英文契約書を作成,チェック(レビュー),翻訳(英訳/和訳),修正する際によく登場する英文契約書用語の解説,今回はAboveです。

 

 Aboveは日常の英語表現でもよく使われるので,意味はご存知だと思います。「~の上に」などという意味でよく登場します。

 

 では,英文契約書においてabove 100という表現が登場した場合,100は含まれるでしょうか,それとも含まれないでしょうか。

 

 答えは「含まれない」です。同様の表現としてはmore than 100,over 100が挙げられます。

 

 逆に100を含めたい場合は,100 or more,100 or above, 100 or overなどと表現します。

 

 和文契約書でも100を含まないという認識なのに「100以上」と表現していたりすることがあります。本来は「100超」としなければなりません。

 

 逆に「100未満」と100を含まない表現をしたい場合は,less than 100,below 100,under 100となります。

 

 また,100を含めて「100以下」としたいなら,以上の場合と同様に,100 or less,100 or below,100 or underとするのが一般的です。

 

 基本的なことですが,数字の表現は金額なども含むので,言うまでもなく非常に大事です。

 

 間違った使い方をしないようにしましょう。

 

Expedite(英文契約書用語の弁護士による解説)

 

 英文契約書を作成,チェック(レビュー/審査),翻訳(英訳/和訳),修正をする際によく登場する英文契約書用語に,Expediteがあります。

 

 これは,英文契約書で使用される場合,通常,「…を迅速に処理する」という意味で使用されます。

 

 例えば,expedite an order「注文を迅速に処理する」という意味になります。

 

 やや固い文語的表現で,それほど頻出するわけではないですが,「迅速に」というニュアンスを含ませたいときは便利な用語の一つです。

 

 もっとも,「迅速に」などの表現は程度問題ですので,どの程度の幅があるのかはケースバイケースになってしまいます。

 

 そのため,売買契約などで注文の処理について定める場合は,「売主が買主から注文書を受領してからX日以内に受注書を発行しなければならない」などと,具体的に期間を記載することが一般的です。

 

 さらに,「仮に売主が上記期間中に受注書を買主に対して発行しなければ,売主が注文を受注したとみなす」と書かれているケースも多いです。

 

 この場合,売主は注文を拒否するつもりが失念していて一定期間を経過したなどという場合,自動的に受注したことになりますので,注意が必要です。

 

 「迅速に」という意味を表す表現としては,他にpromptlyが挙げられます。

 

 他にも,こうした迅速さについて表す用語としては,immediately(直ちに)without delay(遅滞なく)などが挙げられます。

 

 ただし,前述したとおり,もし一定の期間内に相手方の行為がなされることを期待していて,もしそれが期間内になされなければ何らかのペナルティを課したいと考えている場合は,上記のような表現ではなく,具体的な期日や期間を記載するほうが良いかと思います。

 

Tenure(英文契約書用語の弁護士による解説)

 

 英文契約書を作成,チェック(レビュー/審査),翻訳(英訳/和訳),修正する際によく登場する英文契約書用語に,Tenureがあります。

 

 これは,英文契約書で使用される場合,通常,「在職(期間)」という意味で使用されます。

 

 例えば,退職時の合意書や誓約書で,退職する従業員や役員が,会社に在籍していた期間中に知り得た秘密情報を,退職後に第三者に開示したり,自ら利用したりしないということを約束することがあります。

 

 この際の「在職中」ということを表す用語として,tenureという用語を使用することがあります。

 

 最近は,転職が盛んになっているので,従業員などが会社を退職した後に,その会社で得た情報を不正利用したりするケースも増えています。

 

 このようなことを防止するために,退職時に合意書や誓約書を取り付けるケースも増えています。

 

 ただ,合意書や誓約書で約束を取り付けても,破る人は破るので,そもそも雇う時点でこのようなことをする人物を雇わないですとか,むやみに従業員に機密情報にアクセスさせないですとか,根本的な対策のほうが重要であることも事実です。

 

 在職中に知りうる秘密情報が少なければ,それだけ会社の秘密情報が不正利用されたり,漏洩されたりするリスクが減るということになります。

 

 現実には難しい面があるとは思いますが,なるべく秘密情報へのアクセスは制限して,信頼できる人間にしかアクセスさせず,その上で秘密情報の取扱いについて合意書や誓約書を取り付けるという考えが正しいでしょう。

 

 約束をしさえすれば安全だという考え方はあまりにナイーブですので,そのような考えを持たないように注意しましょう。

 

Tarnish(英文契約書用語の弁護士による解説)

 

 英文契約書を作成,チェック(レビュー/審査),翻訳(英訳/和訳),修正する際によく登場する英文契約書用語に,Tarnishがあります。

 

 これは,英文契約書で使用される場合,通常,「(名誉や評判などを)汚す/傷つける」という意味で使用されます。

 

 例えば,販売店契約(Distribution/Distributorship Agreement)などでは,サプライヤーが販売店(Distributor)に対し,自社の商標を使用することを許諾します。

 

 その際に,サプライヤーの商標やロゴが有するブランド価値を毀損されては困るため,そのような行為をしないことを誓約させるのが一般的です。

 

 この「商標やロゴの価値を毀損しない」という内容を記載するときに,「毀損する」という意味で使用されるのがtarnishです。

 

 当然ですが,商標やロゴが持っているブランド価値というのは非常に重要です。

 

 消費者は,商標やロゴを見るだけでその企業や製品とともに,そのイメージをを思い浮かべます

 

 そのため,商標やロゴを不適切な方法で使用されると,本来サプライヤーが持っているブランドイメージが変わってしまったり,ダメージを受けたりすることがあります。

 

