今回は,企業間取引において債権を第三者に移転させる際に締結される「Assignment Agreement(債権譲渡契約)」について解説いたします。

 

1. 債権譲渡契約とは

 債権譲渡(Assignment)とは,譲渡人(Assignor)が有する特定の債権を,その同一性を保持したまま譲受人(Assignee)に移転させる契約を指します。

 

 英文契約の実務においては,売掛金(Accounts Receivable)の回収を第三者に委託する場合や,企業買収(M&A)に伴い契約上の地位や権利を承継させる場合などに頻繁に活用されます。

 

2. 債権譲渡契約の主要な条項

 英文の債権譲渡契約において,特に実務上重要となる条項は以下の通りです。

 

(1) Definition of Assigned Rights(譲渡対象権利の特定) どの債権を譲渡するのかを明確に定義する必要があります。既存の債権だけでなく,将来発生する債権(Future Rights)を含める場合には,その範囲を正確に記述することが不可欠です。

 

(2) Notice to Debtor(債務者への通知) 債権譲渡を債務者(Debtor)に対抗するためには,債務者への通知が必要です。英文契約では,譲渡人が債務者に対して「Notice of Assignment」を送付する義務を負うことや,その通知のフォーマットをあらかじめ合意しておくことが一般的です。

 

(3) Representations and Warranties(表明保証) 譲渡人は譲受人に対し,譲渡対象となる債権が有効に存在していること,二重譲渡がなされていないこと,および当該債権に質権などの担保権が設定されていないことなどを保証します。

 

(4) Covenants(遵守事項) 譲渡後,万が一債務者が誤って譲渡人に支払いを行ってしまった場合に,譲渡人がその資金を直ちに譲受人に引き渡す義務(Turnover obligation)などを定めます。

 

3. 実務上の留意点

 債権譲渡を検討する際,最も注意すべきは「譲渡制限条項(Anti-assignment clause)」の有無です。

 

 元の取引契約(Original Agreement)において,「相手方の事前の書面による同意なく,本契約上の権利を譲渡してはならない」という規定がある場合,これを無視して譲渡を行うと契約違反となり,譲渡自体が無効とされるリスクがあります。

 

 また,準拠法(Governing Law)の選択も重要です。債権譲渡の有効性や対抗要件は,譲渡契約の準拠法だけでなく,元の債権が発生した契約の準拠法や,債務者の所在地の法律も関係するため,国際的な取引では複雑な法的検討を要します。

 

 以上,Assignment Agreementの基本事項について解説いたしました。債権譲渡は資金調達や組織再編において強力なツールとなりますが,法的な落とし穴も多いため,契約書の作成にあたっては専門家によるリーガルチェックを受けることを強く推奨いたします。

 

 

 2026年(令和8年)1月1日より,これまでの下請法を大幅に強化・統合した「中小受託取引適正化法(通称:取適法/改正下請法)」が施行されました。現在はすでに新法に基づく運用が開始されており,公正取引委員会による調査も新基準で行われています。

 

 「従来の下請法対策で十分だ」という思い込みは,非常に危険です。今回の法改正により適用対象が大幅に拡大されており,これまで規制の枠外だった企業が,無自覚に「法違反」として社名を公表されるリスクに晒されています。

 

 本記事では,すでに施行されている新基準の下で,元請け企業が今この瞬間に徹底すべき重要事項を解説します。

 

1.資本金区分の見直し:すべての元請け企業が対象に

 今回の改正の最大の特徴は,下請法にあった「資本金区分」による縛りが実質的に強化・改編された点です。

  • 小規模取引への網: 相手方が従業員を使用しない個人事業主や,小規模な法人である場合,発注側の規模にかかわらず「明示義務」や「支払期限の遵守」が求められます。

  • 「うちは中堅だから」は通用しない: 貴社の資本金に関わらず,サプライチェーンの末端に対する発注すべてがリーガルリスクの対象となっています。

 

 

2.実効性が強化された「買いたたき」への厳罰

 施行後,特に重点的に監視されているのが不当な価格の据え置きです。

  • 価格転嫁の拒否は「アウト」: 原材料費,エネルギーコスト,労務費の上昇が明らかな局面で,協議に応じなかったり,一方的に価格を据え置いたりする行為は,明確な法違反とみなされます。

  • 協議の「記録」が大切: 単に話をしただけでなく,「いつ,どのような根拠で協議し,合意したか」というプロセスをエビデンスとして残していない企業は,調査において非常に不利な立場に置かれます。

 

 

3.手形・長期支払いの事実上の廃止

 新基準では,下請代金の支払期日と支払い方法について,より厳しい基準が運用されています。

  • 60日ルールと現金化: 支払い期日は「受領から60日以内」が絶対条件です。また,2026年1月より,サイトが60日を超える手形等による支払いは指導の対象となりました。現金(振込)への切り替えが完了していない場合,是正勧告の対象となります。

  • サイトの短縮: 業界の慣習として残っていた長い支払いサイトは,今すぐ見直さなければなりません。

 

 

4.現場の「やり直し指示」は問題になる?

 IT開発,広告制作,建設工事などの現場で頻発する「無償の修正指示」は,新法下では厳格に禁止されています。

  • 不当な給付内容の変更: 発注後に,当初の範囲を超える作業を追加費用なしで命じることは,明確な禁止行為です。

  • 担当者教育の欠如というリスク: 経営陣が法改正を知っていても,現場の担当者が「ちょっと直しておいて」と軽く口にするだけで,企業としての法的責任を問われる可能性があります。

 

 

5.公表ペナルティの威力

 違反による「勧告・公表」は,企業のブランド価値を著しく毀損します。

  • SNSでの拡散と取引停止: 公取委のサイトに掲載された情報は瞬時に拡散されます。大手企業との取引条件に「コンプライアンス遵守」が含まれている場合,取引停止・契約解除に追い込まれるケースも珍しくありません。

 

6.資材・原材料の提供(有償支給)に関する落とし穴

 

