,売主と買主の間でこれから売買をしていく際,すべての売買に適用する条件を取り決めようというのが基本売買契約書や販売店契約書です。

 

 この基本売買契約書や販売店契約書を先に締結しておいて,これらが適用される前提で,買主が注文書を出し,売主が注文請書を出して,個別の売買契約を成立させます。

 

 この個別の売買契約を指して,Individual Contract(個別契約)と呼んでいます。

 

 このIndividual Contractにおいて,基本売買契約書や販売店契約書と異なる内容・条件を取り決めることももちろん可能です。

 

 ただ,その場合,Individual Contractの内容と,基本売買契約書や販売店契約書の内容とが矛盾する場合がでてきます。

 

 そのような場合に,どちらの内容が優先するのかについても誤解がないように,基本売買契約書や販売店契約書を締結する際に事前に決めておき,英文基本売買契約書や販売店契約書に記載しておく必要があります。

 

 また,基本売買契約書や販売店契約書が終了した場合に,まだ商品引渡しや代金支払いが済んでいないIndividual Contract(個別契約)の効力をどのようにするのかについても,英文基本売買契約書や販売店契約書に記載しておいたほうが安全でしょう。

 

Would reasonably be expected to...(英文契約書用語の弁護士による解説)

 

 英文契約書を作成,チェック(レビュー),翻訳(英訳/和訳),修正する際によく登場する英文契約書用語に,Would reasonably be expected to...があります。

 

 これは,英文契約書で使用される場合,通常,「…が合理的に発生しうる」という意味で使用されます。

 

 類似の表現として,is likely to...という表現があります。

 

 これらは,...の部分にくる事象が起こった際には,一定の効果が生じるという文脈で使用されることが多いです。

 

 例えば,...の事象が起きたら,契約を解除できるとされていたり,商品の引渡しを保留できるとされていたり,一定の効果が書かれています。

 

 これは,実際にその事象が発生してから上記の様は効果が得られたのでは保護が足りないというような場合に,実際に事象が生じる前,事象が生じる可能性が高い段階で,既に効果が発生するようにする目的で使われることが多いです。

 

 例えば,Exclusive Distribution/Distributorship Agreement(独占販売店契約書)などで,年間で最低購入数量(Minimum Purchase Quantity)を達成できなければ,メーカーは契約を解除できるという条項に,これらの表現が見られることがあります。

 

 というのは,最低購入数量を達成できるかどうか1年度を実際に経過してから結果を判断するのでは,メーカーの利益が害される場合があるためです。

 

 そのため,例えば,3期が既に経過していて,これまでの実績から残り1期では明らかに最低購入数量に未達で終わることがわかっているような場合,4期目を待たずに,契約を解約できるようにこのような条項が挿入されることがあります。

 

 そのため,どの程度の可能性があれば,このような効果が生じるようにして良いかはデリケートな問題といえます。

 

 一般に,表現としては,is likely to...の方が,would reasonably be expected to...よりも発生する可能性が高いと理解されています。

 

 そうなると,前述の例でいえば,メーカーにとっては,would reasonably be expected to...としておいた方が有利となると考えられるでしょう。

 

 もっとも,このあたりは結局は程度問題ですので,要するに,どの程度客観的・合理的にその事象が起こりうるのかを立証できるようにしておくことが大切です。

 

 前述の例でも,3期の業績が悪くとも,4期目にクリスマス商戦などがあるというのであれば,まだ未達の蓋然性が高いとはいえないでしょうし,客観的に判断する必要があります。

 

 メーカーとしても,安易に解除を選択して,販売店に争われて訴訟などになれば元も子もありません。

 

 そのため,この表現に依拠するのであれば,相当な客観的証拠をもって対応する必要があるでしょう。

 

Between(英文契約書用語の弁護士による解説)

 

 英文契約書を作成,チェック(レビュー),翻訳(英訳/和訳),修正する際によく登場する英文契約書用語に,Betweenがあります。

 

 これは,英文契約書で使用される際は,期間(Term/Period)などを表す際によく登場します。

 

 英文契約書において,期間の定めは重要です。例えば,ある一定の権利を行使できるのがいつからいつまでとされていたり,契約の効力がいつからいつまでだとされていたり,ある義務を履行するのがいつからいつまでだなどと定められます。

 

 いずれの場合も,定められた期間に法的な意味があることになりますので,期間に誤解があったり,複数の解釈を可能にする表現になっていたりすると,後にトラブルになる可能性があります。

 

 Betweenという用語は,この期間を表す用語として,例えば,between 1st March 2018 and 30 April 2018などとして使われます。

 

 他にも,英文契約書では,from...to...なども同じように期間を表す用語として使われます。

 

 問題は,上記の場合に,3月1日と4月30日は含まれているのかという点です。

 

 これは,不明確であり,どちらもありうるので,避けるべきだと言われています。

 

 もちろん,実際に当事者間で誤解が生じている場面は少ないでしょうし,上記のように月の最初の日と最後の日を書いた場合,通常は,1ヶ月間を表すものとして,3月1日も4月30日も含まれるとするのが,当事者の合理的意思ということにはなるのだと思います。

 

 ただ,文言に忠実に解釈すべきだとか,相手方が異なる理解をしていたと主張しその主張には一定の合理的な根拠があるというような場合には,どちらなのかあいまいになってしまうおそれがあります。

 

 また,between 4th March 2018 and 16th March 2018というように,上記とは異なり,中途半端な期間を定めている場合,最初の日と最後の日は含まれるのかは,当事者の意思からしても明確でないということになりえます。

 

 そのため,このような表現は避けるべきで,betweenを使うにしても,between X (inclusive/exclusive) and Y (inclusive/exclusive)などとして,当日を含む(inclusive)のか含まない(exclusive)のかを明確にして定めるべきだと言われています。

 