 例えば,富裕層向けの高級なイメージで売っている商品のロゴを,親しみやすさを出そうなどという狙いでポップなデザインに変更してしまったりすれば,元の顧客層が離れてしまうおそれがあることは容易に想像できると思います。

 

 このようなことがないように,商標やロゴはサプライヤーが指定する方法でのみ使用が可能で,価値を損ねるような使用方法は用いることはできないと契約書に定められるのです。

 

Fall short of the amount(英文契約書用語の弁護士による解説)

 

 英文契約書を作成,チェック(レビュー/審査),翻訳(英訳/和訳),修正をする際によく登場する英文契約書用語に,Fall short of the amountがあります。

 

 これは,英文契約書で使用される場合,通常,「当該金額に不足する」という意味で使用されます。 

 

 一定の金額が定めれられているときに,その金額に達しない場合の効果などを定めるときに,この表現が使われることがあります。

 

 例えば,販売店契約(Distribution/Distributorship Agreement)の最低購入数量(Minimum Purchase Quantity/Amount)に届かないとか,ライセンス契約(License Agreement)の最低保証(Minimum Guarantee: MG)を達成できないなどの文脈で登場することがあります。

 

 最低購入数量(Minimum Purchase Quantity/Amount)やMGは,サプライヤーやライセンサーにとっては利益を確保するために重要な規定です。

 

 そのため,例えば最低購入する量を定めたミニマムの金額を達成できなければ,販売店契約(Distribution/Distributorship Agreement)を解除したり,独占販売権を剥奪したりというペナルティを課すことが一般的です。

 

 MGに関しては,ライセンス商品の販売が芳しくなくとも,MGの金額分は保証されたロイヤリティとしてライセンシーはライセンサーに支払わなければならないなどと定められることになります。

 

 これらの金額は販売店(Distributor)やライセンシー(Licensee)にとっては,無理のない金額であるか,算出根拠に合理性があるかなどを検討する必要あります。

 

 販売店契約やライセンス契約でよく交渉が難航するテーマの一つですので,the amountの金額の妥当性はもとより,fall short of the amountの場合のペナルティについても妥当性を双方の立場でよく議論する必要があるでしょう。

 

Inure(英文契約書用語の弁護士による解説)

 

 英文契約書を作成,チェック(レビュー/審査),翻訳(英訳/和訳),修正する際によく登場する英文契約書用語に,Inureがあります。

 

 これは,英文契約書で使用される場合,通常,「(法的に)効力を生じる」という意味で使用されます。

 

 あまり重要な語句とはいえないとは思うのですが,たまに英文契約書で見かける用語です。

 

 類義語としては,effective,enforceable,validなどが挙げられると思います。

 

 これらは,英文契約書では,いずれも実質的には「(法的に)有効である/強制力がある」という意味で使用されます。

 

 当然ですが,法的に強制力(裁判所が執行力を認めてくれる)を持った合意であるためには,適用される法律の要件を充たす必要があり,単に当事者がこの合意はinureであると記載すれば効力を生じるというものではありません。

 

 法律で禁止されているような内容について,当事者がこの合意は法的効力を有すると合意すれば有効になるのでは,法で禁じている意味がなくなりますから当然です。

 

 ただ,契約書の効力が生じる時期を記載する場合や,契約が終了しても効力が存続する条項がある場合など,契約書の効力があることをあえて契約書に記載する場面はあります。

 

 契約書の冒頭でも「この契約書は当事者のサインによって有効に発効する」などと書かれることが一般的です。

 

 契約の効力発生の条件,契約の効力が存続する期間などは,当事者の権利義務が生じるかどうかの根本問題に関わる内容ですので,非常に重要です。

 

 なので,契約書を審査するときは,契約書の効力発生の要件,時期,期間,契約終了後の効力などについては,必ずチェックするようにしましょう。

 

 Inureという用語自体が特別重要ということではないですが,契約の効力に関する内容は当然重要ですので,契約書の発効日や終了日,終了後の効力存続条件に関する内容は要注意といえます。

 

 

 英文契約書を作成,チェック(レビュー/審査),翻訳(英訳/和訳),修正をする際に登場する英文契約書用語の一つに,Enter into...があります。

 

 英文契約書で使用される場合,通常,「(契約)を締結する」という意味を表します。

 

 具体的には,enter into a contract/an Agreementとした場合,「契約を締結する」という意味になります。

 

 The paries enter into this Agreement which is in effect as of X(当事者は本契約を締結し,本契約はX日に効力を発する)などとして,英文契約書の冒頭部分によく登場します。

 

 類義語としては,concludeがあります。こちらも「(契約)を締結する」という意味で契約書で使用されることがあります。

 

 ただ,より一般的なのはenter intoのほうだと思います。

 

 なお,execute this Agreementという用語もenter intoとともによく登場しますが,こちらは「本契約書に署名する」という意味です。 

 

 その他,enterを伴った法律用語として良く使われるのは,enter into forceという表現で,これは「(法律や条約など)が発効する」という意味で使用されます。

 

 英文契約書を読む際に,冒頭部分のenter into this Agreementという表現は定型文句なので,特に意識していないと思いますが,たまに冒頭部分で契約を締結することを適切に表現できていない契約書をみかけます。

 

 冒頭部分で当事者がその契約書に記載した条件に法的に従う意思を表明した=契約を締結したということをきちんと表現していないと,あとでその文書の法的拘束力をめぐって紛争になるおそれがあります。

 

 そのため,定型性が高い冒頭部分といえども,きちんと内容に問題がないかチェックするようにしましょう。

 

 

 英文契約書によく登場する用語というわけではありませんが,Ratifyとは「(条約などを)批准する」という意味です。

 

 ちなみに,条約はTreatyConventionと表記されます。

 

 これに似た用語にRectifyがあります。

 

 こちらは,英文契約書によく登場する用語で,重要です。

 

