海外事業で損を出さないためのリスクヘッジ方法

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 日本の内需が縮小する中,日本企業は積極的に海外展開に打って出るべきでしょう。

 

 ただ,海外事業は国内の事業とはかなり異質で勝手が違い,損失を受けやすいばかりか受ける損失も過大になりがちです。

 

 とはいえ,リスクを恐れて国内ばかりでビジネスをしていてはジリ貧になるかもしれません。

 

 そこで「リスクは取るべきだがリスクは最小限に抑える」という視点が重要になります。そのために役に立つのが英文契約書です。

 

 本記事では,日本企業が海外企業とビジネスをする際に,損失を回避するために行う英文契約書のリーガルチェックで気をつけるべき点について解説します。

 

 契約前のリスクヘッジ

 契約前にも損失に対するリスクヘッジは当然可能です。

 

 例えば,為替差損益に対するヘッジをしたり,円安・円高どちらに触れても良いように輸入輸出事業を組み合わせて事業を多角化したり,地政学リスクを考えて多数の国と取引をしたりすることが考えられます。

 

 また,契約前の交渉時からリスクヘッジに向けた「戦い」が始まってることを意識しましょう。

 

 契約交渉時のテーブルに出さなかった交渉材料を後で持ち出すと不利になりますので,議論すべきことはすべて交渉時のテーブルに出し尽くしましょう。

 

 手札が多いほうが,より重要なところを相手に譲歩させて,こちらが小さなところを多数譲るというような交渉がしやすいといえます。

 

 交渉前に有利不利の要素の整理をきちんとしてタームシートのような条件メモを用意してから交渉に臨むようにするとよいかと思います。

 

 交渉時のリスクチェックシートはこちらの記事から利用できます。

 

 

 免責

 英文契約書を作成する際,自社が損害賠償などの責任を負う懸念があるケースでその責任から免れる免責条項を作成します。

 

 例えば,間接・結果損害(特別損害)が発生しても賠償責任を負わないという間接損害免責が典型です。

 

 間接損害は,営業上の逸失利益などの多額になりがちな損害を含む傾向にあるので,これらを賠償対象とすると,損失が多大になりビジネスが成り立たなくなるおそれがあります。

 

 そのため,損害の賠償は直接損害/通常損害に限定し,間接損害/特別損害は免責するということを検討します。

 

 また,商品の品質保証はせず,日本法でいうところの「契約不適合責任」などを負わないなどの免責を定めることもありえます。

 

 例えば,商品を現状有姿(As is basis)で提供し,欠陥などがあったとしても一切保証責任を負わないと定めることがありえます。

 

 さらに,不可抗力免責も重要です。これは,当事者の責めに帰すべき事由以外の不可抗力事由(自然災害,戦争,疫病など)により生じた債務不履行などについて損害賠償責任などを負わないと定めるものです。

 

 例えば,新型コロナウイルスによるロックダウンやロシアのウクライナ侵攻などで自社の債務を履行できない場合に債務不履行責任を負うことがないように免責を定めておくことが重要です。

 

 免責(Disclaimer)条項はこちらの記事でも解説しています。

 不可抗力(Force Majeure)条項はこちらの記事でも解説しています。

 間接損害(Indirect loss)はこちらの記事でも解説しています。

 

 

 責任制限

 英文契約書に免責条項を定めても,債務不履行責任として損害賠償義務が生じることがあります。

 

 その際に損害賠償額がいくらになるかは,まさにケースバイケースとなり,ときには予想もしてなかった金額となってしまい,そのような損失を計上するくらいなら最初からビジネス自体しないほうが良かったというケースも起こりえます。

 

 こうした場合に備えて,仮に損害賠償債務を負ったとして,損害賠償の上限額をいくらまでとすると設定しておくことで,リスクの上限を定めることが可能な場合があります。

 

