英文契約書の相談・質問集141 不可抗力(Force Majeure)の内容はいつも同じで良いですよね。

 

 英文契約書の作成,チェック(レビュー/審査),翻訳(英訳/和訳),修正の依頼を受ける際によく受ける相談・質問に,「不可抗力(Force Majeure)の内容はいつも同じで良いですよね。」というものがあります。

 

 この不可抗力(Force Majeure)条項は,ボイラープレート条項または一般条項などと呼ばれ,ほとんどの英文契約書に挿入されている条項です。

 

 簡単にいうと,「当事者の責めに帰すべき事由ではなく,当事者がコントロールできないような事由(不可抗力)によって,当事者が契約上の義務を契約通りに履行できなかったとしても,その当事者は相手方に責任を負わない(免責される)」というような内容でよく規定されています。

 

 ボイラープレートといわれるくらいですので,こうした条項は,書式があり,それをテンプレートとして使うということが多いと思います。

 

 ですので,いちいち内容をチェックせずとも,いつも同じ内容で問題ないと考えがちです。

 

 ただ,実際には不可抗力(Force Majeure)条項の内容にもいろいろバリエーションがあります。

 

 不可抗力の事由にも種類があり,大きく分けると,天変地変に代表される自然災害などの外部要因のパターンと,工場のストライキなど内部要因のパターンに分けられます。

 

 後者の例の工場でストライキは,本当に当事者のコントロールできない事情といえるかどうかは微妙ところがありますが,後者の例の大震災などの自然災害は仕方がないという感覚があるのではないでしょうか。

 

 後者の例の内部要因をどう考えるかは,具体的に検討すべき場合があるでしょう。

 

 例えば,商品の売買契約において,納期が重要で,大量発注するような製品の場合に,ストライキが起きたからといって簡単に売主を免責してまって買主として本当に良いのかということはあります。

 

 サプライヤーが複数工場を所有していたり,契約していたりした場合に,通常の生産工場だけがストライキになった場合に,不可抗力免責が適用されるのかという問題もあるかと思います。

 

 このように,売主か買主のどちらの立場なのかによって,不可抗力とすべき事由は異なってくることがあります。そのため,いつも同じテンプレートを使えば良いということにはなりません。

 

 また,日本法の感覚だと,不可抗力(Force Majeure)が原因で債務不履行が起こった場合,当事者の責めに帰すべき事由がない場合なので,免責されるのは法令上当然だと考えるかもしれません。

 

 しかしながら,不可抗力免責については国の法律によって考え方が異なりますので,不可抗力(Force Majeure)による債務不履行の場合は,英文契約書に免責規定を置いていなくとも,当然免責されると理解しないように注意が必要です。

 

 例えば,英国法では,不可抗力(Force Majeure)があっても,当然には,当事者は契約の履行責任を免れません。

 

 反対に,前述したとおり,日本法では,債務不履行責任を生じるには,当事者の帰責性を要求しているため,基本的に自然災害などの場合には,当事者の帰責性が認められず免責されることになると思います。

 

 このように,準拠法となる法律によって考え方も異なっていますので,不可抗力(Force Majeure)をどのような内容にして契約書に記載するかは重要な意味を持っているのです。

 

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英文契約書の相談・質問集130 準拠法を定めなかった場合はどうなるのでしょうか。

 

 英文契約書の作成,チェック(レビュー/審査),翻訳(英訳/和訳),修正の依頼を受ける際によく受ける相談・質問に,「準拠法を定めなかった場合はどうなるのでしょうか。」というものがあります。

 

 英文契約書では,通常,当事者のお互いが異なる国に属するため,どの国の法律を準拠法として定めるかを決めておくのが通常です。

 

 準拠法というのは,その英文契約書で行う取引などに関連して,当事者間で紛争が起きたり,英文契約書に書いてある内容の解釈について争いが生じたりした場合に,解決を図るために適用する法律のことをいいます。

 

 例えば,ドイツと日本の企業が取引に入り,英文契約書を作成する際に,準拠法をドイツ法とする,日本法とする,または,第三国のイギリス法にするなどと取り決めます。

 

 通常は,英文契約書で,Governing Lawですとか,Applicable LawChoice of Lawなどのタイトルで取り決められます。

 

 まれに,このような準拠法の条項がない英文契約書があります。その場合,もし,上記のように紛争などが生じ,法律を参照しないと解決が図れないという場合,どうなるのでしょうか。

 

 このテーマは,「国際私法」と呼ばれています。(たまに「司法」と考えられている方がいらっしゃいますが,「私法」が正しいです。)

 

 この国際私法が,上記のように異なる国に所属する当事者間に争いが生じたような場合に,どの法律を適用するのかを決めています。

 

 日本の国際私法は,「法の適用に関する通則法」(通則法)というものがあり,この法律がどこの国の法律が適用されるかについて定めています。

 

 例えば,日本の裁判所が管轄権を有すると判断されるケースで,日本の企業が日本の裁判所に訴えたとして,日本の裁判官が,通則法により,準拠法を決定する場合,例えば通則法8条1項(「最も密接な関係がある地の法」)などを適用して,日本法を準拠法とすると判断するなどとして適用されます。

 

 ただ,上記のように「最も密接な関係がある地の法」などと言われても,抽象的ですし,一義的に明らかということにはなりません。

 

 ちなみに,通則法8条2項では「法律行為において特徴的な給付を当事者の一方のみが行うものであるときは、その給付を行う当事者の常居所地法」「を当該法律行為に最も密接な関係がある地の法と推定する」と規定しています。

 

 例えば,売買契約では,「特徴的な給付」というのは目的物の引き渡し義務を負う売主と考えられ,この場合,給付を行う売主の所在地の法律ということになると推定されると考えられます。 

 

 日本企業が買主でフランスの企業が売主だとするとフランスの法律が適用されると考えられるという意味です。

 

 もっとも,何が「特徴的な給付」に当たるかは必ずしも明確ではなく,取引形態によっては準拠法がどこの国の法律になるか予測することが困難なこともあるでしょうし,「推定する」とされているので反証を許すことになる点でもあいまいさを避けられません。

 

 さらに,裁判になると,裁判管轄がどこにあるのかという問題もあり,そもそも日本の通則法が適用されるのかも問題になることもあります。

 

 なお,国際私法は実体法(例えば原告が主張している請求権の発生要件は何かなどを規定しています)の問題を扱っていて,裁判を進めるのに適用される手続法は法廷地法という考え方により,原則としてその裁判所が所属している国の法律によります。

 

 日本の裁判所であれば,日本の民事訴訟法や民事訴訟法規則に従うことになります。

 

 このように,準拠法を英文契約書で予め定めておかないと,いざ紛争が生じたときにどのルールに従って解決すべきなのかが,非常に不透明になってしまいます。

 

 そのため,英文契約書で準拠法を定めておくのは必須といえるくらい大切なことです。

 

 しかしながら,この準拠法は大きなテーマのように見えるため,各当事者が自国の法律を準拠法とするのが有利と考えて,そう取り決めるように固執し,交渉が進まなくなるということも現場ではよくあります。

 

 その場合は,第三国の法律にしたり,被告地の法律にしたりといろいろな解決策を講じることになります。

 

 それでも準拠法が定められない場合に,準拠法の定めをあえて置かないということも全くないわけではないかもしれません。

 

 ただ,仮に自社の希望通りの準拠法にならなくとも,規定していないことは非常にリスクが高いので,通常は,どこかの国の法律で合意しておくことになるでしょう。

 

 交渉が平行線となり困ったときは,準拠法と裁判管轄や仲裁合意はセットで考えられることも多いので,裁判管轄や仲裁地という紛争解決の手段をどうするかを先に議論して,それに合わせるという発想で交渉しても良いでしょう。

 

 司法制度や仲裁制度が成熟していて,きちんと機能している国を選ばないと,そもそも準拠法を定めても意義が薄れてしまうこともあるからです。

 

 このように,英文契約書では準拠法をきちんと定めて,不透明な国際私法による解決をしなければならないという事態を回避することが望ましいといえるでしょう。

 

→next【英文契約書の相談・質問集131】 業務委託契約で実費についてはどう定めれば良いですか。

 

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英文契約書の相談・質問集129 インターネット販売(Eコマース)をさせる場合の注意点は?

 

 英文契約書の作成,チェック(レビュー/審査),翻訳(英訳/和訳),修正の依頼を受ける際によく受ける相談・質問に,「インターネット販売(Eコマース)をさせる場合の注意点は?」というものがあります。

 

 例えば,日本のメーカーが,海外の業者と販売店契約(Distribution/Distributorship Agreement)を締結し,商品を販売展開したいとこの業者を販売代理店として指名したとします。

 

 販売店契約(Distribution/Distributorship Agreement)の場合,独占契約(exclusive)でも非独占契約(non-exclusive)でも,通常は,販売店が商品を販売して良い地域を限定して指定します。

 

 例えば,販売店はシンガポール国内で商品を販売することができ,メーカーの書面による承諾がない限り,シンガポール国外で商品を販売してはならないというように取り決めます。

 

 このように販売地域を限定するのは,いろいろな思惑がありますが,主たる理由は,地域ごとに販売チャネルをもっている卸業者が異なるため,効率的かつ最大限商品を販売するためには,各地域で別の販売店を指名した方が良いからというものです。

 

 しかしながら,販売店が,インターネット販売(Eコマース)により商品を販売する際は,注意が必要です。

 

 特に販売店のウェブサイトが英語など世界的に使われている言語で作られている場合,より注意が必要です。

 

 上記の例で,シンガポール国内でのみ販売展開が許されたシンガポールの販売店が,自社のウェブサイト上で,日本のメーカーの商品をインターネット販売したとします。

 

 シンガポール向けのオンラインショップですから,英語で制作されています。そうすると,世界中でそのサイトの言語を読むことができ,シンガポール国外の多くの国から注文が入ることがありえます。

 

 特に物理的に近いASEAN圏内の他国にある顧客からオンラインで注文が入り,購入される可能性が高いです。

 

 こうなると,販売地域を限定した意味が損なわれてしまいますし,もし他のASEAN圏内の国に独占的な販売権を持つ販売店を指名しているなどとなると,その販売店からクレームが来る可能性もあります。

 

 このように,Eコマースを許すと,全世界の顧客がその販売店のサイトから簡単にオンラインで購入できるという状態になるため,販売地域の指定とバッティングするということがありえます。

 

 特に,販売店が卸業者ではなく,小売店で,B to C形態でエンドユーザーに商品を売るような場合は,よりインターネットでの販売が加速してしまうことが考えられます。

 

 販売地域の制限があるため,販売地域外の顧客に売らないように指示するにしても,顧客からすれば,注文を拒否されたとして悪い評価につながるかもしれません。

 

 今は,SNSなどもありますので,低評価がすぐに拡散するおそれもありますので,販売店はそのような結果につながる行動を取りたくないということもあるでしょう。

 

 また,EUにおいては,販売店が指定販売地域外で能動的に(actively)に商品販売を行うことを禁止することは許されるが,受動的に(passively)にも販売してはらないとすることは違法であるとされています。

 

 これは,例えば,ドイツの販売店に対しドイツ国内においてしか自ら商品を販売してはならないというにとどまらず,ドイツ国外の顧客から注文があった場合に,注文を受けてはならないとすると,違法となるということです(EU機能条約第101条)。

 

