英文契約書の相談・質問集270 法廷地法(lex fori)とは何ですか。

 

 英文契約書の作成,チェック(レビュー/審査),翻訳(英訳/和訳),修正の依頼を受ける際によく受ける相談・質問に,「法廷地法(lex fori)とは何ですか。」というものがあります。

 

 法廷地法というのは,訴訟手続が係属している(行われている)裁判所が所属する国の法律のことを指します。

 

 ちなみに,lex foriというのはラテン語で「法廷地法」を表します。

 

 例えば,日本の東京地裁に訴訟が係属した場合の法廷地法は日本法ということになります。

 

 当然ですが,訴訟手続が係属している東京地裁は日本の裁判所だからです。

 

 そして,裁判をどこの国の手続法を使って進行するかについては,基本的に法廷地法によるとされています。

 

 これは,日本にある東京地裁が,例えばフランスの訴訟手続法にしたがって裁判を進行するなどは現実的ではないので,原則として自国の訴訟手続法に従うということですので,納得しやすいかと思います。

 

 そのため,東京地裁に訴えが継続した場合,日本の民事訴訟法によって裁判が進められます。

 

 これは,裁判をどこの国の手続法に従って進めるかという「手続法」の問題です。

 

 この手続法というものは,例えば,訴訟はどのように提起するのかとか,口頭弁論というのが行われるとか,口頭弁論とは何をするのかとか,証人尋問とは何なのかなど,もっぱら裁判の進行に関する手続きを規定しています。

 

 これに対し,「実体法」という概念が別途あります。

 

 例えば,原告が被告に対し1,000万円の損害賠償請求権を有しているかというテーマを,日本の民事訴訟法を使って東京地裁で裁判するという場合,原告に損害賠償請求権があるかどうかを判断するのは実体法に従って判断します。

 

 債務不履行に基づく損害賠償請求なのであれば,それが発生する要件を実体法が定めているので,実体法が定める内容に従って,裁判官が判断するわけです。

 

 実体法は,例えば日本の民法や商法が該当します。

 

 この実体法が,どこの国の法律になるのかという問題は「準拠法」という問題です。

 

 例えば,東京地裁に訴訟が係属すれば,「法廷地法の原則」(法廷地法=ここでは日本の法律により判断するという原則)により,日本の国際私法(または衝突法)(つまり「法の適用に関する通則法」)に従って,準拠法(実体法)が判断されることになります。

 

 そして,「法の適用に関する通則法」(通則法)を適用して準拠法が日本法であると判断できる場合は,東京地裁が日本の手続法(民事訴訟法や民事訴規則)に従い,さらに日本法を実体法(民法や商法)として裁判をするということになるわけです。

 

 「法の適用に関する通則法」(通則法)による代表的な準拠法の決定基準は当事者の合意(通則法第7条)です。

 

 そのため,基本的に契約書で準拠法が選択されていればそれに従い,記載がなければ「法の適用に関する通則法」の他の基準により決めることになります。

 

 わかりにくいですが,上記の例で,例えば,契約書にドイツ法を準拠法にすると記載があれば,東京地裁は日本の民事訴訟法にしたがって裁判を進めるものの,実体法はドイツ法を採用し,ドイツ法により損害賠償請求権があるかどうかを判断することがありうるということになります。

 

 このように,民事訴訟では,実体法(上記例ではドイツ法)と,手続法(上記例では日本法)が異なるということが理論上起こりうるのです。

 

 ただ,通常は,契約書において,準拠法(実体法)をドイツ法とするのであれば,ドイツの裁判所で解決するという管轄規定も同時に置くので,上記のように実体法と手続法が乖離するということはそれほど起こりません。

 

 ここでは,法廷地法(lex fori)とは,裁判が継続している国の実体法と手続法を指していて,民事訴訟ではこの2つが違う国の法律になることが理論上ありうるということと,訴訟手続は基本的に法廷地法によるので,異なる国の法律になるとすれば実体法の方であるということを覚えておくと良いかと思います。

 

 さらに,消滅時効について付言しておきます。

 

 日本のような大陸法系の国では,消滅時効は実体法の問題とされていますので,消滅時効期間はいつからいつまでか,時効中断事由はどういうものがあるのかなどについては,実体法である準拠法を見てチェックすることになります。

 

 これに対し,英米法系の国では,消滅時効は手続法の問題とされているので,時効に関する詳細は法廷地法を見てチェックするということになります。

 

 なお,中国は大陸法の影響を受けているものの,消滅時効に関しては手続法の問題とされているようですので,注意が必要です。

 

 このように,国によって消滅時効の扱いも異なっているので注意しましょう。

 

→next【英文契約書の相談・質問集271】直接損害と間接損害はどう違うのですか。

 

IMG_6603 resized 2.jpg

 

 英文契約書に関するサービス内容のお問合せ,見積依頼は下記からお気軽にどうぞ。

 

 正式にご依頼頂くまで料金はかかりません。

 

 原則として,当日,遅くとも1営業日以内(24時間以内)に折り返しご連絡させて頂いております。

 

 

英文契約書の相談・質問集325 英国の財産凍結命令(freezing injunction)とは何ですか。

 

 英文契約書の作成,チェック(レビュー/審査),翻訳(英訳/和訳),修正の依頼を受ける際によく受ける相談・質問に,「英国の財産凍結命令(freezing injunction)とは何ですか。」というものがあります。

 

 財産凍結命令(freezing injunction)(フリージング・インジャンクション)とは,日本でいうところの民事保全手続の一つになります。

 

 かつては,Mareva Injunction(マリーバ・インジャンクション)と呼ばれていましたが,英国では1998年の民事訴訟法規則(CPR)の成立により呼び名が変更されました。

 

 英国が起源として認められた制度ですが,英国法系の国(カナダ,オーストラリア,シンガポール,香港など)でも類似の制度が存在します。

 

 財産凍結命令の大きな特徴は,裁判所が被申立人の一定の財産に対する仮差押命令を発令するのではなく,被申立人に対し財産凍結命令を出す(対人命令)(order in personam)ため,被申立人の財産一般に凍結命令の効果が及ぶという点にあります。

 