 損害賠償の上限は,取引金額の過去1年分としたり,具体的に◯◯USドルと具体的な金額を定めたりします。

 

 こうすることで,万一自社が損害賠償債務を負った場合でも,そのリスクの最大値を事前に知ることができます。

 

 国際ビジネスをする際に,損失が生じる場合にどのくらいの幅になるのかが不透明であるために躊躇するという経営者が少なくありません。

 

 こうした損失に関する不確実性については,損害賠償の上限を設定することによってある程度解決することができます。

 

 国際ビジネスに限りませんが,ビジネスをする際には不確実性をゼロにすることは当然できません。ただ,法務での工夫によりある程度性減らすことは可能です。

 

 責任制限(Limitation of Liability)条項はこちらの記事でも解説しています。

 

 

 損害賠償の予定

 責任制限に似ていますが,債務不履行責任として損害賠償債務を負うような場合に備えて,予め損害賠償額がいくらになるのかを定めておくということができることがあります。

 

 いざ債務不履行責任が生じても実際の損害額を算定するのが困難な場合もありますし,相手方から不当に高額な損害賠償請求を受けることもありえます。

 

 こうしたことに備えて,損害賠償額を予定しておくのです。これにより,リスクを事前に明確化することができます。

 

 損害賠償の予定として定めれば,実際の損害額にかかわらず,予定した金額を払えば損害賠償義務を尽くしたことになることがありえます。

 

 責任制限との違いは,責任制限はあくまで賠償額の上限を決めているだけなので,実際の損害賠償額がいくらなのかは当事者の主張・立証によりますが,損害賠償の予定は,事態が起こったときに自動的に損害賠償額を算定してしまうという点にあります。

 

 なお,損害賠償の予定(Liquidated Damages)と似て非なる概念に違約罰(Penalty)があります。

 

 わかりやすくするためにやや乱暴な説明をすると,前者の損害賠償の予定(Liquidated Damages)は,予め定めた賠償金額が実際の損害額とは無関係に自動的に損害額となるという取り決めで,これに対し,違約罰(Penalty)は,実際の損害額に加えて,民事罰のような趣旨に付加的に課される賠償金のことを指します。

 

 特に違約罰(Penalty)は,準拠法によっては無効とされることもあるので,定める際には注意が必要です。

 

 損害賠償の予定を定める理由はこちらの記事でも解説しています。

 損害賠償の予定と違約罰の違いはこちらの記事でも解説しています。

 

 

 独占権

 自社が買主側であれば売主の商品を独占的に取り扱うという内容の独占販売権を得られれば,自社の利益確保に繋がります。

 

 うまく独占販売権を活かして商品を展開できれば,非独占販売権での商品展開よりも有利になり,損失でビジネスを終えることになってしまうリスクが減るでしょう。

 

 逆に自社が売主側であれば,買主に対し独占販売権を付与する代わりに,最低購入数量などの様々なノルマや制約を課しやすくなり,損失回避のリスヘッジがしやすくなります。

 

 売主からすれば独占販売権を付与することはある意味「賭け」のところがあり,もしパフォーマンスが悪い販売店に独占権を与えてしまうと,契約期間中,他の販売店に切り替えることができず,大きな機会損失を受ける可能性があります。

 

 こうしたリスクをヘッジするため,販売店に最低購入数量のノルマを課し,これを達成できなければ,金銭的なペナルティを課したり,契約を解消したり,独占権を剥奪したりするのです。

 

 また,自社商品の販売に集中するように販売店が競合品を取り扱うことを禁止することも,売主が機会損失を防ぐ手法としてよく採用されます。

 

 他にも一定のマーケティング施策を販売店の経費で行うことを制約させるという手法もあります。

 

 販売店としても,独占販売権という強いメリットを享受している以上,このような制約は受け入れざるを得ないと考えている傾向にあり,交渉はしやすくなります。

 

