英文契約書の相談・質問集307 販売店が当局に登録される場合の注意点はありますか。

 

 英文契約書の作成,チェック(レビュー/審査),翻訳(英訳/和訳),修正の依頼を受ける際によく受ける相談・質問に,「販売店が当局に登録される場合の注意点はありますか。」というものがあります。

 

 中東や中南米の法律などが代表例なのですが,国の法律によっては販売店や代理店を保護する目的で制定された法律(「販売店(代理店)保護法」)が存在する場合があります。

 

 この販売店保護法により,販売店や代理店が営業するには当局への登録が必要とされていることがあります。

 

 登録されると販売店保護法によって販売店(Distributor)は手厚い保護を受けられることになります。

 

 具体的には,メーカーによる契約終了には一定の猶予期間を設けなくてはいけなくなったり,終了させるには一定の金銭補償をしなければならないとされたりします。

 

 法律で登録が強制されていると登録しなければならないことになりますが,登録する際に気をつけなければならない点がほかにもあります。

 

 一般的に,販売店(Distributor)が当局に登録されると,登録を外す際にも販売店(Distributor)の同意・協力が必要になります。

 

 そのため,例えば,メーカーが販売店(Distributor)のパフォーマンスが悪いとして,契約を解除して別の販売店を指名したいと考えたとしても,旧販売店が協力して登録を外してくれないと新たな販売店の登録ができないということが起こるのです。

 

 こうした場面に備えて,販売店契約書(Distribution/Distributorship Agreement)に,契約終了の際には販売店登録の抹消について協力し,新たな販売店(Distributor)を妨害しないと記載しておくほうが良いでしょう。
 

 ただ,販売店(Distributor)と対立するような方法で契約を終了させた場合,契約書に協力義務が書かれていたとしても,協力してくれないこともあります。

 

 それどころか,国によっては登録している旧販売店が,新たに登録しようとする販売店に対し登録の差し止めを行うことができるということもあります。

 

 契約を終了させる場合は,後のことも考えて,あまり相手を怒らせるような方法では行わないことが大切です。

 

 また,他の方法としては,契約書締結と同時に,予め販売代理店から販売店の登録を抹消するための同意書にサインをしてもらい,日付を空欄にした同意書を提出しておいてもらうということも考えられます。

 

 なお,販売代理店が登録の抹消に協力してくれない場合には,販売店契約が終了したことを確認する判決書の写しを当局に提出すれば販売店登録の抹消ができるとされている場合もあります。

 

 この場合は,契約書で契約の終了原因・解除事由などを明確に取り決めておくことが大切です。

 

 そうでないと,判決で契約終了の確認を得ようとしても,終了原因が明確でなく,販売店契約終了の判決を得ることが難しいとなる可能性があるからです。

 

 この点からも,契約書を締結せずに販売代理店指名をしたり,中途半端な内容で契約書を締結したりすることが危険であるかが理解できると思います。

 

→next【英文契約書の相談・質問集308】販売地域での商品の法律適合性はどう考えれば良いですか。

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英文契約書の相談・質問集205 海外弁護士に依頼する際の注意点はありますか。(その2)

 

 英文契約書の作成,チェック(レビュー/審査),翻訳(英訳/和訳),修正の依頼を受ける際によく受ける相談・質問に,「海外の弁護士に依頼する際の注意点はありますか。」というものがあります。

 

 海外の弁護士に限らず,日本の弁護士に依頼する場合もそうですが,まずは,最初に何を依頼したいのかを,弁護士に正確に理解してもらうように,十分にコミュニケーションを取りましょう。

 

 ここで理解が一致しないと,無駄な費用と時間がかかったりして,お互いが不幸になりますので,依頼内容は明確化しておくことが最初の第一歩です。

 

 そして,依頼内容を明確にすることに加え,その案件で獲得したい目標をきちんと伝えて,弁護士と共有しましょう。

 

 例えば,契約違反をされて,自社が損害を受けたので,相手方に対して損害賠償請求をする交渉の代理業務を海外弁護士に依頼したいとします。

 

 この場合に,一見,損害賠償金の回収が獲得目標になるだろうと想像しますが,必ずしもそうではありません。

 

 依頼者によっては,「お金は取れなくても最悪いいのですが,二度と関わりたくないので,お互いにこれで何の関係もないということを約束させてほしい」ということが獲得目標だったりすることがあります。

 

 これは,弁護士側が丁寧に依頼者から事情を聞かないと,見落としてしまう可能性があります。

 

 特に,損害賠償金の金額に比例する成功報酬で依頼をしておきながら,実は,損害賠償金とは別の獲得目標があり,それを弁護士が理解していないとなると,弁護士は損害賠償金額を上げないと報酬が増えないため,損害賠償金の獲得に意識が向いてしまうということになりかねません。

 

 こういう不幸が起きないように,依頼内容のみならず,獲得目標も共有しておくことが大切なのです。

 

 そして,依頼の前には,見積(Quotation)を出してもらうようにしましょう。

 

 海外の弁護士の場合,多くの弁護士がタイムチャージ(Hourly Rate Charge)といって,1時間あたりいくらという時間制の報酬制度を採用しています。

 

 そのため,事前にその案件で弁護士がどの程度動く必要があるかがわからない場合,見積もりが出しにくかったりはします。

 

 ただ,依頼内容を限定して,「およその目安で良いのでお願いします」というと,大抵の場合は出してくれます。

 

 特に契約書の作成やレビュー業務の依頼の場合,交渉案件のように相手方がいないので,その弁護士自身の稼働で完結します。

 

 そのため,その弁護士がその件で動く時間を算出すればよいので,見積は出しやすくなります。

 

 ここで,最初にも述べたところですが,見積もり時には弁護士に依頼したいことを絞り込んで限定して伝えることをおすすめします。

 

 ざっくりと依頼内容を伝えてしまうと,中には,直接関係ないと思われる法令や判例を調べて,詳細なレポートを出してきて,それを作るのに使った時間をすべてチャージしてくるという海外弁護士もいます。

 

 そのため,どの範囲で業務をすれば良いのかを,きちんとこちらから限定して最初に伝えることが,弁護士費用を抑えるという意味でも必要です。

 

 つまり,言葉は悪いですが余計なことはさせないという意識も大切ということです。

 

 とはいえ,信頼関係も大切ですし,ある程度まとまった費用を払ってあげないと気持ちよく仕事をしてもらうことが難しいという面もあるのが現実です。

 

 過度にケチにならず,適正な業務をしてもらい,適正な報酬は払うという姿勢で依頼することが大切だと思います。

 

 弁護士業務も良くも悪くも「商売」という面があるため,ある程度の予算は確保して,適正料金を支払って良好な関係を作り,維持するという発想も大事だと思います。

 

→next【英文契約書の相談・質問集206】訴訟されるのが怖いのはどういう場合ですか。

 

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英文契約書の相談・質問集233 長期売買契約を締結する際の注意点はありますか。

 

 海外進出・海外展開をするときに必要になる英文契約書の作成,チェック(レビュー/審査),翻訳(英訳/和訳),修正の依頼を受ける際によく受ける相談・質問に,「長期売買契約を締結する際の注意点はありますか。」というものがあります。

 

 長期売買契約(Long-Term Sales Contract)とは,その契約自体で長期に渡りある商品や原材料の売買をしていくことを約束するものです。

 

 これに対し,基本売買契約(Basic Transaction Contract)などの場合は,売主と買主との間で長期に渡り取引を繰り返すことを予定していますが,あくまで,個別の発注・受注による個別契約を想定しています。

 

 その個別契約に共通して適用される条件を基本売買契約に書き込んで予め締結しておくという方法です。

 

 販売店契約(Distribution/Distributorship Agreement)も個別契約を想定しているので,基本売買契約と同じ性格を持っています。

 

 ところが,長期売買契約は,後で発注・受注のプロセスを予定していないもので,長期売買契約を交わした時点で,売主には商品や原材料の供給義務が長期的に生じますし,買主にはその代金で買い続ける義務が生じます。