 元請け企業が下請事業者に対して資材を供給する場合にも,取適法・下請法上の厳しいルールが存在します。

  • 有償支給材の対価を早期に差し引く禁止行為: 元請け企業が資材を下請事業者に買い取らせる場合,その資材代金を「下請代金の支払期日」よりも前に相殺(差し引き)することは禁止されています。下請事業者の手元資金を不当に圧迫することを防ぐためのルールです。

  • 購入・利用強制の禁止: 下請事業者がその資材を必要としていないにもかかわらず,元請け企業から購入を強要することは違反です。資材に限らず,自社製品やサービスの購入を取引の条件にすることも固く禁じられています。

  • 「無償提供」時の管理責任: 逆に資材を無償で貸与する場合でも,その資材の品質不良が原因で歩留まりが悪化したり,やり直しが発生したりした際に,その責任を下請事業者に押し付ける行為は「不当なやり直し」や「買いたたき」に繋がる恐れがあります。

 

 

7.建設現場等で深刻化する「偽装請負」のリスク

 取適法への対応と併せて,BtoBの取引,特に建設業やシステム開発の現場で必ずチェックすべきなのが「偽装請負」の問題です。

 

 形式上は「請負契約」や「業務委託契約」を締結していても,元請け企業の社員が下請事業者の作業員に対して直接具体的な指示(指揮命令)を出している場合,それは「偽装請負」とみなされます。

  • 直接指示の禁止: 元請けの現場監督が,下請事業者の作業員一人ひとりに対して「次にあれをやって」「そのやり方はダメだ」と直接指示を出すことはできません。指示は必ず下請側の「現場責任者(リーダー)」を通じて行う必要があります。

  • 勤怠管理への関与: 下請作業員の出退勤時間や休憩時間を元請け側が管理したり,残業を直接命じたりすることも,偽装請負の有力な証拠となります。

  • 混在作業の注意点: 一つの現場で元請けと下請けの作業員が混ざって作業する場合,道具の管理や作業工程の決定権がどちらにあるかが厳格に問われます。

 

 

8.「手遅れ」になる前に

 これらの法違反は,意図的でなくとも「仕組みの不備」として処分されえます。公正取引委員会の立ち入り調査が来てからでは,打てる手は限られてしまいます。

 

 貴社の発注書面や支払いフローに不安がある場合は,一度お問い合わせください。

 今回は,海外の販売代理店や小売店に商品を販売してもらう際の一形態である「Consignment Sales Agreement(委託販売契約)」について解説いたします。

 

1. 委託販売契約とは

 委託販売契約とは,委託者(Consignor)が受託者(Consignee)に対して商品の販売を委託し,受託者が第三者に販売した際に,その売上から手数料を差し引いた金額を委託者に送金する形式の契約です。

 

 通常の売買契約(Sales Agreement)やディストリビューション契約との最大の違いは,商品の所有権(Title)の移転時期にあります。通常の売買では,出荷時や引渡し時に所有権が買主に移りますが,委託販売では,受託者が第三者に商品を転売するまで,所有権は委託者に留保されます。

 

2. 委託販売契約の主な条項

 英文の委託販売契約において,特に留意すべき主要な条項は以下の通りです。

 

(1) Ownership of Products(商品の所有権) 前述の通り,受託者の手元に在庫がある間も,商品の所有権は委託者にあることを明記します。これにより,万が一受託者が倒産(Insolvency)した場合でも,委託者はその商品を回収する権利を主張しやすくなります。

 

(2) Payment and Commission(支払いと手数料) 受託者が商品を販売した際,いつまでに,どのような方法で売上金を委託者に送金するかを定めます。また,受託者の報酬となる手数料(Commission)の計算方法についても,明確な規定が必要です。

 

(3) Inventory Management and Risk of Loss(在庫管理と紛失リスク) 受託者は委託者の商品を預かっている立場(Bailee)にあるため,善良な管理者の注意(Duty of care)をもって在庫を保管する義務を負います。保管中に火災や盗難などで商品が滅失・毀損した場合の責任(Risk of Loss)はどちらが負うのか,保険(Insurance)の付保義務はどうなるのか,といった点が重要です。

 

(4) Reporting(報告義務) 受託者は定期的に(例えば毎月末),販売数量や在庫状況を委託者に報告する義務を負います。これに基づき,委託者は請求書(Invoice)を発行することになります。

 

3. 実務上の留意点

 委託販売は,委託者にとっては「在庫を現地の市場に置きつつ,所有権を維持できる」というメリットがありますが,一方で「代金の回収リスク(受託者が売上金を着服するリスク)」や「在庫の劣化リスク」を負うことになります。

 

 したがって,英文契約を締結する際には,受託者の信用調査を十分に行うとともに,委託者が受託者の倉庫に立ち入って在庫を確認できる「Audit(監査)」の権限を設けておくことが一般的です。

 

 また,準拠法(Governing Law)や紛争解決(Dispute Resolution)の条項も,他の英文契約と同様,必ずチェックすべき項目となります。

 

 以上,Consignment Sales Agreementの概要について解説いたしました。海外取引において,どのような契約形態を選択すべきかは,ビジネスモデルやリスク許容度によって異なりますので,個別案件ごとに専門家への相談をお勧めいたします。

 

 会社の株主が複数存在する場合,株主間の権利義務関係や意思決定のルールを明確にするために締結されるのが Shareholder Agreement(株主間契約)です。


 特に,スタートアップ,合弁会社,少数株主が存在するケースや,外国人株主が関与する場合には,定款だけではカバーしきれない実務的な取り決めを補完する重要な契約書となります。


 本稿では,英文 Shareholder Agreement の基本的な位置づけと,実務上押さえておくべきポイントを整理します。

 

① はじめに

 Shareholder Agreement については,「定款があれば足りるのではないか」「株主間でそこまで細かく決める必要があるのか」といった疑問を持たれることも少なくありません。

 
 しかし実務上は,定款は会社と株主との関係を規律する公的なルールであるのに対し,Shareholder Agreement は株主同士の合意事項を柔軟に定めるための私的契約という役割を担います。


 特に英文契約書の場合,将来の紛争や国際的な解釈のずれを防ぐためにも,事前にルールを明文化しておくことの重要性は高いといえます。

 