 このように,売主としては,商品のポテンシャルを最大限に活かして機会損失をなるべく防ぐために,独占権を与える代わりにどのような制約を販売店に課すべきかという視点を常に持つようにしましょう。

 

 独占販売権はこちらの記事でも解説しています。

 

 

 保証

 自社が売主側であれば,製品保証について予め契約書に書かれた保証内容以外に対応はしないとすることで,リスクヘッジが可能です。

 

 例えば,欠陥品があった場合に修理や交換はするが,それ以外の損害賠償や代金減額には対応しないというような取り決めが考えられます。

 

 こうすることで,売主としては,製品に欠陥があった場合にどのような責任をどの程度負わされるかを事前に計算しやすくなり,リスクヘッジに役立ちます。

 

 上述したとおり,製品保証自体を一切せずに現状有姿で引き渡して売主の義務は尽くされると定めることもありえます。

 

 逆に自社が買主側であれば,例えば製品の品質に問題があった場合の損失についての救済措置(製品の交換・補修,代金返金・減額,損害賠償など)を定めることでリスクヘッジができます。

 

 救済措置を定めておくことで,万一欠陥品を受け取ってしまったときに,どのような対応を売主に請求できるかを予め定めておくことで,不測の損害を被ることを防止します。

 

 とりわけ国際取引では,内容がわからない海外の法律や判例が適用される可能性がありますので,予期せぬ損失を受けることがあります。

 

 こうした予期せぬ損失をできるだけ回避するために,事前にできるだけ詳しく品質保証の内容について契約書に書いておくようにしましょう。

 

 保証(Warranty)条項はこちらの記事でも解説しています。

 

 

 最低購入数量

 自社が売主側であれば,買主の最低購入数量を定めることで最低限の利益を確保することができるようになり,ビジネスの損失に対するリスクヘッジができます。

 

 例えば,毎年一定金額または数量の注文をすることを販売代理店に義務付けることにより,毎年の見込み利益を確保できます。

 

 もし販売代理店が最低購入数量のノルマを達成できなければ,契約を解除して取引を停止したり,独占販売権を非独占販売権に格下げしたり,未達分の注文相当額の賠償をさせたりというペナルティを契約書に定めることを考えます。

 

 こうすることで,例えば,販売代理店に独占販売権を与えたものの,パフォーマンスが悪く,とはいえ別の販売代理店も指名できずに機会損失が膨らんでいくという事態を回避できます。

 

 逆に自社が買主側であれば,最低購入数量を調整することで,自社が最低限吐き出さなければならないコストを明確化することができるためリスクヘッジになります。

 

 販売代理店から見れば,最低購入数量は不利益に働く面がありますが,無理のないノルマを交渉することで,それほど大きな負担とならないこともありえます。

 

 また,ノルマさえ達成していればパフォーマンスが悪いという理由での契約解除を封じることができるという利点もあります。

 

 毎年その商品を決められた一定数量購入していれば一定期間取引が継続できるという保証を得られる側面もあるので,この点では事業計画を立てやすくなり,ビジネスのリスクヘッジに役立つでしょう。

 

 最低購入数量(Minimum Purchase Quantity/Amount)はこちらの記事でも解説しています。

 

 

 競合品・類似品取り扱い禁止

 自社が売主側であれば,買主に対し競合品の販売を禁止したり,類似品の製造を禁止したりすることにより,自社製品が本来上げられるはずの利益が失われることをある程度回避できます。

 

 せっかくある国に独占販売代理店を指名したにもかかわらず,その販売代理店が,対象商品と競合する他社商品を一緒に売っていれば,対象商品の売上に悪影響が生じるかもしれません。

 

 そのため,特に独占販売店契約においては,販売代理店の競合品の取り扱いを禁止して,自社商品の販売に全力を傾けるように義務付けるということをよく行います。

 

 これにより,他社の競合品に奪われる利益を可能性を排除して機会損失を避けることで,自社商品のポテンシャルを最大化させるというのが狙いです。

 