 

 そのため,両者にとってリスクが高い契約形態だといえます。

 

 長期売買契約を締結する時の経済情勢で,長期的な売買を約束してしまいますので,その後に環境が変化した場合でも,原則として締結した契約内容に拘束されます。

 

 したがって,契約締結後の環境変化に対応することが可能な内容の条項を入れることが重要になるでしょう。

 

 環境変化により原材料の調達が困難になれば価格を上げる必要が出てくるでしょうし,逆に,原材料の供給が上向けば価格を下げる必要が出てくるでしょう。

 

 ただ,簡単に価格を変更するとなれば,長期売買契約を結んで,ある意味痛み分けで双方がリスクを取った意味もなくなってしまいます。

 

 難しいですが,できるだけ客観的に価格などを見直し,変更できる条項を入れるのが理想です。

 

 単に,「経済情勢の変化があれば当事者協議の上で価格改定ができる」という内容だけですと,どの程度の経済情勢の変化があれば価格変更になるのか,改定するとしてどういう基準にしたがってどの程度変更するのかがわかりません。

 

 価格計算の公式などを入れて,客観的・自動的に価格変更ができるようにするのが望ましいです。

 

 とはいえ,具体的な条項を考えて合意するのはかなり難しいでしょう。

 

 したがって,原材料などの安定供給を求めるなどの特別な要請がない限りは,できるだけ長期間にわたる条件を決めてしまう長期売買契約のスタイルは避けたほうが無難だと思います。

 

 それよりは,基本売買契約(Basic Transaction Contract)などを締結して,あくまで定期的な発注を予定し,発注時の状況により価格を見直せるようにしておいたほうが,基本的に安全といえるでしょう。

 

→next【英文契約書の相談・質問集234】相手の契約違反で被った損害は全額請求できますよね。

 

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英文契約書の相談・質問集230 製品の製造に関らなくても製造物責任を負うことはありますか。

 

 海外進出・海外展開をするときに必要になる英文契約書の作成,チェック(レビュー/審査),翻訳(英訳/和訳),修正の依頼を受ける際によく受ける相談・質問に,「製品の製造に関らなくても製造物責任を負うことはありますか。」というものがあります。

 

 製造物責任は,製品に欠陥があったことによって人が怪我をしたり,死亡したり,物が壊れたりした場合に,製造者等が負う責任のことです。

 

 最もわかりやすいのは,その製品を自社単独で製造し,これを自社で直接販売し,製品を市場に送り込んでいる場合です。

 

 これは,製造者が誰であるかも明確ですし,自社で製造した製品に欠陥があった場合に,その責任を負うというのは合理的ですし,理解しやすいでしょう。

 

 では,日本の販売店(Distributor)が,海外のメーカーから完成品を仕入れて,これを日本国内で販売していたという場合はどうでしょう。

 

 この日本の販売店(Distributor)は,製品の一部を加工しているなどということもなく,すでに完成した製品を仕入れて販売しているだけで製品の製造には一切関わっていません。

 

 それでも,この販売店(Distributor)は製造物責任を負います。

 

 日本の製造物責任法を前提に解説しますが,製造物責任を負う製造業者等には,製造物を製造した業者だけではなく,輸入者も含まれるからです。

 

 また,物理的に製品の製造そのものに関わっていなくても,製造物,その包装,取扱説明書等に製造業者として表示された者や,実質的な製造業者と認められる表示をした者なども含まれます。

 

 したがって,よくあるOEM形態でも注意が必要です。

 

 例えば,あるブランドをもった小売業者が,日本のある工場で生産された製品を仕入れて,自社のブランドを付して販売展開しているとします。

 

 この場合,実質的に,製造者がその小売業者であると表示したと認められる場合には,商品を輸入したわけでもなく,製造にも一切関わっていないにもかかわらず,小売業者が製造物責任を負うことになるのです。

 

 以上のように,製造物責任は,必ずしも製造者そのものでなくとも責任を生じうるものです。

 

 特に,日本企業が海外から商品を輸入販売する場合には,輸入者の規模などにかかわらず,法律上,輸入者であれば製造物責任を負いますので,注意が必要です。

 

 製造物責任が生じると損害が多大になるようなケースがありますので,PL保険(生産物賠償責任保険)に加入するなどの対策を立てる必要があります。

 

 この点,海外のメーカーと日本の販売代理店が契約する際には,PL保険(生産物賠償責任保険)に加入することが契約書で義務付けられていることがよくあります。

 

 日本国内の取引ですと,販売代理店がメーカーからPL保険(生産物賠償責任保険)に加入することを契約で義務付けられるというのはあまり一般的ではないと思います。

 

 ところが,海外取引ではPL保険(生産物賠償責任保険)加入を契約で義務付けるというのは一般的に行われますし,保険事故が起きた場合に支払われる保険金の金額まで「〇〇US$以上」などと指定されていることも多いです。

 

 このような保険加入義務があるのに,加入を怠っていると,理屈の上ではそれ自体が債務不履行・契約違反になりますので,十分注意しなければなりません。

 

 販売代理店が契約書に定めるとおりの保険に加入しているかをメーカーがチェックできるように保険証書(insurance policy)を交付するように義務付けていることも多いです。

 

→next【英文契約書の相談・質問集231】QuotationとEstimateの違いは何ですか。

 

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英文契約書の相談・質問集236 相手が契約違反をすれば契約を解除できますよね。

 

 海外進出・海外展開をするときに必要になる英文契約書の作成,チェック(レビュー/審査),翻訳(英訳/和訳),修正の依頼を受ける際によく受ける相談・質問に,「相手が契約違反をすれば契約を解除できますよね。」というものがあります。

 

 確かに,日本法の下では,相手方が相手の帰責事由によって契約に違反して債務不履行を行った場合には,契約違反をされた当事者は,相手に対し,損害賠償請求と契約解除ができると決められています。

 

 ただし,世界を見渡すと契約違反があった場合に契約解除が認められる法律ばかりではありません。

 

 そのため,英文契約書に定めた準拠法がどこの国の法律かによって,契約違反の場合に契約解除ができるかどうか異なってきます。

 

 例えば,英米法では,契約違反をされた場合の救済手段は,原則として損害賠償請求(Damages)であり,契約解除は例外的な救済措置に位置づけられています。

 

 英国法では,契約違反をされた場合の救済措置は,原則として損害賠償請求のみですが,違反した条項が契約の重要な要素に当たる場合は,例外的に解除も認められるとされているのです。

 

 その条項に違反しても損害賠償請求しか認められない条項は,Warrantyと呼ばれ,違反すれば損害賠償請求と解除の両方が認められる条項は,Conditionと呼ばれます。

 

 因みに,両者の中間的な位置づけとなる条項がIntermediate条項と呼ばれ,これは,その条項に違反すれば損害賠償請求は常に認められるものの,解除については契約違反の程度次第ということになります。

 

 このように法律によって,契約違反の場合の救済措置はまちまちなのです。

 

 これに加え,前述の英国法の例のように,条項の重要度に応じて解除が認められるかどうか,つまり,救済措置の内容が変わるということもあります。

 

 そのため,どの条項に違反すれば契約解除ができるのかを英文契約書で予め合意しておかないと,違反の場合の効果が不明瞭で不安定となってしまいます。

 

 したがって,英文契約書を作成,チェック(審査),修正する際には,Termination(解除)条項を設け,どのような違反をすると契約解除ができるのかについて明確に規定しておく必要があります。

 

 具体的には,何条に違反した場合に契約解除ができると定める方法が挙げられます。

 

 こうすれば,当事者がどの条項に違反したかを特定できさえすれば,契約解除ができるかどうかが明確になります。

 

 他には,具体的に何条に違反した場合に契約解除が認められるという定め方はせず,material breach(重大な違反)については契約解除が認められると決めることもあります。

 

 こちらの方法によると,どの条項に違反した場合にmaterial breachになるのかが曖昧であるという欠点がありますが,バッファーを持たせることができるので,契約違反をしてしまった当事者が契約解除を免れて救済されることに重点を置く場合には妥当性が高いともいえます。