 必ずしも上記のように徹底して使用されていないのが現実ですし,誤解を生じないことも多いでしょうから,細かいように思われるかもしれませんが,特に期間が中途半端な期間を設定してあり,期間が短いというような場合は,利害関係が大きくなる可能性があります。

 

 そのため,英文契約書に期間表現がある場合,なんとなくチェックするのではなく,正確で誤解のない表現となっているかどうかをきちんと審査する必要があるでしょう。

 

 現実には,期間が設定されていて,当日を含むのかどうかが確実でないということであれば,含まれないとして考えるのが多くの場合妥当といえると思います。

 

 含まれると考えていて,その日に義務を行ったところ,その日では早すぎた,または,遅すぎたという主張がありえるのであれば,そのような解釈は避けたほうが無難だからです。 

 

Closing(英文契約書用語の弁護士による解説)

 

 英文契約書を作成,チェック(レビュー/審査),翻訳(英訳/和訳),修正をする際によく登場する英文契約書用語に,Closingがあります。

 

 これは,M&Aに関する契約書(Stock Purchase Agreement(株式譲渡契約書)やAsset Purchase Agreement(事業譲渡契約書)など)によく登場する用語です。

 

 もちろん,M&Aに限った英文契約書用語というわけではなく,取引の実行段階を観念するような契約であれば,クロージングという用語を使うことがあります。

 

 M&Aが進行する場合,通常は,上記のStock Purchase Agreement(株式譲渡契約書)やAsset Purchase Agreement(事業譲渡契約書)などを取り交わし,Closingについて定めを置きます。

C

 losingとは,M&Aの実行を指し,基本的には,株式譲渡であれば,株式の譲渡と代金の決済を行うこと,事業譲渡であれば,事業の譲渡と代金の決済を行うことを指します。

 

 その他,株主総会の開催,取締役会の開催,役員の交代や,様々な買収対象会社に関する書類(Closing Document)の引き渡しなどが行われます。

 

 Closingをもって,M&Aが完結,実行されるということになります。この実行日・決済日をClosing Dateと呼んでいます。

 

 M&Aでは,このClosingに至るまでに,Due Diligence(デュー・デリジェンス)や,Representations and Warranties(表明保証)などの重要な行為がなされます。

 

 Representions and Warranties(表明保証)では,Closing Dateにおいて,買収対象外者や事業譲渡の対象財産の状態が「〜であることを保証する。」という定めが必ずといって良いほどなされます。

 

 したがって,このClosingとClosing Dateという概念は,M&Aに関する契約にとっては,重要な意味を有しています。

 

Indirectly(英文契約書用語の弁護士による解説)

 

 英文契約書を作成,チェック(レビュー/審査),翻訳(英訳/和訳),修正する際によく登場する英文契約書用語に,Indirectlyがあります。

 

 これは,英文契約書で使用される場合,通常,「間接的に」という意味で使用されます。

 

 重要なのは,和訳ではなく,具体的な意味と使用法です。

 

 このindirectlyは,対義語のdirectlyと一緒に使われることが多いです。独占販売店契約書(Exclusive Distribution/Distributorship Agreement)でよくみかけます。

 

 独占販売店契約書(Exclusive Distribution/Distributorship Agreement)の場合,通常は,売主が,販売地域(Territory)の顧客に対し商品を売ってはならないという条項が入れられます。

 

 この場合に,グレーゾーンのように問題になるのは,例えば,売主が自ら販売地域の顧客に対して製品を販売するのは,独占販売店契約書(Exclusive Distribution/Distributorship Agreement)に明確に違反するとしても,では,売主が自社の関連会社(Affiliate)に対して,いったん商品を横流しして,その関連会社から販売地域内の顧客に商品を売ったらどうなるのかという点です。

 

 売主は,自ら直接販売地域の顧客に商品を売っているわけではなく,一度別会社を経由して,迂回して商品を販売地域の顧客に売っていることになります。

 

 このような行為も,販売店としては禁止したいと考えるでしょう。その場合に,このindirectlyという表現が使われれることがあります。

 

 例えば,Seller shall not, directly or indirectly, sell the Prodcuts to any customer in the Territory during the term of this Agreement.(売主は,本契約期間中,販売地域内の顧客に対し,直接的にまたは間接的に,本製品を販売してはならない。)というように記載されます。

 

 Indirectlyがどういう行為まで禁止することになるのか,上記の表現では必ずしも明確になっていないのですが,少なくとも前述した露骨な迂回行為は禁止されていると解釈できると思います。

 

 同じように,間接的な販売行為を禁止する表現としては,through a third partyが挙げられます。

 

 こちらも,throughというのが明確な用語ではないため,どこまでの行為が,「第三者を通じて」といえるのか,必ずしもはっきりしませんが,前述のような行為は禁止できると考えて良いでしょう。

 

 何かの行為を禁止する場合,想定される行為をすべて挙げて禁止するというのは,事実上難しいことが多いでしょう。

 

 そのため,やや曖昧ではあっても,英文契約書を作成する際には,ある程度広く解釈できるような表現を選択するということはよくあります。

 

Proceedings(英文契約書用語の弁護士による解説)

 

 英文契約書を作成,チェック(レビュー),翻訳(英訳/和訳),修正する際によく登場する英文契約書用語に,Proceedingsがあります。

 

 これは,英文契約書で使用される場合,通常,「訴訟/訴訟手続」を意味します。

 

 他にもactionやlitigationなども訴訟を表す英文契約書用語として使用されることがあります。

 

 Proceedingsを,単に「手続き」というような意味で,英文契約書の内容を理解してしまうと,重大な誤りとなってリスクが高くなることがありますので注意が必要です。

 

 Proceedingsという用語が登場した場合,「訴訟」を意味していることが多いですので,訴訟が英文契約書に登場するということは,内容が重要であることを示唆しています。

 

 何かの権利を行使するためには,訴訟手続によって行なわなければならないとか,訴訟を遂行するには,一定の要件を充たさなければならないとか,相手方に補償金の支払いを要求するためには訴訟において何をしなければならないとか,そのような重要な内容が絡んでいることが多いといえます。

