Inclusive/Exclusive(英文契約書の用語解説)

 

 英文契約書を作成,チェック(レビュー),翻訳(英訳/和訳),修正する際によく登場する英文契約書用語に,Inclusive/Exclusiveがあります。

 

 これは「含まれる/含まれない」という意味で使用されます。

 

 英文契約書では,数字や期間などについて規定する際に使われることがあります。

 

 例えば,3月15日までに債務を履行する義務を課す場合,by 15th of Marchという表現や,on or before 15th of Marchなどと表現すると,15日も含んだ表現となります。

 

 つまり,「3月15日またはそれ以前」に債務を履行しなさいという意味になります。

 

 このような表現に曖昧さを残さず,よりはっきりさせたい場合にInclusive/Exclusiveを使用することがあります。

 

 つまり,15日を含める場合には,15th of March (Inclusive)とし,逆に含めない場合には15th of March (Exclusive)とすることがあります。

 

 基本的に,上記のようなbyやon or beforeなどの本来の表現のみによって正確な意味は表せるのですが,曖昧さを避けるために利用されると理解すれば良いと思います。

 

 英文契約書を使用する際は,英語を母国語とする国の企業以外の企業と取引するということもあります。

 

 この場合,相手が英語の表現や文法を正しく使用しているか,理解しているかは正直わかりません。

 

 もっと言えば,例え英語ネイティブだとしても,契約書上の形式張った表現について,正しい表現や理解ができるかどうかは怪しい場合もあるでしょう。

 

 このような観点から,正しい文法的理解を安易に前提にせず,より誤解がないように詳しい表現をするということは,国際取引で使われる英文契約書ではよくあります。

 

 英文として美しいのは過不足がなく,蛇足表現がないものかもしれませんが,こと英文契約書に関しては,契約書であるがゆえに,くどくなったとしても誤解がない一義的な理解を目指すのが正解と言えるでしょう。

 

 日本語でも,「以下」と「未満」などで混乱がないようにするということがあると思いますが,それと同じことです。

 

 なお,exclusiveは上記のような使われ方以外にも,exclusive distribution agreementなど,「独占的」契約を表現する用語としてもよく使われます。

 

 この意味でexclusiveが登場した場合,一般的には,指名された販売代理店など以外は,その商品を特定地域で扱えないことを意味します。

 

 つまり,いわゆる「総代理店」がこの意味のexclusiveで表されることになります。

 

 

 英文契約書を作成,チェック(レビュー),翻訳(英訳/和訳),修正する際によく登場する英文契約書用語に,Relieve, exempt, excludeがあります。

 

 これらは,英文契約書で使用される場合,通常,「(義務・責任などから)解放される,(義務・責任などを)免除される」という意味です。

 

 免除/免責規定のことを,それぞれ名詞にしてexemption clause, exclusion clauseなどと表現します。

 

 義務や責任全てを免除することを,上記のようにexemption clause, exclusion clauseなどと呼ぶのに対し,損害賠償の額に限度を設ける場合など,責任を一部に制限するような条項は,limitation clauseと呼称します。

 

 Limitation clauseの場合は,例えば損害賠償の金額に上限を設定し,それを超える賠償は必要ない=免責されるという内容になります。

 

 つまり,責任の一部免除を意味することになります。

 

 これに対し,責任全部の免除の例としては,例えば,The Seller shall be exempted from such obligation if...(…の場合,売主は当該義務から免責される)などと規定されます。

 

 また,exclude「…を除外する」という意味でも英文契約書でよく使用されます。

 

 例えば,...X and Y, excluding...Z(Zを除いたXおよびY)などとして登場します。

 

 この場合の対義語はincludingで,こちらは「…を含む」という意味になります。

 

 さらに,...を含むもののそれらはあくまで例示であり,例示されていないものを排除する趣旨ではないということを表したいときは,including without limitation...including but not limited to...という表現を使用します。

 

 このincluding without limitation...やincluding but not limited to...という表現は,「例示列挙」と呼ばれるものを表していますが,反対に,挙げられた例に限り,それ以外は認めないというものを「制限/限定列挙」と呼びます。

 

 「制限/限定列挙」をしたい場合は,limited to...とすれば…の例に限られるということになります。

 

 このように,英文契約書で何らかの事由を定め,具体例であるXを含ませたいときはincludingを使い,逆に含ませたくない場合はexcludingを使用します。

 

 当然ですが,契約書において,責任の免除に関する内容や,何が含まれ何が含まれないのかという内容は非常に重要です。

 

 したがって,relieve,exempt,excludeなどの表現が登場した場合は,非常に重要な内容である可能性が高いので,注意深く契約書を審査するようにしましょう。

 

 

 英文契約書を作成,チェック(レビュー/審査),翻訳(英訳/和訳),修正をする際に登場する英文契約書用語に,Be in breach of the contract, breach the contractがあります。

 

 例えば,The Buyer is in breach of the contractで,売主が契約違反をするという意味になります。

 

 Breachは契約条項違反を意味しています。

 

 契約の解除条項(Termination Clause)などで,このbreachはよく使用されます。

 

 例えば,The Seller may terminate this Agreement...in case where the Buyer is in breach of any provisions of this Agreement(買主が本契約のいずれかの条項に違反した場合,売主は本契約を解除することができる)などと使用されます。 

 

 法律によっては,契約違反・債務不履行があったからといって,それだけで契約の解除が認められるとは限りません。

 

 そのため,契約違反・債務不履行があった際に,どのような制裁・救済があるのかについては,契約書に明記するのが一般的です。

 

 特に国際取引においては,自社と取引先が異なる法律体系に属しているので,契約違反の場合の制裁・救済がいかなるものであるのかの認識にずれがあることが多いです。

 

 このような場合に,契約書に契約違反の場合の効果を規定していないと,準拠法に従うことになります。

 