② Shareholder Agreement の目的と位置づけ

 Shareholder Agreement の主な目的は,以下のような点にあります。

  • 株主間の権利義務関係の明確化

  • 経営に関する意思決定ルールの整理

  • 株式譲渡や資本政策に関する制約の設定

  • 将来の紛争リスクの低減

 特に少数株主が存在する場合や,出資比率と経営関与の度合いが一致しない場合には,Shareholder Agreement による調整が不可欠となるケースが多く見られます。

 

③ 主な規定内容(典型条項)

 

 英文 Shareholder Agreement では,定款だけでは十分に規律できない株主間の実務的な合意事項について,幅広く条項が設けられるのが通常です。代表的なものとしては,以下のような条項が挙げられます。

  • 株式の譲渡制限(Transfer Restrictions)
    株主が第三者に株式を譲渡する場合の制限として,会社又は他の株主の事前承諾を要する旨や,譲渡手続の詳細が定められます。
    併せて,優先交渉権(Right of First Refusal),優先購入権(Right of First Offer),共同売却権(Tag-along Right)などが規定されることも一般的です。

  • 議決権行使・株主間の協調義務
    株主が一定の事項について同一の議決権行使を行う義務(Voting Agreement),又は特定株主の同意を要する事項(Reserved Matters)が定められることがあります。
    これにより,経営上の重要事項について,特定株主に拒否権(Veto Right)を付与する設計がなされる場合もあります。

  • 取締役の選任・解任に関する事項
    株主ごとの指名権,取締役数の配分,オブザーバーの派遣権などが定められることがあります。
    特に投資家が関与する場合には,経営監督のための取締役選任権が重要な交渉ポイントとなります。

  • Drag-along / Tag-along 条項
    会社売却や M&A の局面において,多数株主が第三者に株式を売却する際に,少数株主にも同条件での売却を義務付ける Drag-along 条項,または参加を認める Tag-along 条項が規定されます。
    将来のエグジットを見据えた重要な条項の一つです。

  • 資本政策・新株発行に関する規定
    新株発行や転換証券の発行時における既存株主の優先引受権(Pre-emptive Right),出資比率の維持に関する取り決めが定められることがあります。
    また,投資契約と一体で,希薄化防止条項(Anti-dilution)を設けるケースも見られます。

  • 配当方針・財務に関する事項
    配当の有無や基準,利益処分に関する考え方,内部留保との関係などが規定されることがあります。
    特に,株主の属性や投資目的が異なる場合には,事前に一定のルールを設けておくことが紛争予防につながります。

  • 競業避止・秘密保持義務
    株主が会社と競合する事業を行うことを制限する競業避止条項や,株主として知り得た情報の取扱いに関する秘密保持義務が規定されることがあります。
    これらは,株主が経営に深く関与する場合に特に重要となります。

  • デッドロック(行き詰まり)解消条項
    株主間で意思決定が膠着した場合に備え,第三者の関与,強制的な株式売却,買収オプション(Russian Roulette,Texas Shoot-out など)を定めることもあります。
    合弁会社などでは,実務上重要な条項となります。

  • 契約期間・解除・違反時の取扱い
    Shareholder Agreement の有効期間,解除事由,違反時の救済措置(損害賠償,差止め,強制履行等)が定められます。
    契約違反が生じた場合の対応を明確にしておくことで,紛争時の不確実性を低減できます。

 

④ 定款との関係

 Shareholder Agreement を検討する際に必ず確認すべきなのが,定款との整合性です。


 原則として,会社法上,定款が優先される事項については,株主間契約でこれと矛盾する合意をしても効力に問題が生じる可能性があります。


 そのため,Shareholder Agreement は定款を補完する役割で用い,両者の内容が齟齬を来さないように設計することが重要です。

 

⑤ 英文 Shareholder Agreement 特有の注意点

 英文契約書では,日本語契約書と比べて次のような点に注意が必要です。

  • 用語の定義が詳細かつ広範になりやすい

  • 「reasonable」「material」など抽象的概念の解釈問題

  • Governing Law(準拠法)と Jurisdiction(管轄)の選択

  • 強行法規(特に日本の会社法)との関係

 特に,日本法人を対象とする Shareholder Agreement であっても,準拠法を外国法とする場合には,どの範囲まで有効なのか慎重な検討が求められます。

 

⑥ 実務上よくある検討ポイント

 実務では,次のような点が論点となることが多いです。

  • 少数株主保護条項をどこまで認めるか

  • 経営のスピードと株主統制のバランス

  • 将来の M&A を見据えた条項設計

  • 創業者・投資家間の力関係の調整

 これらは一律の正解があるものではなく,当事者の関係性,事業フェーズ,資本政策に応じて調整されるべき事項です。

 

⑦ 契約違反時の対応・救済

 Shareholder Agreement では,違反が生じた場合の救済手段も定められることがあります。

 損害賠償請求に加え,特定の義務履行を求める差止めや強制履行の可否,契約解除の可否など,どのような対応を想定しているのかを明確にしておくことが重要です。

 

⑧ 継続的見直しの重要性

 Shareholder Agreement は,一度締結して終わりではありません。

 株主構成や事業内容の変化,新たな資金調達,M&A の検討などに応じて,定期的な見直しが必要となる契約類型です。

 特にスタートアップや成長企業においては,初期段階で作成した契約が実態に合わなくなるケースも少なくありません。

 

⑨おわりに

 

 Shareholder Agreement(株主間契約)は,株主間の信頼関係を前提としつつも,将来の不確実性や利害対立に備えるための重要なツールです。


 特に英文契約書の場合,後から解釈を巡る争いが生じると,時間的・コスト的負担が大きくなりがちです。


 そのため,締結前の段階で,定款との関係,強行法規との整合性,実際の経営運営との適合性を慎重に検討した上で,専門家のレビューを受けることをお勧めします。

 

 

・勧誘禁止(Non-Solicitation)条項とは

 

 勧誘禁止(Non-Solicitation)条項とは,契約当事者間において,契約期間中または契約終了後一定期間,相手方の従業員や顧客・取引先などを勧誘したり引き抜いたりする行為を禁止する規定を指します。