 もっとも,競合品もラインナップに入れておいたほうが結果として競争優位性を持つ自社製品の売上が伸びるという事例もあるので,必ずしも常に競合品取り扱い禁止措置がリスクヘッジとして機能するとは言い難いでしょう。

 

 商品や市場の特性を分析し,販売代理店に競合品を取り扱わせるべきかを見極める必要があります。

 

 競合品取り扱い禁止はこちらの記事でも解説しています。

 

 

 勧誘・引き抜き禁止

 相手方に対し,自社の人材の引き抜きなどを禁止することで,人材流出や技術流失のリスクヘッジが可能になります。

 

 特にコンサルティング業務や人材紹介業務などをしている会社や,技術者を抱えている会社については,人材そのものに大きな価値があります。

 

 人材に知識・経験・技術が蓄積されていますし,人脈などの財産が紐づいているからです。

 

 にもかかわらず,取引先とビジネスをしているうちに,自社の有能な人材に目をつけられ,引き抜きをされてしまっては,自社が被る損害が多大になるおそれがあります。

 

 そのため,このようなことがないように,契約書に勧誘や引き抜きを禁止する条項を設けておくのです。

 

 もちろん,この手の条項は,日本でも憲法上の人権として認められている「職業選択の自由」などの関係から,あまりに制約が強い場合,一定の範囲で無効化したりする可能性もあります。

 

 準拠法を取り扱う弁護士などに相談しつつ,妥当な範囲で制約を設けることにより,最適なリスクヘッジを図ることになるでしょう。

 

 勧誘・引き抜き禁止(Non-Solicitation)条項はこちらの記事でも解説しています。

 

 

 直接交渉・取引禁止

 自社が売主側であれば,自社が発注している取引先に買主が直接交渉や直接取引することを禁止することで,中抜きを防ぎ損失を回避することができます。

 

 日本企業が海外メーカーからある商品を輸入して国内で販売店指名して商品展開しているような場合,販売店が直接海外メーカーと交渉して仕入れてしまうと,自社の利益が抜けなくなってしまいます。

 

 こうした事態を防ぐべく,販売店との契約書に海外メーカーとの直接交渉および取引を禁止する旨の条項を入れることがあります。

 

 また,同時に,自社と海外メーカーとの取引契約書にも日本の別の業者から交渉を持ちかけられてもこれを拒否するように約束させておくというリスクヘッジもしておきます。

 

 これにより,両側面から直接交渉を予防して自社の利益を守ることが可能になります。

 

 特に経営者同士の人脈で見つけた海外メーカーとの販売権などの場合,海外メーカーも利益をそれほど見込んでいないことがあるところ,商品に目をつけた日本の大手商社などから声がかかると,ついそちらになびいてしまうということが起こりがちです。

 

 このようなことがないように,いくら人脈から派生した案件であっても,ビジネスである以上,取引条件をきちんと明確化して書面化しておくことが大切です。

 

 直接交渉禁止(Non-Circumvention)条項はこちらの記事でも解説しています。

 

 

 知的財産権

 相手方が取引に関連して行った発明などに関する知的財産権の帰属(どちらが権利取得するのか共有なのかなど)について英文契約書で予め定めておくことで権利関係に対するリスクヘッジができます。

 

 事前に決めておかないと知的財産権の帰属をめぐって紛争になることがありますので,あらかじめ契約書などでリスクヘッジしておくべきでしょう。

 

 金銭を出している当事者が取得する,情報を提供している当事者が取得する,協議して定める,寄与度に応じて持ち分を決め共有にする,等分で共有にするなどが考えられます。

 

 なお,共有にすると知的財産権の行使やライセンスする際にかなりの制約を受ける可能性があるので,そのあたりも準拠法をチェックして考えておくことになるでしょう。

 