 そして,上述のように,当事者の認識にずれがありますので,当事者の主張する制裁・救済の内容がすんなりとおらず,紛糾してしまうということがよくあるのです。

 

 そのため,breach of the contractがあった場合の効果については,必ず明記するようにしましょう。

 

 なお,法律違反については,break lawviolate lawという表現も使用しますが,契約違反は一般的にbreachが使われます。 

 

 

 英文契約書を作成,チェック(レビュー/審査),翻訳(英訳/和訳),修正をする際に登場する英文契約書用語に,Beyond the control of the partiesがあります。

 

 これは,英文契約書で頻繁に使われる表現ですが,文字通り「当事者の支配を超えて,コントロールを超えて」という意味です。

 

 なので,当事者の責めに帰すことができない「不可抗力」Act of Godなどとも言います。)を表す際に,英文契約書でよく使用される表現です。

 

 不可抗力により契約内容の実現が不可能または著しく困難になった場合,契約上の義務がどのように取り扱われるかについては具体的に定めておく必要があります。

 

 どのような場合に契約の履行が不可能と言えるのか,履行不能となった場合,未だ履行されていない義務がどうなるのか,既に履行された義務はどのように取り扱われるのか,明確に規定しておくことが肝要です。

 

 そうでないと,契約によってはコモン・ローのfrustration(後発的履行不能)という概念の下で,問題が生じるリスクが高まることがありえます。

 

 一般的には,beyond the control of the parties,つまり不可抗力により,当事者が自己の債務の履行ができなかったという場合には,その当事者は相手方に対して損害賠償などの責任を負わないと契約書に定められます。

 

 これは,いわゆる不可抗力免責を定めた条項で,英文契約書ではForce Majeureとして定められることが多いです。

 

 Force Majeureという用語はフランス語ですが,不可抗力を表す用語として英文契約書では頻繁に使われます。

 

 Force Majeure(不可抗力)が具体的にどういう事態を意味するのかが契約書で定義される際に,具体的な事例,自然災害や戦争,テロ,ストライキなどが挙げられ,最後にまとめる形でその他の不可抗力事由としてbeyond the control of the partiesという表現が使われることが多いです。

 

 不可抗力に何が含まれるのかはときに重大な意味を持ちます。

 

 例えば,世界的に大流行した新型コロナウィルスなどのウィルス・感染症の流行や,債務履行をしている当事者側に完全に責任がないとは言いきれないようなストライキなどが含まれるかなど,必ず契約書でチェックするようにしましょう。

 

 

 英文契約書を作成,チェック(レビュー/審査),翻訳(英訳/和訳),修正をする際に登場する英文契約書用語に,Due, Payableがあります。

 

 これらは,英文契約書で使用される場合,通常,「支払期限が到来している,支払うべき」という意味です。

 

 例えば,英文契約書では,An invoice shall be due upon the Buyer's its receipt.(請求書は買主が受領した時に支払期日が到来する。)などと使用されます。

 

 Dueやpayableというのは,債務の履行に期限がある場合に,その期限が到来しており,請求者が相手方にその債務の履行(例えば売買代金の支払い)を請求できる状態を指します。

 

 なお,日本法とは異なり,英国コモン・ローの下では,履行期を契約に定めても,直ちに契約の要素(essence)となるものではないされています。

 

 そのため,履行期までに履行がなされなかったとしても,そのことのみで契約違反の責任を直ちに追及できるわけではないことに注意を要します。

 

 したがって,履行期を過ぎた場合に契約違反としての制裁を課すためには,履行期を契約の要素(essence)として明確に定めておくことが必要です。

 

 例えば,Timing of the delivery of the Product shall be of essence.(本件製品の納期は契約の要素となる)などと規定すると,履行期が契約の要素となります。

 

 通常は,この後に,もし履行期を過ぎたら具体的にどのような制裁があるかについても契約書に記載されています。

 

 なお,英文契約書は,異なる国に属する企業間で行われる国際取引で多く利用されています。

 

 そのため,英文契約書では,遠隔であるがゆえに,履行期は約束できるものではなく,参考にすぎないと考えられがちです。

 

 したがって,英文契約書では,むしろTiming of the delivery of the Product shall be NOT of essence.(履行期は契約の要素ではない。)という否定表現のほうがよく見るかと思います。

 

 

 英文契約書を作成,チェック(レビュー/審査),翻訳(英訳/和訳),修正をする際に登場する英文契約書用語に,Balance, Outstandingがあります。

 

 これらは,英文契約書で使用される場合,通常,「支払残額」という意味です。

 

 債務者がある金額の支払義務を負い,その一部を弁済した場合に,残額についてこのように呼称します。

 

 例えば,In case where the Buyer does not pay the balance on or before X…(買主がXまでに残額を支払わない場合...)などと使用されます。

 

 全部の支払いをするという表現は,pay...in fullなどとされますが,支払期日に一部しか払わず,残額の支払いを遅延すると,遅延損害金の支払義務が発生する可能性があるのでご注意下さい。

 

 遅延損害金は,契約書に約定遅延損害金として記載されていることもありますし,準拠法が定めた法定遅延損害金が相当することもあります。

 

 このような支払期日に遅れた支払いのことを,late paymentと呼んだりします。

 

 もちろん,最初から分割払いの約束で,期日までに分割金の全部を払っていれば遅延損害金は生じません。

 

 なお,outstandingが名詞で使用された場合,通常は上記のように債務の「残高」を意味するのですが,形容詞で使用された場合は「(株式や債券)などが発行されている」という意味になることがあります。

 

 例えば,the issued and outstanding shares ...で「発行された株式」という意味になります。

 

 「発行済株式総数が◯株で,そのうち◯株を譲受人が譲渡人から買い受ける」などという表現で株式譲渡契約書(Stock Purchase Agreement)などでよく登場します。

 