 目的は,契約解消後の取引基盤の流出や人材流出による不利益を防止することにあります。特に委託契約,代理店契約,共同開発契約,雇用契約など,当事者間の信頼やノウハウ共有が伴う取引関係において利用されることがあります。

 勧誘禁止条項は,情報漏洩や顧客横取り等の事後トラブルを抑止する機能を有し,国際契約や英文契約でも実務的に採用されています。

 

 

・勧誘禁止条項が用いられる典型的場面

 

  1. 退職後の人材引き抜き防止
    元従業員が所属企業の同僚を新職場へ誘引することを防ぐために利用されます。
  2. 顧客・取引先の横取り防止
    契約終了後に顧客を自社に取り込まれることを避けるため,業務委託契約や紹介契約などで設定されます。
  3. 共同開発・パートナー契約における関係維持
    ノウハウを共有した関係が終了した後に,片方の当事者が相手方の社員や顧客に接触してビジネスを奪うことを防止します。

 

 

・競業避止条項との違い

 

 競業避止(Non-Compete)条項は,契約終了後に競合企業で勤務することや類似事業を行うことを制限するのに対し,勧誘禁止条項はあくまで「人材や顧客の引き抜き」を禁止するものです。そのため,競業避止条項より制限の範囲が緩やかであり,職業選択の自由への影響が少ない点から,よりバランスのよい制約手段として採用されやすい傾向にあります。

 競業避止を入れる前の安全策として,まず勧誘禁止条項を採用するという契約実務も一般的です。

 

 

・条項を設ける際のポイント

 

 勧誘禁止条項を効果的に運用するためには,以下のような点を明確に定めることが重要です。

  1. 禁止対象の明確化
    「従業員」「顧客」「紹介先」など,対象者を具体的に定めることが望ましいです。
  2. 期間の合理性
    6か月〜2年程度が実務で多く,無制限や過度な長期間は無効と判断される可能性があります。
  3. 直接・間接の勧誘を禁止する文言
    第三者を介した迂回行為を防ぐため「直接・間接を問わず」と明記します。
  4. 違反時の救済手段
    差止請求,損害賠償,違約金などを規定しておくことで抑止力が高まります。
  5. 契約書上の記載場所
    雇用契約やNDA(秘密保持契約)と併せて設けることで,理解・遵守が明確になります。 

 

 

・典型的条項例(英文・和文)

 

During the term of this Agreement and for a period of twelve (12) months following its termination or expiration, neither Party shall, without the prior written consent of the other Party, directly or indirectly solicit, entice, induce, or attempt to induce (i) any employee or contractor of the other Party to leave their employment or engagement, or (ii) any customer or business partner of the other Party to discontinue or reduce business with such Party or to transfer business to any third party.本契約期間中および契約終了後12か月間,いずれの当事者も,相手方の書面による事前承諾なく,直接または間接に,他方当事者の従業員・業務委託者を勧誘し,又は引き抜き,若しくは顧客・取引先を第三者へ誘引することによって当該当事者との取引を停止若しくは縮小させる行為を行ってはならないものとします。) 

 実務では,期間・対象者・例外規定(既存顧客・既存交渉案件など)をさらに具体化して調整することが望ましいです。

 

 

・実務上の留意点

 

 勧誘禁止条項は,過度に広範で不明確な内容である場合,公序良俗や職業選択の自由の観点から無効と判断される可能性があります。そのため,正当な目的があり,制限内容が必要かつ合理的であるかを慎重に検討する必要があります。

 特に国際契約の場合,相手国の法体系や雇用慣行により有効性の考え方が異なるため,準拠法と裁判管轄を含めた総合的検討が不可欠です。

 

 

・まとめ

 

 勧誘禁止条項は,人材流出・顧客引き抜き・事業基盤の毀損といったトラブルを未然に防ぐための条項です。競業避止ほど強い制限ではありませんが,明確かつ合理的に設計することで抑止効果が期待できます。

 

 取引終了後の関係悪化を避けるためにも,代理店契約・開発契約・業務委託契約など幅広い契約に適用を検討する余地があります。

 

 

 企業としてウェブサービス・業務運営を行う際,ユーザー・取引先等から収集・取扱う個人情報の適正管理・透明性を確保することが社会的にも法令的にも強く求められています。本稿では,「個人情報保護方針(プライバシーポリシー/Privacy Policy)」を策定・公表・運用する上で押さえておくべき要点を整理します。

 

① はじめに

 個人情報保護方針を作成・公表する際,よく「ひな形をそのまま流用・改変してよいか」との質問を受けます。


 もちろん,既存のモデルを参考にすること自体は誤りではありません。ですが,より重要なのは,貴社がどのような事業活動を行い,その中でどのような個人情報をどのように収集・利用・管理しようとしているのかを 明確に前提に据えているか という点です。


 単に他社の個人情報保護方針をそのままコピーして「こちらも同じように」公表して安心,というアプローチでは,不十分となるリスクがあります。


 モデルを使うならば,どこの文言をどう貴社の実態に即して変更すべきか・どこが他社と異なるか・そして貴社としてはどのようにしたいか,という観点から検討・改変を加えるべきです。

 

② 個人情報の定義と範囲

 まず,個人情報保護法(および関連法令)上でいう「個人情報」「要配慮個人情報」「匿名加工情報」などの用語を押さえておきましょう。


 方針においては,「当社が取得・保有・利用する個人情報には,氏名・連絡先・生年月日・勤務先(法人格を含む)等が含まれ,これらを単独または他の情報と照合して特定の個人を識別できるものをいいます」などと明記することが一般的です。


 また,「収集の対象」「取得手段(ウェブフォーム・問い合わせ・契約時等)」「利用目的」に応じて範囲を定め,対象が想定外の範囲まで広がっていないかをチェックすべきです。

 

③ 利用目的・取扱方針の明示

 方針においては,収集した個人情報をどのような目的で利用するのかを明示する必要があります。例えば:

  • 当社関連サービスの提供・運営・改善のため

  • お問い合わせ対応,契約関係の履行のため

  • マーケティング・販促・アンケート等集計分析のため

  • 法令・規制対応,リスク管理のため

 そして,その目的の範囲を超えて利用する場合には,改めて本人の同意を求めるか,あるいは適法な手段による旨を記載するほうが望ましいです。
加えて,利用目的が変更される可能性がある場合には,変更後の目的・手続を明らかにしておくと安心です。