 

→next【英文契約書の相談・質問集237】Forecastと定めれば法的拘束力はないですよね。

 

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英文契約書の相談・質問集234 相手の契約違反で被った損害は全額請求できますよね。

 

 海外進出・海外展開をするときに必要になる英文契約書の作成,チェック(レビュー/審査),翻訳(英訳/和訳),修正の依頼を受ける際によく受ける相談・質問に,「相手の契約違反で被った損害は全額請求できますよね。」というものがあります。

 

 契約違反・債務不履行があった場合,契約違反で損害を被った当事者は,債務不履行をした当事者に対してその損害を賠償するように請求できるという救済措置(損害賠償請求/Damages)は,多くの国の法律で採用されています。

 

 ただし,何を損害として認めるのか,賠償額をどう算定するのかという考え方については,各国でまちまちです。

 

 例えば,日本の民法では,その債務不履行によって通常生ずべき損害(通常損害)が原則として賠償の対象となるとされています。

 

 そして,例外的に,特別な事情によって生じた特別損害については,債務不履行をした当事者が,債務不履行当時に,その事情を予見すべきであったときは,賠償の対象になるとされています。

 

 英国法でも,通常損害が原則として認められ,上記の特別損害については,契約締結当時に,債務不履行をした当事者がその損害の発生を予見できた場合に限り認められるとしています。

 

 両者の考えは類似しているといえますが,予見可能かどうかの判断の時点が,日本では債務不履行時とされているのに対し,英米では契約締結時とされている点で異なっています。

 

 また,英国法では,Mitigationという概念があり,債務不履行を受けて損害を被った当事者は,合理的な範囲で損害の拡大を防止しないと,賠償を受ける額を減額されるという制度があります。

 

 このように,国の法律によって,どこまで損害賠償が認められるかの範囲や,その判断基準もまちまちです。

 

 そのため,もし英文契約書に損害賠償の範囲や判断基準について書かれていないと,法律や判例によって想像しなければならないという不安定な状況になってしまいます。

 

 相手の債務不履行によって自社が被った損害全額を常に請求できるというわけではないのです。

 

 したがって,英文契約書の作成,チェック(レビュー/審査),修正をする際には,損害賠償の範囲,免責の範囲などをきちんと交渉して,明確に定めておく必要があります。

 

 英文契約書では準拠法を定めるといっても,契約当事者双方が法律の内容を熟知しているとは限りませんので,可能な限り事前に合意して定めておくことが大切です。

 

 そうしないと,いざ契約違反が起きた際に,準拠法を調査して損害賠償額を算定することになり,そうして算定された損害賠償額が想定と大きく異なっていれば,トラブルが大きくなってしまいます。

 

 こうしたことを防ぐために,予め契約書において,損害賠償義務が発生する要件と,賠償される損害の範囲を定めておけば,上記のような不都合はある程度回避できるので,契約違反時のトラブルの拡大も防ぐことができます。

 

→next【英文契約書の相談・質問集235】販売店契約と代理店契約はどちらがリスクが高いですか。

 

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英文契約書の相談・質問集228 一般的に市場で流通するレベルであれば欠陥品とはいえませんよね。

 

 海外進出・海外展開をするときに必要になる英文契約書の作成,チェック(レビュー/審査),翻訳(英訳/和訳),修正の依頼を受ける際によく受ける相談・質問に,「一般的に市場で流通するレベルであれば欠陥品とはいえませんよね。」というものがあります。

 

 確かに,日本法でも,旧民法上の「瑕疵」(欠陥)とは,「その物が通常備えるべき品質と性能を欠いていること」と定義されますので,設問のように一般的に市場で流通するレベルの品質と性能を有しているのであれば,欠陥品とはいえないでしょう。

 

 ただし,各国によって法律や判例の内容も異なりますし,商慣習も異なります。

 

 また,商品によって求められる品質や性能にもレベルの違いがあるのが普通です。

 

 消耗品なのか,継続して使用する機械のようなものなのかによって,備えるべき品質も性能も自ずと異なるでしょう。

 

 私の経験した事例の中にも,日本ではアウトレット品になってしまうレベルの商品でも,生産国では問題なく正規品として市場に流通するという考えの違いが正面から問題になったケースがありました。

 

 輸入者である日本企業が海外サプライヤーに品質クレームを入れても,サプライヤーは自国では何ら問題なく売れる品質を備えているため,クレームをまともにとりあってくれなかったのです。

 

 このように,自社や自国の目線で考えた場合の欠陥品かどうかの基準が,相手方にそのまま適用できるかは不確実なのです。

 

 したがって,なんとなく品質を保証するなどと契約書に書いただけでは,どのレベルの品質を保証したのかがわからず,当事者の見解が一致せずにトラブルになることは容易に想像できます。

 

 こうした危険を回避するためには,やはり英文契約書で求められる品質についてできるだけ細かく合意しておくことでしょう。

 

 例えば,印刷のズレやインクのはがれなど細かいと思われるようなことでもどの程度のズレやはがれを許容範囲とするのかについて協議して合意しておかないと重大なクレームになることがあります。

 

 そのため,印刷のズレなどは正規の位置からプラス・マイナス何%ずれていても許容するなどと定めることもあります。

 

 国によっては,相当品質問題について許容度が高い国もありますし,細かくうるさい国もあります。

 

 また,商品によっては製造ラインの問題でどうしても一定の数量は問題がある商品が生産されてしまうということもあります。

 

 そのようなときは,そのような商品を全体の何割程度許容するのかについて予め合意することもあります。

 

 当然ですが,品質問題はビジネスの根幹に関わる大きな問題です。

 

 それゆえ,品質について取り決めるときは,誤解や見解の不一致が生じないように,できるだけ細かい内容まで踏み込んで合意しておくことが重要です。

 

 言葉・文章だけで取り決めるのではなく,図面などを利用してわかりやすく合意することも有効です。

 

→next【英文契約書の相談・質問集229】販売店の卸先が販売地域外に販売した場合は仕方ないですよね。

 

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英文契約書の相談・質問集282 弁護士が「大丈夫です」と明言しないのはなぜですか。

 

 英文契約書の作成,チェック(レビュー/審査),翻訳(英訳/和訳),修正の依頼を受ける際によく受ける相談・質問に,「弁護士が『大丈夫です』と明言しないのはなぜですか。」というものがあります。

 

 もちろん,質問内容にもよるのですが,法律問題は大抵「幅」(バッファー)があり,100%の確率で断言できることのほうが少ないため,弁護士はときに断定を避ける傾向にあります。

 

 そもそも,弁護士が勝訴見込みなどについて断言してはならないと法律で決められていることも影響しています。

 

 さらに具体的に説明すると,例えば,法律にそのケースが適法になることがそのまま書かれていたり,そのケースとほぼ同じケースにおいて最高裁が適法だと言っていれば,「適法です」と弁護士も自信をもって回答できるでしょう。

 

 ただ,法律相談は,そのような明確で簡単な相談ばかりではありません。グレーで微妙だからこそ弁護士に相談するわけです。

 

 また,上記のように,自社が行うことについて大丈夫かどうかということだけではなく,相手方がいる場合,自社の行動によって相手方がどう動くかというのは,自社でコントロールできません。

 

 相手が契約書の内容や法律通りに行動してくれる保証があれば,かなりの確度をもってアドバイスできるかもしれませんが,そうはならないため,仮定の話がどうしても多くなります。

 

 したがって,およそ法的問題は,100%安全とできることはめずらしく,問題が起こる確率をどれだけ下げられるかという問題に集約されるのです。

 

 そのため,問題が起こる可能性をできる限り低くするためのあらゆる行動を取っておき,問題が生じる可能性がゼロではないが,最大限低くしたという段階で前に進むということが大切になってきます。

 

 このように法律問題には「幅」(バッファー)がありますので,「これをやったから安全」,「これをすれば大丈夫」というよりは,「あらゆる手を尽くしてできるだけ安全を目指す」というイメージが正解に近いです。