 当然ですが,株式などが何株発行されていてそのうち何株を取得することになるのかなどは,議決権・支配率の問題に関わりますので,非常に大切です。

 

 そのため,outstandingなどの用語が登場したら,発行済株式総数に関する記述である可能性が高いので注意して契約書を審査するようにしましょう。

 

 

 英文契約書を作成,チェック(レビュー/審査),翻訳(英訳/和訳),修正をする際に登場する英文契約書用語に,On or before Xがあります。

 

 これは,英文契約書でよく使われる表現で,「X日までに」という意味です。

 

 なお,この表現ではon があるのでX日当日を含みます

 

 このように,当日を含むのかどうかについても,曖昧な表現ですと,後に問題になる可能性がありますから注意が必要です。

 

 X当日を含めない場合は,before X と規定します。

 

 つまり,on or before Xとすると,on Xで当日を指し,before XでXより前の日を指すことになるのです。

 

 そのため,例えば,on or before 12thとすると,12日以前(12日またはそれ以前)という意味になるわけです。

 

 特に契約解除に繋がるconditionとして履行期などを定めた場合は重要です。

 

 なぜなら,その日までに義務を履行できないと,損害賠償請求とともに,契約の解除を主張されるおそれがあるからです。

 

 特に海外取引では,国内取引に比べて履行期を遵守するハードルが高くなりますから,安易に履行期を約束したり,履行期を過ぎた場合のペナルティを重くしたりしないようにしましょう。

 

 ちなみに,より曖昧さを残さないために,before X (exclusive)(X日まで(当日を含まない))などと規定することもあります。

 

 Exclusiveという表現が加わることにより,X当日を排除することがより明確になるわけす。

 

 特に海外企業との取引では誤解が生じやすいですから,このようにしつこいくらいに意味を明確にしておくことも大切な姿勢です。

 

Unless otherwise set forth herein(英文契約書用語の弁護士による解説)

 

 英文契約書を作成,チェック(レビュー),翻訳(英訳/和訳),修正する際によく登場する英文契約書用語に,Unless otherwise set forth herein...があります。

 

 これは,英文契約書で使用される場合,通常,「本契約において別に定められた場合を除いて・・・」という意味で使用されます。

 

 たとえば,相手方当事者に契約違反があった場合には,解除や損害賠償請求ができると原則的な内容を規定したとします。

 

 しかし,例外的に,仮に契約違反をしていない当事者側にも過失があった場合には,損害賠償額が減殺されるなどという内容が他の条項に定められていたとします。

 

 このような場合,unless otherwise set forth hereinなどの表現がなくとも,普通に解釈すれば,後者の規定は,前者の原則規定の例外的場面を定めたものとして,両方が有効な規定とみなされるでしょう。

 

 ただ,規定の内容などによっては,原則規定・例外規定などの内容が互いに矛盾・衝突することも考えられるため,関係性を明確にするために,「他に別の定めがある場合はその別規定の内容に従う」ということを表すのが,この英文表現ということになります。

 

 例えば,内容が矛盾する規定Aと規定Bとが同一の契約書内に存在していた場合に,unless otherwise set forth hereinという表現が規定Bに書かれていたとします。

 

 そうすると,「本契約において別に定められていない限り」という留保がB規定には付いているため,B規定よりもA規定のほうが優先することを意味しています。

 

 したがって,B規定がA規定と矛盾している内容については,A規定が適用されることになります。

 

 特に長文になりがちな英文契約書を急いで作っていたり,チェックしていたりすると,どんなに注意していても,見逃しが生じてしまう可能性が否定できません。

 

 もし見逃していると,あとでその条項に関連するトラブルが生じた際に,どちらが優先して適用されるのかがわからず,契約書の解釈自体が紛争になってしまうことがありえます。

 

 このような事態を避けるために,条項同士がぶつかった場合にどのような優先関係になるのかを整理しておくのは有効な方法と言えるでしょう。

 

Accrue Interest(英文契約書用語の弁護士による解説)

 

 英文契約書を作成,チェック(レビュー/審査),翻訳(英訳/和訳),修正をする際に登場する英文契約書用語,今回は,Accrue Interestです。

 

 これは,英文契約書で使用される場合,通常,「利息が付加される」という意味で使用される用語です。

 

 例えば,Any invoices not paid by the due date shall accrue interest at the rate of XX % per year.などと使用されます。

 

 上記の和訳は「期限までに支払いのない請求については,年利XX%の遅延損害金が付加される。」となります。

 

 遅延損害金の定めは,普通は期限を過ぎてしまった支払いについて利息を得て儲けようということに主眼があるわけではありません。

 

 それよりも,遅延した場合のペナルティを定めることにより,そのペナルティを嫌がって期限内に義務を履行するように促すという効果が期待できる点に主眼があります。

 

 なので,例えば,取引の力関係から後払いを受け入れざるを得ないというような立場の弱い売買契約上の売主などにとっては挿入したい条項と言えるでしょう。

 

 もちろん,売掛の回収リスクを減らすには,期限を遅れた場合の事後的な制裁をどうするかよりも,支払い方法を工夫する方がより効果は高いです。

 

 例えば,L/C決済にしたり,前払いを要求したりという具合です。

 

 特に,海外取引開始の段階で取引先の信頼性が未知数のときには,前払いを基本とすべきでしょう。

 

 外国企業の場合,国内企業に比べて業界内の評判なども得られにくいでしょうから,国内取引に比べてより慎重になるべきです。

 

 あくまで遅延損害金条項による対応は,次善の策と考えるべきでしょう。

 

 ただ,力関係が弱い立場の当事者は前払いを約束せるのは難しいこともあります。

 

 このように後払いを受け入れざるを得ない売主でも,せめて遅延損害金条項を入れることにより,買主が約束の期日までにきちんと支払いをするように対策するわけです。

 