 そのため,申立人は,被申立人の仮差押の対象となる財産を特定できずとも申立が却下になることはなく,被申立人に対して財産凍結命令を申し立てられることになります。

 

 また,財産凍結命令に付随して財産開示命令(disclosure order)(ディスクロージャー・オーダー)も出されることが一般的であるため,被申立人の財産が事前に判明していないと申し立てられないということもありません。

 

 さらに,厳密には仮「差押」ではなく財産の「凍結」ですので,凍結命令が出された後に被申立人が取得した財産に対しても凍結命令の効果が及びます。

 

 そして,財産凍結命令は,英国内にある財産だけではなく,全世界にある財産を対象として発令される(world-wide freezing injunction)こともあります。

 

 これらの命令の実効性を担保するため,命令違反に対する裁判所侮辱などの制裁も定められています。

 

 例えば,財産凍結命令に従わなければ,被申立人は拘禁などの制裁を受けるおそれがありますし,保全後の訴訟での防御権を剥奪されるというおそれもあります。

 

 また,例えば,被申立人が銀行預金を有している場合,銀行にも財産凍結命令が通知されますが,もし銀行がその命令を知りつつ,被申立人が預金を移動させるような資産隠しに許可したような場合,銀行も裁判所侮辱の制裁を受ける可能性があります。

 

 このように,財産の保全手続きとしては強力な効果を持っていると言えるため,保全手続きが必要な場合,英国系の財産凍結命令を得られる裁判所で保全手続きを取るということも行われます。

 

→next【英文契約書の相談・質問集326】裁判所の開示命令を受けた情報は秘密情報の例外にすべきですか。

 

IMG_6603 resized 2.jpg

 

 英文契約書に関するサービス内容のお問合せ,見積依頼は下記からお気軽にどうぞ。

 

 正式にご依頼頂くまで料金はかかりません。

 

 原則として,当日,遅くとも1営業日以内(24時間以内)に折り返しご連絡させて頂いております。

 

 

英文契約書の相談・質問集316 仲裁のほうが裁判よりも安く行えるのですか。

 

 英文契約書の作成,チェック(レビュー/審査),翻訳(英訳/和訳),修正の依頼を受ける際によく受ける相談・質問に,「仲裁のほうが裁判よりも安く行えるのですか。」というものがあります。

 確かに,裁判と仲裁の違いが書かれている記事などを読むと,仲裁のほうが裁判よりも低コストであると書かれていることもあります。

 

 私の著書である「海外取引の成否は『契約』で9割決まる」でも,基本的にこれを前提に論を進めています。

 

 ただ,いつも仲裁のほうが裁判よりも安く済むかというと,それは限りません。

 

 仲裁には,仲裁人の費用(報酬)がかかります。これは,タイムチャージで仲裁人が動いた時間で当事者が払うことになることが多いです。

 

 この費用が裁判にはないため,この仲裁人の費用が多額になることが原因で,裁判よりも仲裁のほうが高くつくこともありえます。

 

 また,仲裁であっても,当事者が徹底的に争って手続きが長引けば,その分弁護士費用がかかります。

 

 そこは裁判と変わりがありません。弁護士費用も通常はタイムチャージで,1時間あたりいくらと定められていますので,仲裁の準備や対応に多くの弁護士が多くの時間を使えば使うほど,弁護士費用がかさみます。

 

 そのため,仲裁手続であっても,弁護士費用だけで数億円になるということも珍しくないのです。

 

 他方で,裁判のほうが安く済むかというとこれもそうとは言い切れません。

 

 裁判も弁護士費用がタイムチャージでかかる点は同じですし,仲裁よりも和解に至りづらく訴訟が長引くようなことがあれば弁護士費用は仲裁よりもかかるかもしれません。

 

 また,証拠をその裁判所が使用する言語に翻訳したりする必要があれば,翻訳コストなども馬鹿になりません。

 

 要するに,仲裁であれ裁判であれ,紛争解決手続をするということはかなりのコストを覚悟しなければならないということです。

 

 またお金だけではなく,時間も大量に奪われてしまいますので,その点も十分考慮する必要があります。

 

 そのため,「いざとなれば裁判ではなく仲裁手続をとれるように仲裁合意をしてあるから安心だ」などと考えることなく,できるだけ事前に争い事が生じないように契約書などを作り込み,仲裁や訴訟を避けることをまず第一に考えることが大切です。

 

 また,万一紛争になった場合でも,裁判や仲裁をする前に当事者間や弁護士間で話し合いをし,できるだけ話し合いで解決するという姿勢も,コスト面を考えた場合,非常に大切です。

 

 株式投資などをされている経営者の方は,いわゆる「損切り」の重要性を想起するとわかりやすいと思います。

 

 思い入れがあったり,その銘柄に「裏切られた」という感情的な怒りがあると,その銘柄で損失を取り戻そうとしてホールドし続けたり,ナンピン買いをしたりしてしまいますが,結果として損失が拡大してしまうことがよくあると思います。

 

 それよりは,その銘柄は損失が小さいうちに売却してしまい,より利益を期待できる株式に乗り換えたほうがよいということはよくあることでしょう。

 

 それと同じことが紛争にも言えます。相手に対する怒りから,その取引で損失を取り戻そうとこだわってしまうと,結局膨大な弁護士費用や時間を失い,十分な回収もできず,さらに傷口を広げてしまうことが多いです。

 

 すでに被った時間的・金銭的損害はいわばサンクコストですので,今更やめられないと考えるのではなく,現時点で将来に向けた最善の判断をすべきです。

 

 そのため,「損切り」を早めにしてしまい,利益を上げやすい案件で利益を上げることに集中したほうが,大局的に見て損失を回避することにつながるのです。

 

→next【英文契約書の相談・質問集317】準拠法と裁判管轄(仲裁廷)の定めがないとどうなりますか。

 

IMG_6603 resized 2.jpg

 

 英文契約書に関するサービス内容のお問合せ,見積依頼は下記からお気軽にどうぞ。

 

 正式にご依頼頂くまで料金はかかりません。

 

 原則として,当日,遅くとも1営業日以内(24時間以内)に折り返しご連絡させて頂いております。

 

 

英文契約書の相談・質問集311 販促資料はサプライヤーの承諾なく作れたほうが良いですよね。

 