 

 契約書の内容を考えるのもそうですし,普段から証拠を残しておくのもそうですし,アクションを起こすためのプロセスを検討するのもそうですし,相手方に出すレターの内容を考えるのも,すべて「より安全な状態」を目指す活動です。

 

 こうした一つ一つの行為がすべて影響して,法的リスクが小さくなっていくというイメージです。

 

 この点が理解できれば,弁護士が断定せずに,可能性の話をする傾向にあるのも理解できるかと思います。

 

 問題が起こる可能性をできるだけ低くするための全方位的行動をとることが,予防法務の重要なテーマとなります。

 

 そして,弁護士の見解を参考に最終的に意思決定をするのはやはりクライアントです。

 

 弁護士はクライアントができるだけ「正しい」意思決定ができるように,様々なリスク要因を分析し,選択肢を提示するのが仕事と言えるでしょう。

 

 クライアントにとって何が正解かは,各クライアントの状況により異なりますから,弁護士とディスカッションをするうちに,弁護士の見解も変化してくることもよくあります。

 

 これは,クライアントの置かれている状況や目指す方向性について情報が共有できてきたからこそ起こる現象です。

 

 弁護士の見解は決してガチャガチャのように機械的に出てくるものではないと理解されておくと良いかと思います。

 

→next【英文契約書の相談・質問集283】取引開始前に最も重要なことは何ですか。

 

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英文契約書の相談・質問集284 基本売買契約と長期売買契約の違いは何ですか。

 

 英文契約書の作成,チェック(レビュー/審査),翻訳(英訳/和訳),修正の依頼を受ける際によく受ける相談・質問に,「基本売買契約と長期売買契約の違いは何ですか。」というものがあります。

 

 長期売買契約はLong-Term Sales Contract,基本売買契約はBasic Sales Contractなどと英語では表現します。

 

 特に呼び方によってこうなるという法律やルールがあるわけではないので,どの用語を使っても,実際の契約の中身によってその取引の性質が決まるのですが,上記の用語には一応の想定される形態のようなものがあります。

 

 基本売買契約という呼び方をした場合は,その契約自体で売買をするわけではなく,基本売買契約に書いてある条件で,今後個別の取引を発注・受注するという内容の契約になります。

 

 つまり,基本売買契約を締結した後に,個別売買契約が予定されていることになり,個別売買契約があってはじめて,売買に関する法律上の権利義務が生じるということになります。

 

 これに対して,長期売買契約は,その契約自体ですでに売買の約束をしてしまう契約のこといいます。

 

 長期売買契約の契約書に,何を何個いくらで売って,いつ引き渡すのか,売買代金はどのように支払われるのか,すべて結論を書き込んで,長期の売買を成立させてしまう契約ということになります。

 

 そのため,あとで発注するとか受注するとかの行為は予定されていません。

 

 もし,売主が長期売買契約書に書かれているとおりに商品や原材料という売買目的物の供給ができないとなれば,すでに約束した義務を履行できない=債務不履行ということになり,契約の解除や損害賠償請求などを受ける可能性があるということになります。

 

 間違えることはないと思いますが,その契約自体ですでに長期計画で売買をすることを決めてしまうのか,基本事項を決めておいてその後に発注ベースで売買をするのかによって,契約内容がまったく異なりますので,注意して下さい。

 

 特に,自社で英文契約書をドラフトするのではなく,相手方が契約書を出してくる場合には注意して下さい。

 

 もし内容が長期売買契約になっていると,自社が売主なのであれば供給義務が直ちに生じることになりますし,買主なのであれば直ちに継続的に購入する義務が生じます。

 

 契約書の名称で必ずそうなるということではないのですが,長期売買契約と基本売買契約では,上記のように根本的な違いがありますので,注意しましょう。

 

 どちらが妥当かは,もちろん当事者がどのような取引を目指しているのかによりますが,法的に考えると,一般的には長期売買契約のほうがリスクが高いといえるでしょう。

 

 将来の財務状況などが変化する可能性があるのに,ある時点で長期的に売買をすでに法的拘束力のある形で約束してしまうからです。

 

 また,ビジネス的に見ても,将来の経済情勢や自社の財務状況が不透明である異常,長期売買契約のほうがリスクが高い契約であるといえるでしょう。

 

→next【英文契約書の相談・質問集285】独占販売権を制限する方法を教えて下さい。

 

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英文契約書の相談・質問集235 販売店契約と代理店契約はどちらがリスクが高いですか。

 

 海外進出・海外展開をするときに必要になる英文契約書の作成,チェック(レビュー/審査),翻訳(英訳/和訳),修正の依頼を受ける際によく受ける相談・質問に,「販売店契約と代理店契約はどちらがリスクが高いですか。」というものがあります。

 

 日本企業が,海外のメーカーの商品を日本で販売展開したいと考えたとします。

 

 この場合の方法は,大きく分けて①販売店契約(Distribution/Distributorship Agreement)か,②代理店契約(Agency Agreement)という2つの方法があります。

 

 販売店契約のほうは,販売店(Distributor)となる日本企業が,海外メーカーから直接商品を購入して,在庫もって販売展開するという手法です。

 

 自社が買主になって在庫を抱えますので,売れなければ在庫の焦げ付きというリスクがあります。

 

 また,自らが商品を仕入れるという意味では買主ですが,購入した商品を日本の卸や小売に商品を売りますので,同時に売主でもあります。

 

 そのため,販売店は売主として契約不適合責任(旧瑕疵担保責任)などの法的責任も負うことになります。

 

 さらに,販売店はメーカーから商品を輸入しているので,製造物責任法が定めている輸入者として製造物責任も負います。

 

 つまり,輸入した商品に欠陥があり,その欠陥が原因で人が怪我をしたり死亡したり,物が壊れたりした場合の損害を賠償する責任があるということです。

 

 このように,販売店契約(Distribution/Distributorship Agreement)は,かなり責任が重く,リスクが高い契約形態だといえます。

 

 これに対して,代理店契約は,代理店(Agent)が自ら商品を仕入れることはなく,代理店は日本国内の顧客や潜在顧客に営業をかけるだけという販売手法です。

 

 そして,顧客や潜在顧客が海外メーカーの商品を購入したいということになれば,海外メーカーからその顧客に対し商品を売らせます。

 

 つまり,自らは商流に入ることなく,あくまで商品の売買はメーカーと顧客との間で直接行われ,完結します。

 

 要するに代理店契約は手数料ビジネスですので,初期投資が小さく,在庫リスクもありません。

 

 そして,代理店が紹介した顧客に対するメーカーの売上から,一部を手数料(コミッション)として,代理店は利益を受け取ります。

 

 このように,代理店契約(Agency Agreement)では,代理店は買主にも売主にもなりません。

 

 そのため,売主としての責任も負いませんし,輸入者にもなりませんので,輸入者としての製造物責任も負いません。

 

 したがって,販売店契約(Distribution/Distributorship Agreement)に比べて,代理店契約は,ビジネス上のリスクや法的責任の度合いが小さいといえます。

 

 もっとも,そのかわり,代理店は割と低率な手数料しか受け取ることはできず,利幅は販売店のほうが良いです。

 

 販売店は,自分で小売価格を設定して粗利を決められますが,代理店は自分で小売価格を決められ粗利を決定できるわけではなく,あくまでメーカーの手数料に縛られるからです。

 

 ビジネスは一般的にハイリスクであればハイリターンが期待でき,反対にローリスクであれば小さなリターンしか期待できないと言われますが,ここでもこの原則は当てはまります。

 

 どちらが良いかは商品の性質や,メーカーとの関係,手数料率,見込み利益などによって,ケースバイケースで決定されます。

 

 とはいえ,リスクを取って大きく稼ぎたいのであれば販売店ビジネスを目指すべきですし,リスクを抑えて手堅く稼ぎたいのであれば代理店ビジネスを選ぶべきということはいえるでしょう。