 なお,金銭を支払う義務を負っている当事者がその義務を果たさない場合に受けるペナルティはこの遅延損害金ということになります。

 

 何を言いたいかと申しますと,例えば,商品の売買代金を買主が期日までに支払ってくれなかったために,売主が予定していた商品の仕入れを行えず,粗利を得る機会を失ったなどという損害は通常賠償の対象にならないということです。

 

 あくまで金銭の支払いについては遅延損害金が負荷されるだけで,その他の賠償について請求することはできませんので,注意して下さい。

 

 そのため,なおさら商品の引き渡しよりも前に代金の支払いを受けるなど,早めに代金を回収し,売掛を残さない体制を作ることが重要なのです。

 

 なお,遅延損害金は法律によって上限が決められていることが多いです。

 

 国の法律によって上限が定められているので,約定どおりの遅延損害金を必ずしも請求できるとは限らない点にも注意が必要です。

 

 契約書では,この点を考慮して「遅延損害金年利XX%が発生するものとするが,法律により上限が定められている場合はその上限を限度とする」などと定めることもよくあります。

 

Represent and Warrant(英文契約書用語の弁護士による解説)

 

 英文契約書を作成,チェック(レビュー/審査),翻訳(英訳/和訳),修正をする際に登場する英文契約書用語に,Represent and Warrantという用語があります。

 

 これは,英文契約書で使用される場合,通常,「表明し保証する」という意味で使用されます。

 

 例えば,M&Aの際に,株式の譲渡人側が買収対象会社に簿外債務や訴訟リスクなどがないことを表明保証するなどというものが典型的な例です。

 

 また,ライセンシーがサブライセンス契約を締結するような場合などに,ライセンシーがライセンサーから,そのようなサブライセンス契約を締結してサブライセンスに出せることを許諾されているということを表明し,保証するというような場面でも登場します。

 

 そして,表明し保証した内容に誤りや不正確な部分があれば,後に表明保証を行った当事者に対して相手方当事者が損害賠償請求や契約の解除ができるなどと規定するのが通常です。

 

 もっとも,このような表明保証に違反があった場合に,契約書上,損害賠償請求や契約解除ができるとしていても,もうすでにビジネスは進んでしまっています。

 

 なので,契約解除をしてしまうとビジネス自体が頓挫してしまうことになってしまいますので,契約解除は現実的な救済手段にはならないことがあります。

 

 また,損害賠償請求についても,M&Aなどで,例えば,個人の譲渡人から株式を譲り受けた場合などで当該譲渡人に資力=支払能力がないようなケースでは,損害賠償請求は現実的には機能しません。

 

 したがって,表明保証条項+表明保証違反の場合の救済手段条項を定めたからと言って当然安心はできません。

 

 表明保証以外にも,連帯保証を検討したり,そもそも表明保証に頼ることがないようにDue Diligence(DD: デュー・デリジェンス)を十分に行ったり,その他の手当も検討する必要があります。

 

 Due Diligence(DD: デュー・デリジェンス)とは,例えばM&Aであれば,買収対象会社に法務や財務的な問題がないかどうかを,買収実行前に調査・確認する作業です。

 

 あくまで表明保証は最後の手段という位置づけで,それ以前に行うべきことをすべて行っておくという姿勢のほうが大切だと思います。

 

 とはいえ,何か問題があった場合に備えて表明保証をさせることも重要ですので,DDなど十分に行った上で,表明保証条項を入れるということは大切です。

 

Disclaim/Disclaimer(英文契約書用語の弁護士による解説)

 

 英文契約書を作成,チェック(レビュー/審査),翻訳(英訳/和訳),修正をする際によく登場する英文契約書用語に,Disclaim/Disclaimerがあります。

 

 これは,通常,「(ある責任から当事者を)免責する,(ある責任を追及することを当事者が)放棄する」という意味です。

 

 Disclaimer clauseは,「免責条項」,「責任放棄条項」などと訳されます。

 

 例えば,The Seller disclaims all liability or responsibility arising out of/in connection with...(売主は…から生じる/に関する全責任から免責される)などと英文契約書では使用されます。

 

 他にも,例えばDisclaimer of Warrantiesという表現は,「保証免責」という意味です。

 

 例えば,売主が買主に対し商品を「As is Basis(現状有姿)で引き渡す」という条項が英文契約書にあったとします。

 

 この場合,一般的には,売主は商品についてdisclaim warrantiesの状態,つまり,商品の保証について免責された状態ということになります。

 

 中古品の売買などでこのような規定が見られます。商品の保証がないというのは特に買主にとって不利益が大きい可能性があるので,要注意の内容です。

 

 売買契約に限らず,Disclaim/Disclaimerは当事者の責任の免責を表す用語ですので,これらの用語を含む条項は極めて重要な条項と言えます。

 

 英文契約書を検討する際,どのような場面でどのような内容の責任があり,逆にどのような場合免責することになるのか,間違いなく理解して,契約書に入れるかどうかを判断することが重要です。

 

 特に外国企業との取引の場合,法律も商慣習も異なるため,責任の範囲や免責について当事者同士の前提の理解が違っていることがよくあります。

 

 例えば,英米法では,債務不履行責任は無過失責任とされており,当事者に過失がなくても原則として責任が生じます。

 

 これに対し,日本では,過失責任が原則ですので,債務不履行があってもその当事者に責めに帰すべき事由が認められない(ことを債務不履行をした当事者が立証した)場合は責任が生じません。

 

 このように法律が異なっている国の企業同士が契約を締結するのですから,自国の法律の内容を当たり前と思って前提にしていると痛い目に遭うことがあります。

 

 そのため,自国の法律や商慣習では当然と思うことでも,改めて契約書にきちんと記載する必要があります。

 

 上記の場合に,当事者の責めに帰すべからざる事由により債務不履行となった場合は,その当事者は責任を負わないとしたいのであれば,自然災害など当事者がコントロールできない事情によって債務不履行が起こったときには,その当事者は責任を負わないなどと明確に定めておくことが大切です。