 英文契約書の作成,チェック(レビュー/審査),翻訳(英訳/和訳),修正の依頼を受ける際によく受ける相談・質問に,「販促資料はサプライヤーの承諾なく作れたほうが良いですよね。」というものがあります。

 

 販売店契約(Distribution/Distributorship Agreement)では,サプライヤーが販売店(Distributor)に対し,商品の販促活動をするにあたりサプライヤーの商標・ロゴの使用を認めることが普通です。

 

 その際,契約書で,販売店が販促資料にサプライヤーの商標・ロゴを使用する場合には,事前にサプライヤーの承認を得る必要があると書かれることがよくあります。

 

 これは,販売店にとっては,いちいちサプライヤーにお伺いを立てないと販促活動ができないことになりますので,手間がかかります。

 

 そのため,販売店としては,このような条項は削除し,サプライヤーの商標・ロゴを自由に使わせてもらいたいと考えることがあります。

 

 とはいえ,販売店が全く自由にサプライヤーの商標・ロゴを使用して良いとなると,サプライヤーとしては,自社のブランド価値を毀損するような使用方法を用いられては困るという事情もあります。

 

 そのため,契約書には,販売店はサプライヤーの商標・ロゴを自由に使用できるものの,サプライヤーのブランド価値を損ねるような方法で使用してはならないという消極的な義務を記載するということが行われます。

 

 もっとも,このようにサプライヤーの商標・ロゴを販売店が自由に使用できることは,本当に販売店にとって利益が大きいのでしょうか。

 

 確かに,いちいち販促資料の承諾をサプライヤーから得なければならないのは手間です。

 

 ただ,裏を返せば,それだけサプライヤーが自社のブランドに重きを置いていて,ブランド戦略を大切にしているという証拠でもあります。

 

 もし販売店が自由に販促活動をしてしまうと,世界的にブランドイメージを統一できず,ブランド価値を維持・向上させることができないとサプライヤーが考えているからこそ,販売店の販促資料をコントロールしようとしているのです。

 

 このような観点からすると,こうしたブランドは価値が高いか,向上していく可能性が高いため,販売店としてはサプライヤーの協力を仰いだほうが,長期的に見て利益になるということもあります。

 

 サプライヤーがブランドにこだわる姿勢は,販売店にとっても決してマイナス面だけではないのです。

 

 このように,一見販売店にとっては手間で不利益だと思えても,長い時間軸で見るとあながち不利ではなくむしろ利益が大きいという場合もあります。

 

 目先の利益だけを見ずに,中長期的な視点で利益を得ていくという発想で契約書を見たほうが良いこともありますので,注意して下さい。

 

→next【英文契約書の相談・質問集312】ずっと契約を続けたい場合は契約期間を設けなければ良いですよね。

 

IMG_6603 resized 2.jpg

 

 英文契約書に関するサービス内容のお問合せ,見積依頼は下記からお気軽にどうぞ。

 

 正式にご依頼頂くまで料金はかかりません。

 

 原則として,当日,遅くとも1営業日以内(24時間以内)に折り返しご連絡させて頂いております。

 

 

英文契約書の相談・質問集312 ずっと契約を続けたい場合は契約期間を設けなければ良いですよね。

 

 英文契約書の作成,チェック(レビュー/審査),翻訳(英訳/和訳),修正の依頼を受ける際によく受ける相談・質問に,「ずっと契約を続けたい場合は契約期間を設けなければ良いですよね。」というものがあります。

 

 例えば,販売店契約(Distribution/Distributorship Agreement)を締結するときに,販売店(Distributor)が,特に期間は設けず,自社が債務不履行などの問題を起こさない限り永遠に契約を継続したいと考え,契約書に契約期間を定めなかった場合,どうなるかというのがここでの問題です。

 

 販売店は,契約を永遠に続けたいと思って契約期間を定めなかったとしても,法的にはそうはならず,期間の定めがない,つまりは,一方の当事者の意思によりいつでも終了させられるという意味だと解釈される可能性が高いです。

 

 もちろん,その契約書の準拠法がどこの国の法律となっていて,その法律がどのように定めているかによりますが,上記のようにいつでも契約を終了させられると解釈される可能性があることに注意しましょう。

 

 自社としては,契約期間を定めないことによって,期間制限なく永遠に商権をもらったと喜んでいたら,あっさりと,メーカーから解約の申し入れをされ,法的に争ってみたが敗訴したということがありえます。

 

 もっとも,販売店契約(Distribution/Distributorship Agreement)など契約関係がある程度の継続する契約のをめぐっては,販売店(代理店)保護法と呼ばれる法律や,準拠法を管轄している裁判所の判例により,販売店が保護されるケースがあります。

 

 そのため,期間の定めをせずに,取引を開始しそれなりの期間取引を継続しているような場合は特に,上記のような法律などによって販売店が一定の保護を受け,突然契約終了に追い込まれる可能性は低くなるかもしれません。

 

 ただし,それも法律や判例次第ですので,当事者の意思として,長期契約を望んでいるのであれば,期間については長めに設定し,あとは自動更新条項を設けるなどして,きちんと長期にわたる契約関係を望んでいることを契約書で表したほうが無難といえます。

 

 このように,当事者が望んでいる内容を契約書に表現したつもりが,必ずしもそのとおり法的に認められるとは限りませんので,準拠法の内容や判例を事前に確認しておく必要がある場合があります。

 

→next【英文契約書の相談・質問集313】準拠法と裁判管轄(仲裁地)を第三国にする場合どう選んだらよいですか。

 

IMG_6603 resized 2.jpg

 

 英文契約書に関するサービス内容のお問合せ,見積依頼は下記からお気軽にどうぞ。

 

 正式にご依頼頂くまで料金はかかりません。

 

 原則として,当日,遅くとも1営業日以内(24時間以内)に折り返しご連絡させて頂いております。

 

 

英文契約書の相談・質問集318 準拠法・裁判管轄が外国の場合日本の弁護士に相談できないですか。

 

 英文契約書の作成,チェック(レビュー/審査),翻訳(英訳/和訳),修正の依頼を受ける際によく受ける相談・質問に,「準拠法・裁判管轄が外国の場合日本の弁護士に相談できないですか。」というものがあります。