 そのため,EU加盟国の企業を販売店に指名する際には,特にEコマースの場合,国外からの注文も入りやすいため,この点の規制に注意する必要があります。

 

 このように,オンラインショップは,通常の販売網で生じうる問題以上に,大きな問題を抱えている場合があるので,注意しなければなりません。

 

 オンラインショップでの販売を禁じるというのも一つの方法ですが,その場合,販売地域での売上についても減殺される可能性がある点や,独占禁止法や競争法違反の問題を生じる可能性があるので,その点にも注意する必要があります。

 

→next【英文契約書の相談・質問集130】 準拠法を定めなかった場合はどうなるのでしょうか。

 

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英文契約書の相談・質問集131 業務委託契約で実費についてはどう定めれば良いですか。

 

 英文契約書の作成,チェック(レビュー/審査),翻訳(英訳/和訳),修正の依頼を受ける際によく受ける相談・質問に,「業務委託契約(Service Agreement)で実費についてはどう定めれば良いですか。」というものがあります。

 

 業務委託契約(Service Agreement)では,業務を提供する受託者に,業務をする上で各種実費がかかることがあります。

 

 例えば,宿泊費や旅費・交通費などが典型例だと思います。特に海外のコンサルタントとコンサルティング契約を締結したり,海外の企業に何らかの業務を委託する業務委託契約を締結すると,これらの実費の取扱いが問題になります。

 

 海外企業が日本の企業に何らかのサービスを提供するという場合に,海外企業のスタッフが来日して,コンサルティングしたり,研修を行ったり,技術指導を行ったりすることがあります。

 

 この場合には,旅費・交通費,宿泊費,日当(これは実費ではなく報酬ですが)などが発生しますので,これらについて英文契約書で取り決めることになります。

 

 契約内容にもよりますが,このような実費は依頼者である日本企業側が負担するという方が一般的かと思います。

 

 その場合,単に,「日本企業が,海外企業が本件業務を履行するために負担した旅費・交通費,宿泊費等を負担する」という条項を入れるだけで十分でしょうか。

 

 結論から申し上げると,これだけですと十分とは言えず危険です。なぜなら,これでは,どこまでが本件業務を遂行するのに必要な実費の金額といえるのかがわからないからです。

 

 もちろん,本件業務に関係のないところで支出した実費については,日本企業が負担することを拒否することは,領収書などの内容や日付を確認して本件業務に無関係だと主張すれば比較的容易であると思いますので,通常,問題になることはないでしょう。

 

 問題は,本件業務に関して出費したことは明らかだが,金額が高すぎるという場合です。

 

 例えば,飛行機にもホテルにもグレードがあります。本件業務を行うためにスタッフが来日することまで良いですが,極端な例を出すと,ファーストクラスに搭乗し,5つ星ホテルに宿泊し,ルームサービスをたくさん注文したなどとなったときに,どこまでが日本企業の負担なのか,争いになる可能性があります。

 

 また,来日するスタッフの数やメンバーについても取り決めがないと,海外企業側が一方的に選択し,その実費を日本企業がすべて負担するということになるリスクもあります。

 

 このようなことがないように,事前に英文契約書において,金額の上限や飛行機・ホテルのグレード,日本企業が負担する費用の項目(飲食費や宿泊料以外の追加料金などは含まない),スタッフの人数などについて取り決めておくことが大切です。

 

 他にも有効な方法としては,細かい金額までは無理でも,搭乗する飛行機や宿泊するホテルなどを事前に報告してもらい,承諾したものだけをクライアントが負担すると定めることです。

 

 こうすれば,承諾がないものについては負担しないということができるので,対策になります。

 

 このような条項を入れることに相手が納得してくれるか心配であれば「不合理に拒絶しない」という但し書きを入れてあげれば,飲んでくれやすくなるでしょう。

 

 たかが実費と思っていても,人数や航空機・ホテルのグレード等によって,すぐに何百万円の請求になってしまいます。

 

 もちろん,実費が後払いになっている場合,海外企業も事前に確認せず,いったん自ら高額の実費を出費しておき,後で日本企業に請求する場合,支払いを拒絶されるリスクがありますから,断りもなく高額の請求書を送ってくるという現実的な可能性はそれほど高くないかもしれません。

 

 しかし,私も経験している実際の事例で,このようなトラブルになったことはありますし,そもそも実費の金額で揉めるということは,本来依頼した業務と無関係の話ですので,可能な限り避けるべきです。

 

 そのため,英文契約書では,単に,受託者が受任した業務に必要なため支出した費用を依頼者が負担するという文言だけではなく,後で揉めないように,範囲や金額などの詳細な取り決めをしておくほうが安全性が増すということになります。

 

→【英文契約書の相談・質問集132】 契約書には自社が欲しい権利はすべて記載すべきですよね。

 

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英文契約書の相談・質問集134 日本の代表取締役は英語で何と表現すれば良いですか。

 

 英文契約書の作成,チェック(レビュー/審査),翻訳(英訳/和訳),修正の依頼を受ける際によく受ける相談・質問に,「日本の代表取締役は英語で何と表現すれば良いですか。」というものがあります。

 

 日本の代表取締役については,通常,Presidentと表記すれば問題ないと思います。

 

 なお,最近では日本の会社でも代表取締役社長のことをCEO(Chief Exective Officer)と表記することがあります。

 

 ちなみに,「代表取締役」というのは会社法で規定された地位ですが,「社長」というのは単にその会社が決めた役職にすぎませんので,会社法上の概念ではありません。

 

 そのため,理論上は「社長」の肩書があっても,代表取締役でもなければ取締役でもないし,執行役員でもないということはありえます(ただし,こういうことをすると取引相手がこの「社長」に代表権があると信じることにより様々なトラブルが起こることが予想されるのでお勧めしません。)。

 

 厳密にいうと,CEOという制度はアメリカのものですので,日本の会社法を前提にした日本の会社の代表取締役社長を英語でCEOと表記しても,アメリカの制度での理解とは一致はしないということにはなります。

 

 ただ,要は,契約書にサインをして,契約書の効力を有効に発生させ,その効果を会社に帰属させることができるか,つまり,会社を代理する権限があるかということが重要なのであり,タイトル(肩書)をどう名乗るかが重要なのではありません。

 

 そのため,例えば,英文契約書に,日本の会社の代表取締役社長が,タイトルとしてCEOと記載したからといって,契約が無効になったりすることはありません。

 

 アメリカでは,PresidentとCEOは区別された概念で使われていますが,ここではこの点の詳細な解説は省きます。

 

 アメリカの企業と取引する場合に,タイトルが,PresidentまたはCEOとなっていれば,通常は,その人は契約書を発効させる権限が与えられていると考えられる地位にあることになります。

 

 イギリスでは,日本の代表取締役のような,取締役会から権限を与えられている者の呼び方としては,PresidentでもCEOでもなく,通常は,Managing Director(MD)と呼びます。

 

 イギリスの企業と取引する際に,Managing Directorがサインをしていれば,通常は,その取引を有効に成立される権限を持っていると考えられます。

 

 なお,President,CEO,MDがサインをしても,その取引内容が取締役会決議を必要としているのに,実際には取締役会決議を欠いていたということがあると,法的な問題を生じる可能性があります。

 

 そのため,場合によっては,取締役会の承認決議があったことを示す,取締役会議事録を要求したり,その者が会社を代理して契約をする権限があることを示す委任状(Power of Attorney)などを要求したりすることもあります。

 

 重要なのは,肩書をどう書くかではなく,あくまで,署名者がその契約を締結する権限(代表権・代理権)があるのかどうかです。

 

 これは基本中の基本ですが,大切なことであるといえます。

 

→next【英文契約書の相談・質問集135】 契約書内に矛盾する条項がある場合はどうすれば良いですか。

 

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英文契約書の相談・質問集143 MOUやLOIでは法的効力はあるかないかのいずれかなのでしょうか。

 

 英文契約書の作成,チェック(レビュー/審査),翻訳(英訳/和訳),修正の依頼を受ける際によく受ける相談・質問に,「MOUやLOIでは法的効力はあるかないかのいずれかなのでしょうか。」というものがあります。

 

 Memorandum of Understanding(MOU)やLetter of Intent(LOI)は,正式な契約書(definitive agreement)を締結する前に,その段階で当事者が目指している方向性などを記載して作成されることが多いので,一般的には法的拘束力がないと考えられています。

 

 ただ,法的拘束力があるかないかは,結局は内容次第ですので,Memorandum of Understanding(MOU)やLetter of Intent(LOI)というタイトルがつけられているから法的拘束力がないということではありません。

 

 そして,内容次第で法的拘束力があるかないかが決まる以上,Memorandum of Understanding(MOU)やLetter of Intent(LOI)の全部の条項が,法的拘束力があるかないかの,100かゼロかという話でもありません。

 

 もちろん,Memorandum of Understanding(MOU)やLetter of Intent(LOI)が全体として効力があるかないかという判断がされる場合もあるでしょう。

 

 ただ,場合によっては,Memorandum of Understanding(MOU)やLetter of Intent(LOI)の一部の条項については当事者を法的に拘束するが,その他については当事者を拘束しないという,部分的な判断になることもありえます。

 

 要するに,当事者が,その条項には強制力を持たせるという意図をもってその条項を記載したといえるかによって決まってくるわけです。

 

 もっとも,当事者がどの条項については強制力を持たせる意図だったのかというのは,事後的に振り返っても,証拠があるか,あったとしてどういう内容の証拠かなどの事情によって証明が難しいことがあります。

 

 したがって,予めMemorandum of Understanding(MOU)やLetter of Intent(LOI)に,具体的にどの条項が拘束力を有するのかが書かれていないと,あとで,当事者の法的拘束力の有無についての見解が異なることが判明した場合,当事者間でトラブルになる可能性が高くなります。

 

 そのため,予めMemorandum of Understanding(MOU)やLetter of Intent(LOI)に,どの条項が法的拘束力を有するのかを具体的に明記するのが安全ということになります。

 

 その際,Memorandum of Understanding(MOU)やLetter of Intent(LOI)の全体が法的拘束力を持つとか持たないとか記載することもできますし,全条項の中のどの条項とどの条項が法的拘束力を持つと一部の条項を指定することも可能です。

 

 このように,Memorandum of Understanding(MOU)やLetter of Intent(LOI)の法的拘束力の有無の問題は,常に100かゼロかで決まるものではない点は理解しておくとよいでしょう。

 

 なお,通常の契約書でよく登場するボイラープレート条項/一般条項に,分離可能性条項(Severability)というものがあります。

 

 これは,契約書の条項を一体的に見て,一部の条項が無効となるのであれば,契約書全体が無効だというように判断されないように,一部の条項が無効となっても,他の条項には影響しないということを明確にするために挿入するものです。

 

 場合によっては,契約が一体的で,契約書の条項の一部が無効になると,全体としての意味・効力を失うというように解釈される契約書もありうるので,そのような場合に,この分離可能性条項(Severability)は重要な意味を持つことになります。

 

 繰り返しになりますが,このように,契約書も含めて,法的な約束事は常に全体として有効か無効かが議論されるわけではないということは理解しておく必要があります。

 

→next【英文契約書の相談・質問集144】当事者双方が相手方に損害賠償するとなっていれば平等ですよね。

 

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英文契約書の相談・質問集140 輸出する際に特に気をつける製品はありますか。

 