 Rectifyのほうは,例えば,当事者が契約違反などをしたときに,その違反の状態を「是正する」という意味で契約書で使用されます。

 

 似ているので,特に英文契約書を自ら作成する際に混同して,rectifyを使うべきところをratifyとしないように注意して下さい。

 

 なお,話を元に戻して,条約の批准に関連した注意点を記すと,条約の批准方法は各国によって異なるので注意が必要です。

 

 国際取引では,各国の法律だけではなく,その上位に位置する条約の知識も必須です。

 

 国際取引に関連して知っておくべき著名な条約としては,ウィーン売買条約ニューヨーク条約などが挙げられます。

 

 ウィーン売買条約については,外国企業と物品の売買契約をする際には知っておかなければならない条約です。

 

 ウィーン売買条約についてはこちらの記事で解説していますので,ご覧下さい。

 

 ニューヨーク条約は,国際取引で必須の紛争解決手続である仲裁手続の仲裁判断の執行に関わる条約です。

 

 ニューヨーク条約についてはこちらの記事で解説していますので,ご覧下さい。

 

 国際取引をするには,当然ですが(例え準拠法が自国の法律となっていても)自国の法律を理解していれば足りるものではなく,条約や相手国の法律についても一定程度理解しておく必要があります。

 

 

 英文契約書を作成,チェック(レビュー/審査),翻訳(英訳/和訳),修正する際によく登場する英文契約書用語の一つに,Subject to...があります。

 

 このsubject to...は,英文契約書では非常によく使われます。

 

 ただ,慣れないうちは意味を把握しにくい表現の一つかと思います。

 

 Subject to...は,英文契約書で使われる場合の意味をいくつか持っていますが,主として「…を条件として」という意味で使用されます。

 

 つまり,「subject to 以下が実現することが条件であり,その条件が成就しない限り,本文中の内容は効力を生じない」というような意味で使われます。

 

 または,「subject to 以下の制約の下で」というような意味で使用されることもあります。

 

 例えば,The Seller shall be entitled to damages subject to the following:(下記の条件に従って,売主は損害賠償請求をすることができる)などと使用されます。

 

 これは,言い換えれば「下記の条件に従わなければ損害賠償請求をすることはできない」ということを意味しています。

 

 Subject to...という表現をわかりやすく理解したい場合は,subject to...の...の部分に挿入される内容が,優先されるというように理解すると良いかと思います。

 

 それが条件であったり,「但し」という意味であったり,例外を表すような意味であったり,とにかく,subject to...の...の部分には優先的に扱われる事項が書かれていると考えると文章の意味を理解しやすいかと思います。

 

 このような意味で使用されるため,当然ですが,subject to...という用語が登場した場合,subject to...を含んだ文は要注意です。

 

 条項の本文に記載されている内容が問題なくとも,subject to...の後に記載されている内容が受け入れがたい内容であれば,subject to...の...部分に記載されている内容が優先される以上,受け入れがたい条項ということになります。

 

 なぜなら,結局subject to...に記載されている内容が実現できないのであれば,本文中にいくら自社に有利なことが書かれていても適用される余地がないということになってしまい,絵に描いた餅になるからです。

 

 したがって,subject to...を含んだ文章を削除したり,さらなる例外などを設けたりして,自社が受け入れられる内容に変更しなければなりません。

 

 Subject to...が出てきたら,その後に記載されている内容が優先されるので注意するということは覚えておくと良いでしょう。

 

 英文契約書では,同様の趣旨でon the proviso that…provided, however, that... (provided that...)という表現も使われます。

 

 On the proviso that…provided, however, that... (provided that...)rovided...という表現の解説記事はこちらで読めます。

 

 Subject to…が「…に従って」という意味の場合,類似の表現としては,as per…in accordance/compliance with...が挙げられます。

 

 これらも「…に従って」という意味で英文契約書に頻繁に登場します。

 

 

 英文契約書を作成,チェック(レビュー/審査),翻訳(英訳/和訳),修正する際によく登場する英文契約書用語の一つに,Provided that...,/provided, however, that...があります。

 

 Provided that.../provided, however, that...は,英文契約書で使用される場合,通常,subject toと同様の意味であり,「ただし…である場合に」という意味を持っています。

 

 つまり,that節以下の文章が,但書,条件を意味していることになります。

 

 原則的な内容の条項を定めた後に,その例外を定めたいときに,但書として,provided that.../provided, however that...を使って規定します。

 

 そのため,provided that.../provided, however, that...という表現が出てきた場合,that以下に書かれた内容が本文に書かれた内容よりも優先されると理解すると理解しやすいと思います。

 

 例えば,The Seller may terminate this Agreement at any time by giving written notice to the Distributor at least thirty (30) days prior to the expected termination date; provided, however, that...(売主は,終了予定日の30日前までに販売店に通知すれば,いつでも本契約を解約することができる。ただし・・・)などと使用されます。 

 

 こういう表現がされている場合,provided, however, that...の...の部分に書かれている内容を成就させないと,本文で認められている契約の解除権が発生しないということになります。

 

 つまりは,本文の内容よりもthat以下の内容が優先する,that以下の内容が前提となることを意味しているのです。

 

 したがって,英文契約書をレビューする際には,provided that...の後に何が書かれているか,但書の内容を正確に把握しておくことは非常に重要です。

 

 That節の中に書かれている内容が優先されるのですから,原則が書かれている,providedの前の内容を見て納得できたとしても,that以下に書かれている内容が,自社にとって現実的に実行することが難しいという場合は,その条項はそのままでは受け入れられないということになります。

 

 なぜなら,いくら本文中に自社に有利な内容が書かれていても,provided以降に書かれている内容の実現可能性が乏しいのであれば,本文中の有利な内容は絵に描いた餅にすぎず,結局規定されている意味がないということになりかねないからです。