 

 そのため,このproceedingsという英文契約書用語を見た場合は,重要な内容であることを意識してその内容を精査する必要があるでしょう。

 

 英文契約書を離れても,このproceedingsという用語は,海外の弁護士との電子メールのやり取りでも頻繁に登場する用語です。

 

 この場合も,海外の弁護士が言及しているのが,「訴訟/訴訟手続」であると正しく理解してコミュニケーションを取らないと,話が見えないということがありますので,注意が必要です。

 

 特に電子メールのやり取りでは,actionlitigationという用語よりも,このproceedingsを訴訟を指す用語として好んで使われているように思います。

 

 Proceedingsは,このように重要な意味を持ち,この用語が登場するということは,その用語を含む契約書の条文や電子メールの内容が重要であることを示していますので,注意して内容を検討する必要があるでしょう。

 

Remit(英文契約書用語の弁護士による解説)

 

 英文契約書を作成,チェック(レビュー/審査),翻訳(英訳/和訳),修正をする際によく登場する英文契約書用語に,Remitがあります。

 

 これは,英文契約書で使用される場合,通常,「送金する」という意味で使用されます。Payment(支払い)に関する条項でよく見られます。

 

 TT Remittanceなどの用語もよく耳にすると思います。これは「電信為替送金」という意味で,実務的には,一般に銀行振込みによる送金をいいます。

 

 このremit(送金する)という用語と,pay(支払う)という用語は厳密には意味が異なりますので,注意して下さい。

 

 Remitというのは送金ですので,TT Remittanceであれば,例えば,買主が売主の指定銀行口座に向けて,買主の銀行から送金した時点で,remitしたことになります。ここで,例えば,100万円を送金したとしましょう。

 

 日本国内の取引であれば,送金した100万円が銀行手数料はともかく,そのまま売主の口座に着金しますから,特に問題はありません。

 

 ただ,海外との取引の場合,為替が介在します。そのため,例えば,売主の口座が米ドルで着金するという場合,買主が日本の銀行から100万円を送金しても,相手の口座に米ドルで着金した際には,為替レートの変動により,100万円に満たないということがありえます。

 

 送金額が多額で,為替レートの変動が急激である場合,不足額が多額になることがあります。

 

 この際に,買主が,不足分をさらに補填して払わなければならないのかという点で,このremitという用語とpayという用語の違いが問題になることがあります。

 

 英文契約書の支払い条項が,remitとされていれば,送金時点で100万円であればよく,その後の為替レートの変動などで,着金時に実質100万円を下回っていたとしても,買主はそれ以上の責任を負わないと解釈されるのが通常でしょう。

 

 他方,payとなっている場合,あくまで100万円を支払わなければならないため,着金した米ドルを日本円に換算した場合に100万円に満たないのであれば,100万円を支払ったことにならないという解釈がありえます。

 

 この解釈に従えば,買主は100万円に達するまで,差額を支払わなければならないという可能性が出てきます。

 

 そのため,支払いについて規定するときは,remitとpayの意味を区別して理解しておいた方が良いでしょう。

 

 もっとも,remitなのかpayなのかという英文契約書の用語の違いだけでこのようなリスクを配分するのは妥当ではありません。

 

 そのため,支払い通貨を明確にし,為替リスクについてはどう考えるのかを事前に協議し,上記のようなトラブルにならないように予め英文契約書で明確にしておく必要があるでしょう。

 

英文契約書の相談・質問集113 債権回収は弁護士の主力業務の一つですよね。

 

 英文契約書の作成,チェック(レビュー),翻訳(英訳/和訳),修正の依頼を受ける際によく受ける相談・質問に,「債権回収は弁護士の主力業務の一つですよね。」というものがあります。

 

 確かに,交渉や訴訟などを通じて債権の回収を図るのは,弁護士の主力業務の一つであるということはもちろん否定しません。

 

 しかしながら,特に海外取引・国際取引では,債権回収のリスクは国内に比べて格段に高まります。

 

 そもそも,紛争解決手続が,外国の裁判所や仲裁となっていれば,仮に勝てる案件だとしても,現地の弁護士に対応してもらう必要があり,かけなければならない費用と時間は膨大なものになります。

 

 また,仮に裁判などで勝利しても,判決書や仲裁判断はそれだけではただの紙切れですので,相手が任意に払ってくれず外国企業の外国にある財産に対して強制執行をしなければならない場合,さらに費用と時間がかかります。

 

 そして,最終的に回収できないということも十分にありえます。しかし,タイムチャージによって弁護士費用はどんどんとかさんでいくということになりかねません。

 

 弁護士は,動いた分が弁護士費用として払われるので,最終的に回収ができなくとも赤字になることはないでしょう。

 

 しかし,クライアントとしては,債権回収案件は,基本的に,実際に未払いのものが支払われてはじめて意味があります。

 

 したがって,裁判や仲裁で勝利しようが,最終的に回収ができず,弁護士費用ばかりが費用として支払われたとなれば,大損害になってしまいます。

 

 また,金銭的な損失もさることながら,時間の損失も多大です。国内の裁判でさえ,経営者や担当者が裁判に使う時間は膨大になることがあります。

 

 その分,利益を上げる本業ができず,経営にも少なからず影響します。私は,この損失が一番問題だと思っています。時間は最も大切な経営資源ですので,これを大きく損ねるのは非常に問題です。

 

 さらに,お金や時間のみならず,慣れない裁判などに対応することで精神的なストレスも受けることになるでしょう。

 

 これが,相手企業が海外企業だとなれば,かかる時間も国内の程度で済むはずもなく,受けるストレスも何倍にもなってきます。

 

 したがって,弁護士が債権回収を業務の一つにしているからといって,弁護士に頼めば債権回収が可能になるから大丈夫だという発想は極めて危険です。

 