 英文契約書の作成,チェック(レビュー/審査),翻訳(英訳/和訳),修正の依頼を受ける際によく受ける相談・質問に,「輸出する際に特に気をつける製品はありますか。」というものがあります。

 

 そもそも,その国への輸出(その国における輸入)が法律で禁止されている製品であれば,話になりませんので,その点は前提としてクリアされなければなりません。

 

 例えば,そもそも製品自体が違法な製品という場合だけではなく,製品は日本で適法に製造され,普通に使われているもの(カメラなど)でも,軍事目的やテロ行為に転用されるような技術が使われていたりするものは,国によっては輸出ができないことがあります。
 

 では,輸出自体は問題なくできるという場合でも,より注意を要する製品というのはあるのでしょうか。

 

 例えば,もし製品に欠陥があった場合,人が怪我をしたり,死亡したりする可能性があるような製品は製造物責任(Product Liability)の観点から,要注意といえます。

 

 自動車のエアバッグなどが典型例でしょう。また,医療関係の機器なども,欠陥があれば重大事故に繋がりやすいため,これに当たると思います。

 

 もちろん,製造物責任は,利用者が自分の責任で使用方法を誤った(ミスユース:misuse)が故に事故が生じた場合まで輸出者に責任を負わせるものではありません。

 

 ただ,欠陥があった場合に,特にその欠陥によって人が怪我したり,死亡したりするような危険があるようなものではない場合と,その危険があるという場合では,海外展開に当たり想定されるべきリスクの程度が異なることは明らかでしょう。

 

 海外向けのPL保険(生産物賠償責任保険)などにも加入することになるでしょうから,保険料のコストも見ておく必要があります。

 

 万一,リコールなどになれば,大きな損害に繋がる可能性がありますので,十分な事前対策が必要になります。

 

 また,食品なども,人が体内に摂取するものですので,リスクが高いといえるでしょう。そもそも食品については国によって(EUなど)は,規制が高度にかけられていて,輸出自体ハードルが高いことがよくあります。

 

 子供向けの製品もリスクが高いと言えるかもしれません。製品に欠陥がある場合はもちろんのこと,製品には全く欠陥がなくとも,子供はそもそも誤用をしやすいので,事故が起こる可能性が高くなります。

 

 もし誤用で事故が起きてしまうと,メーカーに法的な責任はなかったとしても,子供の問題はセンシティブですので,大人の問題よりも,事故が起きたということそれ自体がメーカーや製品のレピュテーションに大きく影響する可能性があります。そのため,リスクが高いと言えるかもしれません。

 

 さらに,少し視点が変わりますが,2018年5月以降にEU圏の消費者向けに商品を輸出していく場合,General Data Protection Regulation(GDPR)に注意が必要です。

 

 EU圏内の消費者の個人情報を取得する場合,それが日本にある日本企業であってもGDPRに従った処理が必要になります。

 

 この内容を知らずにGDPRに違反すると,高額の課徴金を課され,ビジネス上の利益を失うことになりかねません。

 

 したがって,EU向けの商品の場合は,商品の性質・内容にかかわらず,個人情報を取り扱うのかどうか,データの処理・管理をどうするのかを十分に検討してから輸出取引を開始する必要があります。

 

 当然ですが,商品の内容・性質や,進出していく国の規制・法律などによって,海外展開のリスクは変わってきます。

 

 事前にリスクの内容と程度を十分に分析して,可能な手当は施してから,なるべく安全な状態で海外展開をしていくということが大切になります。

 

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英文契約書の相談・質問集142 英文契約書を印刷した後どう綴れば良いのでしょうか。

 

 英文契約書の作成,チェック(レビュー/審査),翻訳(英訳/和訳),修正の依頼を受ける際によく受ける相談・質問に,「英文契約書を印刷した後どう綴れば良いのでしょうか。」というものがあります。

 

 英文契約書を作成した後,それを印刷して当事者が紙にサインすることが多いと思います(電子署名などの方法もありますが。)。

 

 契約書を印刷した場合,それをどのように綴れば良いのかという質問を受けることがあります。

 

 和文の契約書の場合は,袋とじにしたり,ホチキス止めをした上で,割り印や契印を押したりすることが一般的かと思います。

 

 袋とじをしたり,契印を押したりする目的は,まず,当事者が合意して完成した契約書に,余分なページを差し入れたり,ページを差し替えたりすることを防止するという点にあります。

 

 また,割り印をするのは,当事者が例えば2人であれば,契約書を2部作成して1部ずつ保管というパターンが普通だと思いますが,その2部が同じものであることを示すために押印しています。

 

 英文契約書でも同じようにしても特に問題はないです。

 

 こうしなければならないという決まりはなく,要するに,きちんと契約書が法的効力を生じ,かつ,あとでトラブル(契約書の改ざん)が生じないような合理的な手段を取れば良いということだからです。

 

 ただ,英文契約書の場合は,袋とじや,割り印・契印をするということは現実にはあまりありません。そのそも印鑑文化ではないことが多いので,割り印・契印の習慣がありません。

 

 そのため,普通は,契約書を印刷した後,普通にホチキス止めをして,サインをするということだけで済ませています。

 

 ただ,ページの差し込みや,ページのすり替えを防止するために,契約書の各ページの余白部分に,署名者のイニシャルサインをするということがあります。

 

 もちろん,通常のサインを全ページにしても問題ないですが,単純に面倒ということが理由の一つで,イニシャルサインをすることがほとんどです。

 

 例えば,私の場合は,Masato Kikuchiですので,MKがイニシャルになりますから,MKとサインをしていきます。

 

 なお,イニシャルサインをする人は,必ずしも契約書の署名者である必要はありません。

 

 契約書の全ページにイニシャルサインをする目的は,ページの差し替えなどを防止する点にありますので,契約書締結の決済権を持っている必要は必ずしもないからです。

 

 そのため,イニシャルサインは,交渉を実際に担当した担当者が行い,契約書の締結のサインは会社の代表者がするということもあります。

 

 また,ページ数を印字するときに,1,2,3ページという印刷表示ではなく,全体が10ページであれば,1/10,2/10,3/10ページという表記をすることもあります。これによりページの差し込みを防止したいという意図があります。

 

 いずれにせよ,契約書の綴じ方について特に統一的なルールがあるわけではありませんので,大切なのは,その契約書に権限あるものが署名したことを証明できるようにしておくということと,契約書が不正に改ざんされないような工夫をしておくことです。

 

 このことが達成可能なのであれば,特に決まった方法で行う必要はありません。最近はオンライン上で締結してしまうクラウドサインなどもありますが,そういう方法でも通常の契約では問題ありません。

 また,印刷した契約書にサインしたものをスキャンしてPDFにして電子メールに添付して送信し,相手方も,同じように印刷してサインして,PDFにして送り返して締結することもあります。

 

 上記とは別に,お互いがそれぞれ印刷して,サインしたものを相手方に送り(PDFで送ることもあります。),相手方も,自分で印刷してサインしたものを相手に送るという方法で契約を成立させるパターンもあります。

 

 この後者による方法ですと,両者のサインが同じ契約書にされている状態にはなく,それぞれ相手のサインがあるものが自社の手元に送られてきているだけということになりますが,サインした契約書の交換があったことが証明できれば,意思表示の合致=契約の成立となるので問題ないわけです。

 

→next【英文契約書の相談・質問集143】MOUやLOIでは法的効力はあるかないかのいずれかなのでしょうか。

 

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英文契約書の相談・質問集144 当事者双方が相手方に損害賠償するとなっていれば平等ですよね。

 

 英文契約書の作成,チェック(レビュー/審査),翻訳(英訳/和訳),修正の依頼を受ける際によく受ける相談・質問に,「当事者双方が相手方に損害賠償するとなっていれば平等ですよね。」というものがあります。

 

 損害賠償条項(Damages),正確にいうと,英米法を基礎にして作られている英文契約書の場合,補償(危険や責任を当事者にどう配分するかの問題)条項(Indemnity/Indemnification)という条項のほうが一般的ですが,こうした条項が英文契約書に挿入されることが多いです。

 

 例えば,当事者が契約違反を行い,それにより相手方に損害を生じさせたような場合に,契約違反をした当事者がその損害を補償するというような内容の条項が補償条項(Indemnity/Indemnification)と呼ばれます。

 

 英文契約書では,この補償条項(Indemnity/Indemnification)は,①各当事者がそれぞれ相手方を補償するという双務的なパターンと,②当事者の一方が相手方を補償するとだけ書かれている片務的なパターンと大きく分けて二通りあります。

 

 ②の片務的なパターンの場合,当然ですが,形式的に見て不平等です。当事者の一方のみが補償されるとなれば,他方の当事者は補償を受けられないということになりかねず,不平等に見えます。

 

 反対に,①の双務的なパターンであれば,お互いが相手から補償を受けられることになりますので,形式的には平等に見えます。

 

 英文契約書の表現では,Each party shall defend, indemnify and hold harmless the other...(各当事者は相手方を防御し,補償し,かつ,相手方に損害を与えないようにする)などとなりますので,一見平等に見えます。

 

 ただ,いずれのパターンでも,形式的に見ただけでは,実質的な平等性を把握できない危険がありますので,注意が必要です。

 

 ①の双務的なパターンの例でいえば,一見平等に見えたとしても,より突っ込んで実質的に見ると,当事者の立場によって実は不平等になっているということがありえます。

 

 例えば,販売店契約(Distribution/Distributorship Agreement)や,商品の売買契約(Product Sales Agreement)などでは,当然ですが,売主と買主という逆の立場の当事者が存在します。

 

 そして,販売店や買主のメインの義務は,代金を支払うことであり,それ以外の大きな義務というのは通常ありません。

 

 反対に,メーカーや売主の方は,義務が多く,また,その内容も複雑です。品質を備えた商品でなければならないとか,納期までに商品を引き渡さなければならないとか,買主よりも多くの高度な内容の義務を負います。

 

 そうなると,契約違反で責任を生じやすいのは売主ということになります。また,その責任の程度(損害賠償の金額)が大きくなる可能性があるのも主に売主です。

 

 買主の方は,代金を期日まで支払わなければ,通常,遅延損害金という付加金を払えば済んでしまうことがほとんどです。そのため,契約違反をしても,遅延損害金を超えて損害が拡大したりすることは通常ありません。

 

 そうすると,一見平等な①の双務的な内容になっていたとしても,例えば,「各当事者は軽過失の場合でも逸失利益なども含めて相手方を補償する」というような内容になっていた場合,その恩恵を受けるのはもっぱら買主ということに実はなります。

 

 したがって,一見平等に見える①の双務的な補償パターンでも,その内容によっては,もっぱら買主側が有利になっているということもよくあるのです。

 

 また,逆に②の片務的補償のパターンでも,常に不平等かというとそうではないこともあります。

 

 例えば,上記の例で,「売主が,重過失をもって契約違反をした場合,買主がそれにより蒙った通常損害を賠償する」などとなっていたとします。

 

 これは,買主のみが補償を受けられるとなっていて,売主が受けられる補償については言及されていませんから,売主としては買主に有利で不平等なので,修正したいと思うかもしれません。

 

 しかしながら,実質的には,①の双務的補償パターンの例よりも,売主に有利といえます。

 

 なぜなら,経過失の場合が免責になっていますし,損害賠償の範囲が,逸失利益などを含まない通常損害(この概念は国によってまちまちですので,あくまで参考例です)に限定されているからです。

 