 

 ちなみに,英文契約書を作成,チェック(レビュー),修正する際に,このprovidedを使用した表現は非常に便利です。

 

 理由は以下のとおりです。

 

 例えば,契約書をチェック,レビュー/審査している際に,「この条項は自社に不利益が大きいから受け入れられないな。」と判断したとします。

 

 この場合に,その条項を契約書から削除するように求めるのが最も直接的です。

 

 ただ,相手方も,その条項を貴社に守ってほしいから挿入してきています。

 

 そのため,ただ単に削除してほしいと依頼しても,削除は受け入れられないと回答され,交渉が平行線をたどるということになりかねません。

 

 その際に,有効なのは,単に削除するのではなく,本文の内容は生かしたまま,provided that.../provided, however, that...という条件を加えるという方法です。

 

 本文に書かれた内容が受け入れがたくとも,Provided that.../provided, however, that...を挿入し,thatの中に自社が許容できる条件内容を入れ,それが充たさせれた場合には,本文の内容を受け入れても良いという場合には,条項自体は残しつつ,実質,本文の効果を削減することができます。

 

 例えば,本文中に書かれている義務を貴社(売主)としては実行するのはかなり困難を伴うとします。

 

 その場合,provided that.../provided, however, that...を本文の後に加え,そのthat節中に,「ただし,買主と売主が協議し,売主が同意した場合に限る。」という内容になるように文章を入れます。

 

 そうすれば,本文の内容は貴社が同意しない限りは義務ではないことになり,実質義務を自社の意思次第により無効化できるということになるのです。

 

 もちろん,このような露骨な修正は,相手も気づくことが多く,こううまくは運びませんが,このように提案してみると,相手方も,具体的に文言の内容を検討するようになることがあります。 

 

 そうすると,例えば,相手方も,「同意がいると言われれば,売主が拒否すれば良いだけなので,それでは義務とはいえないので,受け入れられない。せめて,合理的な理由なく売主は拒絶はできないという文言を加えさせて欲しい。」などと提案してくるかもしれません。

 

 こうなれば,最初の状態よりは事態は改善しています。

 

 なぜなら,最初は問答無用で売主の義務であったのが,不合理な理由でその義務を行なわなければならないときには,売主は義務の履行を拒絶できることになるからです。

 

 もちろん,これでも,何が合理的な理由なのかなどのあいまいさは依然として残ります。

 

 ただ,最初の原案では,義務の履行を求められた場合,売主としては拒絶する理由がなかったところ,修正案では,「その理由は合理的ではないので,今回は履行義務を負わない。」などと根拠をもって反論できる余地が生まれたといえます。

 

 そのため,オリジナルの内容よりは自社に有利な状態に改善できたといえるでそふ。

 

 このように,provided that.../provided, however, that...は,英文契約書をチェック,レビュー/審査,修正する際に非常に使い勝手が良い表現といえます。

 

 他にも,subject to...という表現もprovidedと同様に,但書の役割を果たします。

 

 Subject to...の…の部分に来る内容が優先されます。Subject toについての解説記事はこちらで読めます。

 

 

 英文契約書を作成,チェック(レビュー),翻訳(英訳/和訳),修正する際によく登場する英文契約書用語の一つに,As per..., pursuant to...があります。

 

 As per.../Pursuant to...は,英文契約書で使用される場合,「…により,…に従って」という意味です。

 

 例えば,「as per Article 5」というのは,「第5条に従って」という意味を表します。

 

 文章としては,Seller shall...as per Article 5(第5条に従って…する義務がある)などという表現で使われます。

 

 Pursuant to...も同じような用法で英文契約書ではよく使われます。

 

 例えば,In such case, the Distributor shall be entitled to the Compensation pursuant to Article 11 hereof(その場合,販売店は本契約11条に従って補償金を得る権利を有する)などと使用されます。

 

 Subject to…も同様の意味で使用されることがあります。

 

 ちなみに,as per...やpursuant to...の用語解説とは関係ないのですが,契約書中にpursuant to Article 5のように条項を引用・参照することがあります。

 

 このような場合,契約書を修正しているときに,条項番号がずれてしまっているのに気づかずに引用している条項番号を修正するのを忘れてしまうことがよくあるので,注意しましょう。

 

 例えば,契約書にpursuant to Article 5という表現がある場合に,4条を削除したとすると,もともとの5条が4条に繰り上がります。

 

 そのため,もともとpursuant to Article 5となっているところを,pursuant to Article 4に変更しなければならないのですが,忘れてしまうことがあるのです。

 

 このような失念を防ぐためには,上記の例で4条を削除する際に,そもそも番号を削除せず,Article 4 Intentionally Omitted.として,4条の本文だけを削除することをおすすめします。

 

 これでも,4条の内容は削除されたことになりますし,修正方法としては問題ないです。

 

 こうすることで,5条は5条のままですから,pursuant to Article 5の番号を修正する必要はなくなるわけです。

 

 

 英文契約書を作成,チェック(レビュー/審査),翻訳(英訳/和訳),修正する際によく登場する英文契約書用語の一つに,Comply with.../be in compliance with.../be in accordance with...があります。

 

 これらは,英文契約書で使用される場合,通常,「…に従う,従って」という意味です。

 

 …の箇所には,契約条項,義務,法令または契約当事者もしくは第三者の指示などが入り得ます。

 

 例えば,The Agency shall be in accordance with instructions provided by the Seller from time to time.(代理店は,売主から適宜出される指示に従わなければならない。)などと規定する際に使われます。

 

 コンプライアンス(compliance)という用語は日本語でも定着しましたが,これは「法令遵守」と訳されています。ここでも,同じ意味を持っています。

 