 

 そうしないと,適用法(準拠法)によっては,必ずしも上記の場合に免責とされない可能性がありますし,そもそも責任の有無という重大なテーマについて各当事者の理解に齟齬がある可能性があること自体が紛争の火種になるからです。

 

 この内容はいわゆる不可抗力(Force Majeure)条項としてよく英文契約書では記載されています。

 

Abide by(英文契約書用語の弁護士による解説)

 

 英文契約書を作成,チェック(レビュー/審査),翻訳(英訳/和訳),修正をする際に登場する英文契約書用語に,Abide by...があります。

 

 これは,英文契約書で使用される場合,通常,「…に従う,遵守する」という意味で使用されます。

 

 …のところには,契約条項や法令などが入ります。

 

 類似の意味を表す英文契約書用語にはcomply with...があります。

 

 Comply with...も「(法令や指示などを)遵守する」という意味で英文契約書でよく使われます。

 

 同じくadhere to...という用語も「…に従う」という意味で英文契約書によく登場します。

 

 例えば,The Agent shall strictly abide by relevant laws and regulations in Japan(代理店は日本の関連法令及び規制を遵守する)などと使用されます。

 

 「…に従って」という意味を表す英文契約書用語は,他にも,be in accordance with..., be in compliance with..., be subject to, be pursuant to...などがあります。

 

 Abide by...など「…に従う,遵守する」という意味の用語が英文契約書に登場した場合,…のところに書かれている内容を本当に守ることができるのかをよく吟味しましょう。

 

 守るとされている法令などが広範囲にすぎないか,相手方当事者の漠然とした指示に従わなければならないと書かれていないかなどに注意してチェックをします。

 

 当然ですが,abide by...とされているのに,...に書かれた内容を遵守しなければ契約違反となり,契約違反の責任を生じる可能性があります。

 

 そのため,よくわからず契約書にサインすることがないよう,きちんと何を遵守する義務が課されているのか,それは現実的かを審査してから契約書にサインするようにしましょう。

 

For the avoidance of doubt/For clarity(英文契約書用語の弁護士による解説)

 

 英文契約書を作成,チェック(レビュー/審査),翻訳(英訳/和訳),修正をする際に登場する英文契約書用語に,For the avoidance of doubt/For clarityがあります。

 

 これは,通常,英文契約書で使用された場合,「誤解を避けるために記すと/明確にするために記すと」という意味です。

 

 和訳するときは,単に「なお」などと訳されることもよくあります。

 

 「あえて書かなくともそのように読めると思うが,念のために記載しておく」というニュアンスを出したいときに使うことが多い表現です。

 

 例えば,「その契約書の準拠法から当然に導かれる内容なのだけれでも,念のため記載しておくと・・・」というようなときや,「その条項の意味内容から一義的に明らかではあるが,一応言っておくと・・・」というようなときに使われる表現です。

 

 For the avoidance of doubt/For clarityのような文言を入れることにより法的効果に影響するということは通常ありません。

 

 For the avoidance of doubt/For clarityという用語自体に実質的意味があるわけではなく,ただの枕詞ですから,この後に続く文章に意味があることに変わりがないわけです。

 

 このように書いても特に何の効果もないものを「無益的記載」といったりします。

 

 書くことでプラスの効果がある場合を「有益的記載」と呼び,書くことで逆にマイナスの効果を生む場合を「有害的記載」と呼んだりします。

 

 書いても書かなくても効果が特に変わらないのですが,何らかの意図があるのでこうした記載をあえてすることがあります。

 

 For the avoidance of doubt/For clarityは,当該英文契約書の趣旨や方向性を表すという効果もあると言えるかもしれません。

 

 「これらの内容は書かずとも契約の目的・趣旨から当然なのだが・・・」というニュアンスがあるためです。

 

 特に重要な表現とまでは言えないかもしれませんが,登場した時にはそのニュアンスを把握するように努めた方が良いかもしれません。

 

 実質的に意味がある表現ではないですが,こうした表現を使うことで,ドラフトした当事者がどういう理解でその表現を取ったのかを知ることができます。

 

 あえて書かなくても当然だという理解をしているものの,重要なことなので,あえて契約書に明記して注意喚起されている=起草者はそれがかなり基本的で当然のことと理解している=その内容があとで問題になっても記載内容と異なることを主張することはほぼ不可能というように相手の意図を読み取ることができることがあります。

 

 英文契約書も起草者(ドラフト作成者)の意図が表現されていることがあるので,そうした意図も読み取りながら検討するとより深く理解できるようになると思います。

 

Inconsistent(英文契約書用語の弁護士による解説)

 

 英文契約書を作成,チェック(レビュー/審査),翻訳(英訳/和訳),修正をする際に登場する英文契約書用語の一つに,Inconsistentがあります。

 

 これは,英文契約書で使用される場合,通常,「矛盾する」などと訳されますが,以下のような条項によく登場する英文契約書用語です。

 

 例えば,Basic Sales Agreement(基本売買契約書)などを作成する場合,通常は,継続的に行われる取引に適用される共通ルールを売買基本契約書において定めます。

 

 そして,個別の受発注については,別途発注書(Purchase Order: PO),請書(Purchase Order: POA)などをもって成立するIndividual Contract(個別契約)に委ねるというのが実務です。

 

 そのため,同一取引の問題を取り扱っているのに,売買基本契約書(Basic Sales Agreement)に記載された内容と個別契約(Individual Contract)に記載された内容との間に齟齬があるということが起こりえます。

 

 そのような場合に,売買基本契約書の内容と個別契約の内容のどちらが優先して適用されるのかということを規定する条項を契約書に設けるのが一般的です。

 

 そして,その優先順位を整理した条項の中に,このinconsistentという用語がよく登場します。

 