 そういう考えではなく,債権回収を行える弁護士であれば,どのようにすれば債権を回収しなければならない状況を回避できるかについても詳しいはずだという考えを持つことが大切だと思います。

 

 これが,いわゆる予防法務の一場面です。弁護士は,債権回収の必要を生じたなどのトラブルが起きたときに利用できる一方で,そのようなトラブルを扱っているからこそ,トラブルを回避する術も心得ている,これこそが企業が本来利用すべき弁護士の利便性・価値なのだと思います。

 

 債権回収をしなければならない状況をいかに回避するのか,ここにフォーカスする方が,債権回収しなければならない事態が生じた後に対処するのに比べ,費用も圧倒的に安く済みますし,かける時間も圧倒的に短くなり,受ける精神的ストレスも少なくなります。

 

 事前の予防策,防止策は契約書でのリスクヘッジをはじめ,いろいろと存在します。これらの領域で弁護士のサポートを求めた方が,より企業の利益を高めることに繋がると思います。

 

 特に海外との取引においては,債権回収しなければならないとなったときにどうするかを考えるよりも,まずは債権回収の必要性を排除することを徹底的に考えなければなりません。

 

 ビジネス上の利益を安全に確保するためには,何が最善策かを事業のあらゆる段階で常に考えつつ,予防法務的な視点で弁護士からアドバイスを受けるようにすると,安全性が増すかと思います。

 

→next【英文契約書の相談・質問集114】 ハードシップ条項とは何ですか。

 

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Grant(英文契約書用語の弁護士による解説)

 

 英文契約書を作成,チェック(レビュー/審査),翻訳(英訳/和訳),修正をする際に登場する英文契約書用語に,Grantがあります。

 

 これは,英文契約書で使用される場合,通常,「付与する」という意味で使用されます。

 

 Grantは,英文契約書では,知的財産権について使用許諾権(ライセンス)を与えるときによく使用されます。

 

 ライセンス契約(License Agreement)で,特許権や著作権などについて実施権,使用権を与える際に,このgrantという用語を使って,ラインセンサーからライセンシーに対して使用許諾がなされます。

 

 また,英文販売店契約(Distribution/Distributorship Agreement)を締結する場合も,通常,メーカーが,販売店に対し,自社が使用している商標やロゴを使用する権利を許諾するのが一般的です。

 

 そうすることで,販売店は,メーカーの正規販売店として,メーカーの商標やロゴを使用してブランドイメージを損なわないように,商品を販売展開することが可能になります。

 

 このような場合に,Seller shall grant to Distributor a non-exclusive, royalty-free and non-sublicenseable license to use Seller's trademarks...(売主は販売店に対し,売主の商標を使用する譲渡不能,ロイヤリティなし,サブライセンス不可の権利を付与する…)というような表現で登場します。

 

 このように,grantが使用されている場合は,知的財産権がライセンスされるという条項である可能性が高いいです。

 

 そのため,grantが含まれている条項は,重要な意味を有していることが多いです。

 

 この用語が含まれている条項によって,どのような条件のどのような権利が与えられているのかを,よく確認する必要があります。

 

 交渉時にサブライセンス権が含まれているとされていたのに,サブライセンス権がないとされていたり,ライセンスの期間が短くなっていたり,ライセンスされた権利の範囲が狭くなっていたりしないか,合意されたはずの内容と異なっていないかどうかを注意深く検証する必要があります。

 

Extend(英文契約書用語の弁護士による解説)

 

 英文契約書を作成,チェック(レビュー/審査),翻訳(英訳/和訳),修正をする際に登場する英文契約書用語に,Extendがあります。

 

 これは,英文契約書で使用される場合,「延長する」という意味で使用されます。

 

 契約期間を延長するという文脈で,このextendが登場することが多いです。

 

 継続的な契約となる契約書の場合,必ずといってよいほど,契約期間が定められます。

 

 この期間が満了になった場合に,自動的に更新すると定められたり,特に更新については触れられていなかったり,契約期間の満了については様々な定めが英文契約書にはあります。

 

 更新条項がある場合,契約が更新されるという意味で,このextendが使用されることがあります。

 

 This Agreement will be extended for successive one (1) year terms...(本契約は1年間ずつ延長される…)というように使用されます。

 

 他には,renewという英文契約書用語も,契約の更新という表現で使用されることがあります。

 

 契約の更新についての規定は重要なものです。契約期間が満了した場合に,契約が終了するのか,更新が予定されているのかによって,ビジネス上の判断に影響があることがありえます。

 

 更新条項がなければ,原則として契約期間の満了をもって契約が終了することになります。

 

 もし,契約を延長したい場合は,当事者が話し合って合意する必要があることになります。

 

 したがって,更新条項がある場合に比べて,更新についてのハードルは高いといえるでしょう。

 

 自動更新条項がある場合,通常,更新を拒絶したい側の当事者が,契約期間満了の◯ヶ月前までに相手方にその旨の通知をしない限り,◯年ずつ自動的に更新するというような内容が定められることになります。

 

 そのため,extendという英文契約書用語が,契約期間に絡んで登場した場合は,契約の終了と更新についての条件を精査する必要があります。

 

Contribution(英文契約書用語の弁護士による解説)

 

 英文契約書を作成,チェック(レビュー/審査),翻訳(英訳/和訳),修正する際によく登場する英文契約書用語に,Contributionがあります。

 

 これは,英文契約書で使用される場合,通常,「寄与度/責任割合」というような意味で使用されます。

 

 例えば,販売店契約(Distribution/Distributorship Agreement)で,販売店(Distributor)がサプライヤーの商標を使用して現地で商品を販売していたところ,第三者から,商標権侵害を理由にクレームを受けたような場合に,それぞれの責任の割合に応じて,賠償額を負担するというような規定にこのContributionが使用されます。

 

 余談ですが,イギリスでは,船舶同士の事故があった場合の損害額を決める際,よく,最初に船舶Aと船舶Bの過失割合(Contribution)を,競技により決定し,その後で,それぞれの船舶の損害を算定して損害額を後で合意するという方法で和解していました。