 そして,前述したとおり,売主が補償をについては言及されていない体裁になっていたとしても,「支払い遅延には遅延損害金を付加する」という条項が別にあれば,売主が賠償を受けるのは,通常は,この遅延損害金だけですので,双務的な補償条項が別に書かれていなくとも売主に特段不利益はないと考えられるのです。

 

 つまり,実際には,上述した例では,①の双務的な補償のパターンの例のほうが,売主が買主を補償する場面が多く,金額も高額になる可能性があり,売主に不利で,②の片務的な補償のパターンの例のほうが,売主が買主を補償する場面は少くて済み,金額も少額で済む可能性が高いため,売主に有利といえるのです。

 

 このように,形式的に不平等に見える書き方がされているから問題だということではないですし,逆に,平等に見える書き方がされていれば常に問題ないということでもないのです。

 

 大切なのは,一方当事者の立場に立って,具体的・実質的に状況を想像し,より突っ込んで場面を想像し,リスクを考え,修正をするということです。

 

→next【英文契約書の相談・質問集145】英文契約書作成時に注意すべき基本事項を教えて下さい。

 

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英文契約書の相談・質問集148 契約書の最低購入数量を達成できなければ解除されても仕方ないですよね。

 

 英文契約書の作成,チェック(レビュー/審査),翻訳(英訳/和訳),修正の依頼を受ける際によく受ける相談・質問に,「契約書の最低購入数量を達成できなければ解除されても仕方ないですよね。」というものがあります。

 

 例えば,独占販売店契約(Exclusive Distribution/Distributorship Agreement)などを締結すると,通常は,最低購入数量/金額(Minimum Purchase Quantity/Amount)が定められます。

 

 最低購入数量は「ノルマ」とか「ミニマム」とか呼ばれることもあります。

 

 そして,販売店が商品の購入につき,最低購入数量/金額(Minimum Purchase Quantity/Amount)を一定期間中に達成できなければ,①独占販売店契約(Exclusive Distribution/Distributorship Agreement)が解除されたり,②独占販売権を剥奪されて非独占販売権になったりなどのペナルティが契約書に記載されていることが多いです。

 

 では,販売店が,これらの最低購入数量/金額(Minimum Purchase Quantity/Amount)を達成できない場合,甘んじて解除や独占販売権の剥奪というペナルティを受けざるを得ないのでしょうか。

 

 原則としては,契約書に記載されているのですから,そのとおりの効果が認められることになるでしょう。

 

 つまり,販売店が最低購入数量/金額(Minimum Purchase Quantity/Amount)を一定期間中に達成できなかった場合は,契約の解除や独占販売権の剥奪をされてしまうことになるでしょう。

 

 ただ,売主・サプライヤー側に不当な行為があった場合は,どうでしょうか。例えば,不当な率とペースで商品価格の値上げを繰り返して,事実上注文を不可能または著しく困難とした場合や,生産が間に合わないなどの理由で,一部受注を拒絶されたような場合です。

 

 このような場合にまで販売店が最低購入数量/金額(Minimum Purchase Quantity/Amount)の不達成による制裁を受けるのは合理的でないようにも思えます。

 

 契約書に,このような場合の措置が書かれていれば,わかりやすいです。例えば,サプライヤーからの受注拒否があった場合は,最低購入数量/金額(Minimum Purchase Quantity/Amount)の対象の数量から受注拒否分を差し引くなどと記載してあるような場合です。

 

 このような手当が契約書でなされていれば,受注拒否の分は購入したことになるのですから,販売店にとっては利益になります。

 

 また,契約書に値上げの要件が書かれていて,それに従っていないということが明白であるような場合には,販売店はそもそも値上げについて抵抗する余地があります。

 

 これにより,販売店は商品代金の値上げを防ぎ,予定していた分の商品数を買い付けることができる余地があります。

 

 他方で,何も書かれていない場合はどうなるのでしょうか。

 

 この場合は,最終的には裁判所などの判断によることになってしまいますが,売主・サプライヤーに不当な意図があるなど一定の場合には,売主・サプライヤーの行為の不当性を主張して,最低購入数量/金額(Minimum Purchase Quantity/Amount)未達による制裁の発動を争うということもありうるかと思います。

 

 最低購入数量/金額(Minimum Purchase Quantity/Amount)は,その量を一定期間で購入してくれれば,売主・サプライヤーとして最低限必要な利益が確保できるという視点で設定されているはずです。

 

 それにもかかわらず,不当な値上げを繰り返したり,受注を拒否したりする場合,何らかの不当な意図がある場合がありえるでしょう。

 

 特に,工場のストライキ(ストライキが不可抗力に当たるかはさておき)や天候不順など,当該商品を供給することを妨げるような不可抗力事由もないのに,受注を拒否するようなことがあれば,不当な意図が推察されます。

 

 例えば,他に良い販売店候補が見つかった,または,自社で販社を設立して販売展開したいなどが裏にあるかもしれません。

 

 そういう場合は,立証の問題などはあるでしょうが,注文の拒絶や不合理な値上げによる実質的な受注拒否によって最低購入数量/金額(Minimum Purchase Quantity/Amount)を達成できなかった,つまり,売主・サプライヤー側から最低購入数量の達成を妨害されたことを主張して,制裁を回避する道も場合によってありうるかと思います。

 

 そうはいっても,やはり,争いになること自体で時間を奪われ損失を受けますから,英文契約書に何と書いてあるかがすべての出発点です。

 

 そのため,上記のような問題が生じそうな案件であれば,受注拒否の要件や,値上げの要件などを調整したり,最低購入数量/金額(Minimum Purchase Quantity/Amount)充足の判定基準を調整したりして契約書に反映させて,最初からより安全な内容にすべきということにはなるでしょう。

 

→next【英文契約書の相談・質問集149】契約終了させるときには理由を書いた方が良いですか。

 

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英文契約書の相談・質問集152 契約解除するには事前の催告が必要とすべきでしょうか。

 

 英文契約書の作成,チェック(レビュー/審査),翻訳(英訳/和訳),修正の依頼を受ける際によく受ける相談・質問に,「契約解除するには事前の催告が必要とすべきでしょうか。」というものがあります。

 

 契約書には,通常,当事者が債務不履行(契約違反)をした場合に,債務不履行をされた当事者は,契約を解除できるという規定(Termination with Cause Clause/解除条項)が記載されています。
 

 契約書は,各当事者の義務が書かれていることが普通で,何らかの契約でどちらか一方だけが義務を負っているということは考えにくいです。

 

 そもそも,英米法の考えでは,法的拘束力がある契約を結ぶためにはconsideration(約因)というものが必要で,当事者双方が対価関係にある何らかの義務を負っていないといけないとされています。

 

 そうすると,債務不履行をされた当事者としては,相手が義務を果たしていないのに,自分は契約書に記載された義務を負い続けるということでは,不合理でアンフェアであると考えるでしょう。

 

 こうした場合に備えて,もし契約違反をされた場合,契約違反をされた当事者は,自己の契約上の義務から免れることを主目的として,契約を解除することができると契約書に定めることが多いわけです。

 

 この契約解除権には,大きく分けて,2種類のパターンがあります。

 

 一つは,相手の契約違反があった場合に,その契約違反をしたということだけをもって直ちに解除できるという解除権です。

 

 これを,無催告解除権と呼んでいます。

 

 もう一つは,相手が契約違反をした場合,それだけでいきなり解除はできず,いったん,相手に対し契約違反の状況を一定期間内に是正するように求めて,一定期間内に是正しなかった場合にはじめて契約解除ができると定めるパターンです。

 

 こちらは,催告解除権と呼ばれています。

 

 この2種類の解除のパターンのどちらを選択するのが妥当でしょうか。

 

 これは,ケース・バイ・ケースということになります。

 

 例えば,商品の売買契約(Sales Agreement)や販売店契約(Distribution/Distributorship Agreement)などでは,より多くの義務を負っているのは,売主ということになります。

 

 買主(Buyer)や販売店(Distributor)は,基本的な義務は商品の代金を払うということであり,それ以外には目立った義務を負っていません。

 

 これに対し,売主(Seller)やサプライヤー(Supplier)は,注文された商品の種類と数を間違いないように準備し,商品の品質もきちんと保証された状態にして,納期までに商品を引き渡す義務を負っていて,より高度で複雑です。

 

 そうすると,契約を解除するという場面を考えたときに,解除されると主張される可能性が高く,その場合にすぐに解除されてしまうと不利益を受けるおそれが高いのは,買主(販売店)よりは売主(サプライヤー)のほうであると考えられます。

 

 買主は,代金を払う義務が中心ですので,自身の財務状態が障害になる可能性があるくらいで,義務の履行が難しいことはありません。

 

 つまり,財務状態に特に問題がなければ,買主が自分の義務を履行できないという状況はあまり考えられません。

 

 反対に,売主のほうは,義務の内容も買主よりは難しい内容ですし,やらなければならないことも多いため,何らかの事情で義務の履行が難しいという状態になることが,買主側よりもありえます。

 

 例えば,うっかり品数を間違えてしまった,商品の種類を間違えてしまった,工場の生産能力を見誤って過剰に受注してしまい納期までに納品できないなど数多くの状況を想定できます。

 

 このような場合に,売主にうっかりミスがあったので,買主が,「全てご破産,契約解除だ。」とすぐに主張できるとすると,売主は,商品を生産・準備するなどのコストをかけているため,不利益が大きくなってしまいます。

 

 何より,これではあまりに売主に酷なため,売主が用意に取引に入ってくれないという事態を引き起こしかねません。

 

 このような場合に備えて,契約を解除するためには,いったん,「あなたは契約に違反していますよ。〇〇日以内にきちんと履行して下さい。さもなければ契約を解除しますよ」という警告=催告を与えることを必要とするわけです。

 

 これにより,売主のうっかりミスなどにより,いきなり契約が解除されるという自体を防げます。

 

 上記の例のように,売買契約(Sales Agreement)や販売店契約(Distribution/Distributorship Agreement)などでは,売主側の立場では,いきなり解除されるのは不利益なことが多いので,売主からすれば,契約解除には催告が必要だとしたいと考えるかもしれません。

 

 他方で,買主からすれば,何か問題があれば,すぐに自分の代金を支払う義務から逃れて,問題のある売主との関係は直ちに断ち切りたいと考えるかもしれません。

 

 そうすると,買主からすれば,無催告解除を定めたいということになります。

 

 さらにいえば,売主としても,買主の代金支払いが前払いのような場合には,買主が期日までに代金を支払わなければ,そのような信用できない買主との契約は直ちに解除して,契約関係から離脱したいと考えるかもしれません。

 

 このように,当事者の立場や,義務の内容や数などによって,無催告解除にしたほうが良いのか,催告解除にしたほうが良いのかは,変わってきます。

 

 また,準拠法によっては,無催告解除は認められず,契約違反を理由として解除するためには,解除の前に催告を必要とするとしていることもあるので,その点も注意しなければなりません。

 

 これは,契約書全般にわたっていえることですが,一般的にどうかという視点も有用ではあるものの,前述のように,常に具体的に自社の立場で考えてみるということも大切です。

 

→next【英文契約書の相談・質問集153】前文(Recital)は書かなくても良いですよね。

 

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英文契約書の相談・質問集154 First Refusal RightとFirst Optionはどう違うのですか。

 