 例えば,If any provisions of this Basic Sales Agreement are inconsistent with those of the Individual Contract, the provisions hereof shall supersede those of the Individual Contract.などとinconsisitentは使われます。

 

 上記の和訳は「本売買基本契約書の条項が個別契約書の条項と一致しない場合には,本売買基本契約書条項が個別契約の条項に優先する。」などとなります。

 

 もちろん,個別契約の内容が優先すると定めることもあります。どちらにするかは当事者の希望によりケースバイケースです。

 

 基本契約を締結しておいて,各個別契約で詳細を取り決めるというスタンスの場合,一般的には,個別契約に定めた内容が基本契約に定めた内容に優先すると定めることになるでしょう。

 

 個別契約のほうが基本契約よりも時系列的に新しく,その時点で当事者が合意できる条件が書かれているからです。

 

 そもそも契約書作成段階で,基本契約と個別契約の内容に矛盾する点がないように注意はするのですが,やはり見逃してしまうことはありえます。

 

 また,基本契約書は一切修正しないひな形をフォーマットとして用いつつ,個別契約をカスタマイズするという会社の方針の場合,どうしても基本契約の内容と個別契約の内容が衝突するということが出てきてしまいます。

 

 そのような場合に備えて,上記のような条項を入れておけば,万一内容に矛盾する点があっても,どちらが優先するかが明確になっているので,対処がしやすいということになります。

 

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Deem(英文契約書用語の弁護士による解説)

 

 英文契約書を作成,チェック(レビュー),翻訳(英訳/和訳),修正する際によく登場する英文契約書用語の一つにDeemがあります。

 

 これは,英文契約書で使用される場合,通常,「...とみなす」という意味です。

 

 英文契約書で登場するdeemは,例えば,ソフトウェアの利用規約などにおいて,「ユーザーがコンピューターにソフトウェアをインストールしたときに,使用許諾条件を承諾したものとみなす」などという内容を表したいときに登場することが多いといえます。

 

 上記の例でいえば,When the User has installed the Software into its computer, it shall be deemed to have accepted the Terms of Use with regard to the Software.などと表現されることになります。

 

 上記の例文の具体的な和訳は,「ユーザーが自身のコンピュータに本ソフトウェアをインストールしたときに,本ソフトウェアに関する利用規約を承諾したものとみなす」ということになります。

 

 このような表現がなされていれば,原則として,これと反対の内容を主張できなくなるという効果が生じます。

 

 つまり,ユーザーはコンピューターにソフトウェアをインストールしておきながら,使用許諾条件/利用規約を読んでいないから承諾していないなどと主張できないという効果が生じるということです。

 

 ソフトウェアをインストールしたという行為から,自動的に使用許諾条件/利用規約を承諾したということが導かれるのです。

 

 言い換えれば,直接使用許諾条件/利用規約を読んで承諾したという行動をとっていなかったとしても,ソフトウェアをコンピュータにインストールしたことにより,もはや使用許諾条件/利用規約を承諾していないという反論はできないということを意味しているのです。

 

 他にも,「通知(Notices)が一定の場所に到達したら,相手方にその通知が到達したものとみなす」というような英文契約書の規定にもdeemはよく登場します。

 

 このように,deemという表現は,ある行為などが行われたり,事象が起こったりしたら,それをもって別の一定の行為が行われたことにしてしまったり,別のある事象が生じたりしたことにするという効果があるのです。

 

 したがって,英文契約書を審査・チェックする際には,deemが出てきたらその効果を意識して,内容に問題がないか精査する必要があるでしょう。

 

With or without cause(英文契約書用語の弁護士による解説)

 

 英文契約書を作成,チェック(レビュー/審査),翻訳(英訳/和訳),修正をする際に登場する英文契約書用語に,With or without causeがあります。

 

 これは,英文契約書で使用される場合,通常,「理由があってもなくても」という意味で使用されます。

 

 英文契約書における慣用的な用語で,一般的には,契約の解除条項(Termination)で使用される用語です。

 

 英文契約書では,契約を契約期間中であっても解除して終了させることができる場合が記載されていることが通常です。

 

 典型的な解除できる場合というのは,債務不履行,契約違反,破産状態など相手方の財務状態が悪化したときの場合です。

 

 このような場合を,with cause(理由がある)で契約を解除すると表現することがあります。

 

 反対に,このような相手方の責めに帰すべき事由がないような場合でも,契約期間中,いつでも自由に契約を解約できるという条項が定められることがあります。

 

 いわゆる,無理由解除条項です。この理由がなくても契約を解除できるということと,without cause(理由がない)の解除と呼びます。

 

 無理由解除の規定は,例えば,「30日前に通知すれば,いつでも,理由があってもなくても,本契約を解約することができる」(Either party may terminate this Agreement with or without cause at any time by giving at least thirty (30) days' advance written notice)などと定められます。

 

 無理由解除条項がある場合,英文契約書の類型によっては,他方当事者にかなりのリスクとなる場合がありますので,この条項がある場合は,要注意といえます。

 

 当然ですが,理由もないのに契約をいつでも解除できるというのは,かなり一方的な内容だからです。

 

 例えば,販売店契約(Distribution/Distributorship Agreement)において,メーカー側に,または,双方に無理由の中途解除権が付与されている場合を考えてみます。

 

 この場合に,販売店(Distributor)が自社のリソースを駆使して,販促活動や広告宣伝活動をしてきて,商品が売れるようになってきたとします。

 

 長い時間をかけてようやく損益分岐点を突破し,販売店(Distributor)がこれから利益を上げようというときに,メーカーがその利益を寺社グループで総取りしようと考えたとします。

 

 これを実現すべく,メーカーは現地に子会社を設立します。

 

 その後,元の販売店(Distributor)との契約を中途解約条項に基づいて途中で解約してしまうのです。

 