 

④ 安全管理措置

 個人情報保護方針では,「個人情報の安全性を確保するため,組織的・人的・技術的・物理的な管理措置を講じます」などの文言を入れます。具体的には:

  • 情報担当者・責任者の設置

  • 社内規程・教育の実施

  • アクセス制限・暗号化・ログ管理等の技術的措置

  • データバックアップ・災害対策・廃棄・消去方法の定め

 

 これらを「当社はリスクに応じ定期的な見直しを行い,継続的改善を図ります」と補足するとよいでしょう。

 

⑤ 第三者提供・委託・国際移転

 収集した個人情報を,第三者(グループ会社,外部委託先,海外拠点等)に提供・委託・越境移転する可能性があるならば,方針に以下の点を記載しておくとよいです:

  • 提供・委託先の範囲・利用目的・管理体制の概要

  • 個人データを海外に移転する場合の安全確保措置(例:契約・適用法・標準契約条項等)

  • 第三者提供がある場合の本人同意取得の仕組み or 対象除外の根拠

​ 特にグローバルに事業を展開する企業においては,海外移転の記載があるかどうかが信頼性に影響します。

 

⑥ 本人の権利・問い合わせ窓口

 

 個人情報の主体(本人)が有する権利(アクセス,訂正,削除,利用停止など)を方針内に記載するのが望ましいです。例えば,「当社は,本人からの個人情報の開示・訂正・利用停止・消去等のご請求に対し,所定の手続により適切に対応いたします」と明記します。


 加えて,窓口(問い合わせ先・担当部署・連絡方法)を定め,「本人確認のための書類提出をお願いする場合があります」などの注意書きを添えておくと実務上トラブルを防げます。

 

⑦ 保有期間・消去・廃棄

 どれくらいの期間,個人情報を保有するのか,また,目的達成後に消去・廃棄や匿名化等を行うのかを方針に記載することも有益です。例えば,「法令上保存を要する場合を除き,利用目的が達成された個人情報は速やかに,また安全な方法で消去・または匿名化いたします」としておくと,情報主体・取引先双方に対して透明性を担保できます。

 

⑧ 継続的改善・法令遵守 

 方針には「当社は,個人情報保護に関する法令,国が定める指針およびその他の規範を遵守し,個人情報の適正な取扱いを実現するため,個人情報保護マネジメントシステムの継続的な改善を行います」といった文言を設けるのが一般的です。
 

 また,定期的な内部監査・リスク評価・教育の実施などを記載しておけば,取引先・監督機関からの信頼性を高めることになります。

 

⑨ 方針の変更・公表

 個人情報保護方針を一度策定したら終わりではなく,ビジネス環境・法制度の変化・データ取扱実態の変化に応じて改訂する必要があります。方針では「本方針の内容を変更する場合には,当社ウェブサイト上にて公表いたします」との公表手続を明記しておきましょう。


 さらに,改定時には「改定年月日」等を記載しておくことで,いつからその方針が適用されるか明確にできます。

 

⑩おわりに

 個人情報保護方針(Privacy Policy)は,取引先・ユーザー等の信頼を得るうえでの重要な「顔」の一つです。ただし単なる書面整備で終わらせず,企業実態・業務プロセス・データ取扱の実態に即した内容とし,運用状況を披露・説明できる体制を整えておくことが肝要です。


 もし「ひな形を適用すれば十分か」「うちは個人情報の取扱量が少ないから簡素にしてもよいか」と迷われる場合には,前記①の観点に立ち返り,自社固有の事業内容・リスク構造を再確認したうえで,専門家によるレビューを検討されることをお薦めします。

 

 

Be destined to...(英文契約書用語の弁護士による解説)

 

 英文契約書を作成,チェック(レビュー/審査),翻訳(英訳/和訳),修正する際によく登場する英文契約書用語に,Be destined to...があります。

 

 これは,英文契約書で使用される場合,通常,「…する運命にある」という意味で使用されます。

 

 「…する運命にある」というのは直訳で,実質的には「…することになっている」というような意味になります。

 

 要するに,…することが必然であり,予定されているときにこのような表現をすることがあります。

 

 例えば,Survivorship(生存)条項で,「一定の条項が契約終了後もなお効力を有する」と定めたいときに使用されることがあります。

 

 一般的には,Survivorship(生存)条項では,契約終了後も効力を維持したい条項を選定して,Articles 1, 2, 5...などと具体的な条項を表記します。

 

 ただ,必ずしもこのように具体的な条項を選定しなくとも,条項の性質上,契約終了後も効力が続くことが明らかと考えられる内容の条項もあります。

 

 例えば,債務不履行に基づく損害賠償請求などがその典型例でしょう。

 

 そのため,いちいち具体的な条項を挙げずに,性質上,契約終了後も当然効力を維持すると考えられる内容の条項は効力を維持すると記載することもあります。

 

 この場合に使用されることがあるのが,be destined to...です。

 

 具体的には,All Articles of this Agreement which are destined (whether expressed or not) to survive the termination of this Agreement will survive.(明示的にであっても黙示的にであっても本契約の終了後も効力を維持することになっている条項はすべて効力を存続する。)というように使用されます。

 

 英文契約書を作成,チェック(レビュー/審査),翻訳(英訳/和訳),修正をする際に登場する英文契約書用語について,こちらで解説しています。是非お役立て下さい。

 

 英文契約書を作成,チェック(レビュー/審査),翻訳(英訳/和訳),修正をする際によく登場する英文契約書用語に,Rehabilitationがあります。

 

 これは,英文契約書で使用される場合,通常,企業の再建手続を指します。

 

 他に,関連英文契約書用語としては,bankruptcy(破産)liquidation(解散)などがあります。

 

 これらは,解除条項,期限の利益喪失条項などで見られる用語です。

 

 例えば,The Vendor may terminate this Agreement by giving written notice...in any event of the following: 1. the Distributor files a commencement of bankruptcy, rehabilitation...(ベンダーは,次の事由が生じた場合,...書面による通知をもって本契約を解除することができる。1. 販売店が破産,民事再生手続開始の申立てをした時...)などと使用されます。  