 英文契約書の作成,チェック(レビュー/審査),翻訳(英訳/和訳),修正の依頼を受ける際によく受ける相談・質問に,「First Refusal RightとFirst Optionはどう違うのですか。」というものがあります。

 

 First Refusal Rightについては,こちらの英文契約書用語解説記事でも解説しています。

 

 これらの用語は,例えば,合弁契約書(Joint Venture Agreement)や株主間契約書(Shareholder Agreement)などでよく登場します。

 

 株主Aと株主Bが合弁で事業をしていて,AかBのどちらかが自分が保有している株式を他に譲渡したいと考えた場合に,First Refusal RightとFirst Optionに関する条項でどのようにしなければならないかが規定されています。

 

 First Refusal Rightのほうは,例えば,「株主Aが第三者に自分が保有している株式をこういう条件で売りたい」とすでに買主の候補者がいる場合に利用される用語です。

 

 AがCさんという買い手候補者に,自分が持っている全株式50株を代金100万円で譲渡したいという話がすでにある場合は,まず,この条件をBに提案し,Bがこの条件でAの保有株式を購入するかどうかを最初に決定できる権利を,First Refusal Rightといいます。

 

 Refusalなので,直訳すると「最初に断る権利」という意味合いになりますが,Cに売るためには最初にBが購入を断らないといけないため,イメージが付きやすいかと思います。

 

 反対に,First Optionという場合は,買主候補は存在せず,単にAが「自分の保有株を第三者に売りたい」と思ったときに,まずBに提案し,BがAの保有株式を購入するかどうかを最初に決定する権利を指します。

 

 こちらはoptionと付いているので,選択肢というイメージです。Bに選択肢を最初に提供するとイメージすると理解しやすいかと思います。

 

 なお,First Refusal RightとFirst Optionは,通常,売買が成立するまで権利者が最初に買うか買わないかを選択する権利を持ち続けます。

 

 先ほどの例でいうと,AがBにオファーしたが,Bはその条件ではAの保有株式を購入しなかったとします。

 

 そのため,Aは自己保有株式をCに提案しました。ところが,Cはこの提案を最終的に受け入れず,売れなかったとします。

 

 その後,Dが現れ,AはDと話し合い,だいたいの条件が決まりました。

 

 すでに,Bには提案してBは購入を拒否していますので,今度はDに直接オファーして購入してもらえばよいかというと,そうではないことが一般的です。

 

 この場合でも,再度,Dへの提案条件をまずはBに提案し,Bがこれを蹴った場合に限って,Dに売ることができるということになります。

 

 このように,First Refusal RightとFirst Optionは,その権利を持つものが最初に購入するかどうかの選択権を持ち,それは,対象物が売れるまで続くという強い権利といえます。

 

 このようにかなり強い権利ですから,これらが与えられる場面は限定的ではあります。

 

 ただ,当然ですが,合弁契約書(Joint Venture Agreement)や株主間契約書(Shareholder Agreement)で与えられることが多いということであって,これらにおいてのみ与えられる権利ということではありません。

 

 例えば,販売店契約(Distribution/Distributorship Agreement)などでも,「当初は契約対象になっていない商品が新たに生産された場合にそれも取り扱うようにするかどうかについて,最初に特定の販売店にオファーし,販売店が拒否した場合にはじめて他の販売店にオファーできる」という定めをすることもあります。

 

 また,他にも販売店契約(Distribution/Distributorship Agreement)では,「サプライヤーがこれまで販売店を指名していなかった地域に販売店を指名しようと考えた場合,従前の販売店が,その新たな販売地域も含めて販売展開することを選択するかどうかを最初に決定できる」などと定めることもあります。

 

 この場合は,従前の販売店が新たな地域での販売展開を拒否した場合に限り,サプライヤーはその地域で新たな販売店を指名できることになるというわけです。

 

 非常に強い権利ですので,付与する側は慎重に検討する必要がありますし,与えられる側としては利益が高い権利といえるでしょう。

 

→next【英文契約書の相談・質問集155】Entire Agreement(完全合意)条項は必ず入れますよね。

 

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英文契約書の相談・質問集155 Entire Agreement(完全合意)条項は必ず入れますよね。

 

 英文契約書の作成,チェック(レビュー/審査),翻訳(英訳/和訳),修正の依頼を受ける際によく受ける相談・質問に,「Entire Agreement(完全合意)条項は必ず入れますよね。」というものがあります。

 

 Entire Agreement(完全合意)条項というのは,要するに,「その契約書に書いてあることがその当事者間で約束したすべての内容であって,その契約書に書いていないことは合意していないので,例えば,口頭やメールや他の書面で合意されていたとしても,それらはすべて効力がない」という条項をいいます。

 

 なお,あくまで,Entire Agreement(完全合意)条項を含んだ契約書の発効日までに他の書面などで合意した内容が無効になるということであり,契約締結日以降に契約書ではない別の書面などで合意した効力がどうなるかはまた別の問題ですので注意して下さい。

 

 この契約書締結後の合意の効力の問題は,Entire Agreement(完全合意)条項の問題ではなく,一般的にはAmendment(改定)条項の問題です。

 

 一旦成立した契約書の内容を変更する場合に,どのような手続きを踏む必要があるのかを規定した条項がAmendment(改定)条項です。

 

 これは,契約書の内容の変更の問題ですので,当然ですが契約が発効した後の問題ということになるわけです。

 

 Amendment(改定)条項に記載された手順にしたがって合意をしなければ,契約書締結後の変更の効果は認められないことになります。

 

 話を元に戻します。Entire Agreement(完全合意)条項は,一般条項(General Provisions)としてほとんどの英文契約書に挿入されています。

 

 では,Entire Agreement(完全合意)条項は,必ず挿入したほうが良いのでしょうか。

 

 そういうことではありません。あえてEntire Agreement(完全合意)条項を挿入しないほうが良いこともあります。

 

 例えば,海外取引が決まり,日本法を準拠法として英文契約書を作成するとします。

 

 その場合に,当事者間ではいろいろなやり取りをしていて,契約書には書くような話ではない細かい取り決めなども担当者間の電子メールで合意していたとします。

 

 このような場合に,杓子定規にEntire Agreement(完全合意)条項を入れた契約書にサインしてしまうと,上記の電子メールでの合意は効力を有しませんので,あとで,相手方が「それはメールで合意したにすぎず,契約書に書いていないので,守る必要がない」などと主張してくることがありえます。

 

 また,交渉期間が長く,交渉内容も多岐に渡ったような場合,かなり詳細な内容をメールでやり取りしたり,会議で議論したりしていたという場合もあります。

 

 こうした場合に,契約書にすべて合意事項を書き入れることができず,本来契約書に記載すべきだった内容を当事者も気づかずに漏れてしまっていたということもありえます。

 

 このような場合に,Entire Agreement(完全合意)条項が契約書に挿入されていると,契約書に書かれていない合意によって不利益を受けるほうの当事者としては,「そのような合意は契約書に書いていないから,確かに議事録には残っているが法的効力はない」と主張するでしょう。

 

 そのため,前述したような都合がある場合は,あえてEntire Agreement(完全合意)条項を入れずに,契約書外で合意した内容も有効になる余地を残しておくということもあります。

 

 ただ,例えば,メールで合意した内容が契約書の内容と矛盾しているような場合で,Entire Agreement(完全合意)条項がないときには,契約書とメールの内容のどちらが優先するのかわからないという問題も生じえます。

 

 合意の手法からして契約書の記載が優先されるということになることが多いかとは思いますが,それでもメールを取り交わした経緯などから,逆の場合もあるでしょう。

 

 そのため,Entire Agreement(完全合意)条項を外すのは,その契約書に書いていない内容を後で持ち出されたり,契約書に書かれた内容とは異なる内容を主張されたりするリスクがあるということは認識しておく必要があります。

 

 また,英米法圏では,Parol Evidence Rule(口頭証拠排除原則/法則)という原則がありますので,注意が必要です。

 

 このルールがある国の法律を準拠法にしているような場合は,注意しなければなりません。

 

 このルールは,簡単にいうと,「仮に当事者が最終的に契約書を作成した場合,当該契約書の内容と矛盾し,またはその内容を変更するような他の証拠(例えば口頭による別の合意)を裁判所は考慮しない」というルールです。

 

 前述のように,日本法を準拠法とするような場合,Parol Evidence Rule(口頭証拠排除法則)のような明確なルールはありませんので,契約書外での合意事項も有効となる余地を残しておくために,あえてentire Agreement(完全合意)条項を入れないという手法は機能しえます。

 

 ただ,準拠法が英米法圏ですと,前記のParol Evidence Rule(口頭証拠排除法則)がありますので,Entire Agreement(完全合意)条項がなくとも,ある場合と同じ効果が生じることになります。

 

 そうすると,結局,契約書外の合意の効力を主張できないということになり,契約書外での合意も有効にするためにあえてEntire Agreement(完全合意)条項を外したという意味がなくなる可能性があります。

 

 そのため,Entire Agreement(完全合意)条項について検討する時は,準拠法についても留意する必要があるといえます。

 

 このように,ボイラープレート条項・一般条項の一つに挙げられているEntire Agreement(完全合意)条項ですが,いつも挿入したほうが良いということではありませんので,ケース・バイ・ケースで本当に必要かどうかを考える必要があります。

 

→next【英文契約書の相談・質問集156】海外取引で納期保証をすべきでしょうか。

 

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英文契約書の相談・質問集156 海外取引で納期保証をすべきでしょうか。

 

 英文契約書の作成,チェック(レビュー/審査),翻訳(英訳/和訳),修正の依頼を受ける際によく受ける相談・質問に,「海外取引で納期保証をすべきでしょうか。」というものがあります。

 

 海外取引では,当然ですが,物理的距離が国内取引よりも長いですし,通関などの手続き的な壁もあったりします。

 

 そのため,国内取引よりも輸送に時間を要します。

 

 このような海外取引において,販売店契約(Distribution/Distributorship Agreement)などにおける商品の売主は,納期までに商品を引き渡すことを買主に対して保証すべきなのでしょうか。

 

 納期を保証すれば,もし納期に違反した場合は,売主が買主に対して,納期に遅れたことによって買主に生じた損害を賠償するなどの責任を負うということになります。

 

 一般的には,海外取引においては,売主の立場からすると納期保証はしないという方向で検討することになるでしょう。

 

 前述したとおり,海外取引では国内取引よりも障壁が高いですので,何があるかわからず,納期遅延をしたら責任を負うというのは,売主にとって国内取引に比してリスクが高いからです。

 

 商品の製造に予定より時間がかかってしまったり,商品を仕入れたものの,メーカーの都合によって売主のところに納期までに商品が間に合いそうにないなどの事態が起こったりすると,海外への輸送は時間がかかるため,こうした時間的遅れを埋め合わせるのが難しくなります。

 

 もちろん,通常は,ボイラープレート条項(一般条項)として,不可抗力条項(Force Majeure Clause)が挿入されるでしょうから,不可抗力(自然災害など売主のコントロールが及ばない事由)によって納期遅延が生じたとしても,売主は免責されるということになるでしょう。

 

 ただ,前述のとおり,不可抗力が原因でなくとも,物理的距離が長く,手続き的な障壁も多い海外取引では,納期に遅れてしまうということは国内取引よりも生じやすいのです。

 

 納期遅延の原因が不可抗力ではないとなると,不可抗力による免責規定では売主は免責されないことになってしまいます。

 