 

 確かに,準拠法が外国法になっている場合,日本の弁護士がその国の弁護士資格も持っているなどの特殊事情がない限りは,直接的にその国の法律に関するアドバイスをすることは難しいでしょう。

 

 また,裁判管轄や仲裁地が外国になっている場合,その地での訴訟や仲裁を見据えた実践的なアドバイスをするということも難しいかもしれません。

 

 ただ,他方で,日本の特に中小企業からすれば,最初から自社で外国の弁護士を探してきて依頼し,上記の相談をするというのはかなりハードルが高いと思います。

 

 そもそもどうやって探せばよいのかわからないということもあるでしょうし,ネットで探そうにも専門分野がわからないので不安だということもあるでしょう。

 

 弁護士費用も海外の弁護士に依頼したことがなければ,どれくらい見ておけばよいのかも全くわからず不安だということもあるでしょう。

 

 そのため,日本企業としてはまずは日本の顧問弁護士などに相談したいと考えるのではないでしょうか。

 

 日本の弁護士は,上述したとおり,日本以外の国の法律や訴訟などに関してアドバイスすることは困難だと思いますが,契約に関する紛争について一般的な知識であれば持ち合わせていますので,ある程度のアドバイスは可能だと思います。

 

 国際取引で紛争になるポイントは限られていますので,要点をアドバイスすることは可能でしょう。

 

 また,各種取引でどのような項目が問題になり,契約書ではその点がどのように規定されているのかを確定し,その内容に従い対応方針を立てるということは英文契約書や国際取引に通じていれば対応可能です。

 

 どういう問題に対してどういう証拠が有効かなども国の訴訟制度により多少違えはあれど,共通する部分も多く,こうした点についても対応できると思います。

 

 実際に訴訟や仲裁を見据えて対応しなければならないという段階になれば,準拠法や裁判管轄にしたがって海外の弁護士に依頼して対応しなければならないでしょう。

 

 ですが,その前段階での当事者の交渉上のアドバイス,自社の立場上の有利不利の分析,紛争対応に関する一般的なアドバイスなどであれば,日本の弁護士でも十分に対応可能だと思います。

 

 海外の弁護士を探すハードルもありますので,まずは,日本の顧問弁護士に連絡して相談し,対応方針を話し合って,必要に応じて顧問弁護士に海外の弁護士を紹介してもらい対応するという考えが正しいと思っています。

 

 さらに言うと,準拠法や裁判管轄が海外に設定されていても,本当にそのとおりになるのかという問題も実は潜んでいることがあります。

 

 この点からも,まずは身近な日本の弁護士に契約書を見てもらい,相談に乗ってもらうのが初動として正しいこともあるのです。

 

 このように,準拠法や裁判管轄条項が外国になっているからと日本の弁護士に相談することを選択肢から外さず,まずはアクセスがしやすい日本の弁護士に相談し,その後の対応を検討するのが最も適切だと思います。

 

→next【英文契約書の相談・質問集319】海外の弁護士に契約書を見てもらうときのポイントは何ですか。

 

IMG_6603 resized 2.jpg

 

 英文契約書に関するサービス内容のお問合せ,見積依頼は下記からお気軽にどうぞ。

 

 正式にご依頼頂くまで料金はかかりません。

 

 原則として,当日,遅くとも1営業日以内(24時間以内)に折り返しご連絡させて頂いております。

 

 

英文契約書の相談・質問集314 契約交渉に弁護士の立会いを依頼できますか。

 

 英文契約書の作成,チェック(レビュー/審査),翻訳(英訳/和訳),修正の依頼を受ける際によく受ける相談・質問に,「契約交渉に弁護士の立会いを依頼できますか。」というものがあります。

 

 答えはもちろんできます。弁護士に契約交渉の立会を依頼し,弁護士が承諾すれば当然ですが可能です。

 

 ただ,そうするのが妥当かというと慎重な検討を要すると思います。

 

 契約交渉時に弁護士が立ち会ったり当事者を代理したりというのは私の経験でもほとんどないです。

 

 よほど大きなプロジェクトであれば,双方の弁護士が出てきて法的論点もその場で話し合うなどの場面もあるでしょうが,通常の商品やサービスの売買に関する国際取引では,そういうことはほとんどありません。

 

 交渉段階で法的な争点が生じていてそれについて解決しておく必要があるなどの特殊な場合ではありうるでしょうが,そのような特殊な事情もないのに,弁護士が交渉の場に出てくれば相手は驚くと思います。

 

 もし交渉の場に弁護士を立ち会わせるのであれば,相手も同じように弁護士をつけて立ち会わせたほうが良いでしょう。

 

 そうしないと,自社側だけ弁護士が同席し,交渉時に「これは法的にこうなるからこれで問題ない」などと弁護士が述べて,契約書が成立したなどとなれば,あとで相手方から「この契約書のこの内容は交渉時に相手の弁護士から法的に問題ないと騙されてサインしたのだ」などと言われかねません。

 

 弁護士は法律のプロであるがゆえ,そうではない人と同席して一方の当事者によって立ちながら,相手に対し何かを発言したりすると,ときに威圧的になったり,強制されていると相手に受け取られたりすることがあるので慎重さが求められるのです。

 

 そのため,「英語に不安があるし,相手からやり込められたらどうしよう」と不安に思われる気持ちはわかるのですが,良好な関係にあり,これから長期的に付き合おうという取引先との交渉に弁護士をいきなり立ち会わせるというのは,慎重になったほうが良いでしょう。

 

 それよりも,交渉を担当者に任せて,必要に応じてバックオフィスから弁護士の助言を得て,必要に応じて弁護士に相手向けのコメントを用意してもらうなどしながら自社で対応するほうがほとんどの場合適切だと思います。

 

 自社の防衛ばかり考えて相手がどう感じるかを想像しないと,ときに相手にいらぬ警戒心を抱かせる結果にもなりかねないので,注意したほうが良いでしょう。

 

→next【英文契約書の相談・質問集315】NNN契約とは何ですか。

 

IMG_6603 resized 2.jpg

 

 英文契約書に関するサービス内容のお問合せ,見積依頼は下記からお気軽にどうぞ。

 