 また,第三者の知的財産権侵害が生じた場合にライセンサーとライセンシーのどちらがどのように責任を負うかについて予め英文契約書に定めることにより,第三者との紛争により被る可能性のある損失に対するリスクヘッジができます。

 

 ライセンサーがライセンシーにある知的財産権の使用許諾をし,ライセンサーが自国でその権利を使用していたところ,第三者から第三者が保有する知的財産権を侵害しているというクレームを受けることがあります。

 

 このようなクレームがライセンシーになされた場合に,ライセンサーとライセンシーのどちらが費用を負担して対応しなければならないのか,その責任の所在を明らかにしておかないと思わぬリスクが顕在化することがあります。

 

 さらに,知的財産権の使用許諾をする場合は,使用許諾の範囲や条件を契約書で明確化することで,知的財産権の不正利用により被る損失をある程度避けることができます。

 

 使用許諾の範囲や条件が契約書上あいまいだったり,協議の際に十分詰めていなかったりすると,ライセンサーが想定していなかった方法でライセンシーが知的財産権を使用し,それがライセンサーに損害を与えるということがありえます。

 

 このような損失を避けるために事前に使用許諾の範囲・条件などについては明確にして英文契約書で取り決めておくことが大切です。

 

 知的財産権(Intellectual Property Rights)条項はこちらの記事でも解説しています。

 

 

 支払い方法

 自社が売主側であれば,代金支払いをなるべく前払いにすることで債権回収についてのリスクヘッジができます。

 

 特に新規の外国企業の取引先とは,掛け売りはなるべく避けるべきです。

 

 国内の場合と異なり,外国企業に対して売掛を残して債権回収問題となると,回収は極めて困難と考えたほうがよいでしょう。

 

 弁護士をつけての交渉や,外国での仲裁・裁判・強制執行となると,時間も費用も国内とは比べ物にならないコストがかかり,大きな損失に繋がる可能性があります。

 

 したがって,このようなことにならないように,前払いやL/C(信用状)による取引などによって,債権回収問題を残さないようにリスクヘッジしなければなりません。

 

 逆に自社が買主側であれば,代金支払いをなるべく後払いにすることで,商品の未納や品質問題などによる損失回避に繋がる場合があります。

 

 海外の工場に製造委託する場合,日本の品質基準の感覚で発注すると,予想外のクオリティの製品ができあがってくることがあります。

 

 もちろん事前にサンプルなどで品質を確認すべきですが,いざ製造ラインで大きなロットで製造すると,かなりの割合で品質基準を満たさない製品が届くということがおこります。

 

 このような場合は,当然,品質クレームを入れるのですが,前払いで代金を払ってしまっていると,海外工場側がどうしても立場上有利になります。

 

 工場側も簡単には日本企業側の品質クレームを認めないことが多いところ,工場としては反論をしつつ代金を戻さなければ,日本企業がそれ以上訴訟や仲裁までしないだろうと開き直って困らないというケースがあるのです。

 

 このような事態を回避するためには,代金の前払いはできるだけ避けて,検収合格後になるべく支払うとしておけば,品質問題が生じたときに,代金回収の負担を負うのは工場側になるので,交渉を事実上有利に進めることが可能になります。

 

 交渉は追いかける側が不利になることと,外国企業とのトラブルは,日本企業とのそれに比べて時間とコストが多大になり損失が大きくなりがちということは肝に銘じておいてください。

 

 支払い方法はこちらの記事でも解説しています。

 

 

 担保・保証金・保証人

 自社が売主側であれば,買主側に担保を提供させたり,保証金を入れさせたり,連帯保証人を立てさせたりすることにより,債権回収のリスクヘッジができます。

 

 前述したとおり,海外ビジネスでは特に債権回収トラブルを解決することは困難です。

 

 そのため,このようなトラブルを回避するため,代金の前払いや,その他保証金を積立させるなどの保全行為が重要な意味を持ちます。

 