 本来,販売店(Distributor)に落ち度はなく,債務不履行もありませんから,無理由の解除権が与えられていなければできない方法です。

 

 しかしながら,中途解約権があれば契約の途中でも一方的に解除できることになり,メーカーの「タダ乗り」(Free Ride)を許すことになりかねないのです。

 

 このように,解除をされる可能性がある当事者にとって,中途解約権はかなり一方的で危険な条項なので,十分に注意をする必要があります。

 

 具体的には,上記の例では,販売店側としては,解約の通知を受けてから十分な猶予期間が設けられているかという点に注意しなければなりません。

 

 在庫の処分や店舗の閉鎖など,事業からの撤退にも時間がかかります。業態の変更が必要であればそれにも時間がかかります。

 

 したがって,解除の通知から契約終了までの猶予期間が短すぎると,販売店に不当な不利益が生じる可能性があるのです。

 

 また,販売店としては,中途解約にあたり補償金の要求をメーカーに要求するということも考えられます。

 

 正直,この内容を契約書に入れるのは難しいですが,それまでの功績の評価,または,次のビジネスへの準備金のような趣旨で一定の補償金をもらえるよう交渉する余地もあります。

 

Preclude(英文契約書用語の弁護士による解説)

 

 英文契約書を作成,チェック(レビュー/審査),翻訳(英訳/和訳),修正をする際に登場する英文契約書用語に,Precludeがあります。

 

 これは,英文契約書では,通常,「妨げる」という意味で用いられます。

 

 例えば,英文契約書でTermination(解除条項)が定められていたとします。

 

 このTermination(解除条項)に,「当事者が当該条項に基づいて契約を解除したとしても,さらに損害賠償請求(Damages)などの他の救済措置(Remedy)を行使することを妨げない。」などという内容で登場します。

 

 具体的には,「The preceding paragraph shall not preclude exercise any other rights permitted by applicable law.(前項の規定は,法令で認められるその他の権利を行使することを妨げない。)」などと使用されます。

 

 同様の表現で,without prejudiceという表現も,英文契約書ではよく登場します。

 

 例えば,「The Seller may terminate this Agreement by providing written notice to the Buyer without prejudice to any other remedies.(その他の救済措置を妨げることなく,売主は買主に書面により通知することで,本契約を解除できる。)」などと使用されます。

 

 Witout prejudiceについての記事は,こちらでご覧頂けます。

 

 なぜnot precludeやwithout prejudiceという表現を使用して,「他の権利を妨げない」などと規定するのでしょうか。

 

 これは,請求権が複数存在しうるときに,それらの請求権が両立して存在するのか,それとも1つしか成立し得えず他の権利は消滅してしまうのかを明らかにしておきたいからです。

 

 例えば,上記の例のように,契約を解除してしまうと,契約自体が解消されてしまいますから,その契約に関する債務不履行などを前提にした損害賠償請求権なども消滅してしまうのだろうかということが疑問になります。

 

 この疑問に予め答えるために,契約書に,解除権を行使したとしてもなお損害賠償請求権などの他の法律上の権利は存在し続けるということを明記しておくわけです。

 

 とりわけ法律も文化も異なる企業同士が取引をする海外取引では,誤解が生じないように,権利の存続・消滅についてのルールはできるだけ契約書で明らかにしておくことが望ましいでしょう。

 

Applicable law(英文契約書用語の弁護士による解説)

 

 英文契約書を作成,チェック(レビュー),翻訳(英訳/和訳),修正する際によく登場する英文契約書用語に,Applicable lawがあります。

 

 これは,英文契約書で使用される場合,通常,「適用法」を意味します。

 

 なお,単に適用法というと,些末な形式的な法律も含んでしまいますので,このような重要でない法律に違反したような場合も直ちに契約解除につながるような解釈ができる契約内容の場合は,注意したほうが良いかと思います。

 

 例えば,Distributor shall strictly comply with applicable laws and regulations in the course of performance of this Agreement.(販売店は,本契約の履行中,厳格に適用法令及び規制に従わなければならない。)などと使用されます。

 

 Governing Law(準拠法)が,例えば日本法であったとしても,強行法規(Mandatory law/statute)/強行規定(Mandatory provision)として現地法が適用されるということは当然あります。

 

 強行法規/強行規定は,当事者の合意によっても適用を排除することはできませんし,強行法規/強行規定の内容を自分に有利=相手方に不利に変更したりすることも許されません。

 

 例えば,日本の労働法を考えて頂ければ理解しやすいと思います。

 

 日本企業が日本で外国人を雇って日本で働かせ,準拠法をその外国人の国籍の国の法律で合意して契約したとします。

 

 そして,その国の労働法では,解雇は自由にいつでもできるとされていたとして,その日本企業はその外国人労働者を自由に解雇できるでしょうか。

 

 答えはできません。もしその労働者が日本の労働法を適用する意思を表示した場合,日本の労働法による解雇規制が強制的に適用されうる(法の適用に関する通則法第12条第1項)ので,自由に解雇はできないということになるのです。

 

 つまり,日本の労働法がここでは強行法規/強行規定としてapplicable lawになるわけです。

 

 なお,日本企業が自社の従業員を海外に赴任させる場合にも注意が必要です。

 

 現地に赴任する従業員との間で準拠法を日本法とする旨の合意をしていないと,法の適用に関する通則法第12条第3項により,現地の労働法が適用される余地があります。

 

 また,従業員と日本法を準拠法とする旨の合意をしていたとしても,現地法により労働者保護の強い強行法規/強行規定が存在していた場合に,当該従業員が現地法の適用を主張した場合,その法律が適用される可能性があります(法の適用に関する通則法第12条第1項)。

 

 そのため,Local law, Applicable lawについての知識と,これらを遵守する姿勢は,重要です。

 

 一般的には,当事者の合意のほうが法律よりも優先されるのですが,例外的に強制的に適用される法律があることを知っておきましょう。

 