 正式にご依頼頂くまで料金はかかりません。

 

 原則として,当日,遅くとも1営業日以内(24時間以内)に折り返しご連絡させて頂いております。

 

 

英文契約書の相談・質問集306 「直ちに」「速やかに」「遅滞なく」の違いは何ですか。

 

 英文契約書の作成,チェック(レビュー/審査),翻訳(英訳/和訳),修正の依頼を受ける際によく受ける相談・質問に,「『直ちに』『速やかに』『遅滞なく』の違いは何ですか。」というものがあります。

 

 これらは,契約書では,例えば,検査(Inspection/test)などを「直ちに」しなければならないとか,何らかの通知を「速やかに」しなければならないなどとしてよく登場します。

 

 英語では,それぞれ,immediately,promptly,without delayとされることが多いかと思います。

 

 これらの用語が実際にどれくらいの期間を表すのかは,一義的に明らかではありません。

 

 というのは,何を求められているかによって,それぞれが表す期間は変わってくるため,一概にこの程度だと決めることは難しいからです。

 

 例えば,速やかに検査を終えると書かれていた場合でも,少量の商品を外から見てチェックするというだけの検査の場合と,大きな精密機械で動作テストまでするなどの検査の場合とで,「速やかに」の意味が変わってくるわけです。

 

 一般に,日本では,「直ちに」「速やかに」「遅滞なく」の順に即時性が求められると言われます。

 

 そのため,「直ちに」が最も早く,「遅滞なく」が最も遅いということになります。

 

 これは英語のほうもニュアンスとして同じと考えて良いかと思います。

 

 もっとも,上述のとおり,これらの表現では,明確にいつまでにしなければ契約違反になるとはっきりした基準を提示していません。

 

 そのため,記載できるときは,これらの表現を使うより,具体的に◯日以内などと一義的に期間が定める表現をしたほうが無難でしょう。

 

 具体的な日時がそこまで重要ではなく,ある程度バッファがあっても問題ない場合には,これらの表現を用いても問題ないかと思います。

 

→next【英文契約書の相談・質問集307】販売店が当局に登録される場合の注意点はありますか。

 

IMG_6603 resized 2.jpg

 

 英文契約書に関するサービス内容のお問合せ,見積依頼は下記からお気軽にどうぞ。

 

 正式にご依頼頂くまで料金はかかりません。

 

 原則として,当日,遅くとも1営業日以内(24時間以内)に折り返しご連絡させて頂いております。

 

 

英文契約書の相談・質問集313 準拠法と裁判管轄(仲裁地)を第三国にする場合どう選んだらよいですか。

 

 英文契約書の作成,チェック(レビュー/審査),翻訳(英訳/和訳),修正の依頼を受ける際によく受ける相談・質問に,「準拠法と裁判管轄(仲裁地)を第三国にする場合どう選んだらよいですか。」というものがあります。

 

 準拠法(Governing Law)裁判管轄(Jurisdiction)または仲裁地(Arbitration)は,英文契約書の交渉の際によく揉める条項の一つです。

 

 というのは,当事者がお互い自国の法律を準拠法にして,自国の裁判所や仲裁機関を紛争解決機関としたいと主張して交渉がまとまらず難航することがよくあるからです。

 

 このような場合の打開策としてよく挙げられるのが,当事者のどちらの国でもない第三国の法律を準拠法にして第三国の裁判所や仲裁機関を紛争解決機関として定めるというものです。

 

 では,第三国にするといった場合,どのような基準で第三国を選べばよいのでしょうか。

 

 まず,「公平性」を重視しましょう。例えば,裁判所でも,まだ司法制度が十分に成熟していない新興国などでは,賄賂が横行していたりして残念ながら公平とはいえない場合があります。

 

 このような国を選ぶのは避けたほうが無難でしょう。調査をした上で,ある程度公平性に評価のある国の裁判所や仲裁機関を選ぶのが重要かと思います。

 

 また,第三国の裁判所で解決すると裁判管轄を選定しても,裁判所が管轄権を認めて裁判を受けてくれるかどうかはわからないところがあります。

 

 その国の民事訴訟法に相当する法律と,裁判所の判断によってきますので,不透明なところがあります。

 

 このような観点からは,裁判よりも仲裁を選択して,外国企業同士の紛争解決を過去に多数扱っている実績のある国の仲裁機関を選定するのがよいかもしれません。

 

 さらには,当事者間の公平性の観点からは,各当事者の国から物理的な距離がそれほど不公平にならない国を選ぶということも大切でしょう。

 

 例えば,日本とフランスの企業の紛争解決地をイギリスとすれば,フランス企業に距離的には有利になります。

 

 こうした明らかに不平等が生じないように,上記の例ではアメリカのニューヨーク州を選択するなどしてバランスを取るということもよくあります。

 

 物理的な距離以外にも,法的・文化的に大きな不平等が生じないように配慮するということもありえます。

 

 例えば,当事者の一方がコモン・ローの法体系の国に属していて,他方が大陸法の法体系の国に属している場合に,コモン・ローの国を選定すると,後者の当事者が反発するということが起こりうるからです。

 

 以上のように,第三国を選定する際には選定基準がいろいろとありますが,様々な意見を出して最終的には妥協もしつつ合意することになるでしょう。

 

→next【英文契約書の相談・質問集314】契約交渉に弁護士の立会いを依頼できますか。

 

IMG_6603 resized 2.jpg

 

 英文契約書に関するサービス内容のお問合せ,見積依頼は下記からお気軽にどうぞ。

 

 正式にご依頼頂くまで料金はかかりません。

 

 原則として,当日,遅くとも1営業日以内(24時間以内)に折り返しご連絡させて頂いております。

 

 

英文契約書の相談・質問集308 販売地域での商品の法律適合性はどう考えれば良いですか。

 

 英文契約書の作成,チェック(レビュー/審査),翻訳(英訳/和訳),修正の依頼を受ける際によく受ける相談・質問に,「販売地域での商品の法律適合性はどう考えれば良いですか。」というものがあります。

 

 例えば,日本企業がサプライヤーとなり,海外の販売店(Distributor)を指名し,その国で自社商品を販売展開しようと考えたとします。

 