 

 過失割合と損害額を同時に交渉していると時間がかかって効率が悪いためです。

 

 こうした,当事者の過失の割合,責任の割合のことをContributionと表現するわけです。

 

 これと対置して使われる用語は,Indemnification/Indemnityです。

 

 これは,「補償」と呼ばれています。動詞は,Indemnifyです。

 

 例えば,前述の例でいうと,販売店契約(Distribution/Distributorship Agreement)において,サプライヤーが,自社の商標が,販売店(Distributor)の国において第三者の商標権を侵害するものではないという保証(Warranty)をして,もし,違反があれば,全責任をサプライヤーが負うという内容を規定するときに使う用語が,このIndemnification/Indemnityです。

 

 これは,責任割合や過失割合に応じて賠償を負担するという考えではなく,一方当事者であるサプライヤーが全責任を負い,販売店(Distributor)の損害を補償するということです。

 

 つまり,前述の例でいえば,第三者が販売店(Distributor)に対し,商標権侵害のクレームを入れ,販売店(Distributor)が第三者に賠償金を支払った場合,今度は,サプライヤーが販売店(Distributor)に対し,その損害賠償金を支払い,販売店(Distributor)の損害を補填するわけです。

 

 この場合,販売店(Distributor)が適切な額の賠償を第三者にすれば問題ないですが,相場に比して高額な賠償をしたとなると,その額を最終的にサプライヤーが負担しなければなりませんので,注意が必要です。

 

 販売店(Distributor)が第三者と和解する前にサプライヤーの承諾を必要とするとか,賠償額は合理的な額に限るなどの一定の制約を課す必要がある場合があります。

 

 このように,損害賠償の場面で,Contributionや,Indemnification/Indemnityが使用されることがあります。

 

 損害賠償の規定は,言うまでもなく,重要な規定ですので,英文契約書を作成,チェック(レビュー/審査),翻訳(英訳/和訳),修正する際には,その内容には十分に注意する必要があります。

 

Conflict(英文契約書用語の弁護士による解説)

 

 英文契約書を作成,チェック(レビュー/審査),翻訳(英訳/和訳),修正する際によく登場する英文契約書用語に,Conflictがあります。

 

 これは,英文契約書で使用される場合,通常,「矛盾する」という意味で使用されます。

 

 類義語には,Contraryなどがあります。

 

 例えば,販売店契約(Distribution/Distributorship Agreement)などを締結する場合,商品の個別の発注・受注によって個別契約(Individual Contract)が成立していきます。

 

 販売店契約(Distribution/Distributorship Agreement)は,基本契約という性格を持つことになりますので,ここに記載された条件が,すべての個別契約に適用されることになります。

 

 そうすると,販売店契約(Distribution/Distributorship Agreement)で定めていた内容と,発注書と受注書で約束する条件が「矛盾する」(Conflict)場合があります。

 

 このようなときに,販売店契約(Distribution/Distributorship Agreement)に記載されている内容が優先されるのか,個別契約に記載された内容が優先されるのかについて,予め販売店契約(Distribution/Distributorship Agreement)に記載しておくということがあります。

 

 このような場合に,このConflictが登場します。

 

 例えば,In the event of the provisions  resulting in a conflict between the Individual Contract and this Agreement, the former will supersede the latter.(個別契約と本契約の条項が矛盾するときは,個別契約の条項内容が優先する。)などと表現されます。

 

 上記のように個別契約の内容を優先させるのは,基本契約としての販売店契約(Distribution/Distributorship Agreement)があったとしても,今後の取引状況や個別の発注時の事情で,販売店契約(Distribution/Distributorship Agreement)の内容とは異なる約束をしたい場合があるということに備えて,ということになります。

 

 販売店契約(Distribution/Distributorship Agreement)の内容が優先されるとなっていると,この内容を変更するには,いちいち,契約書の内容の改定合意を,当事者の代表者同士がサインして行わなければならないということになってしまい,スピーディではないということになってしまいます。

 

 逆に,販売店契約(Distribution/Distributorship Agreement)の内容を,担当者レベルで簡単に変更してもらっては困るという場合は,販売店契約(Distribution/Distributorship Agreement)の内容を個別契約に優先させるとしたほうが良いことになります。

 

 こうしておけば,担当者が発注書と受注書で販売店契約(Distribution/Distributorship Agreement)と異なる条件を合意したとしても,無効ということにできるからです。

 

 他にも,英文契約書で準拠法(Governing Law)を定めるときに,Conflict of Laws(抵触法)という概念を記載するときに,このConflictという用語が登場することがあります。

 

 特に,基本契約と個別契約の内容が矛盾するときに取り扱いについては,事前に契約書で明確にしておいたほうが良いと思いますので,英文契約書を作成,チェック(レビュー/審査),翻訳(英訳/和訳),修正する際には,注意したほうが良いでしょう。

 

Examine(英文契約書用語の弁護士による解説)

 

 英文契約書を作成,チェック(レビュー/審査),翻訳(英訳/和訳),修正する際によく登場する英文契約書用語に,Examineがあります。

 

 これは,英文契約書で使用される場合,通常,「検査する」という意味で使用されます。

 

 類似の英文契約書用語に,Inspectがあります。

 

 どちらかというと,Inspectのほうが英文契約書ではよく使われると思います。

 

 販売店契約(Distribution/Distributorship Agreement)や売買契約で,商品を売主が買主に引き渡した後,買主が商品を検査して,商品に問題がないかを確認するということを行います。

 

 ここで行なわれる検査は,多くの場合,外見的にわかる商品の欠陥がないか,違う商品が届いていないか,注文した数と届いた数が合致しているか,などについて検査するとされていることが多いです。

 

 例えば,商品がきちんと動くかとか,食品類であれば腐っていたり,異物が入っていたりしないかということまで検査するとなると,商品が売れなくなってしまうことがありますので,そういうことまでは契約書で義務付けないのが一般的です。