 なお,英国法の考えでも,納期については,原則として"Time is not of the essence."という考え方に基づき,納期遅れについて直ちに売主に責任を負わないとされています。

 

 納期遵守が困難であるということと,英国法には"Time is not of the essence."という考えがあることなどから,海外取引では納期については保証しないという取り決めが比較的多くなされています。

 

 もちろん,買主からすれば,その後転売予定があり,転売先への納期が決まっているような場合,納期は重要な意味を持ちますので,納期保証をしてほしいということになるでしょう。

 

 この利害調整は難しいですが,発注について十分なリードタイムを設けておくなど,予め納期遅延が生じないような発注・受注の取り決めを契約書でしておくといった対処法が必要になると思います。

 

 他にも,納期保証をする場合でも,予め損害賠償の予定条項(Liquidated Damages Clause)や責任制限条項(Limitation of Liabilities Clause)などを設けて,万が一納期遅延が生じた場合に売主の賠償すべき損害が不当に拡大することがないように手当することは最低限必要でしょう。

 

 また,前述したとおり,準拠法にもよりますが,最低限,不可抗力(Force Majeure)によって納期遅延をした場合には,売主に責任がないという免責条項は定めておく必要があります。

 

 日本法では,売主に納期遅延による責任を問うためには,売主の責めに帰すべき事由(過失のようなもの)が必要とされているので,そもそも不可抗力による納期遅延について売主は責任を負いません。

 

 ただ,これはあくまで日本法の話ですので,準拠法によっては不可抗力による納期遅延でも売主が損害賠償などの責任を負う可能性があります。

 

 そのため,契約書で不可抗力免責を明記しておく必要があるのです。

 

 不可抗力免責については,買主としてもそれほど抵抗せずに受け入れることが多いかと思います。

 

 以上のように,売主としては,安易に納期の確約をすることは避け,現実的に納期保証が可能なのか,遅延した場合の責任の範囲はどうなるのかなどをよく検討した上で,最終的に決断した内容を英文契約書に落とし込むことをしなければなりません。

 

→next【英文契約書の相談・質問集157】英文契約書でwillはどのように使えば良いですか。

 

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英文契約書の相談・質問集162 準拠法と紛争解決地が平行線なのですがどうすれば良いですか。

 

 英文契約書の作成,チェック(レビュー/審査),翻訳(英訳/和訳),修正の依頼を受ける際によく受ける相談・質問に,「準拠法と紛争解決地が平行線なのですがどうすれば良いですか。」というものがあります。

 

 英文契約書では,ほぼ必ず,準拠法と紛争解決方法と紛争解決地を定めます。

 

 準拠法というのは,その契約書に関する争いや解釈について疑義が生じたような場合に,どの国の法律を適用するかという問題です。

 

 また,紛争解決方法と紛争解決地というのは,裁判や仲裁などの紛争の解決策を選択するか,そしてそれをどこの国のどの都市で行うのかの問題のことです。

 

 これらについて英文契約書で定めていないと,国際私法の問題として,準拠法がどこの国の法律になるのかが不安定になります。

 

 さらに,裁判管轄などもその国の民事訴訟法に相当する法律によって決まるということになり,事前に明確ではなく不安定になってしまいます。

 

 そのため,ほぼ全部の契約書において,準拠法と,紛争解決方法とその地が定められます。

 

 ただ,どちらの当事者も,準拠法も紛争解決地も,通常は,自分が属する国を選択したいという事情があります。

 

 そのため,よく起こるのは,互いに自国の法律を準拠法とし,自国の都市を裁判管轄としたり,仲裁地としたりすることを主張し,交渉が平行線をたどってしまい,前に進まなくなるという事態です。

 

 確かに,通常は,慣れ親しんだ自国の法律を適用し,移動コストも安くて済む自国の都市で裁判や仲裁を行うというほうが,自社にとって有利でしょう。

 

 ただ,それは相手も同じですので,どちらも自分に有利になるように主張をし続ければ,いつまでたっても折り合いがつけられないということになってしまいます。

 

 また,この準拠法や紛争解決の地は,いざトラブルが生じたときに,基礎になるような取り決めなので,当事者に与えるインパクトが大きいという特徴があります。

 

 なんとなく,他国の法律を適用し,他国の地で裁判や仲裁をすると聞くだけで,かなり自社に不利で,相手方に有利なのではないかとの「印象」を抱かせるものです。

 

 そのため,いざ,この点で自社に有利な主張を双方が展開しだすと,双方がこだわるため,てこでも動かないような状態になることはよくあります。

 

 このようなときの打開策はいくつか存在します。そのうち,よくある典型例をいくつか紹介します。

 

 まず,代表的なのは,どちらの当事者の国でもない中立的な第三国を選ぶというものです。

 

 例えば,契約当事者が日本企業と,アメリカの企業なのであれば,中立の国として,シンガポールやスイスを選択するということがあります。

 

 第三国の法律を適用し,第三国の都市で裁判や仲裁をするとなれば,フェアだということで,条件を飲みやすくなります。

 

 どの国を選択するかは,難しい問題ですが,どちらの国にも有利にならないような中立国で,かつ,司法制度や法律がきちんと整っていて機能している国を選ぶのが良いでしょう。

 

 例えば,どちらかが地理的に遠すぎるとか,どちらかの国の法律の体系をその国も取り入れているなどとなれば,一方が有利になる可能性があるので,そのような国は選択肢から外すということになることがあります。

 

 また,いざ裁判や仲裁をしたところで賄賂が横行していたり,解決までに無駄に時間がかかりすぎたりするなど,法律・司法制度が成熟していないとその国を選択するメリットが薄いです。

 

 次に,「被告地主義」とも呼ばれることがある方法があります。

 

 これは,裁判の被告,つまり,訴えられる方の当事者が属する国の法律を適用し,その国の都市で裁判をするという内容の取り決めです。

 

 仲裁であれば,仲裁を申し立てられた方の国の法律を適用し,その国の都市の仲裁機関と仲裁規則で仲裁をするということになります。

 

 この取り決めも,どちらかに決定しておらず,いずれの当事者も同じ条件ですので,フェアだと考えられています。

 

 さらに,被告地主義とは逆に,訴訟提起する側,仲裁を申し立てる側の当事者の属する国の法律に従い,その国の都市で訴訟や仲裁をすると決めることもあります。

 

 これも,被告地主義の考えと同様で,どちらかに決まっているわけではなく,お互い条件が同じなので,フェアだという理由からです。

 

 ただし,こうした被告地主義のような取り決めを法律で認めていない国もありますので,規定の有効性については事前調査が必要です。

 

 さらに,準拠法を被告の国や原告の国の法律とすると,実際に訴訟や仲裁が申し立てられない限り,準拠法が決まらないという問題があります。

 

 加えて,仲裁の場合,単に仲裁の地を定めるだけだと,仲裁機関や仲裁規則が選ばれていないという不安定さも残る可能性があります。

 

 このように,準拠法や紛争解決地を,被告や原告の国の法律や都市とする定めには,不安定さが残ってしまうというデメリットもあります。

 

 ところで,相手国の法律を準拠法にして相手国の地で裁判などをするという取り決めが常に自社にとって不利益かというとそうではありません。

 

 相手に対して強制執行をかけるような事態が現実的に想定されるのであれば,むしろ相手国の法律を準拠法にし,相手国で訴訟をしたほうが執行までの費用と時間の面でメリットが大きいこともあるのです。

 

 以上説明したように,準拠法や裁判管轄,仲裁地で交渉が平行線をたどった場合,いくつかの選択肢があります。

 

 この他にもいくつか選択肢がありますが,どういう場合にどのような選択をするのが良いのかは,かなり難しい問題です。

 

 契約書上,その他の条件でどのような事項が交渉されているかも関わってきます。

 

 また,契約書の種類や当事者の立場によって,どの選択をしたほうが良いかどうかも変わってきます。

 

 このように,準拠法と,裁判管轄・仲裁地の問題は,一律にこうすれば良いというような対応策がない問題です。

 

 このあたりをどのように交渉していけば良いかは,正解がなく,なかなか難しいです。

 

 とはいえ,トラブルにはならないだろうと踏んで,いい加減に決めてしまうと,大きなテーマだけに,後で大きな被害にあってしまうこともあります。

 

 この問題は,弁護士の経験値によっても意見が別れたりするので,この点を交渉・調整する場合は,慎重な姿勢で臨んだほうが良いかと思います。

 

→next【英文契約書の相談・質問集163】相手方から契約書の修正案が来たのですがどうすれば良いですか。

 

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英文契約書の相談・質問集163 相手方から契約書の修正案が来たのですがどうすれば良いですか。

 

 英文契約書の作成,チェック(レビュー/審査),翻訳(英訳/和訳),修正の依頼を受ける際によく受ける相談・質問に,「相手方から契約書の修正案が来たのですがどうすれば良いですか。」というものがあります。

 

 英文契約書を自分で作成して,相手方に提示した場合,相手方のほうでも英文契約書をチェック,レビュー,審査します。

 

 そして,相手方のほうでも英文契約書に修正をかけたりして,相手方が受け入れられるという内容についてフィードバックしてきます。

 

 自社が相手方のフィードバックを受け取った場合,当然ですが,どこをどう修正してきたのかを確認する作業から始めます。

 

 通常は,ファイルに何らかの修正履歴をつけてきますので,それを確認すれば大丈夫だと思います。

 

 まれに,修正履歴をつけず,どこを削除したり,修正したりしたのかわからない状態で返却してくるところもあります。

 

 こうした企業は,信頼性に問題があることがあります。一度,修正履歴を付けて再送するように依頼しても良いかと思います。

 

 そして,そのような企業については完全に信用せず,自社でもワードファイルの比較機能などを利用して,どこを修正したのか確認することをおすすめします。

 

 たまに,不誠実な会社や,騙そうとしている会社などは,あえて,修正履歴をつけつつ,修正履歴のない箇所にも修正を施しているということがあるからです。

 

 私の経験でも,このような方法で,契約書の報酬金額などの重要な部分を修正したことを明言せずに黙って変更してきたケースが実際にありますので,十分に注意して下さい。

 

 なお,自社が契約書を修正する場合には,このような姑息な方法は取らないことをおすすめします。

 

 そもそも,このような方法で相手が気づかずにサインしたような場合,内容についてあとでクレームを入れられ,トラブルになる可能性が高いです。

 

 自らトラブルになるような火種を残すようなことは控えるべきでしょう。

 

 また,このようなだまし討のようなことをすれば,法律や判例で相手方が救済される可能性もあります。

 

 そもそも,このような不誠実な交渉をしてくる取引先とは長期のビジネスを望めないと考えられてしまうこともありますので,あくまで交渉は誠実にすることをおすすめしています。

 

 話を元に戻します。このようにして,相手の修正箇所を確認できたら,今度は,自社が相手方の削除・修正の要求に応じられるかどうかを検討します。

 

 当然ですが,相手方が削除・修正してきた箇所は,相手方としてはオリジナルのままでは受け入れがたいという意思表示をしてきた箇所になります。

 

 そのため,交渉を前にすすめるためには,これは自社として絶対に譲れないという箇所でない限り,できるだけ相手方の要望を実現する方向で検証するのが正しいと思います。

 

 そうしないと,いたずらに交渉期間が延びてしまいますし,最悪失注ということになりかねないからです。

 