 

 いずれにせよ,どちらを選択するかで,ビジネスモデルそのものが大きく変わるので,十分に吟味してからスタートさせる必要があります。

 

 日本では,販売店と代理店を厳密に区別することなく考えられていることがあります。

 

 ただ,上述したとおり,両者は利益の上げ方についても法的な責任の大きさについても相当に異なる特徴を持っています。

 

 そのため,契約交渉の入り口の段階でどちらのビジネスにするのかをきちんと整理して交渉をするようにし,販売店なのか代理店なのかを明確にしないまま条件交渉をしないようにしましょう。

 

→next【英文契約書の相談・質問集236】相手が契約違反をすれば契約を解除できますよね。

 

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英文契約書の相談・質問集237 Forecastと定めれば法的拘束力はないですよね。

 

 海外進出・海外展開をするときに必要になる英文契約書の作成,チェック(レビュー/審査),翻訳(英訳/和訳),修正の依頼を受ける際によく受ける相談・質問に,「Forecastと定めれば法的拘束力はないですよね。」というものがあります。

 

 英文で販売店契約(Distribution/Distributorship Agreement)を作成する際に,販売店(Distributor)が,年間や四半期ごとにどの程度商品を購入するのかという販売予測を定めることがあります。

 

 この場合,あくまでForecast(予測)なので,通常は,法的拘束力はないものと考えられます。

 

 つまり,販売店(Distributor)としては,予測値を実際の購入量が下回ったとしても,特にペナルティは受けないというのが一般的な考え方だと思います。

 

 ただし,もし,メーカーが取り扱っている製品に比較的長期のリードタイムが設定されているような場合,メーカーは販売予測に従って,生産に入らなければならないとか,製品の仕入れを起こさなければならないなどという事情があります。

 

 こうした事情の下,メーカーが販売店契約(Distribution/Distributorship Agreement)で定められた予測にしたがって,製品を製造したり仕入れてしまってコストがかかっているという場合には,ケースによっては,そのコストを販売店(Distributor)に請求するということがありえます。

 

 その際に,単にForecastとしか書かれていないと,販売店(Distributor)が責任を負うケースもありえます。

 

 こうしたことを回避するためには,Forecastの性質をはっきりと英文契約書に明記しておくことが大切です。

 

 具体的には,法的拘束力はなく(英語ではnon-bindingといいます),上記のようなケースででも,販売店(Distributor)がメーカーの負担したコストについて責任を負わないのであれば,そのことを具体的に明記することが考えられます。

 

 または,もう少し一般化して,ForecastはNon-binding(法的拘束力がない)なただの参考値に過ぎないため,Forecastに実際の購入量が達しなくとも販売店(Distributor)は責任を負わないと記載することも考えられます。

 

 このように,Forecastといってみても,場合によってはクレームが起こる可能性があるので,Forecastという用語を使用しているから安全だとは考えず,より具体的に危険を想定し,どういう意味で使用しているのかを明記する姿勢が大切です。

 

 このことはForecastという用語にだけ当てはまることではなく,英文契約書全般に当てはまる内容です。

 

 用語を使用する際,それがその準拠法の法律用語として広く共通に理解されているという場合以外は,きちんとその用語の意味を定義して使用したほうが無難です。

 

 例えば,Targetというような用語も,単なる目標値で努力義務に過ぎないのか,法的拘束力のある義務としての最低購入数量/金額(Minimum Purchase Quantity/Amount)なのかは,明確にし,もし未達の場合にはどのようなペナルティがあるのかも具体的に書くべきということになります。

 

 相手も自社と同じように理解しているだろうというのは単なる思い込みの可能性があり,危険です。必ず用語の具体的な意味を説明するようにしましょう。

 

→next【英文契約書の相談・質問集238】会社ではない個人に代理店を依頼する場合の注意点は何ですか。

 

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英文契約書の相談・質問集241 小売価格・市場価格をコントロールしたいのですが。

 

 英文契約書の作成,チェック(レビュー/審査),翻訳(英訳/和訳),修正の依頼を受ける際によく受ける相談・質問に,「小売価格・市場価格をコントロールしたいのですが。」というものがあります。

 

 例えば,日本のメーカーが,販売店契約(Distribution/Distributorship Agreement)を締結し,販売店(Distributor)に現地の国の市場で商品を販売展開してもらおうと考えたとします。

 

 その商品はハイブランド品で,ターゲット層が富裕層なので,安売りをされると困るとしましょう。

 

 このような場合,販売店(Distributor)に対し,再販売の際の価格を指示し,それを守って販売するように契約書で命じることができるのかという問題です。

 

 これは,競争法や独占禁止法という法律で,多くの国が禁止している行為です。

 

 日本でも,独占禁止法により,「再販売価格指定」として禁止されています。

 

 そのため,契約書などで再販売価格を指定して販売店(Distributor)に守らせるというのは多くの場合違法になります。

 

 販売店(Distributor)にこの価格で販売して欲しいという要望があったとしても,メーカーとしての希望小売価格として伝え,強制はできないと考えておいたほうが良いでしょう。

 

 とはいえ,ハイブランド品に価格破壊などが起きれば,販売店(Distributor)の利益率も悪くなります。

 

 そのため,販売店(Distributor)としても有効な価格帯を探ることに大きな関心があります。

 

 この点をメーカーとしてどう考えるか,どのような戦略が最も成果を上げるかなどを販売店(Distributor)と十分話し合って,強制ではなく,有効な価格戦略として十分に理解してもらうことが大切です。

 

 命じることはできませんが,メーカーの希望小売価格の根拠をしっかりと伝えて,販売戦略として理解をしてもらえれば,商品のブランド価値を毀損するような価格を設定することはなくなるでしょう。

 

 月次な言い方になってしまいますが,販売店(Distributor)としてもビジネスで商品を販売しているのですから,合理的に利益ができる価格を設定したいという思惑があります。

 

 その思惑にピタッとフィットするような価格を提案できればWin-Winの関係を構築できるので,販売店(Distributor)としても意味のない安売りはしなくなるでしょう。

 

 かの著名な経営者稲盛和夫氏も「値決めは経営」と言っています。それほど,値決めは難しい課題ですから,安易に販売店(Distributor)に販売価格を支持すれば済む問題と考えてはいけません。

 

 以上述べたとおり,市場をコントロールするような行為は,多くの国で競争法や独占禁止法という法律で禁止されていますので,知らずに行うということがないように注意して下さい。

 

→next【英文契約書の相談・質問集242】販売店は改良品も自動的に取り扱えますよね。

 

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英文契約書の相談・質問集242 販売店は改良品も自動的に取り扱えますよね。

 

 英文契約書の作成,チェック(レビュー/審査),翻訳(英訳/和訳),修正の依頼を受ける際によく受ける相談・質問に,「販売店は改良品も自動的に取り扱えますよね。」というものがあります。

 

 例えば,日本のメーカーが外国でマーケット開拓をしたいと考え,現地に販売店(Distributor)を指名して現地企業と販売店契約(Distribution/Distributorship Agreement)を交わしたとします。

 

 通常,販売店契約(Distribution/Distributorship Agreement)を締結する場合,現地の販売店(Distributor)に取り扱ってもらう商品を特定して契約します。

 

 取扱商品の指定方法はいくつかありますが,製品名称や製品番号などを記載して,仕様書や写真を載せたりして,商品の特定を行います。
 

 メーカーが製品ごとに販売店(Distributor)を変えて,別々に販路開拓したいなどと考えている場合,特に注意が必要です。

 

 というのは,販売店の取扱商品を特定しないと,すべての商品が対象となりかねず,そうなると,独占的販売店契約(Exclusive Distribution/Distributorship Agreement)などの場合,ほかの販売店に一定の商品を任せるということができなくなってしまうからです。

 

 では,販売店の取扱商品が決まって取引が行われている間,対象商品のアップグレード版,つまり改良品が開発された場合,販売店は改良品も販売できるのでしょうか。

 