 

 そして,ExamineやInspectされた商品に問題がなければ,買主は,売主に対し,検査合格(Pass)した旨を通知するとされていることが多いです。

 

 また,買主がいちいち通知するのが面倒という場合は,◯◯日以内に買主から売主に対し,検査に関する通知がなければ,合格したものとみなすなどと契約書に記載することもあります。

 

 もし,検査に不合格である場合,売主が不合格の理由の通知とともに,その不合格の原因を示す証拠を受け取り,不合格の理由が存在するかをチェックします。

 

 そして,不合格となった理由が存在すれば,その問題を売主の費用負担で是正するということが契約書に書かれるのが普通です。

 

 この対処法(Remedy)は,通常,①問題のない商品と交換する,②修理する,③代金を返還するという方法があります。

 

 これを,買主か売主が選択して,売主が商品の欠陥について対処するということになります。

 

 商品に欠陥があったときにどのような対応がされるのかについては,買主は大きな関心があるところですので,英文契約書を作成,チェック(レビュー/審査),翻訳(英訳/和訳),修正する際には,注意して検討しなければなりません。

 

Essence(英文契約書用語の弁護士による解説)

 

 英文契約書を作成,チェック(レビュー/審査),翻訳(英訳/和訳),修正する際によく登場する英文契約書用語に,Essenceがあります。

 

 これは,英文契約書で使用される場合,通常,「本質的要素」というような意味で使用されます。

 

 この英文契約書用語は,当事者に契約違反があった場合の救済措置に関して,影響を与える用語です。

 

 英文契約書は,英米法を基礎にして作成されることが多いです。

 

 英米法では,当事者が契約条項に違反をした場合の救済手段は,原則として損害賠償請求(Damages)となります。

 

 日本では,当事者が自己の責めに帰すべき事由によって債務不履行をすると,相手方は損害賠償請求もできますし,契約の解除もできます。

 

 この契約解除が,英米法の世界では,常に認められているわけではないというのが,日本法との違いです。

 

 英米法では,当事者が契約違反した場合に,相手方が損害賠償請求のほか,契約解除まで主張できる場合は,重大な契約違反(些細な違反ではない)があった場合に限定されています。

 

 軽微な契約違反で契約が解除されてしまうと,当事者の法的な地位が不安定になりますので,解除は重大な違反の場合に限定されていると理解しておけば良いでしょう。

 

 そして,このessenceという英文契約書用語は,この契約解除が認められるほどの重要な契約の要素であることを明示するためによく使用されます。

 

 例えば,販売店契約(Distribution/Distributorship Agreement)の納期に関する条項に,time is of the essenceという表現があったとします。

 

 そうすると,これは,納期というものは,その契約において本質的な要素であるということを示しています。

 

 これによって,もし納期に違反し,納期遅延をした場合,損害賠償請求だけではなく,解除も認められるということを意味することになります。

 

 また,同様の意味を持つ英文契約書用語には,material(重大な)があります。

 

 これも,重大な契約違反を表すときに英文契約書でよく使われます。 

 

 例えば,ある条項に違反すると,material breachとなると契約書に記載されていれば,その条項に違反すれば,損害賠償請求のほか,契約解除も認められるということになります。

 

 もっとも,準拠法も影響しますし,通常は,essenceという英文契約書用語で済ませることはせず,どの条項に違反すれば,どのような効果(損害賠償請求や解除の対象となる)ということをはっきりと英文契約書に明記します。

 

 重要なのは,国の法律によって,契約違反をした場合に相手方にどのような法的救済措置が与えられるのかは様々であるということと,そうであるからこそ,英文契約書に違反の場合にどのような救済措置が認められるのかを明記する必要があるということです。

 

 英文契約書を作成,チェック(レビュー/審査),翻訳(英訳/和訳),修正する際に,essenceという用語が出てきた場合,その条項は契約の本質的な要素であり,重要な内容であることを示していますので,注意する必要があります。

 

Public domain(英文契約書用語の弁護士による解説)

 

 英文契約書を作成,チェック(レビュー/審査),翻訳(英訳/和訳),修正をする際によく登場する英文契約書用語に,Public domainがあります。

 

 これは,英文契約書で使用される場合,通常,「公有財産」という意味で使用されます。

 

 Public domainという英文契約書用語が最もよく使用されるのは,秘密保持義務条項の中でしょう。

 

 秘密保持義務条項を定める際に,何が秘密情報として取り扱われるのか,秘密情報の定義をすることが通常です。

 

 この定義の中で,秘密情報に該当しない例外を設けることが一般的です。

 

 その例外,つまり,秘密情報に該当しない例の一つが,このpublic domainということになります。

 

 要するに,すでに公の財産となっていて広く利用されているような情報や知見は,守秘義務の対象となるような機密性のある情報とはいえないので,例外に該当するとするわけです。

 

 ところで,守秘義務については,契約の期間が満了したり,契約が途中で解除により終了したりした場合でも,その後も守秘義務は一定期間継続すると契約書で定めることが一般的です。

 

 例えば,守秘義務条項については,契約終了後も3年間は有効のまま継続するなどと定められます。

 

 そうすると,原則として,契約が終了したとしても,向こう3年間は,なお秘密情報を秘密として管理し,第三者に開示したりしてはならないということになります。

 

 もっとも,現代はテクノロジーやビジネスの変化のスピードが凄まじく速いです。

 

 そのため,ある時点では希少性があり,価値があった情報も,あっという間に陳腐化します。

 

 陳腐化するということは,コモディティ化するということを意味することがありますから,その場合,3年の経過を待たずに,その秘密情報はすでにpublic domain化してしまったということもありえます。

 

 そのため,秘密保持義務に関しては,義務の存続期間に注意を払うだけではなく,時間が経過したことにより,秘密情報の例外であるpublic domainに該当するようになったといえないかについても注意を払う必要があります。

 