 特に海外取引では,外国法が強制適用される可能性があるため,自社が行おうとしているビジネスに外国法が強制的に適用されないか,されるとしたらそれはどのような内容かを事前にチェックしてからビジネスを始めるべきです。

 

Intentionally Omitted(英文契約書用語の弁護士による解説)

 

 英文契約書を作成,チェック(レビュー),翻訳(英訳/和訳),修正する際によく登場する英文契約書用語に,Intentionally Omittedがあります。

 

 これは,英文契約書では,通常,「意図的に削除された」という意味で使用されます。

 

 上記のとおり,意味は特殊というわけではないのですが,Intentionally Omittedがどのような場面で使用されるかを知っておくと,意外と便利なため,取り上げました。

 

 実際に,英文契約書で使用される場合,例えば,Article 12. Intentionally Omitted.のように使われます。

 

 和訳は「第12条(意図的に削除)」となります。

 

 どういう場面で使用されるかというと,例えば,自社のひな型の契約書を標準契約書としているが,今回の取引先との間では,性質上適用されない条項が含まれていたとします。

 

 その場合,本来であれば,Article 12全体を削除してしまえば済むはずです。

 

 にもかかわらず,あえて上記のような方法を採用するのは,例えば,条項番号をずらしたことによって,他の条項を引用している条項内の条項番号を変更しなければならなくなり,変更し忘れが生じるリスクを避けるということが挙げられます。

 

 また,多くの契約書を管理している場合,いくつかの契約書の条項番号が他のものと異なっていると,管理がしにくくなるということも挙げられます。

 

 そのため,Article 12という表記は残したまま,条文の本文を削除し,「ミスではなく,あえて削除しています」ということを示すために,Intentionally Omittedと記載するわけです。

 

 もう少し,具体的に説明すると以下のような利便性があります。

 

 上記の例でArticle 12 Intentionally Omitted.とせずにArticle 12全体をまるごと削除したとします。

 

 こうすると,例えば,Survival(生存)条項などで,Articles 9, 10, 12, 15 and 20が契約終了後も効果が持続するなどとされている場合に,12がなくなって,それ以降の番号が繰り下がるので,12を削除し,15を14にして20を19にしなければならなくなります。

 

 その他の条項でも12条以降の条項を引用しているような条項があれば,それらをすべて変えないといけません。

 

 これは煩雑ですし,検討過程で,複数削除したり,条項を後で挿入したりすることもあれば,作業がより複雑になり混乱が生じます。

 

 これに対し,Article 12 Intentionally Omitted.として,Article 12という番号自体はそのままにしたとします。

 

 そうすると,上記のSurvival(生存)条項の番号も特に変えなくてよい(12を無視して読めばよい)ですし,その後の削除や挿入も,Article 12はいじらないので,特に混乱することもなくなります。

 

 以上のようなメリットがあるので,英文契約書の実務ではよく使われる手法です。

 

Sole(英文契約書用語の弁護士による解説)

 

 英文契約書を作成,チェック(レビュー),翻訳(英訳/和訳),修正する際によく登場する英文契約書用語に,Soleがあります。

 

 これは,英文契約書のうち,Distribution Agreement(販売店契約)Agency Agreement(代理店契約)などでよく見られる用語で,通常,「単独の」という意味で使用されます。

 

 Distributor(販売店)やAgent(代理店)として指名され,ある地域で,対象製品を販売することを担う際に,販売店または代理店としては,他の業者を販売店や代理店に指名されたくないと考えるでしょう。

 

 なお,Distribution Agreement(販売店契約)とAgency Agreement(代理店契約)との違いについてはこちらの記事をご覧下さい。

 

 その場合に,いわゆる総販売店契約(Exclusive Distribution Agreement)や,総代理店契約(販売総代理店/一手販売店)(Exclusive Agency Agreement)を締結するのが一般的です。

 

 このExclusiveと少し内容を異にするのが,Sole DistributorやSole Agentと呼ばれるものです。

 

 Exclusiveと表記した場合,日本語でいうと「排他的」ということですから,指名された販売店や代理店以外のあらゆるものを排斥する,つまり,当該販売店や代理店以外は一切対象製品の販売を行うことができないことを意味します。

 

 したがって,一般的には,たとえ,製品のメーカーやサプライヤーでも,対象地域内で製品を販売することは禁止されることになります。

 

 指名された販売店や代理店以外というくくりにはメーカーやサプライヤーも入ってしまうので,メーカーやサプライヤーであっても,対象商品を販売地域で販売すれば,exclusive(排他的)という文言に違反することになってしまうということです。

 

 これに対し,Soleというのは日本語でいうと「単独の,唯一の」という意味ですので,約束事としては,販売店や代理店は,指名された者だけだということになります。

 

 つまり,一般的には,メーカーやサプライヤーは,販売店や代理店とは違いますから,対象製品を販売してよいということになります。

 

 メーカーやサプライヤーは,販売店や代理店ではないため,メーカーやサプライヤーが販売地域で対象商品を販売したとしても,指名された販売店や代理店がその販売地域でsole(唯一)の販売代理店や代理店であるという約束事には違反していないことになるのです。

 

 このような違いがあるので用語の使用には注意が必要です。

 

 もっとも,販売条件を定めるのは当事者相互の誤解もある可能性があるので,exclusiveやsoleの意味の違いだけで区別するのはやや危険といえます。

 

 とりわけ,英語圏ではない企業同士が契約する場合,上記のような英語の意味をきちんと理解しているとは限りません。

 

 また,準拠法や管轄裁判所の判例が上記のような意味を導いて解釈するとも限りません。

 

 したがって,exclusiveやsoleという用語を使い分けて終わりにするのではなく,販売権の性質と具体的内容をしっかりと契約書に書き込むことが妥当といえるでしょう。

 

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