 英文契約書に,改良品についての記載があれば,その記載どおりになるので,問題になることはないでしょう。

 

 ところが,英文契約書に改良品のことが何も書かれていない場合は,問題になることがあります。

 

 販売店(Distributor)としては,取扱商品がバージョンアップされて改良されただけで,製品としては同じなのですから,当然取り扱えると考えるでしょう。

 

 これに対して,メーカーは,改良品はまた別の商品であり,既存の販売店(Distributor)には売ってほしくないと考えることがあります。

 

 そのため,改良品について最初から契約書に明記しておくのが最も安全ということにはなりますが,書いていないこともあります。

 

 では契約書に記載がない場合にどのように考えるかですが,一般的には,取扱商品として記載されている商品のアップグレード版であれば,商品としては同一カテゴリーの範囲内にあると考えられると思います。

 

 そのため,原則としては,販売店(Distributor)が改良品も取り扱えるという結論になることが多いとは思います。

 

 ただし,改良の程度が著しく,ほとんど前のものは別物であり,商品名も変わったというような場合は,別商品として,自動的に販売店(Distributor)が取り扱えるようになるわけではないということもあると思います。

 

 したがって,販売店(Distributor)に一手に手広く商品を販売展開してもらいたいという場合は特に問題ないと思いますが,大きな商品開発が予定されていて,そのタイミングではまた販売展開の手法を改めて考えたいというようなケースでは,あらかじめ契約書で対応しておいたほうがより安全だとは思います。

 

 この問題に限らず,契約書関連で紛争になるケースというのは,往々にして当事者の一方と他方が前提にしている理解が異なっていて,それが交渉時に露見しないまま取引が始まってしまうパターンに多いです。

 

 本件で言えば,サプライヤーは改良版は販売店契約の対象ではないと考えていて,販売店は対象だと考えているのですが,その点は契約書に書いていないし,高所持にも問題提起されなかったというケースが当てはまります。

 

 このようなことにならないように,あらゆる事態を想定して,話し合うべき事項を交渉のテーブルに載せて議論するようにしましょう。

 

→next【英文契約書の相談・質問集243】アフターサービスについてはどう考えれば良いですか。

 

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Business day(英文契約書用語の弁護士による解説)

 

 英文契約書を作成,チェック(レビュー/審査),翻訳(英訳/和訳),修正する際によく登場する英文契約書用語に,Business dayがあります。

 

 これは,英文契約書で使用される場合,通常,「営業日」という意味で使用されます。

 

 対義語としては,Calendar dayが挙げられます。こちらは,「暦日」となります。

 

 Business dayとされたときは,休日(Bank holiday)は含まれないことになります。

 

 ただ,休日は国によって違います。

 

 そのため,「◯◯営業日以内に支払わなければならない」という規定があった場合,どちらの国のことを指すのかがわからず,後で支払期日をめぐり問題が起こることがあります。

 

 一般的には,その義務を履行する側の営業日が適用されると考えて良いと思いますが,まれにこうした問題が起こるので,どちらの国の話をしているのかを明記することもあります。

 

 特に,支払期日や納期がタイトで短い場合には,1日のずれで履行遅滞という債務不履行になるのかどうかが決まるということもあり,休日と考えて良い日にちが何日なのかが重要になります。

 

 なお,単に〇〇daysと表記されているときは,原則としてCalendar day(暦日)になると考えて良いと思います。

 

 日数や期間は契約義務の履行に密接に関連し,勘違いして納期や期日に遅れると手痛いダメージを受けることがありますので,注意が必要です。

英文契約書の相談・質問集244 当局の販売許可が得られない場合不可抗力ですよね。

 

 英文契約書の作成,チェック(レビュー/審査),翻訳(英訳/和訳),修正の依頼を受ける際によく受ける相談・質問に,「当局の販売許可が得られない場合不可抗力ですよね。」というものがあります。

 

 例えば,日本のメーカーが海外の企業を販売店(Distributor)に指名して,販売店契約(Distribution/Distributorship Agreement)を締結し,ある商品を現地で販売展開しようとしたとします。

 

 この場合に,当該商品を販売店(Distributor)が販売するには,現地の行政機関の許認可を取得取得する必要があるという場合があります。

 

 販売店(Distributor)がおそらくこの許可を取得できるだろうという目論見のもとに,メーカーも販売店(Distributor)も海外展開の準備を行い,相当の費用を使っていたとします。

 

 ところが,しばらく活動しても,当局から許認可が得られず,最終的に許認可は得られないという結論になってしまいました。

 

 販売店契約(Distribution/Distributorship Agreement)には,販売店(Distributor)が,許認可が必要な場合には当局の許認可を受けなければならないという義務が記載されています。

 

 また,損害賠償条項や解除条項も定められていて,当事者の契約上の義務違反は損害賠償請求や解除の対象になると規定されています。

 

 そのため,メーカーとしては,販売店(Distributor)が許認可の取得に失敗したことでこれまでビジネスの準備のために費消したコストなどが無駄になってしまったのですから,これらを損害として販売店(Distributor)に賠償請求したいと考え,請求をしました。

 

 これに対し,販売店(Distributor)としては,許認可を得るために必要な書類はすべて準備し,できることはすべて行ったのに最終的に許認可が出されなかったということであり,自分たちのせいではないと考えています。

 

 これを基に,販売店(Distributor)は,許認可の不取得は自社のコントロールが及ばない不可抗力によるものであり,自社に責任はないと主張してきました。

 

 契約書には,不可抗力(Force Majeure)免責の条項があり,当事者の責めに帰すことができない不可抗力によって相手方に損害を与えたとしても,その損害の賠償はしなくて良いと書かれています。

 

 この場合,どちらの言い分が正しいでしょうか。

 

 これは微妙な問題をはらんでいます。

 

 不可抗力事由に「許認可が取得できなかったとき」が明確に挙げられていれば,不可抗力に相当することが明らかですが,記載がないと,不可抗力といえないという結論になることも十分考えられます。

 

 許認可が出ないという事態は自然災害のようなものとは異質ですから,当事者がコントロールできない事態と果たしていえるのかという,解釈が曖昧な問題になってしまうのです。

 

 このように,許認可を得られなかった場合の取扱いについて契約書に記載いていないと,契約書の条項の解釈で揉めて,トラブルになることがあります。

 

 そのため,英文契約書で事前に,許認可の取得方法(具体的に何をすることが義務なのか),申請時期,いつまでに取得できなかったら取得不可能と判断するか,取得不可能となった場合にどちらがどのように費用負担し,契約をどうするのかなどを話し合って,取り決めておくのがベストです。

 

 許認可の取得については手続き的な面が大きいので,取得できるかどうか事前に予測することもある程度容易ですが,そうはいっても不測の事態が起こったり,異常に時間がかかったりすることがあります。

 

 したがって,甘く見て何も記載しないということがないように,英文契約書を作成,チェック(レビュー/審査),翻訳(英訳/和訳),修正する際には,許認可に関する規定が作り込まれているか確認する必要があります。

 

→next【英文契約書の相談・質問集245】書面通知は相手に届かないと効力がないですか。

 

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英文契約書の相談・質問集247 Credit noteとは何ですか。

 

 英文契約書の作成,チェック(レビュー/審査),翻訳(英訳/和訳),修正の依頼を受ける際によく受ける相談・質問に,「Credit noteとは何ですか。」というものがあります。

 

 例えば,日本のメーカーが海外の企業を販売店(Distributor)として指名し,販売店契約(Distribution/Distributorship Agreement)を締結して,商品を輸出販売していたとします。

 

 ところが,あるときに販売店(Distributor)に卸した一部の商品が不良品であることが判明しました。

 

 そこで,販売店(Distributor)は不良品の返品を要求し,メーカーはこれを承諾しました。

 

 返品を受けたメーカーは,その不良品の代金を販売店(Distributor)に返金しなければなりません。

 

 ただ,販売店(Distributor)は今回たまたま不良品があっただけで,その他にこれまで問題があったこともなく,これからもメーカーの商品を取り扱いたいと考えています。