 その際,販売店(Distributor)の国において,サプライヤーの商品が法律に適合しているかという問題があります。

 

 販売店(Distributor)の国の法律がその商品の輸入を許していて,かつ,その商品の販売を許していなければ,商売が成り立ちませんので,当然です。

 

 ただ,サプライヤーは,販売店(Distributor)の国の法律に精通していないのが普通ですので,現地の法令に商品が適合しているかを厳密に確認することが困難なこともあります。

 

 このような場合は,販売店(Distributor)に法令の調査をさせ,商品が現地の法令に合致してることを表明(Representation)し保証(Warranty)させる方法が取られることがあります。

 

 そして,併せて,もし商品に法令違反があったとしても,サプライヤーは販売店(Distributor)に対し何らの責任を負わないとサプライヤーを免責(Disclaimer)しておくわけです。

 

 むしろ,商品が販売店(Distributor)の国の法律に違反し,サプライヤーが商品を輸出販売できなくなった場合,サプライヤーが被った損害を販売店(Distributor)に賠償させるという方向で契約書に記載されることもあります。

 

 以上のような法令違反のことについて何も契約書で触れていないとどうなるでしょうか。

 

 一般には英文契約書には,保証条項(Warranty Clause)があると思います。

 

 こちらは,通常は通常の品質を備えていることや仕様(Specifications)に合致していることのみを保証するとされていて,それ以外についてはサプライヤーは免責されるとしていることが多いかと思います。

 

 この保証内容に法令に違反しないことも含まれるかどうかという解釈になるかと思います。

 

 もし保証内容に含まれるということになれば,法令違反はサプライヤーが責任を負うことになりますし,含まれないということであればサプライヤーは責任を負わないということになります。

 

 もっとも,商品が法律に触れることなく輸入され現地で販売できるかどうかはビジネスの入り口の大きな問題ですので,現実には販売店(Distributor)が事前に十分に調査し,問題がないことが確認された上で,販売店契約(Distribution/Distributorship Agreement)などが締結されるという流れになるかと思います。

 

→next【英文契約書の相談・質問集309】ホールド・ハームレス条項とは何ですか。

 

IMG_6603 resized 2.jpg

 

 英文契約書に関するサービス内容のお問合せ,見積依頼は下記からお気軽にどうぞ。

 

 正式にご依頼頂くまで料金はかかりません。

 

 原則として,当日,遅くとも1営業日以内(24時間以内)に折り返しご連絡させて頂いております。

 

 

英文契約書の相談・質問集309 ホールド・ハームレス条項とは何ですか。

 

 英文契約書の作成,チェック(レビュー/審査),翻訳(英訳/和訳),修正の依頼を受ける際によく受ける相談・質問に,「ホールド・ハームレス条項とは何ですか。」というものがあります。

 

 英文契約書を作成,チェック(レビュー/審査),翻訳(英訳/和訳),修正する際に,ホールド・ハームレス(Hold Harmless)という用語を見たことがあると思います。

 

 この条項は,Indemnification/Indemnityという名称で呼ばれることもあります。

 

 内容としては,相手方の契約違反などが原因となって,自社が損害を被った場合や,第三者から自社がクレームを受けた場合に,相手方が自社をホールド・ハームレスするというものです。

 

 ここでのホールド・ハームレスというのは「損害を被らせない」というような意味なのですが,この条項は,積極的に契約違反をされた側の当事者を保護するという内容であることが特徴となります。

 

 例えば,日本の損害賠償条項ですと,「甲及び乙は,相手方が本契約に違反することにより損害を被ったときは,相手方に対しその損害の賠償を請求することができる」などと記載されています。

 

 こちらですと,売買契約の買主が欠陥のある商品を第三者に販売し,第三者からクレームを受けた場合に,買主が第三者に賠償金を支払えば,それを損害として売主に請求することが可能となります。

 

 もっとも,買主が第三者と直接やり取りをするのではなく,売主に第三者との間の交渉をさせたいと考えても,上記の条項ではその根拠に乏しいことになります。

 

 あくまで,買主が損害を受けたら売主がその損害を賠償するというお金の問題を言っているにすぎないからです。

 

 これに対し,ホールド・ハームレス条項では,より積極的に売主が買主を第三者のクレームから防御し保護するという内容が書かれていることが多いので,直接売主に対し第三者のクレーム対応をするよう求めることも可能になることがあります。

 

 また,第三者のクレームに対し買主が防御をし,裁判で勝つなどして第三者のクレームを退けた場合に,裁判で勝つまでにかかった弁護士費用等を損害として売主に請求できるのかというのも,上記の日本型損害賠償条項では疑義を生じます。

 

 なぜなら,買主が勝訴して第三者のクレームが退けられているので,売主に契約違反があったとはいえないのはないかという問題点があるからです。

 

 そうすると,買主が売主に対し弁護士費用等の損害を賠償請求する根拠がないということになってしまいます。

 

 これに対し,ホールド・ハームレス条項では,こうした場合の弁護士費用も売主の補償の対象となっていることが通常ですので,買主は請求できるということになります。

 

 以上のように,ホールド・ハームレス条項は,日本的な損害賠償条項とは少し内容が異なっていますので,理解しておくと良いかと思います。

 

→next【英文契約書の相談・質問集310】売主は商標についてはどう対応すべきですか。

 

IMG_6603 resized 2.jpg

 

 英文契約書に関するサービス内容のお問合せ,見積依頼は下記からお気軽にどうぞ。

 

 正式にご依頼頂くまで料金はかかりません。

 

 原則として,当日,遅くとも1営業日以内(24時間以内)に折り返しご連絡させて頂いております。

 

 

英文契約書の相談・質問集310 売主は商標についてはどう対応すべきですか。

 

 英文契約書の作成,チェック(レビュー/審査),翻訳(英訳/和訳),修正の依頼を受ける際によく受ける相談・質問に,「売主は商標についてはどう対応すべきですか。」というものがあります。

 

 売主/サプライヤーが,外国で販売店(Distributor)を指名し,商品を販売展開して行く際に,売主が使用している商標やロゴをどのようにすべきかということが問題になります。

 

 商標は,登録すれば保護を受けられますが,国ごとに登録を受ける必要があります。

 