 

 

 英文契約書を作成,チェック(レビュー/審査),翻訳(英訳/和訳),修正をする際によく登場する英文契約書用語に,Renewがあります。

 

 これは,英文契約書で使用される場合,「契約の更新」を意味することがよくあります。

 

 基本取引契約(Basice Sales Transaction Agreement)などで,継続的な売買などが予定されている契約の場合,当該基本契約の更新条件は重要です。

 

 どのような場合に更新が可能なのか,更新する際の手続きはどのようなものか,更新後の条件はどのような内容かなど,十分に検討しなければなりません。

 

 例えば,The initial term of this Agreement shall be for two (2) years from X, and shall thereafter be automatically renewed for successive one (1) year extension periods unless terminated by either parties by giving written notice of termination to the other at least thirty (30) days in advance of the following renewal date.などと使用されます。

 

 なお,上記の日本語訳は,「本契約の当初の期間は,X日から2年間とし,その後は,いずれかの当事者が相手方に対し,契約の更新日より30日前までに,更新をしない旨を通知しない限り,1年ずつ自動更新される。」となります。

 

 ちなみに,一般論としては,例えば,販売店契約(Distribution/Distributorship Agreement)などで,販売店側としては,ノルマになる最低購入数量/金額(Minimum Purchase Quantity/Amount)などが定められていないのであれば,投下資本回収の側面もあることから,長期間の契約を望む傾向にあります。

 

 他方,サプライヤー側は,最低購入数量(ノルマ・ミニマム)がないのであれば,販売店(Distributor)のパフォーマンス次第では,契約を終了させることを考えたいため,契約期間は短く刻みたいと考える傾向にあります。

 

 また,反対に,上記例で,最低購入数量/金額(Minimum Purchase Quantity/Amount)が定められていて,毎年ノルマの数量が上がるなどの場合,販売店としては,短く刻んで,更新拒絶がありうる状態にしておきたいと考えでしょう。

 

 その一方,サプライヤーとしては,今度は上方修正の最低購入数量(ノルマ・ミニマム)が定められていて利益は確保できる以上,それなりの期間契約してもらうことを望む傾向にあります。

 

 ちなみに,自動更新にすると,更新拒絶の通知(Non-renewal Notice)をしない限り自動的に契約が更新されることになりますので,当然ですが当事者が更新を期待する度合いが高くなります。

 

 何もしなければ契約が自動的に更新されるということは,契約が更新されるのが通常の状態と考えるためです。

 

 そのため,仮に契約期間が1年間などと比較的短めに設定されていても,契約当事者は「自動更新が定められているし,まさか1年間で終了することはないだろう」と考えがちです。

 

 こういう場合に,短期間で更新拒絶をすると,トラブルに発展しやすいので注意が必要です。

 

 逆に,更新については契約書に記載せず,期間満了で一旦終了することを前提にした契約書を作成すれば,ひとまず契約は終了することを互いに認識しているので,自動更新条項よりは契約終了時に揉める可能性は低くなります。

 

 この場合でも当事者がお互いに更新を望み新たに契約を結んだり,更新することを合意したりすれば,当然契約関係を継続することが可能です。

 

 したがって,自動更新ではなく一旦は契約が終了するとしておき,終了前に条件を再度交渉してお互いが納得した場合にはじめて再度契約ができるとしておいたほうが,更新への期待を少なくできますし,納得してはじめて契約が継続するので安全といえるでしょう。

 

 契約の終了時は最もトラブルになりやすいタイミングの一つですので,契約終了関しては慎重に進めることを強くおすすめします。

 

 

 英文契約書を作成,チェック(レビュー/審査),翻訳(英訳/和訳),修正をする際によく登場する英文契約書用語に,Surviveがあります。

 

 これは,例えば,契約が終了した場合,または,ある条項が無効となった場合でも,特定の条項については効果を存続させる場合によく使用されます。

 

 条項としてはSurvival Clause(生存条項)と呼んでいます。英文契約書では頻繁に登場する条項の一つです。

 

 契約関係が解消されたとして,全ての契約上の義務が無かった,または,今後無いことになるのか,一部にすぎないのかという問題(severance/surviveの問題)は重要です。

 

 この点で,よく契約終了後も効力が続くとされる条項のうち,重要な条項としては,秘密保持義務条項(non-disclosure agreement)や競業避止義務条項(競業他社との取引を一定の距離的・時間的範囲で禁ずる条項)などが挙げられるでしょう。

 

 これらの義務については,たとえ契約が終了したとしても,一定の範囲で義務を課したままにする必要がある場合が多いため,Survival Clause(生存条項)に挙げられるのです。

 

 このように,契約が終了した場合に,どの条項が引き続き効果を有するべきで,どの条項が失効すべきであるのか,具体的に事前に検討しておく必要があります。

 

 もっとも,永遠に課す守秘義務や,地域が広範囲にわたったり,期間が長い競業避止義務は,裁判所によっては無効と判断される場合がありますので,自己の都合の良いように定めれば良いというわけではない点,注意が必要です。

 

 例えば,These obligations set forth in this Article (Confidentiality) shall survive termination/experation of this Agreement for five (5) years.(本条(守秘義務)に定める義務は,本契約の終了/期間満了後も5年間存続する。)などと使用されます。  

 

 なお,日本語の契約書では,このSurvival Clause(存続条項)はあまり見ません。

 

 これは,契約書の解釈で,内容から当然に契約終了後も効果が存続するものは判別できるという前提になっていると考えて良いでしょう。

 

 また,契約において特定の条項が法令などに違反し無効となる場合に,他の条項はこれとは独立して効力を有し契約は存続するのか,それとも,全体が影響を受けて,契約が終了するのかなどを取り決めたい時にもsurviveの観念が問題となります。

 

 こちらは,Severability(分離可能性)という問題として契約書では整理されています。

 

 Severability Clause(分離可能性条項)では,問題のある条項だけが無効になりその他は影響を受けず有効に存続するという内容で契約書に規定されるのが一般的です。

 

 