 英文契約書で使用される「…に従う」という意味を持つ他の用語としては,Adhere to...Abide by...が挙げられます。

 

 これらも,英文契約書で使用される場合,Comply with...と同様に,法令や契約書などに「従う」という意味で使用されます。

 

 当然ではありますが,「…に従う」という表現が契約書に登場した場合,何を守らなければならないのかをチェックしましょう。

 

 一口に法令といっても広すぎる範囲で外国法を守らなければならず,違反があれば契約を解除されうるなどと規定されていると問題があることがあります。

 

 うがった見方かもしれませんが,例えば当事者の従業員が交通違反をした場合でも当事者の法令違反=契約違反と解釈されかねない内容になってしまっていることもあります。

 

 また,単に「サプライヤーの支持に従わなければならない」などと定められているときも,サプライヤーが恣意的に不合理な指示をしてくることはないかなども吟味する必要があります。

 

 不合理な内容に従う義務が課されていると,義務を果たすと合理的ではない状況に追い込まれるし,他方で従わなければ契約違反になりうるということになってしまいかねないので,comply,compliance,accordanceなどの用語が出てきたときは従う対象に本当に問題がないかを精査するようにしましょう。 

 

 

 海外進出・海外展開をするときに必要になる英文契約書を作成,チェック(レビュー/審査),翻訳(英訳/和訳),修正する際によく登場する英文契約書用語の一つに,Term(ターム), Terms(タームズ), Terminate(ターミネイト)があります。

 

 これらが英文契約書で使用される場合,通常,termは「期間」を指し,termsは「条件」を指します。

 

 したがって,例えばterms and conditionsという場合は,契約の「内容・条件」という意味です。

 

 Termの方は,Term and Terminationという条項タイトルでよく登場します。

 

 これは「契約期間および契約の終了」表しています。

 

 この条項には,その契約がいつからいつまで効力を有しているのかという契約期間と,期間が満了て契約が終了した場合に当事者がするべきことや終了の効果が記載されることになります。

 

 また,期間満了以外の契約の終了方法(債務不履行解除など)についても記載されるのが一般的です。

 

 契約書にterm(契約期間)が規定されていないと,準拠法にもよりますが,各当事者がいつでも解約できるという解釈が成り立つ可能性があるので,注意が必要です。

 

 契約期間をどの程度にするかも重要なテーマです。

 

 例えば,独占販売店契約(Exclusive Distribution/Distributorship Agreement)で考えてみます。

 

 サプライヤーからすると,販売店(Distributor)に独占的・排他的な販売権を与えるので,もし販売店(Distributor)のパフォーマンスが悪かったら困るという事情があります。

 

 なぜなら,サプライヤーは,その販売店のパフォーマンスが悪くても,契約期間中は,他の販売店を指名することができないからです。

 

 そのため,最低購入数量(Minimum Purchase Quantity)などを定めて,ノルマ未達の場合には契約を解除できるようにしたりしますが,それも,最初から強気のノルマでは合意できないということも多いです。

 

 そうなると,サプライヤーとしては,保険として,契約期間はあまり長くせずに,短くしておき,最低購入数量はクリアしていたとしても,もし満足な実績がなかった場合には,契約期間の満了で終了させたいと考えることがあります。

 

 他方で,販売店(Distributor)としては,独占販売権を得て,ある程度のスパンで販売展開していかないと,投下資本を回収できず,損益分岐点を超えられないと考えます。

 

 このように,両者の利害関係がストレートにぶつかるので,term(契約期間)の調整は,難航することがよくあります。

 

 ただ,契約期間を設けないということは危険ですので,必ず契約書に定めることが大切です。

 

 また,契約期間と同時に,契約更新について定めておくのかどうかも通常は検討し,契約書に入れておきます。

 

 契約更新について規定を入れると,当事者は更新を期待することがあるので,契約を期間満了で終了させたい当事者からするとトラブルになることがあるので,安易に入れないようにしたほうが良いかと思います。

 

 ちなみに,terminationの動詞は,terminateで,これも頻出します。

 

 例えば,The Seller may terminate this Agreement with immediate effect by written notice to the other in any case of the following:(以下のいずれかの場合,売主は相手方に通知することによって本契約を直ちに解除することができる)などと使用されます。

 

 英文契約書において,契約の解除(Terminate/Termination)条項は重要です。

 

 特に長期間継続することが予定されている契約の場合はより大切です。

 

 例えば,下記の点について事前に十分に検討し,英文契約書に記載する必要があります。

 

  • どのような理由/事由があれば解除(解約)できるのか(解除条項=termination with cause)。
  • 理由/事由がなくとも解除できるのか(いわゆる無理由の中途解約条項=termination without cause)。
  • どのくらい前に通知をすれば解除できるのか。
  • 解除した場合の効果はどのようなものか。
  • 契約違反の場合に解除するには一度契約違反の状態を是正するチャンスが与えられるのか(催告解除か無催告解除か)。

 

 特に,理由がなくともいつでも解約できるという条項(中途解約:termination without cause)については,慎重な検討が必要です。

 

 検討・審査のポイントは,途中で理由なく契約を解約するメリットがどちらにあるのか(どちらにとってメリットが大きいか)を考え,相手にとってメリットだという場合,その条項を入れるかどうか,内容をどうするかについて慎重に考えなければなりません。

 

 中途解約は,契約違反など当事者の責に帰すべきような事由がないにもかかわらず,一方的に当初約束した契約期間を守らず,契約の途中で解除してしまうのですから,強力な権利です。

 

 理由なく一方的に解約してしまうことになりますから,当然ながらトラブルにもなりやすいです。

 

 そのため,中途解約権はたとえ契約書に記載されていたとしても,乱暴に行使せず,相手の理解を得るような努力をしたほうが良いでしょう。

 