 毎回100%の代金前払いが約束できなくても,連帯保証人や担保提供はハードルが高いところもあるでしょうが,前金として保証金を差し入れさせるなどの代金確保の方法は検討の余地があるでしょう。

 

 万一,代金の支払いが滞った場合に,支払いがされなかった分に預かっていた保証金を充当して相殺してしまえば,回収が完了します。

 

 なお,相殺のルールは準拠法により異なるため,事前の確認と契約書でのルール作りもきちんとしておきましょう。

 

 前金による担保提供はこちらの記事でも解説しています。

 保証人はこちらの記事でも解説しています。

 

 

 機密情報・個人情報

 相手方が自社の機密情報を契約目的以外に利用することを禁止したり,第三者に提供することを禁止したりすることにより,機密情報をめぐる損失を被るリスクをヘッジできます。

 

 もっとも,契約書に守秘義務条項を入れたり,守秘義務契約を交わしたりしたとしても,違反する当事者は残念ながら存在します。

 

 特に外国に企業は商慣習や文化などが異なる異国に属していますので,日本の常識が通じず,想定外の契約違反をしてくるような業者もたまに見られます。

 

 こうした場合に備えて,守秘義務条項があるからといって相手方に重要な情報を安易に提供しないことも大切です。

 

 そもそも重要な情報は提供しないことにより,秘密情報の流出による損害を水際対策的にある程度回避することができます。

 

 いくら紙の上で秘密情報の適切な使用を約束させても,約束を反故にする当事者はいるという前提の下で,自社の貴重な秘密情報を守りリスクヘッジするという姿勢が何よりも大切です。

 

 交渉の初期段階で重要な情報を開示しすぎない,必要な範囲以上の情報を出しすぎないなど,相手を悪い意味で信頼しすぎないようにすることが大切です。

 

 また,個人情報の取扱についても契約書で明確化することにより,各国の個人情報保護法違反などにより生じうるリスクをヘッジすることも可能です。

 

 EUなど個人情報の保護に厳しい国もありますので,各国の個人情報保護法がどのような内容になっているのか概要は把握しておく必要があるでしょう。

 

 そのうえで,自社が適用される個人情報保護法に違反することがないかという点と,相手方に自社が提供する個人情報を適切に管理させるという点に注意することが大切です。

 

 秘密保持契約(NDA)はこちらの記事でも解説しています。

 

 

 補償・損害賠償

 相手が契約書に定めた義務を履行しない(債務不履行)場合に自社がそれにより被った損害について補償・損害賠償を求めると定めることにより,損失に対するリスクヘッジができます。

 

 補償条項は,通常,Indemnification/Indemnityというタイトルで作成されます。

 

 準拠法によってどのような要件を充たせば損害賠償請求ができるのか,また,賠償される損害の範囲はどのように定まるのかなどが異なりますので,法律任せにすることなく,これらについて英文契約書に詳細を記載しておくべきです。

 

 もちろん,補償の種類や範囲を契約書に定めても,準拠法やその国の判例などによって必ずしも契約書に記載したとおりの効果が得られないこともあるでしょう。

 

 ただ,多くの先進国で「契約自由の原則」や「私的自治の原則」の考え方が採用されており,常識に反するような多額の賠償を約束させるなどの行為をしない限りは,当事者の取り決めが尊重されることが多いでしょう。

 

 したがって,リスクヘッジの観点からは,賠償する側として自社が取りうる補償の範囲を定める,または,賠償を受ける側として自社が受けるべき損失補てんの範囲を契約書に定めることは重要な意味を持ちます。

 

 なお,こうした補償(Indemnification/Indemnity)と対立する概念が免責(Disclaimer)や責任制限(Limitation of Liability)です。

 

 英文契約書には,補償条項と併せてこれらの免責や責任制限に関する条項がリスクヘッジとして定められていることもよくあります。

 