 できるだけ受け入れるという姿勢で検討する場合,実質的にオリジナルの内容を無意味にしてしまうような大きな変更になっているか,それとも,条件が加わった程度で,大きな内容の変更にはなっていないかという視点を持つと良いと思います。

 

 また,相手方が要求してきた内容が,その業界の取引慣行から「さもありなん」という常識的・合理的な変更要求かどうかという視点も持ったほうが良いと思います。

 

 海外取引・国際取引において「一般的にはこうだ,このレベルの内容を受け入れられるのが普通だ」という内容が実務的にはあります。

 

 その範囲内に収まった要求なのであれば,要求を受け入れたほうが無難かもしれません。

 

 相手方としても,常識的な変更要求をしているだけなのに,受け入れられないとなると,交渉が決裂したり,平行線をたどったりしてしまうということになりやすいからです。

 

 もし,実質的にオリジナルの条項が無意味になっているような修正があれば,それは無効化された条項がどの程度重要かを検討することになります。

 

 そして,代替案を提示していくことになります。

 

 なお,オリジナルの条項が削除されてしまった場合には,法律がどうなっているかを考えることも大切です。

 

 例えば,損害賠償請求の規定が削除されたという場合,その契約書の準拠法が日本法であれば,日本の法律ではどのような条件で損害賠償請求ができるのかをチェックします。

 

 そして,日本の法律の下,一定の要件を充たせば損害賠償請求が可能なのであれば,特に「損害賠償責任を免責する」とまで契約書に書き込まれていなければ,賠償請求の条項を削除したとしても,法律によって損害賠償請求が可能と考えられます。

 

 そうであれば,相手方の削除の要求を受け入れても問題ないという判断がありえるわけです。

 

 また,これはややテクニカルなことで,いつもこうしたほうが良いということではないのですが,自分が英文契約書を作成する際には,できるだけ自社に有利な契約書を最初に提示するということをあえてすることもあります。

 

 もちろん,この方法を取ると,相手方の検討事項が増え,修正事項も増えて時間がかかるというデメリットもあります。

 

 ただ,メリットとしては,こちらの最大限の要求をぶつけることにより,相手のフィードバックも多くなり,こちらが譲歩の姿勢を示しやすくなるという点があります。

 

 いつもこのようにうまくいくわけではないですが,相手方の修正事項が2つしかない場合と,10箇所ある場合とでは,この修正は受け入れられないと相手方に突き返すのはどちらが容易でしょうか。

 

 普通は,10箇所ある場合のほうが突き返しやすいかと思います。

 

 2箇所しかないと,1つでも突き返せば,半分突き返したことになりますが,10箇所あれば,3箇所突き返しても,7割も要求を飲んであげているということになるからです。

 

 小手先の話なので,本質的な内容ではないのですが,このような方法を取ったほうがうまくいく場合もあることは事実です。

 

 まとめると,相手方から契約書の修正案が送られてきた場合,まずは,①どこが削除されたり修正されたりしたのかを把握し,②できるだけ相手方の要望を受け入れる方向での検証をするということが基本だということになります。

 

→next【英文契約書の相談・質問集164】Inspectionとは何でしょうか。

 

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英文契約書の相談・質問集159 債権回収したいのですが弁護士に依頼すべきですか。

 

 英文契約書の作成,チェック(レビュー/審査),翻訳(英訳/和訳),修正の依頼を受ける際によく受ける相談・質問に,「債権回収したいのですが弁護士に依頼すべきですか。」というものがあります。

 

 海外取引において,売掛を残すということになると,国内取引の場合に比べて遥かに回収リスクが高いので,そもそもおすすめできません。

 

 そのため,貴社が売主になったり,サービスの提供者になったりした場合,そもそも売買代金や報酬金は,当然ですが事前に支払ってもらうのがベストです。

 

 とはいえ,特にサービスの提供などは,目に見えないものですので,成果物をきちんと確認してからでないと,委託者は報酬の支払いをすることを渋ることも多いでしょう。

 

 そのため,全件において前払いを100%受けるというのも現実的ではないでしょう。

 

 支払いを確保するために担保や保証を取るということも考えられますが,これも実際の実行が難しくてあまり現実的とはいえないこともありますし,相手が担保の提供に応じてくれないことも多いでしょう。

 

 そして,後払いの約束をしたり,分割払いの約束をしたりし,後に,約束どおりに支払いを受けられず,債権回収の問題を生じることは現実問題としてあります。

 

 このような事態になったときは,一般的には,最初は自社で回収に向けて対応し,自社の担当者が相手方の担当者に督促をかけます。

 

 ただ,相手にも支払いを拒みたい事情があるような場合,最初は難癖をつけて支払いを拒絶しますが,そのうち,無視するようになることもあります。

 

 このような場合,債権回収したい当事者は,事態を打開するために,他に何か有効な手だてはないかと考えます。

 

 その際に一つの手段としてありうるのは,弁護士に依頼し,弁護士からクレームレターを出してもらい,法的手続きに移行することを匂わせながら,弁護士に交渉をしてもらうという手段です。

 

 ただ,弁護士を利用しても,当然ですが,それで奏効することもありますし,奏功しないこともあります。

 

 弁護士名義でクレームレターを出し,弁護士が当事者を代理して交渉するメリットは,やはり,後に法的手続きがなされる可能性があるというメッセージを出しながら,交渉できるという点が大きいと思います。

 

 ところが,このいわば「脅し」が通じないことも現実にはよくあります。

 

 例えば,まず挙げられるのは,請求額が少ない場合です。

 

 請求額が少ない場合,そもそも,自社が弁護士を雇うだけで赤字になるということが考えられますので,そもそも弁護士を代理人に立てること自体,コスト面から選択肢に挙がらないかもしれません。

 

 もし,顧問弁護士などが安く対応してくれるということがあって,選択の余地はあるとしても,相手方としても,請求額が少額なのはわかっていますので,相手方も弁護士を立てるハードルが高いということになります。

 

 そうすると,相手方としても,自社で弁護士を立てて対抗するのは現実的ではないと考えて,弁護士からレターが着いたところで,無視するかもしれません。

 

 また,請求額が少ないと,相手方としては,コストや工数の面から,本気で裁判などの法的手続きまではしてこないだろうという算段をすることが考えられます。

 

 裁判をするということは債権回収をする側も,貴重な経営資源である金銭と時間を相当に消耗することになるからです。

 

 このような算段の下,だんまりを決め込んで,弁護士のレターがあっても何も反応しないということもあります。

 

 海外企業を相手に訴訟などをするとしても,最終的な強制執行(相手の財産を裁判所の手続きを利用して強制的に売却しその代金から回収を図る)のハードルも高いですし,強制執行するまでには,相当な時間と費用がかかります。

 

 そうした多大な工数をかけてまで実現すべき権利なのかと改めて考えると,要するに売掛金の問題は金銭の問題に集約されるので,最終的には損得勘定に左右されることになるわけです。

 

 これが,例えば知的財産権侵害などの問題で,勝敗によって,今後の継続的なビジネスが成り立つかどうかなどがかかっているという場合なら,その局面で赤字になってでも遂行することはありうるでしょうが,少額の債権回収ではかなり事情が異なります。

 

 反対に,弁護士を立てたほうが良い場合というのは,相手が本当に訴訟提起などを受ける可能性があると感じ,かつ,現実に訴訟などをされると困るという事情がある場合です。

 

 より具体的にいうと,請求金額がある程度高額で,しかも,債権回収を試みる当事者が勝つ見込みが大きく,相手方は財務状態も悪くなく,資産を持っていて,事業継続を望んでいるような場合です。

 

 このような場合は,本当に訴訟提起などをされて,財産を差し押さえられる危険性があるため,それを嫌がって,交渉に応じることはありえます。

 

 また,訴訟に敗訴すれば,国の制度によっては,勝訴者の弁護士費用を敗訴者が一部負担させられたりします(敗訴者負担制度)し,そもそも交渉や裁判で時間をかければかけるほど,相手方としても弁護士費用がかさみます。

 

 こうしたことを嫌がって,交渉に応じ,早めに解決したほうが得だと思うわけです。

 

 また,日本に子会社などがあり,日本でビジネスをしている場合も,レピュテーションが毀損されることを嫌がって交渉に応じてくることもあります。

 

 このように,簡単にいうと,相手が「訴訟等の法的手続きをされると困る」,「訴訟などで長引かせるよりは,自分も弁護士を立てて,早めに折り合いをつけて和解して金銭的に解決したほうが得だ」と思う場合は,こちらは弁護士を立てて,交渉に進むというのが良策といえます。

 

 債権回収は,最終的には金銭の問題に帰着するので,ある程度冷静に,損得で判断する必要も出てきます。

 

 約束を反故にするような経営者は「けしからん」というお気持ちは非常にわかるのですが,怒りに任せて対応すればするほど,自社が金銭的にも時間的にも大いに疲弊していくのでは,ますます相手を利するばかりともいえます。

 

 この点は,株式投資などをされている経営者の方は,いわゆる「損切り」の重要性を想起するとわかりやすいと思います。

 

 その株に思い入れがあったり,その銘柄に期待を「裏切られた」「こんなはずではなかった」という感情的な怒りがあると,その銘柄自体で損失を取り戻そうとして望み薄のままホールドし続けたり,ナンピン買いをしたりしてしまいますが,結果として損失がより拡大してしまうことがよくあると思います。

 

 そうなるよりは,まだ含み損が小さいうちにその銘柄は損失確定させて売却してしまい,より利益を期待できる株式に乗り換えたほうがよいということはよくあることでしょう。

 

 それと同じことが国際取引に関する紛争にも言えるのです。相手の裏切り行為に対する怒りから,その取引で損失を取り戻そうとこだわってしまうと,結局膨大な弁護士費用や時間を失い,十分な回収もできず,さらに傷口を広げてしまうことが多いです。

 

 そのため,「損切り」を早めにしてしまい,利益を上げやすい別の案件で利益を上げることに集中したほうが,大局的に見て損失を回避することにつながるのです。

 

 「損して得取れ」「負けるが勝ち」の精神でぜひ大局を見てほしいと思っています。

 

 海外取引のトラブルを巡っては,ときに,大局的な視点で考えると,あえて深追いしないということも良策である場合があることを理解されておくと良いでしょう。

 

→next【英文契約書の相談・質問集160】金銭支払いトラブルの交渉が有利になるポイントはありますか。

 

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英文契約書の相談・質問集165 隠れたる瑕疵(Latent Defect)とは何でしょうか。

 

 英文契約書の作成,チェック(レビュー/審査),翻訳(英訳/和訳),修正の依頼を受ける際によく受ける相談・質問に,「隠れたる瑕疵(Latent Defect)とは何でしょうか。」というものがあります。

 

 隠れたる瑕疵(Latent Defect)は,「一見してわからない欠陥」と理解しておけば良いと思います。

 

 対義語は,明白な瑕疵(Patent Defect)というもので,こちらは,「一見してわかる欠陥」と理解すると良いかと思います。

 

 販売店契約(Distribution/Distributorship Agreement)や売買契約(Sales Agreement)の場合,商品に欠陥があったときにどのように対処するのかは,重要な問題ですので,通常,その対処法が契約書に記載されます。

 

 販売店契約(Distribution/Distributorship Agreement)や売買契約(Sales Agreement)でよく使われる規定の方法は,2つの場面に分けて規定するという方法です。

 