 権利だからもちろん行使することは問題ないのですが,相手も人間ですから配慮もせずに一方的に通告して終わりということにはなかなかならないのが現実です。

 

 また,上記の「解除した場合の効果」にも関わるのですが,契約を解除した場合に,その後どのようなことを当事者ができたり,できなかったりするのかも明確に契約書に記載しておかないと,解除後にトラブルになりやすくなります。

 

 例えば,販売店契約(Distribution/Distributorship Agreement)で,契約解除になれば,通常,商品の販促・販売活動はできなくなると契約書に記載されます。

 

 しかしながら,販売店(Distributor)がそれまで商品の販売活動をしてきたのですから,契約終了時に在庫が残っている可能性があります。

 

 この在庫について,どのようなことを販売店(Distributor)がしてよくて,どのような行為が禁止されるのかを記載しておかないと,契約終了後に揉めることがありえます。

 

 そのため,例えば,契約終了後,一定の期間,販売店(Distributor)は引き続き在庫を販売してよいと定めたり,サプライヤーが契約終了時の在庫を買い取ることができると定めたりします。

 

 このとき,サプライヤーによる在庫の買い取りは,通常,サプライヤーの権利として規定されており,義務ではないとされていることが多いので,販売店(Distributor)側は注意が必要です。

 

 このように,契約をどう終わらせるかという解除権の内容のほか,その解除権を行使した後の効果や,解除後の処理についてもきちんと契約書の定めておく必要があります。

 

 

 英文契約書を作成,チェック(レビュー),翻訳(英訳/和訳),修正する際によく登場する英文契約書用語の一つに,Provisions, clauses, particulars, covenants, articlesがあります。

 

 これらprovisions, clauses, particulars, covenants, articlesは,英文契約書で使用される場合,通常,いずれも契約条項を意味します。

 

 例えば,The Distributor shall perform its obligations subject to any provisions hereunder.(販売店は,本契約上のすべての条項に従ってその義務を履行する。)などと使用されます。

 

 ちなみに,restrictive covenants(制限条項)という表現もよく見かけますが,これは,当事者に一定の制約を課したり,一定の行為を禁じたりするものを指します。

 

 なお,契約書の話ではないですが,条約の条項はarticle,法令の条項はsectionと呼称しています。

 

 英文契約書で条文番号を示すときは,Article 1,2,3…とするのが一般的です。

 

 Articleより下の階層の(1)などはParagraphと通常呼びます。

 

 日本語では,契約書上のArticle/Section/Clauseは「条」を指し,Paragraphは「項」を指すことになります。

 

 契約書の条は上記のようにarticleが使われることが多いですが,sectionと呼んだり,clauseと呼ぶこともあるので,絶対のルールがあるわけではありません。

 

 例えば,契約書の10条をArticle 10ということもありますし,Section 10とかClause 10などということもあります。

 

 どの表現を使用しても問題ないですが,混在しないように注意して下さい。

 

 例えば,契約書の条をClauseと表すと決めていたのに,途中でArticleやSectionなどという表現が混在すると,これらが「条」を指すのか,それとも「項」なのか,はたまた「号」なのか,読み手が混乱してしまいます。

 

 そのため,どれを使用しても良いですが,統一的に使用するようにしましょう。

 

 なお,英文契約書中で条項を引用している場合,条項を後で削除したときの番号の「ずれ」に注意して下さい。

 

 例えば,...pursuant to Article 10...(10条に従って)などという内容が契約書の14条に書かれていたときに,9条を削除したとします。

 

 そうすると,条文番号が繰り上げになり,Article 10はArticle 9になります。

 

 これにより,契約書14条の...pursuant to Article 10...は,...pursuant to Article 9に変更しなければなりません。

 

 当然のことではあるのですが,このような条文番号の修正は忘れがちなので注意して下さい。

 

 このような忘れがち,間違えがちな条項の変更を防止するためには,9条を削除するときに9条という条項番号は残し,本文だけ削除するというやり方があります。

 

 Article 9という条項番号は残し,本文を削除した上で,"Intentionally Omitted"と記載するのです。

 

 つまり,Article 9 Intentionally Omitted.と記載して,9条の本文部分のみ削除するのです。

 

 そうすると,9条はもともとあったけれども本契約では削除されたということが明確にわかりますし,...pursuant to Article 10...も10条の条項はずれませんので,そのまま使えることになります。

 

 契約書修正のテクニックとして便利ですので覚えておくと良いかと思います。

 

 

 英文契約書を作成,チェック(レビュー),翻訳(英訳/和訳),修正する際によく登場する英文契約書用語の一つに,Provisoがあります。

 

 Provisoは,英文契約書で使用される場合,通常,「但書」(本文に書かれた内容の効果が生じるために充たされなければならない条件のこと)を意味します。

 

 この但書は,provided that…などという表現で英文契約書によく登場します。

 

 例えば,...; provided, however, that...とあった場合,前半の...;までのところがいわゆる条文の本文に当たり,後半のthatの後の…の部分が但書に相当することになります。

 

 条項の本文は,原則的な内容を規定していますが,そこに条件があったり,例外があったりする場合には,但書(Proviso)を設けて但書の中に規定されることになります。

 

 この但書は,英文契約書を作成したりレビューしたりする際に非常に重要です。

 

 なぜなら,条項の本文だけを見ても,但書が付けられている場合は,本文の内容が実現するかは但書の内容と実現可能性次第ということになるからです。

 

 いくら条文の本文に自社にとって有利な内容が書かれていても,proviso(但書)の内容が自社にとって実現が著しく困難であるというような場合は,条項本文のメリットは絵に描いた餅になってしまいます。

 

 そのため,契約書をチェックする際には,本文だけではなく必ず但書の内容も精査し,不合理な内容ではないか,アンフェアではないか,実現可能性がないということにならないかなどの視点から審査する必要があります。