 債務不履行をした当事者は相手方に損害の補償を行うが,その範囲は間接損害・結果損害を除く(一部免責)としたり,賠償金額は一定額を限度とする(責任制限)としたりします。

 

 補償と免責・責任制限のバランスを見るのがリスクヘッジとして有効ですが,この点は取引上の立場の強さによる綱引きの要素もあるので,営業と法務が連携しながらうまく交渉を進める必要があるでしょう。

 

 補償(Indemnification/Indemnity)条項はこちらの記事でも解説しています。

 

 

 解除

 契約の相手方が契約書の定められた義務を履行しない(債務不履行)場合,自社が同じ契約において負担している義務から解放されることにより,リスクヘッジができます。

 

 このように,自らを契約から離脱させるために行う請求を解除(Termination)条項と呼んでいます。

 

 いくら相手方が債務を履行しないといっても,そのままでは相手が債務を履行しないまま自社は約束どおり義務を果たさなければならない可能性があり,不合理です。

 

 こうしたときに,解除を行うことで自らの義務から解放され,上記の不合理な状態から離脱することができます。

 

 どのような場合に解除ができるのかという解除の要件や解除する場合の手順などは準拠法により異なる可能性があるので,解除できる場合とその手順については契約書に記載しておくようにしましょう。

 

 例えば,当事者が契約上の債務を履行しない,破産などの手続きを開始した,事業を停止した,銀行取引が停止された,信頼関係が失われたなどが解除原因としてよく規定されます。

 

 そして,解除の手順としては,まず債務不履行状態を解消し,債務を履行するように通知(催告)し,その後期限までに債務が履行されない場合にはじめて解除できる(催告解除)としたり,債務不履行があれば直ちに解除できる(無催告解除)

 

としたりすることがあります。

 

 国内事業に比べて,海外事業は契約から離脱する必要が生じる可能性が高いので,解除条項は重要です。

 

 内容を詰めて必ず挿入するようにしましょう。

 

 契約解除(Termination)条項はこちらの記事でも解説しています。

 

 

 言語

 例えば,契約書を英語と中国語で作成したところ,ある条項が,英語と中国語で内容が異なっていた場合,どちらの言語での解釈を採用すべきかという問題に対するリスクヘッジとして,言語(Language)条項(英語のみが効力を有するという趣旨)があります。

 

 言語(Language)条項はこちらの記事でも解説しています。

 

 

 準拠法・管轄・仲裁

 いざ紛争が起きた場合に相手方が不利になるような準拠法や裁判管轄・仲裁地を選択して英文契約書に定めておくことで法的手続きへのハードルを上げることにより,紛争コストへのリスクヘッジができます。

 

 準拠法と紛争解決地は常に自国にするのが自社に有利で相手方に不利という単純な問題ではありません。

 

 相手方の財産を差し押さえるなどの強制執行を想定するとあえて相手国の法律を準拠法にし,相手国を紛争解決地に選んだほうが良い場合もあります。

 

 とはいえ,相手国が発展途上国などであれば,司法制度が十分に機能していないこともありますのでそのあたりも考慮しなければなりません。

 

 一般論としては,自社が訴えられる場合を想定しつつ準拠法を自国の法律とし,紛争解決地を自国とすれば,相手方にとって訴訟提起や仲裁申し立てのハードルがあがります。

 

 このようにいつも合意できるかはともかくとして,日本企業にとっては日本法を準拠法とし,紛争解決も日本での仲裁や裁判とすることで,紛争解決に対するリスクヘッジは一応できるものと考えて良いかと思います。

 

 準拠法(Governing Law)条項はこちらの記事でも解説しています。

 裁判管轄(Jurisdiction)条項はこちらの記事でも解説しています。

 仲裁(Arbitration)条項はこちらの記事でも解説しています。

 

 以上が,国際ビジネスで損失を回避するための代表的なリスクヘッジ方法になります。

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