 これからは,あらゆるビジネスで,オープンソース化,オープンイノベーションの拡充が進行すると思われます。

 

 そうすると,秘密情報の価値のあり方もどんどん変化すると思われます。

 

 これだけ情報のアップデートが激しく,かつ,拡散していく世の中では,知的財産権に該当するようなものを登録して守っていく戦略が正しいのかということも問題になる場面が増えていくでしょう。

 

 また,知的財産権に該当するようなものではないノウハウのようなものにどのように価値を与えてマネタイズしていくかは,これまでの常識とは異なる工夫が必要になってくるでしょう。 

 

 Public domainに該当する情報は,AIの進化によって,これからどんどん加速度的に量産されていくのではないかと考えています。

 

Become immediately due and payable(英文契約書用語の弁護士による解説)

 

 英文契約書を作成,チェック(レビュー/審査),翻訳(英訳/和訳),修正する際によく登場する英文契約書用語に,Become immediately due and payableがあります。

 

 これは,英文契約書で使用される場合,通常,「直ちに期限が到来し弁済しなけばならない」という意味で使用されます。

 

 日本語でいうところの「期限の利益の喪失」条項で登場する文言です。英語では,accelaration clauseといいます。

 

 これは,債務者が,ある債権を分割して支払っている場合に,例えば,1度でも支払い期限に遅れて支払いを遅滞した場合は,残存する債務全額について,直ちに弁済期が到来するという内容です。

 

 債務者は,ある債務の総額を一括で支払わずに,分割して支払うことを認められるというのは,当然債務者にとって利益が大きいです。

 

 キャッシュを一気に吐き出さなくて良いわけですから,設備投資に回したり,その資金を運用して利益を得たりすることが可能になります。

 

 これを,期限の繰り延べによる債務者の期限の利益と呼びます。

 

 支払いを怠ることで,この利益を失って,直ちに残額を一度に支払わなければならない状態になるため,その利益を失う,すなわち,「期限の利益の喪失」条項と呼んでいるわけです。

 

 債権者からすれば,分割払いを許すことで,債務者に利益を与えつつ,リスクを取っているわけです。

 

 その場合に,債務者が分割払いの支払いを怠ったとなれば,残りの金額も依然として分割して長期で払ってくれれば良いというのは,債権者にとってリスクが大きいわけです。

 

 訴訟を提起して,残額を回収しようにも,期限の利益の喪失条項がなければ,それぞれの分割金の支払期限が到来するまでは,将来の分割金の分は請求できないということになってしまいます。

 

 このような事態を避けるために,もし債務者が分割金の支払いを怠って,債権者の回収に危険信号点灯した場合には,債権者が訴訟提起などを通じて残額を一気に回収できるようにするのが,この期限の利益の喪失条項です。

 

 この内容を記載する際に,英文契約書では,become immediately due and payableという表現が使用されます。

 

 また,分割払いの債務に限らず,とにかくある債務について期限までに支払いをしなければ,他に何か期限が未到来の債務があったらその債務もすべて弁済期が到来し直ちに弁済しなければならないという内容が定められることもあります。

 

 さらに,同じ取引先との間で,別々の契約書に基づく複数の取引があった場合,そのうち一つでも期限までに支払いを怠れば,すべての取引上の債務について弁済期が到来するということを定めることもあります。

 

 このようなケースでは,英文契約書の実務上,よく解除条項と一緒にこの期限の利益の喪失条項が挿入されています。

 

 契約の解除ができる原因には,契約違反や当事者の破産手続開始の申立てなど財務状態の悪化を示す一定の事由が挙げられることが多いです。

 

 これらが,そのまま期限の利益の喪失の事由にも該当するとされ,これらの事由が当事者の一方に生じた場合に,他方の当事者は,契約を解除することもできるし,期限の利益の喪失条項によって直ちに金銭債権の残額全部を請求できるということになります。

 

 もっとも,仮に期限の利益の喪失条項を挿入しておいたところで,債務者が約束どおりの期限に債務を支払わないということは,財務状態が悪化していることが考えられます。

 

 そのような場合に,いくら債権者が残額全部を直ちに請求できるといってみても,実効性がないということは多いです。

 

 このような事態を避けて,回収を確実性の高いものにする場合は,やはり担保や保証を取り付けるということでしょうが,海外取引において担保の取得は現実性が低かったりします。

 

 このように,債権回収には悩みが多いのですが,実効性の有無はともかくとして,分割払いを怠った債務者に分割払いの利益を与え続けることは妥当ではない場合が多いでしょうから,期限の利益の喪失条項を挿入し,一応の手当をしておくということになるかと思います。

 

Subsequently(英文契約書用語の弁護士による解説)

 

 英文契約書を作成,チェック(レビュー/審査),翻訳(英訳/和訳),修正する際によく登場する英文契約書用語に,Subsequentlyがあります。

 

 これは,英文契約書で使用される場合,通常,「その後」という意味で使用されます。

 

 Subsequentlyが,英文契約書で使用される場合は,最初にこう,その後はこうというように,時系列が後になることにより取り扱いが変化するようなときに,よく登場します。

 

 最も典型的と思われるのが,契約の有効期間(Effective Term)を定める条項において使用される場合です。

 

 販売店契約(Distribution/Distributorship Agreement)などの継続的な契約では,必ずといって良いほど契約期間が定められます。

 

 どの国の法律がその契約に適用されるかという問題である準拠法によっても異なりますが,契約期間が定められていないと,当事者のいずれかが契約を終了させる旨の通知をすると,契約が終了するという危険もあります。

 

 そのため,継続的な契約を締結する場合は,必ず契約期間を定めるということになります。

 

 

 この場合,「最初に〇〇年,その後,当事者の一方が相手方に対して,契約を更新しない旨の通知をしない限り,〇〇年ずつ自動的に更新する。」などと英文契約書に定められることがあります。

 

 この「その後」を表す英文契約書用語として,subsequentlyが登場することになります。

 