 英文契約書を作成,チェック(レビュー),翻訳(英訳/和訳),修正する際によく登場する英文契約書用語に,Prevail, supersede, overrideがあります。

 

 これらは,英文契約書で使用される場合,いずれも,通常,「…に優先する」という意味です。

 

 …以下を上書きしてしまう効果を持つ英文契約書用語です。

 

 例えば,過去の合意による条件などを新たな合意で変更する場合や,同時に二つ以上の契約書記載条件に該当するような事実が生じた場合にどちらで処理されることになるのかを規定する場合に使用されます。

 

 例えば,In the event of the provisions  resulting in a conflict between the Individual Contract and this Agreement, the former will prevail.(個別契約と本契約の条項が矛盾するときは,個別契約の条項内容が優先する。)などと使用されます。

 

 また,supersedeの場合,In the event of the provisions  resulting in a conflict between the Individual Contract and this Agreement, the former will supersede the latter.(個別契約と本契約の条項が矛盾するときは,個別契約の条項内容が優先する。)などと表現されます。

 

 

 英文契約書を作成,チェック(レビュー),翻訳(英訳/和訳),修正する際によく登場する英文契約書用語に,Entire Agreementがあります。

 

 これは,日本語では「完全合意」など,直ちに理解しがたい訳が付されていますが,完全合意とは,ある基準日までに存在した合意が,全て本合意(本契約書)によって上書きされ失効し,本合意(本契約書)以外に拘束力のある合意は存在しないことを確認する条項です。

 

 コモン・ローの下では,parol evidence rule(パロール・エビデンス・ルール)(口頭証拠排除原則/法則)という原則があります。

 

 これは,契約が書面によって締結された場合,契約条項を変更するような内容の合意が別にあった(例えば口頭)という主張を裁判所は認めないというものです。

 

 もっとも,これには例外があり,例えば,misrepresentation(ミスレプレゼンテーション)は,一方当事者が「契約書には責任免除条項に全ての責任を免責すると記載するが,実際にはかくかくしかじかの場合しか免責を主張しない」などと述べたため,他方当事者が契約締結に至った場合,契約の取り消しや,損害賠償を認めるというものです。

 

 このmisrepresentationによる契約取り消しまたは損害賠償請求を封じる意図がこの完全合意に含まれています。

 

 つまり,当該契約書に書かれた契約内容以外には,いかなる合意もrepresentationも存在しないので,当該契約書以外に根拠を置く主張は一切認められない,というものです。

 

 完全合意条項があると,裁判所は契約書外の合意を認めない傾向にあるため,非常に重要な条項です。

 

 例えば,This Agreement constitutes the entire agreement between the parties hereto and supersedes any prior arrangement or understanding relating to the subject matter contained herein. (本契約は当事者間の完全合意を構成となり,本件についてのすべての契約前の合意に優先するものとする。)などと使用されます。 

 

 逆に,あくまでEntire Agreement(エンタイア・アグリーメント)条項は,契約締結時より前の契約書外の合意の効果を否定するものですので,契約締結後の契約書外の合意は効力を有する可能性を生じます。

 

 この点をケアするのが,Amendments(改定)条項です。

 

 Amendments条項では,通常,契約書の内容を変更するには,契約書外の口頭や電子メールなどでは行えず,必ず署名権限のある当事者がサインした書面をもって行う必要があると定められています。

 

 これにより,契約締結日以後の合意についても,権限者のサインのある書面によって行わなければならず,これに違反する形式での合意は結局効力が否定されることになります。

 

 なお,Amendmentsは,せっかく正式合意した契約内容を現場の担当者が電子メールでへのうできるなどとしてはあまり意味がなくなってしまうので,サインのある書面による合意を求めるものです。

 

 そのため,個別の売買契約の条件など割と些末な内容については,機動的に,臨機応変に担当者レベルで変更しても良いと考えることもあります。

 

 この場合は,個別契約と基本契約の内容が矛盾した場合個別契約の内容が優先すると契約書に定めておけば,上記の目的が達成できることになります。

 

 

 英文契約書を作成,チェック(レビュー),翻訳(英訳/和訳),修正する際によく登場する英文契約書用語に,Leaveがあります。

 

 これは,通常,裁判所などから得る「許可」を指します。

 

 登場頻度は多くありませんがたまに見かけます。Leaveは,上訴する場面などで必要となることがあります。

 

 

 英文契約書を作成,チェック(レビュー/審査),翻訳(英訳/和訳),修正をする際に登場する英文契約書用語に,Governing Lawがあります。

 

 これは,英文契約書に必ずといってよいほど登場します。当該契約に関して後に紛争が生じた場合に,従うことになる「準拠法」のことです。

 

 したがって,governing lawは,いざ紛争が生じた場合に非常に大きな意味を持ってきます。

 

 そのため,契約書に定めるのが通常です。

 

 契約書に定めがない場合には,いわゆる国際私法の問題となり,例えば,利害関係の強いと考えられる国の法律が適用されるという結論が導かれたりしますが,判断は各国の裁判所に委ねられるため,非常に不安定となります。

 

 

 英文契約書を作成,チェック(レビュー/審査),翻訳(英訳/和訳),修正をする際に登場する英文契約書用語に,Jurisdictionがあります。

 

 これは,英文契約書に必ずといってよいほど登場します。「裁判管轄」のことです。

 

 Governing Law(準拠法)とは区別しなければなりません。

 

 通常,準拠法と合わせる場合が多いとは思いますが,例えば,英国法を準拠法とし,専属的裁判管轄を日本として合意するということも可能です。

 

 ただし,いざ裁判になったときに,そのとおりの効果が認められるとは限らない点には注意が必要です。

 

 裁判管轄は紛争時には非常に重要な意味を持っています。

 

 特に保全処分や,強制執行が必要な場合は,各国により制度が区々ですから,自己に有利な利益を実現できるかどうかがその制度内容に関わってきます。

 

 準拠法については,多くの国が契約自由の原則を認め,当事者が合意したとおりの効果を基本的には認めるという姿勢に大きな違いはないと考えられるでしょうが,裁判や執行についての手続法は各国により様々です。

 