 

 また,契約書を作成する際は,原則として本文中の効果を生じても良いが,例外的に一定の事象があった場合は,その適用を留保をしたいというときに,provided, however, that...のようなprovisoは非常に便利です。

 

 Providedなどの起点となる単語を用いることで,条文の構造もわかりやすくでき,当事者が誤解なく意味を理解できる点もメリットです。

 

 以上述べたように,proviso(但書)は契約書で非常に重要な役割を果たしますので,審査する際には見逃さないように注意し,自分で英文契約書をドラフトする際には表現を使いこなせるようにしましょう。

 

 

 英文契約書を作成,チェック(レビュー/審査),翻訳(英訳/和訳),修正する際によく登場する英文契約書用語の一つに,Agree to do, agree that...があります。

 

 Agree to do.../agree that...は,英文契約書で使用される場合,通常,「…することに合意する,…することを約する」という意味を表します。

 

 英国コモン・ローにおいて,契約を成立させるには,合意に法的拘束力を持たせる当事者の意思が必要とされていますが,ビジネス契約書において上記のような表現をもって合意すれば,通常この意思が認められることとなります。

 

 これにより法的に強制され得る契約上の義務を生じます。

 

 なお,acknowledgeという用語も英文契約書によく登場しますが,これは,「認識する」という程度の意味で使われる場合があります。

 

 そのため,しっかりと法的義務として規定する場合は,acknowledge and agree that...と表現した方が無難であると言えるでしょう。

 

 Acknowledgeだけだと,必ずしも「合意」=「承諾」まではしておらず,あくまでthat...の事実を認識していることを宣言しただけだという主張を許すことになりかねないからです。

 

 とりわけ,同一の英文契約書の中で,ある箇所では,acknowledge that...となっていて,他の箇所では,acknowledge and agree that...などとなっているとなると,acknowledge that...の文章は,あくまで認識を示すもので,that以下について法的効果を生じることについてまで承諾したとはいえないという可能性が高まりますのでご注意下さい。

 

 同じ契約書の中であえて違う表現を使っているということは,acknowledgeだけを使用したことに特別の意味がある=承諾まではしていないという趣旨だという解釈が成り立つ可能性が高まるということです。

 

 Agreeの類義語としては,acceptがあります。これらの英文契約書用語は法的効果を生じさせるために使われる用語として重要です。

 

 Acceptは,契約書内で一方の当事者がある取引のofferをし,他方の当事者がそのofferを承諾するというときに使用されます。

 

 Acceptも,agreeと同様に,当事者に対し,承諾した内容について法的に強制される義務を課すことができるということになります。

 

 

 英文契約書を作成,チェック(レビュー/審査),翻訳(英訳/和訳),修正する際によく登場する英文契約書用語の一つに,Shall, willがあります。

 

 Shall, willは,日常用語とは意味を異にし,英文契約書で使用された場合には,通常,当事者が行わなければならない義務を表します。

 

 したがって,shallまたはwillの後に記載された内容を履行しなかった場合には,法的義務を果たさなかったことになり,breach of contractとして,契約違反,債務不履行責任を負うことに繋がるので注意が必要です。

 

 なお,当事者の義務を表す表現としてwillを使用した英文契約書ももちろん存在しますが,実務的にはまだshallのほうが好まれているように思います。

 

 Willは多義的で,未来を表す用語としても使われるため,英文契約書で義務を表したいときはshallを使うか,is obliged to do...などとより直接的な表現を使用することをおすすめしています。

 

 もしwillを使う場合は,義務として使用していることが明確になるように,他の意味と混在して使わないようにするなどの工夫をすることが必要となります。

 

 例えば,The Seller shall deliver the Products to the Buyer on or before 30th of September 2013.(売主は買主に対して本件商品を2013年9月30日までに引き渡さなければならない。)などと使用されます。

 

 当事者の義務を規定する表現は,他にも,the Seller is obliged to deliver..., the Seller has duty to deliver..., the Seller is required to deliver...などがあります。 

 

 Willもそうですが,shallも義務以外の意味も持っており,shallを使用すると,場合によって義務を表すものではないと解釈上の争いを生じる可能性が高まるのであまり使用すべきではないとする論者もいらっしゃいます。

 

 このような論者の方の中は,shallやwillではなく,より義務を表すことが明確な上記のis obliged to..., have duty to..., is required to...などを好んで義務表現として使用するという人もいます。

 

 また,「…してはならない」という禁止表現も,shall not...で表せますが,より明確で直接的な表現として,is prohibited from...を使うべきという人もいます。

 

 Shallについては,他にも,「…ものとする」という意味を表す表現として英文契約書で用いられていることもあります。

 

 例えば,shall be entitled to...(…できるという権利を表す。), shall be permitted to...(…して良いという許可を表す)などです。

 

 ただ,これらは,実質的にはshallが入っている意味はなく,現在形で,それぞれ,is entitled to..., is permitted to...と表しても意味は同じです。

 

 むしろ,後者の表現であるべきだという人もいるので,自分で契約書を作成する場合は,後者のようにシンプルに表現するのが良いかもしれません。

 

 また,繰り返しになりますが,willは通常の用法と同じ,「未来」を表す意味で英文契約書で使われることももちろんあります。

 

 なお,willはshallに比べて弱い義務を表すから使用しないほうが良いという論者もいます。

 

 そのため,このような視点から,義務を表す場合は,shallだけを使用したり,is obliged to do...だけを使用したりするという人もいます。

 

 避けたほうが良い用法があるとすると,前述したように,shallとwillを義務を表す用語として,同じ契約書に混在させることかもしれません。

 