 この契約期間および更新についての条項を,作成,チェック(レビュー/審査),修正する際に注意しなければならない点は,その後の更新が何回予定されているかという点です。

 

 最初の契約期間(Initial Term)が終了し,その後,自動的に更新するという条項があった場合,subsequentlyという用語は,「その後」ということを表すだけですので,この用語を見ても,更新が何回予定されているのかはわかりません。

 

 例えば,契約期間と更新を定めた条文が,two (2) year termと,termが単数形になっているか,それとも,two (2) year termsと,termが複数形になっているかで判断できることもあります。

 

 Two (2) year termsと複数形になっていれば,複数回更新が予定されていることがわかります。

 

 そして,回数が特に書いていないのであれば,通常は,相手方から更新拒絶の通知が来ない限りは,無制限に更新を繰り返すものと理解して良いでしょう。

 

 これに対して,two (2) year termと単数形なっていれば,それだけで明確というわけではないですが,単数になっているのであれば,一回限りの更新を予定しているという解釈が成り立ちます。

 

 ただ,これだけで区別するのは,困難なこともあります。

 

 複数回の更新を期待している当事者が,termと単数形になっていることに気づかなかった,または,契約書を作成,チェック(レビュー/審査),修正する際にタイプミスしてしまい,sを付け忘れただけで,契約の更新は一回に限らないはずだなどと主張する可能性もあります。

 

 この主張が通るかどうかはさておき,こうした主張・クレームを受けること自体が,損失になります。

 

 また,一般条項(ボイラープレート条項)として,英文契約書に登場する単語で複数形と単数形がありうる場合,文脈によって単数形は複数形として読むという趣旨の規定があることがあります。

 

 このような条項があると,要するに,単数形で表示されていても,複数形として理解することがあるということになります。

 

 そのため,先の例では,termと単数形になっていても,それは複数形で読むべきだという主張が成り立ちえます。

 

 こうなると,termが単数形なのか複数形なのかという点だけで,更新が複数回予定されているのかどうかが明確に判断できないということになってしまいます。

 

 こうしたことを防止するために,複数回予定されているのであれば,successively(継続的に)という単語を挿入したり,具体的に何回更新が予定されているのか,回数を英文契約書に記載するという工夫が必要になってきます。

 

 契約期間は,そのビジネスのいわば寿命ですので,大変大切な条項です。

 

 このような重要な条項があいまいであったり,複数の解釈を許したりするようですと,無用の紛争を生じることになりますので,英文契約書を作成,チェック(レビュー),翻訳(英訳/和訳),修正する際には,精査しなければなりません。

英文契約書の相談・質問集157 英文契約書でwillはどのように使えば良いですか。

 

 英文契約書の作成,チェック(レビュー/審査),翻訳(英訳/和訳),修正の依頼を受ける際によく受ける相談・質問に,「英文契約書でwillはどのように使えば良いですか。」というものがあります。

 

 Willも英文契約書ではよく登場しますが,どのように使用すべきなのでしょうか。

 

 英文契約書でwillが使用された場合,「…をしなければならない」という義務を表していることがあります。

 

 英文契約書で義務を表すのに使う英文契約書用語で最も一般的なのは,shallです。

 

 ただ,willも義務を表す用語として使用されることがあります。

 

 他にも,日常用語で使われる場合と同じ意味ですが,willは未来を表すときに英文契約書でも使用されます。

 

 現在ではなく,未来に「…となる」というような表現をしたい場合に,このwillを使用することがあります。

 

 注意したほうが良いのは,同じ英文契約書内で,義務を表す英文契約書用語としてshallとwillを併用している場合です。

 

 Shallとwillをもし同じレベルの法的義務を表す全く同一の意味で併用しているとすると,問題が生じる可能性があります。

 

 契約書を作成した当事者は,義務を意味する用語として全く同じつもりで使用していたとしても,あえてshallとwillの2つの単語が同じ契約書内で使用されているので,異なる意味を持っていると解釈される可能性があることになります。

 

 論者によっては,willの義務はshallよりも弱いなどとしています。

 

 そのため,同じ英文契約書内にshallとwillがあると,義務を負っている相手方から「willで表現されている義務はshallよりも弱いものだ」と主張される可能性があります。

 

 「弱い」というのが具体的にどういう意味なのかということは問題ですが,場合によっては,契約違反の場合に,willで表記されている義務に違反しても,material(重大)な義務違反(material breach)とはいえないというような解釈がされるおそれはあるかもしれません。

 

 例えば,英文契約書で「material breach of contact(重大な契約違反)の場合には契約を解除できる」と定められていた場合,willで表された義務に違反しても,それは軽微な違反であり,契約解除はできないという解釈がありうるということになります。

 

 そのため,同一の英文契約書では,義務を表す用語としては,shallかwillのどちらかに統一したほうが良いかもしれません。

 

 もちろん,あえて,弱い義務にはwillを使用し,それが同一契約書内で統一されていれば問題ないでしょう。

 

 また,同一契約書内でwillは未来を表す用語として使用され,shallが義務を表す用語として使用されていて,これが統一されているという場合も問題ありません。

 

 要するに,英文契約書の解釈が起草者の意図しない解釈になる可能性があるような使用方法はしないほうが無難ということになります。

 

 もっとも,実際には,同一契約書内でwillとshallが併用されており,willも義務を表す場合の単語として使用されているということもあります。

 

 義務の程度ということが特段問題になるような場合でなければ,このような併用も現実にはありますので,逐一指摘することはしないということもあるかもしれません。

 

 実際の現場では,相手方との関係,取引金額や契約期間などが考慮され,どこまで契約書を作り込むかが変わってくる面があるのも否定できません。

 

 ただ,無用な解釈論を引き起こさないよう,willの「正しい」使い方について理解はしておくと良いでしょう。

 

→next【英文契約書の相談・質問集158】債権の譲り受けなどが可能かはどう調べれば良いですか。

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