 

 メーカーもその販売店(Distributor)と今後も取引を続けて行きたいと考えています。

 

 この場合,不良品に相当する代金を返金したところで,送金手数料が無駄になったり,為替レートの影響で場合によって損をするだけです。

 

 そのため,このような場合は,返金はせずに,Credit noteという書類をメーカーが発行して,次回の発注の際にそのCredit noteに記載された代金を減額してもらうという方法が取られることがあります。

 

 相殺処理のようなもので,これにより,返金の手間や無駄をなくすことができます。

 

 信頼関係があれば,このような方法で処理するほうがお互いにメリットがありますので,このような方法が取られることがあります。

 

 以上がCredit noteについての解説です。

 

 似たようなことは,欠陥品があったときの商品の交換でも行われることがあります。

 

 販売店が受領した商品の一部に欠陥があった場合,メーカー代品を納入することがありますが,小ロットの代品を輸送するとコストがかさみます。

 

 そのため,販売店と合意しておき,欠陥品の代品は次回発注時に次回発注品と一緒に発送するとしておくのです。

 

 こうすることで商品の輸送コストの無駄を省くことができます。もちろん,販売店には,商品の到着が遅れるという不利益がありますので,販売店と合意の上で行う必要があります。

 

→next【英文契約書の相談・質問集248】交渉が有利になるタイミングはありますか。

 

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英文契約書の相談・質問集246 EU圏内の国の販売店に対し販売地域制限はできますか。

 

 英文契約書の作成,チェック(レビュー/審査),翻訳(英訳/和訳),修正の依頼を受ける際によく受ける相談・質問に,「EU圏内の国の販売店に対し販売地域制限はできますか。」というものがあります。

 

 例えば,日本のメーカーがドイツの企業を販売店(Distributor)に指名して,販売店契約(Distribution/Distributorship Agreement)を締結したとします。

 

 その際,販売店に対し,販売地域はドイツ国内に限定し,ドイツ国外に商品を売ってはならないという義務を課したとします。

 

 販売店契約では,このように販売地域(Territory)を制限するということは一般的に行われています。

 

 しかしながら,販売店がEU加盟国に所属している場合,注意が必要です。

 

 なぜなら,EUの規制(EU競争法)では,販売店が能動的に(Actively)商品を販売地域外に販売してはならないという規定は有効であるが,販売地域外のEU地域内の企業から求められて受動的に(Passively)販売することまでは禁止してはならないとされているからです。

 

【参考】

・EU機能条約第101条

「加盟国間の取引に影響を与えるおそれがあり,かつ,域内市場の競争の機能を妨害し,制限し,若しくは歪曲する目的を有し,又はかかる結果をもたらす事業者間の全ての協定,事業者団体の全ての決定及び全ての共同行為であって,特に次の各号の一に該当する事項を内容とするものは,域内市場と両立しないものとし,禁止する。
 

a 直接又は間接に,購入価格若しくは販売価格又はその他の取引条件を決定すること

 

b 生産,販売,技術開発又は投資を制限し又は統制すること

 

c 市場又は供給源を割り当てること

 

d 取引の相手方に対し,同等の取引について異なる条件を付し,当該相手方を競争上不利な立場に置くこと

 

e 契約の性質上又は商慣習上,契約の対象とは関連のない追加的な義務を相手方が受諾することを契約締結の条件とすること」

 

 そのため,販売店契約において,「販売地域外から来た注文を受けてはならず,すべてサプライヤーにその引き合い・問合せを回さなければならない」という規定は,無効になってしまうことになります。

 

 したがって,もし販売店がEUに属する国の企業なのであれば,あくまで販売店から能動的に販売地域外に向けて商品を販売してはならないという趣旨の規定にとどめておき,受動的な販売は禁止できないと理解しておくと良いでしょう。

 

 ここで,何が「能動的(Actively)」な販売なのかが問題になりますが,わかりやすいのは積極的に広告宣伝や営業活動などをして販売地域外にも販売していることをアピールして販売することが挙げられると思います。

 

 このような行為を禁止するという程度の規制であれば有効になる余地があると考えておくと良いかと思います。

 

 もちろん,販売店との話し合いでマーケットを分割し,販売店としても自発的にドイツ国内でしか販売をするつもりはないというのであれば,特に競争法に違反するということにはなりません。

 

 メーカーが販売店の受動的な販売行為まで禁止するという行為が問題になるということです。

 

  もっとも,販売店の販売地域外へのactive sale(能動的な販売)のみを禁止している規定となっていても,以下のように問題になるケースがあるので,注意が必要です。

 

 例えば,EU地域内のいくつかの国においてのみ販売店を指名していて,それ以外のEU地域内の国については販売店も指名していなければ,サプライヤーが直接その国に商品を販売するということもしていないとします。

 

 要するに,EU圏内の国にいくつか販売店もなければサプライヤーが直販もしていない空白の商圏があるということです。

 

 このような状態であるにもかかわらず,いくつかの国における販売店に対し,その国以外にはactive sale(能動的な販売)をしてはならないとしていると,誰も商圏を任されていない空白の地域があるにもかかわらず,販売店がactive sale(能動的な販売)を禁止されていることになります。

 

 このような状態は,EUの経済圏における自由な経済活動に対する不当な制限であるとしてEU競争法上問題になる可能性があるのです。

 

 とはいえ,同時期にEUの全地域に販売店を指名したり,サプライヤーが直接商品を売ったりすることは困難であると考えられます。

 

 そのため,このような状態が作出されれば直ちに違法となるとは考えにくいですが,もしこうした状態が長期間続くようであれば,EU競争法違反の問題を生じうることには注意したほうが良いでしょう。

 

 さらに,一定のEUのテリトリー内に2社以上の販売代理店を指名しているようなときも注意が必要です。

 

 この場合,テリトリー内を特定の者に独占させている状況にはないため,このテリトリーに対して,たとえ能動的な販売のみであっても販売を禁止すると,EU競争法に違反する可能性があります。

 

 そのテリトリー内に複数の販売代理店が存在している以上,そのテリトリーは特定の販売代理店に割り当てられているわけではないため,自由な市場として開放されているとすべきだという考えからだと思われます。

 

 具体例で説明しますと,例えばフランス国内に販売店が2社指名されているときに,ドイツの販売店との販売店契約において「フランスを含めてドイツ国外の地域に能動的販売をしてはならない」とすると競争法により違法になる可能性があるということです。

 

 加えて,もう一つ注意点があります。

 

 それは,サプライヤーが販売代理店に対し,「その販売代理店が再販する先の小売店などが販売代理店の販売テリトリーを越えて商品を販売することを禁止しなければならない」とか,「販売代理店のテリトリー外に商品を販売することがわかっているならその小売店などには商品を卸してはならない」などという取り決めをするとEU競争法に違反するということです。

 

 具体的に説明すると,販売代理店のテリトリーがドイツ国内である場合に,販売代理店の売先がフランスの顧客に販売していくことがわかっているとします。

 

 このような場合を想定して,販売店契約で,販売代理店はその売先(テリトリー外=フランスの顧客に販売することがわかっている)に対して能動的に商品を売ってはいけないという禁止規定を入れることがあります。

 

 これにより,最終的にドイツ国内をテリトリーとする販売代理店の商品が他国に流れることを防ごうという狙いがあります。

 

 ただ,こうした規定はEU競争法に違反する可能性が高いです。販売代理店の顧客がどの地域の顧客に販売しようがそれは顧客の自由にすべきだという考えが背景にあるからです。

 

 他にも,販売店がインターネット販売をすることを避けるために,インターネットリテーラーに対して商品を販売してはならないなどという取り決めをすることがあります。

 

 インターネット販売は容易に国境を越えるので販売地域を守らせるために禁止したいという思惑からこのような規定が設けられることがあります。

 

 しかしながら,このような制限の規定もEU競争法に違反することになります。

 