 そのため,売主は,日本国内のみならず,進出先の国でも商標を登録することがまず必要になります。

 

 先にその商標や類似の商標を外国企業に登録されていると,やっかいな問題になりますので,早めに登録はすべきです。

 

 もし,何らかの事情で売主が自社で進出先の国において商標を登録してから進出できないということがあったとしても,販売店(Distributor)がその商標や類似の商標の登録を現地国ですることを禁止する条項を契約書に定めておきましょう。

 

 売主が商標登録を指定ない状態で,かつ,販売店(Distributor)の商標登録を禁止していない状態で販売店契約(Distribution/Distributorship Agreement)を結び商品を販売展開してしまうと,あとで関係が悪くなった際などに,販売店が商標登録をしてしまうことが考えられます。

 

 例えば,売主が販売店との契約を終了させて,別の販売店を指名しようと考えた際に,旧販売店が嫌がらせの目的で,売主の商標を登録し,それを買い取りしなければ新販売店に商標を使用させないということで対抗してくることがありえます。

 

 このような事態を防ぐため,せめて契約書にはこうした行為を禁止する条項を挿入しておくべきでしょう。

 

 また,仮に売主が商標登録を現地国でしていたとしても,販売店との契約を終了させようとすると,販売店が腹を立てて,それまで販促宣伝活動により商標のブランド価値を現地で上げてきたのは自分たちであるから,その分の補償金を払えなどと要求してくることもあります。

 

 このような要求に対しては,一切支払いに応じられないということを予め英文契約書に書いておくこともあります。

 

→【英文契約書の相談・質問集311】販促資料はサプライヤーの承諾なく作れたほうが良いですよね。

 

IMG_6603 resized 2.jpg

 

 英文契約書に関するサービス内容のお問合せ,見積依頼は下記からお気軽にどうぞ。

 

 正式にご依頼頂くまで料金はかかりません。

 

 原則として,当日,遅くとも1営業日以内(24時間以内)に折り返しご連絡させて頂いております。

 

 

英文契約書の相談・質問集317 準拠法と裁判管轄(仲裁廷)の定めがないとどうなりますか。

 

 英文契約書の作成,チェック(レビュー/審査),翻訳(英訳/和訳),修正の依頼を受ける際によく受ける相談・質問に,「準拠法と裁判管轄(仲裁廷)の定めがないとどうなりますか。」というものがあります。

 

 準拠法(Governing Law)と裁判管轄(Jurisdiction)または仲裁廷(Arbitration)の規定は,英文契約書ではほとんどの場合に規定されています。 
 

 契約関係をめぐって紛争になったときに,どこの国の法律を適用するのか,どこの裁判所や仲裁機関で裁判・仲裁をするのかを予め決めておかないと,各国の民事訴訟法に相当する法律で管轄地が決まり,国際私法という法律で準拠法が決まるというような状態になり非常に不安定だからです。

 

 また,仲裁については仲裁を行う旨の合意が必要ですので,仲裁をすることの合意がそもそもなされていなければいきなり仲裁を申し立てることはできません。

 

 ところが,たまに英文契約書に準拠法や裁判管轄の定めがないものがあります。

 

 おそらく,交渉はしたのでしょうが,どちらも自国の法律や裁判所を主張し,交渉が難航し合意できずに結局記載できなかったのでしょう。

 

 では,契約書に準拠法や裁判管轄・仲裁廷の規定がない場合は,どのような事態になるのでしょうか。

 

 前述したとおり,仲裁は当事者の合意がなければできませんので,法的な紛争解決手段を取る必要がある場合,その当事者は訴訟を検討することになります。

 

 通常は,自国の裁判所に訴えることが多いでしょう。一般的には自国の裁判所に訴えるほうが簡単ですし,コストも安く済み,自社に有利と考えられるからです。

 

 この場合,一般に,その裁判所は日本の民事訴訟法に相当する法律を使って,その訴訟を受け付けられるかを判します。

 

 もし管轄が違うという場合は,訴え自体退けられることにはなるですが,訴訟を受け入れるかどうかは100%白黒はっきりしているわけでもないので,相手の国で裁判が行われてしまうことは十分に考えられます。

 

 また,仮に本来は相手の国で訴訟が受け付けられるべきではないような場合でも,無視していると欠席判決などが出されてしまい,強制執行をされる状態が作られてしまう可能性もあります。

 

 したがって,相手の国の裁判に対し,入り口から対応を余儀なくされることになります。

 

 このように,やはり取り決めがない場合は不安定ですので,何がどうなるかわからないという状態で対応することになり,かえって対応に時間がかかり弁護士費用がかさむということも考えられます。

 

 それよりは,相手の国の準拠法・裁判になったとしても,予め契約書で合意しておけば,事前に現地の弁護士に紛争時のリスク分析などを依頼しておけば,いざ紛争になったときにも慌てず,弁護士に適切に依頼をして対応ができるとも考えられます。

 

 このように,準拠法と裁判管轄について合意できないからといって安易に放置し,何も対策を取らないでいると,いざというときに問題を生じる可能性があります。

 

 以上から,もし合意できず,契約書に準拠法・裁判管轄の条項を入れられなかった場合は,相手国の裁判所に訴訟提起される可能性が高いので,そうなったときにどう対応すべきかを事前にシミュレートしておいたほうが無難といえるでしょう。

 

→next【英文契約書の相談・質問集318】準拠法・裁判管轄が外国の場合日本の弁護士に相談できないですか。

 

IMG_6603 resized 2.jpg

 

 英文契約書に関するサービス内容のお問合せ,見積依頼は下記からお気軽にどうぞ。

 

 正式にご依頼頂くまで料金はかかりません。

 

 原則として,当日,遅くとも1営業日以内(24時間以内)に折り返しご連絡させて頂いております。

 

 

英文契約書の相談・質問集319 海外の弁護士に契約書を見てもらうときのポイントは何ですか。

 

 英文契約書の作成,チェック(レビュー/審査),翻訳(英訳/和訳),修正の依頼を受ける際によく受ける相談・質問に,「海外の弁護士に契約書を見てもらうときのポイントは何ですか。」というものがあります。

 

 例えば,日本企業が外国企業との間で,販売店契約(Distribution/Distributorship Agreement)を交わすということになったとします。