 当然契約当事者は自己に有利な管轄を主張するでしょう。この辺りは,ビジネス上の力関係で決まってしまうところもあり,悩ましい問題です。

 

 仲裁合意においても同様の管轄権争いが生じることとなります。自己に有利な裁判管轄を漁ることをforum shopping(フォーラム・ショッピング)と呼びます。

 

 裁判管轄を自国にするのが有利だと思われがちですが,必ずしもそうではありません。

 

 例えば,売掛金の回収を訴訟で行うというような場合,日本で判決を得てもそれを外国で強制執行するのは大変です。

 

 そうであれば,最初から相手国の地で裁判をし,その判決を基に現地で強制執行をかけたほうが簡便に済みます。

 

 現地での訴訟は大変だと思うかもしれませんが,売掛金請求などは比較的容易な内容ですので,現地の弁護士を探して任せれば,想像するよりは難しくないです。

 

 逆に自社が訴えられる可能性があるような契約であれば,訴訟提起のハードルを上げるために自国の裁判管轄を合意したほうが有利といえます。

 

 このように,契約内容や目的によって利害が異なるため,いつも自国の裁判管轄が良いというわけではないことは注意が必要です。

 

 

 英文契約書を作成,チェック(レビュー/審査),翻訳(英訳/和訳),修正をする際に登場する英文契約書用語に,Ad hocがあります。

 

これは,「臨時の」というラテン語ですが,英文契約書では主に,ad hoc arbitration clauseとして使われる場合が多いです。

 

 これは,非機関仲裁を行うことを定めた条項です。

 

 「非機関仲裁」とは,特定の仲裁機関に案件を付することを約するのではなく,当事者において作成または選択した規則(例えばロンドン海事仲裁人協会(LMAA)の規則)に従って手続を進める仲裁を指します。

 

 

 英文契約書を作成,チェック(レビュー/審査),翻訳(英訳/和訳),修正をする際に登場する英文契約書用語に,Refer something to...があります。

 

 これは,英文契約書で使用される場合,Refer the dispute to arbitrationなどとして登場します。

 

 これは,「紛争を仲裁に付す」という意味です。

 

 Toの後をlitigationとすれば,訴訟に付するという意味になります。

 

 Bring the case to arbitrationと同じ意味です。

 

 Refer toは通常「〜を参照する」という意味でコレスポンデンスなどにおいて頻繁に登場しますが,上記のように,訴訟を提起するという比較的フォーマルな表現としても使用されます。

 

 

 英文契約書を作成,チェック(レビュー/審査),翻訳(英訳/和訳),修正をする際に登場する英文契約書用語に,Arbitration agreementがあります。

 

 これは,英文契約書で使用される場合,通常,「仲裁合意」を指します。

 

 近年は日本でもADR(Alternative Dispute Resolution)(裁判外紛争解決手続)の一形態である「仲裁」についての認識が高まっていると言えるでしょう。国際取引を行う際は,仲裁合意に関する条項をよく確認して内容に留意しなければなりません。

 

 余談ですが,英国では,arbitrationは最終的に仲裁判断が下されるため,むしろlitigation(訴訟)に近く,ADRの代名詞としてはmediation(調停)が挙げられることが多いです。

 

 Mediationは判決や仲裁判断のように一刀両断的結論が出されるわけではなく,あくまで当事者の合意による解決を目指します。近年英国では調停の利用が高まっていると言われています。

 

 筆者がロンドンのロー・ファームで勤務研修していた際,あるパートナーからこのADR,特に調停のメリットについて執筆した論文を日本語に訳して欲しいと依頼を受け,行ったことがありました。

 

 実際の現場でも,litigationやarbitrationに持ち込むと,時間と,コストが増大する(ソリシターのタイム・チャージのみではなく,事案によってはbarristerを雇用する必要があるため,そのコストも見込まなければなりません。)ため,極力こうした手続を避ける傾向にありました。

 

 また,敗訴者負担制度があることから,仮に訴訟で敗訴すれば勝訴者の弁護士費用の多くを敗訴者が負担しなければならないことも訴訟回避の動機の一つとなっています。

 

 さらに,Part 36 Offerと呼ばれる民事訴訟法上のルールも和解促進機能を果たしています。

 

 簡単に言及すると,これは,例えば,被告が訴訟において和解提案をし,これを原告が蹴ったが,後の判決で,和解提案よりも不利な内容の判決が出された場合には,和解提案を拒絶した原告が一定時期以降の被告の弁護士費用の大部分及び利息を負担しなければならないというものです。

 

 こうした制度の下,係争当事者は,訴訟による一刀両断的解決よりも,ソリシター同士が交渉を重ねて和解に至ることを望み,現にその結果に終わるケースがほとんどです。 

 

 因みに,日本には,敗訴者負担制度はありませんので,不法行為に基づく損害賠償請求など一定の例外を除いては,たとえ勝訴しても,勝訴当事者は自己側の弁護士費用を自ら負担しなければなりません。

 

 

 英文契約書を作成,チェック(レビュー/審査),翻訳(英訳/和訳),修正をする際に登場する英文契約書用語に,As ofがあります。

 

 これは,英文契約書で使用される場合,通常は,「…の時点で,…当時」という意味で使用されます。

 

 特にAsset Purchase Agreement(事業譲渡契約書)や,Stock Purchase Agreement(株式譲渡契約書)などのRepresentations and Warranties(表明保証)条項などで使用されるときは重要な意味をもちます。

 

 As of の後ろには日付が入ることが多いです。「その当時,その時点で…であると確認する,保証する」などと使われます。

 

 前述のRepresentations and Warranties(表明保証)条項とは,たとえば,Closingという事業譲渡や株式譲渡を実行する段階で,売主が「Closingの時点で」財務状況はこうであり,知的財産権の権利関係はこうであり,資産については契約不適合(瑕疵)も担保もなくなどと表明する条項を指します。

 

 この場合の,「Closingの時点で」を表すために,as of...が使われることがあります。

 

 例えば,The Seller represents and warrants to the Purchaser, as of the Closing, that...(売主は買主に対し,クロージング日時点において,...であることを表明し保証する。)などと定められることがあります。

 

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