 以上のように,EUでは市場の単一性を保持するために様々な規制をしており,EUの商圏をサプライヤーが考えるとおりにコントロールするのは極めて難しい状態になっていますので,注意が必要です。

 

→next【英文契約書の相談・質問集247】Credit noteとは何ですか。

 

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英文契約書の相談・質問集248 交渉が有利になるタイミングはありますか。

 

 英文契約書の作成,チェック(レビュー/審査),翻訳(英訳/和訳),修正の依頼を受ける際によく受ける相談・質問に,「交渉が有利になるタイミングはありますか。」というものがあります。

 

 納品された一部の商品が不良品かどうかが問題になり,返品を受け入れるべきかどうか揉め事が起きて,当事者間で交渉することになったとします。

 

 買主は不良品だから返品できると主張し,売主は不良品ではないから返品は受け入れないと主張していたとします。

 

 ここで,今回納品した代金はまだ一切支払われていないとします。

 

 この場合,若干買主のほうが交渉のタイミングとしては有利です。

 

 なぜなら,問題になっていない商品の代金がまだ支払われていないので,売主としては,問題のない商品の代金は早く支払ってほしいという「弱み」があるからです。

 

 売主は,買主から「問題がある商品の返品を受け入れてくれないのなら,全体が解決していないから他の商品の代金も支払わない」と言われてしまうと,それが法的にとおる主張かどうかはさておき,現実に資金繰りに影響が出て困ってしまいます。

 

 そのため,このような場合は,なるべく早く問題のない商品の代金を着金させたいという動機が働くため,売主側が譲歩する可能性が高くなります。

 

 これが,すでに代金を支払ってしまっていると,売主側の立場が強くなります。

 

 買主としては,すでに払った代金を返金してほしいという「弱み」がありますので,それを実現するためには譲歩をしなければならない可能性が高まるからです。

 

 言うまでもないですが,交渉事は開き直ることができるほうが強いと言いますか,「最悪それはどううでもいい」と考えられるほうが優位に立ちます。

 

 そういう意味で,お金(に限りませんが)を追いかける側が不利になるのが基本ですので,そうならないタイミングで交渉をしかけるのがポイントといえるでしょう。

 

 また,できるだけ自分の手元にお金を残すように買主はなるべく後払いを目指し,売主はなるべく先払いを目指すということが鉄則です。

 

→next【英文契約書の相談・質問集249】ファシリテーション・ペイメントとは何ですか。

 

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英文契約書の相談・質問集251 最低購入数量未達の場合は契約違反に位置づけるべきですか。

 

 英文契約書の作成,チェック(レビュー/審査),翻訳(英訳/和訳),修正の依頼を受ける際によく受ける相談・質問に,「最低購入数量未達の場合は契約違反に位置づけるべきですか。」というものがあります。

 

 サプライヤーが独占的販売店契約(Exclusive Distribution/Distributorship Agreement)を販売店(Distributor)と締結する場合,一般的には,最低購入数量/金額(Minimum Purchase Quantity/Amount)を契約書に定めます。

 

 これは法的義務として拘束力があるため,違反すれば契約違反となり,販売店(Distributor)は契約書記載のペナルティを受けることになります。

 

 ただ,販売店(Distributor)によっては,最低購入数量/金額(Minimum Purchase Quantity/Amount)の未達の場合を,他の契約違反とは区別してほしいと考えていることがあります。

 

 そのため,債務不履行解除(Termination)のところではなく,別に最低購入数量/金額(Minimum Purchase Quantity/Amount)の条項を設けて,そこに違反の場合の効果を記載することがあります。

 

 そして,債務不履行解除条項のところには,別途損害賠償請求を妨げないと記載する一方,最低購入数量/金額(Minimum Purchase Quantity/Amount)条項の効果のところには,損害賠償については触れず,あくまで契約解除ができるだけだと契約書に記載することがあります。

 

 こうすることで,販促活動を努力したけれども,最低購入数量/金額(Minimum Purchase Quantity/Amount)分を購入できなかった場合に,約束した最低購入金額分の損害賠償請求を受けることはないことを示し,販売店(Distributor)を安心させるのです。

 

 このように,一口に契約違反といっても,その違反に対してどのような効果や制裁を与えるかどうかは,違反した行為の性質や影響力により変えて良いわけです。

 

 制裁のレベルを違反の程度によって変える方法の一つとして,material(重大な)という用語もよく使用されます。

 

 例えば,契約違反があったとしても,その違反が軽微な場合には契約解除までは認めず損害賠償請求のみとしたいという場合に,「material breach(重大な違反)のときにのみ契約解除が可能である」という旨を契約書に記載することがあります。

 

 これにより,契約違反があった場合に常に契約解除が認められるわけではなくなるので,取引の安定性が保たれるというメリットがあります。

 

 もちろん,どのレベルの契約違反がmaterial(重大な)と言えるのかについては解釈の幅が生じてしまいますので,違反するとmaterial breachに該当することになる条項を列挙することもあります。

 

 その他にも,守秘義務違反や知的財産権侵害行為については,通常の契約違反・債務不履行とは異なる制裁を課すこともよくあります。

 

 契約書を作成する際は,ひな型にあてはめるのではなく,この違反があったらどのような制裁が適切かを個別具体的に考えて,ビジネスに合致したものを作成する必要があります。

 

→next【英文契約書の相談・質問集252】第三次不法行為法リステイトメントとは何ですか。

 

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英文契約書の相談・質問集256 販売店契約終了時に支払う補償金は少額でも良いですか。

 

 英文契約書の作成,チェック(レビュー/審査),翻訳(英訳/和訳),修正の依頼を受ける際によく受ける相談・質問に,「販売店契約終了時に支払う補償金は少額でも良いですか。」というものがあります。

 

 日本のメーカーが海外企業と販売店契約(Distribution/Distributorship Agreement)を締結する場合,販売店(Distributor)を保護する法律である「販売店(代理店)保護法」が現地法にないかを確認しましょう。

 

 この販売店(代理店)保護法は,強行法規/強行規定といって,当事者がその法律と異なる合意をしていたとしても,強制的に法律が適用される可能性が高いです。

 

 そして,販売店(代理店)保護法では,販売店契約(Distribution/Distributorship Agreement)を終了させた場合,メーカーが一定の補償金を販売店(Distributor)に支払わなければならないと決められていることがあります。

 

 では,これに従って,日本のメーカーとしては,少額の補償金の支払いを契約書で約束しておけば安全に契約を終了させられるのでしょうか。

 

 これは,現地の法律の内容によりますが,一般的には,あまりに少額な補償金だと,結局補償金の支払いをしたことにならないため,少額すぎる補償金条項は無効とされる可能性があります。

 

 国によっては,補償金の金額の計算方法まで定めていることがあります。

 

 このような場合は,少額の補償金支払い条項は無効となってしまう可能性が高く,意味がありません。

 

  このように,いくらでも良いので補償金を支払えば済むという単純な話ではないのです。

 

 そのため,海外進出するにあたっては,現地の販売店(代理店)保護法を調査し,補償金の支払いが強制的に定められている場合は,その算定方法や相場金額なども調べ,事業計画の中で補償金の支払いも見込んでおかなければなりません。

 

 このような法律を知らずに海外展開し,販売店(Distributor)のパフォーマンスが悪いから契約を解除したところ,多額の補償金の支払いを請求されたのでは大変な事態になりかねません。

 

 せっかく販売店(Distributor)を使用して現地で利益を上げていたのに,契約終了時の補償金支払いによりその利益のほとんどを吐き出してしまい,結果意味がなかったとか,損失を出して終えることになってしまったということがありうるのです。

 

 契約書にいくら準拠法を日本法にすると書いて合意をしたとしても,現地の強行法規/強行規定と呼ばれる法律が適用されると,予定していた事業計画のとおりに終えることができなくなることがあります。

 

 そのため,準拠法を合意したとしても,一定の範囲で現地の法律調査が必須になることがある点は注意が必要です。

 

→next【英文契約書の相談・質問集257】海外取引は国内取引よりも危険度が高いですか。

 

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