 最初に,売主が買主に商品を引渡した後,買主が商品を検査(Inspection)し,一見してすぐにわかる欠陥(Patent Defect)について規定します。

 

 例えば,商品に傷がついているとか,商品の一部にヒビが入っているとか見た目でわかるような欠陥のことです。

 

 もう一つの場面は,商品の引渡し後の検収(Inspection)が終わり,検査に合格した後に発覚する,見た目にはわからない欠陥(Latent Defect)についての規定です。

 

 これは,商品を使ってみて動かなかったとか,食べてみたら異物が入っていたとか,見た目にはわからず,利用してみてはじめてわかるというような欠陥です。

 

 こうした隠れたる瑕疵(Latent Defect)というのは,取引先の買主が実際に,箱を開けて商品を出して,使ってみるというわけにいかないので,エンドユーザーの手元に渡ってはじめて発覚するということがよくあります。

 

 そのため,最初の買主による検査・検品(Inspection)の段階では発覚しません。

 

 それにもかかわらず,検収に合格(Pass)した場合には,その後一切瑕疵についてのクレームは入れられないということになりますと,買主にとっては具合が悪いということになります。

 

 そのため,2つの場面を規定し,まず,買主は商品を受け取ったらすぐにわかる欠陥(Patent Defect)がないかを検査し,その段階では欠陥が見つからなかった場合でも,後から隠れた瑕疵(Latent Defect)が見つかった場合の対処についても記載することが多いのです。

 

 もちろん,無制限に欠陥について対処するとなれば,売主の負担が大きすぎるということになります。

 

 そのため,通常は,保証期間(Warranty Period)を設け,一定期間中に限り,瑕疵に対して対応すると定めることになります。

 

 この保証期間(Warranty Period)を定めるときは,期間の長さだけではなく,いつからその期間が進行するのかについても注意を払う必要があります。

 

 というのは,例えば,買主に引き渡してから1年間なのか,買主がエンドユーザーに売却してから1年間なのかによって,売主の負担(裏を返せば買主の保護)が全く異なるからです。

 

 買主に対する引渡日は売主も把握していますが,エンドユーザーに対する販売日は,売主は,直接はわからないという問題もあります。

 

 そのため,保証期間(Warranty Period)を定めるときには,期間の長短だけではなく,期間の進行の起算日(いつから保証期間が進行するのか)にも注意を払う必要があります。

 

 なお,欠陥が見つかった場合の対処法としては,一般的に,①商品を欠陥のない商品と交換する,②修理する,③代金を返金するという方法がよく取られます。

 

 これらのうち,どの選択肢をどちらの当事者が選べるのかも重要なので,英文契約書には記載することが通常です。

 

 買主が選ぶとなると売主の負担が大きいので,売主が選択できるという定めになるほうが割と多いかと思います。

 

 隠れたる瑕疵(Latent Defect)は,商品が流通してから問題になることが多いので,その欠陥が本当に最初からあったのかということもよく問題になります。

 

 売主としては,欠陥の証明方法(例えば欠陥部分の写真に撮って写真を送る,欠陥品の現物を送るなど)についても予め英文契約書に記載しておき,その方法で欠陥の有無や欠陥の原因がわからない場合は,売主は免責されると契約書に記載することもあります。

 

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英文契約書の相談・質問集158 債権の譲り受けなどが可能かはどう調べれば良いですか。

 

 英文契約書の作成,チェック(レビュー/審査),翻訳(英訳/和訳),修正の依頼を受ける際によく受ける相談・質問に,「債権の譲り受けなどが可能かはどう調べれば良いですか。」というものがあります。

 

 第三者から,ある契約上の当事者の地位や,債権を譲り受けるという場合,それを譲り受けられるのかどうなのか,事前に確認する必要があります。

 

 というのは,準拠法(その契約に適用される国の法律)によっても異なりますが,契約上の地位や債権の譲渡については,法律で原則禁止されていたり,譲渡する場合の要件を定めていたりする場合があるからです。

 

 また,法律ではなくとも,一般的に,多くの英文契約書において,ボイラープレート条項(一般条項)として,契約上の地位や債権を,相手方当事者の承諾なく譲渡できないとしている規定が見られます。

 

 そのため,契約上の地位や債権の譲り受けが本当にできるのかどうかは,譲受前に調査・確認する必要があることになります。

 

 準拠法が日本法ではなく,相手国や第三国の法律になっている場合には,場合によって,現地法の調査が必要になることがあります。

 

 この場合は,通常,現地の資格を有し,その分野を取り扱っている専門弁護士に相談することになります。

 

 また,自社が譲り受けようとしている契約上の地位や債権を有している企業と,その取引先との間の契約書も見る必要があるでしょう。

 

 ただ,契約書を締結した当事者には守秘義務が課されているでしょうし,契約書には取引条件に関する情報も載っているので,見せたくないこともあるでしょう。

 

 このような場合は,契約書全部を見せてくれないかもしれませんが,必要な箇所だけ見せてもらう,適宜マスキングして見せてもらうなどの工夫をしましょう。

 

 契約書の開示を受けたら,その契約書に契約上の地位や債権の譲渡を禁止する条項がないか,あるのであれば,譲渡を可能とする例外規定はないかをチェックします。

 

 通常,譲渡禁止の例外として,相手方当事者の書面による承諾が挙げられています。

 

 この場合は,さらに,自社が譲り受けようとしている契約上の地位や債権を保有している当事者の相手方当事者の承諾書を見せてもらうことが一般的でしょう。

 

 ここまで調査し,いずれの要件も充たしていて,相手方当事者の承諾書などの証拠書類も整っていれば,通常は譲渡を実行して問題ないでしょう。

 

 ただ,念のため,契約上の地位や債権を譲り受ける場合は,譲渡人との間の譲渡契約書において,譲渡人がその契約上の地位や債権を譲受人に譲渡することに何らの法的問題もないということを表明保証(Representation and Warranty)してもらい,その旨の条項を挿入することも,もちろん大切です。

 

 これにより,万が一,後でその譲渡に法的問題があり,譲渡が無効となるような場合には,譲受人は譲渡人に対して,表明保証(Representation and Warranty)違反として,損害賠償請求や譲渡契約の解除を主張していくことができる場合があります。

 

 このように,相手方がその法的な行為を行う際に,その行為を行う法的資格をきちんと有しているかを確認することは大切です。

 

 他にも,例えば,独占販売店契約(Exclusive Distribution/Distributorship Agreement)を締結する際に,そのサプライヤーが自社に対して本当に独占販売権をその販売地域で付与する権利があるのかどうかを調査するということもあります。

 

 サプライヤーが,同じ販売地域においてすでに他の販売店に独占販売権を与えていた場合,その契約が有効であれば,上記の販売権付与は,すでに存在している契約内容に違反することになります。

 

 そのため,自社が紛争に巻き込まれることがないように,本当に自社に独占販売権を付与できるのかを調べることもあるのです。

 

 ただ,現実にはネットなどで調べるくらいしかできず,この調査は難しいことが多いです。

 

 なぜなら,契約書を見せて欲しいと言ったところで,サプライヤーは独占権を渡せるという認識でいる場合,それと正面から矛盾する契約書を出すことは考えにくいからです。

 

 これは,故意に隠しているということも中にはあるでしょうが,現実に忘れているということもあります。

 

 また,サプライヤーとしては,解除したつもりでいるが,販売店はそう認識していないということもあります。

 

 この場合は,契約書を出してもらい,さらに,解除通知書も見せてもらって,解除について法的に問題なさそうかを現地の弁護士に確認する必要があることもあります。

 

 さらに,サプライヤーと販売代理店との間に契約書が存在しないこともあります。

 

 この場合でも,過去の判例などに照らし,現在の販売代理店が総販売代理店として独占販売権を持っているという法的な状態にあると認められるということもあるので,注意しなければなりません。

 

 調査が難しい場合には,できるところまで調査して,後は,先ほどの例と同様に,サプライヤーに,その販売地域において自社に独占販売権を付与することに問題がないことについて表明保証(Representation and Warranty)をさせて,万が一に備えるということになるでしょう。

 

 このように,自社が想定している権益を取引先から問題なく得られるかどうかは,事前に調査したほうが良いことがありますので,注意が必要です。

 

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英文契約書の相談・質問集132 契約書には自社が欲しい権利はすべて記載すべきですよね。

 

 英文契約書の作成,チェック(レビュー),翻訳(英訳/和訳),修正の依頼を受ける際によく受ける相談・質問に,「契約書には自社が欲しい権利はすべて記載すべきですよね。」というものがあります。

 

 確かに,英文契約書を作成する際には,自社に有利になるよう,自社が要求したい権利はすべて書くという方が原則として良いことは間違いありません。

 

 しかしながら,現実には,必ずしも全件そのようにできるわけではありません。当たり前ですが,契約には必ず相手方がいますので,自社に有利になるよう,欲しい権利をすべて記載しても,相手方が承諾それをするかという問題を常に考える必要があります。

 

 例えば,自社が海外のメーカーから,独占的販売代理店として指名を受け,独占販売店契約(Exclusive Distribution/Distributorship Agreement)を締結することになったとします。

 

 この際に,相手方から送られてきた「契約書」は,ごく簡単な内容で,自社が日本においてある商品について独占的な販売権を有する正式な販売代理店であるということを示すだけの,「証明書」(Certificate)のようなものだったとします。

 

 販売店としては,契約期間,独占権の具体的意味,商標やロゴの取り扱い,サンプルや販促資料の取り扱い,保証内容,契約不適合責任(旧瑕疵担保責任),製造物責任,最低購入数量の有無,リードタイム,在庫の処理,契約終了後の権利など,多くの事項について,自社に有利な取り決めをしておき,自社の権利を万全にしたいところです。

 

 ところが,海外のメーカーが出してきたものは,前述のように簡単なCertificateに近いものです。

 

 このような場合に,詳細な契約書を自社から提出したり,大幅に修正したり,相手方により詳細な契約書を要求したりすることは得策でしょうか。

 

 これは,ケース・バイ・ケースということになるでしょう。確かに,詳細な契約書を自社から出したり,相手方からもらって,検討することをすれば,自社に有利な条件を相手方に提案できます。
 

 しかしながら,簡単な内容のCertificateのようなものを提出してきたメーカーですから,詳細な条件を提示すれば,当然,「そのような権利を販売店が主張するのであれば,メーカーとしても,このような条件を守ってもらう」などと,カウンターで要求が来るはずです。

 

 また,相手方に詳細な内容を記載した契約書を提出するように求めれば,当然,相手方は相手方に有利な内容のドラフトを送ってくるでしょう。

 

 そうなると,それを自社に有利に修正し,再度提案するとなれば,交渉が難航し時間がかかることが容易に想定されます。

 

 したがって,常に自社の利益を最大限にプロテクトするよう,自社の権利をすべて主張するのが良いかと言われると,それは必ずしもそうではないということになります。

 

 交渉が長引いているうちに,海外メーカーがうるさいことを言わない,別の日本の独占販売店候補を探してきて,そちらと先に契約してしまえば,元も子もありません。

 

 したがって,その取引において最優先で守りたい権利は何であるのか,タイミングや取引の意義などに応じて,経営者としてビジネス上の判断をすべき場合もあります。

 

 いかなる場合でも,自社が守るべき権利をすべて記載した自社にとって完璧な契約書を求めるということになると,逆効果になることもありますので,この点は注意しなければならないでしょう。

 

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