 これをすると,契約書の起草者は同じ義務を表す用語として両方使用していたとしても,shallとwillを使い分けていることに意味があるのではないかという他者の憶測を呼ぶ可能性があります。

 

 つまり,その契約書を作成した人は,ただ義務を表す用語として両者を使っていたのだとしても,相手方は区別されていることに意味があると捉え,willのほうが義務のレベルが低いのだと理解したとします。

 

 そして,相手方は,自分の義務違反について,willが使用されているのであるから,この義務違反は,重大な義務違反ではなく契約解除は許されないなどと主張してくることがあるかもしれません。

 

 英文契約書で,契約解除をするための要件として,些細な契約違反ではだめで,重大な契約違反(material breach)を要求していることがあるからです。

 

 このような無用な主張を招かないためにも,同じ契約書で,同じ意味を表すつもりで,両者を混在させて使用するのはやめたほうが良いかもしれません。

 

 なお,同じ契約書で両単語を使う場合でも,shallは義務を表し,willは未来を表すという用法で使用する分には,そのことが明確に読めるのであれば,問題はないかと思います。 

 

 実務の現場では,必ずしもshallやwill,is obliged to do...,is prohibited from...などを厳密に区別して使用しているわけではないというのも事実です。

 

 そのため,実務的には義務表現をshall,禁止表現をshall notで表せば,シンプルですし,誤解をされる可能性はそれほど高くないかとは思います。

 

 

 英文契約書を作成,チェック(レビュー/審査),翻訳(英訳/和訳),修正する際によく登場する英文契約書用語の一つに,Mayがあります。

 

 Mayは,英文契約書で使用される場合,主として当事者に権利を与えるときに使います。

 

 「…することが可能である,…することが許されている」という意味です。

 

 別の表現をすると,have the right to do(…する権利を有する)ということになります。

 

 他にも,is entitled to do...(…する権利がある)という表現も,権利を与えることになり,同様の意味を表します。

 

 反対にmayを否定形で使用し,may notとした場合,不許可を表すので「…することが許されていない」つまり「…してはならない」=「…が禁止されている」という意味です。

 

 禁止表現は,shall notで表すのが一般的ですが,may notも実質的に禁止を表す表現として英文契約書では使用されます。

 

 上述したように,mayは許可を表していますので,mayが使われたときは,その次の動詞の内容をしなければならないということではなく,してもしなくても良いということを意味します。

 

 つまり,義務ではなく,権利を与えているわけです。

 

 例えば,The Seller may terminate this Agreement and/or the Individual Contract by written notice to the Buyer with immediate effect in case where the Buyer is in material breach of any provisions hereunder(売主は,買主が本契約に定める条項に小さな違反でない違反をした場合,売主は,買主に書面による通知をすることにより,直ちに本契約および/または個別契約を解除することができる)などとして使われます。

 

 これは,売主として,契約を解除してもしなくてもよい,解除したければ解除できるという意味なので,売主の権利を規定していることになるわけです。

 

 たまに,この解除権について,債務不履行・契約違反があると,自動的に契約が解除されてしまうと勘違いされている方がいらっしゃいますが,そうではありません。

 

 解除権は,その名のとおり解除する権利が他方の当事者に与えられているだけですので,その当事者が契約を解除するという選択をしなければ,契約解除にはならないわけです。

 

 そのため,契約違反があっても,なお契約存続に望みがある,交渉の余地はあることが多いです。(契約違反をするのは危険性が高いのでおすすめしませんが。)

 

 このような条項の場合,権利なのか,義務なのか,条件を充たすと自動的に効果が生じるものなのか,注意深く読んで,正確に内容を把握するようにしましょう。

 

 なお,shallについての記事はこちらご覧頂けます。

 

Mutatis Mutandis(英文契約書用語の弁護士による解説)

 

 英文契約書を作成,チェック(レビュー/審査),翻訳(英訳/和訳),修正をする際に登場する英文契約書用語の一つにMutatis Mutandisがあります。

 

 これは,英文契約書では,通常,「準用する」という意味で使用されます。

 

  Article X shall apply mutatis mutandis to cases where the Seller commits a breach of Article Y.(売主がY条に違反した場合,X条を準用して適用する。)などとして使用されます。

 

 準用というのは,上記の例でいえば,X条が直接当てはまる場面ではないため,一見Y条の適用はないと見えるところ,類似の場面として,適用があるということを表すために使用される用語です。

 

 本来の適用場面ではないがその条項を準用するというのは,法律などで使われる表現です。

 

 法律は,当事者の合意である契約書よりも適用に関しては慎重に解釈されるべきものですから,類似の場面だからといって法律条文の適用を安易に拡張するわけにはいけません。

 

 そのため,準用する場合は「準用する」という明確な表現が使われることになるわけです。

 

 ただ,契約書ではそこまで厳密な考え方をしなくても当事者が適用について合意をしていることが明らかであれば通常問題ありません。

 

 そのため,あえてMutatis Mutandisという英文契約書用語を使用せずとも,単にApplyするとだけ書けば契約書上は問題ないのですが,「変更すべきところは変更してこの場面にも適用する」という意味合いを出すものだと理解しておけば良いでしょう。

 

 特に,mutatis mutandisという用語が出てきた場合に注意が必要というわけではないですが,この用語が登場した場合は,本来的な適用場面ではない場面に拡張して特定の条項を適用することを言いたいのだと理解すると良いでしょう。

 

 Mutatis mutandisという用語自体が重要というわけではないですが,何の意味があるのか,何を意図しているのかという実質面を理解しておくことが大切です。

 

 ちなみに,mutatis mutandisは,英語ではなくラテン語です。

 

 英文契約書では,英語以外のラテン語やフランス語が登場することがよくあります。

 

 フランス語の典型例は,Force Majeure(不可抗力)です。

 

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