 

 そして,自社として取引条件や責任の分配など必要なことを定めて契約書の形にしたところ,準拠法と裁判管轄が相手方の国の法律と裁判所に定められることが決まったとします。

 

 この場合,準拠法が外国の法律ですし,紛争解決も外国で行うことになっているので,念のためその国の弁護士に契約書のレビューをしてもらうのがより安全ということになります。

 

 では,このように海外の弁護士に契約書を見てもらう際にポイントはあるのでしょうか。

 

 基本的に多くの国で,「私的自治の原則」「契約自由の原則」と呼ばれる原則が採用されているので,当事者が合意した内容はできるだけ尊重されることになっています。

 

 そのため,契約書に記載された内容は基本的にそのまま効力を有します。

 

 ただし,例外があります。例えば,強行法規/強行規定と呼ばれる法律に違反していると,契約書の条項が無効となったり,適用が制限されたりすることがあります。

 

 強行法規/強行規定とは,当事者が合意をしてもその合意が法律に違反している場合,法律が優先して適用される場合の法律を指し,要するに,当事者の意思に反して強行的に適用される法律をいいます。

 

 具体例としては,独占禁止法や競争法,販売店保護法(代理店保護法)などが典型的なものとして挙げられます。

 

 また,法律ではなくても現地の裁判所の判例によって,契約書の内容が無効となったり修正されたりすることもありえます。

 

 そのため,海外の弁護士に依頼する場合は,現地の法律や判例に照らして契約書の内容が②無効になって効力が得られない内容がないかということや,②内容を制限されたりするものがないかということをまずはポイントとして照会すべきでしょう。

 

 もう一つのポイントとしては,契約書に書いてある内容以外のところで,法律や判例が適用されて,日本企業が不利な取扱いを受ける可能性がないかを聞くと良いでしょう。

 

 契約書には,できるだけ,権利や義務,契約違反の効果,問題が起きた場合の責任の配分などを漏らさず記載すべきですが,それでもあらゆる事態を記載することは困難です。

 

 そして,契約書に記載がない事項について問題が起きた場合は,準拠法や準拠法を管轄する裁判所の判断により最終的な解決が図られることになります。

 

 そのため,契約書に書かれていない点で日本企業に不利益な内容がないか,記載していないことで記載をしておいたほうが良いことはないかという視点も契約書のレビューを依頼する際には大切になってきます。

 

→next【英文契約書の相談・質問集320】契約書とウィーン売買条約と準拠法とではどれが優先するのですか。

 

IMG_6603 resized 2.jpg

 

 英文契約書に関するサービス内容のお問合せ,見積依頼は下記からお気軽にどうぞ。

 

 正式にご依頼頂くまで料金はかかりません。

 

 原則として,当日,遅くとも1営業日以内(24時間以内)に折り返しご連絡させて頂いております。

 

 

英文契約書の相談・質問集320 契約書とウィーン売買条約と準拠法とではどれが優先するのですか。

 

 英文契約書の作成,チェック(レビュー/審査),翻訳(英訳/和訳),修正の依頼を受ける際によく受ける相談・質問に,「契約書とウィーン売買条約と準拠法とではどれが優先するのですか。」というものがあります。

 

 まず,ウィーン売買条約(国際物品売買契約に関する国際連合条約)(United Nations Convention on Contracts for the International Sale of Goods)(CISG)が適用される場合を説明します。

 

 当事者が属する国が両国ともウィーン売買条約に加盟していれば,ウィーン売買条約が適用されます。これは当然といえば当然ですので,わかりやすいかと思います。

 

 また,当事者が所属する国の一方だけが加盟していた場合でも,その加盟国の法律が準拠法となるときはウィーン売買条約が適用されます。

 

 例えば,英文契約書に日本法が準拠法となると書かれていたり,法の適用に関する通則法で日本法が準拠法として判断される場合,日本はウィーン売買条約加盟国ですので,相手方の国が加盟国でなくてもウィーン売買条約が適用されることになります。

 

 では,ウィーン売買条約が適用されるとなった場合に,①契約書の内容,②ウィーン売買条約の内容,③準拠法(日本法)の内容はどのような優先関係になるのでしょうか。

 

 まず,ウィーン売買条約は当事者の合意により全部または一部適用を排除できます。

 

 そのため,当事者の合意で作られた契約書が最も優先すると考えられます。

 

 契約書でウィーン売買条約と矛盾する内容を取り決めておけば,ウィーン売買条約が適用されても,契約書での合意内容が優先されるということになります。

 

 明確な合意だけではなく,いわゆる商慣習のようなものも当事者間で確立していればこちらも合意同様最も優先されます。

 

 次に,ウィーン売買条約と日本法の優劣については,ウィーン売買条約が優先します。

 

 これは,英文契約書に「本契約は日本法により解釈し日本法に準拠するものとする」という準拠法(Governing Law)条項があっても同じです。

 

 あくまで上記のように抽象的に日本法を準拠法とすると契約書に記載しただけでは,ウィーン売買条約と日本法の内容が矛盾した場合,ウィーン売買条約が適用されることになります。

 

 ただし,契約書に日本法を準拠法とし,ウィーン売買条約を全部排除すると記載したり,ウィーン売買条約の具体的な条項の適用を排除すると記載したりすれば,日本法が優先することになります。

 

 まとめると,優先順位は①契約書(合意・慣習)→②ウィーン売買条約→③日本法の順番となります。

 

 そのため,日本法を準拠法にし,何かあった場合には日本法を適用して解決を図りたいのであれば,②を排除しておく必要があります。

 

 このことを知らずに準拠法を日本法としておくだけで日本法が適用されると考えていたところ,思わぬところでウィーン売買条約が適用され自社に不利益な解釈となったということがないように注意が必要です。

 

→next【英文契約書の相談・質問集321】現地生産のための合弁企業設立の注意点はありますか。

 

IMG_6603 resized 2.jpg

 

 英文契約書に関するサービス内容のお問合せ,見積依頼は下記からお気軽にどうぞ。

 

 正式にご依頼頂くまで料金はかかりません。

 

 原則として,当日,遅くとも1営業日以内(24時間以内)に折り返しご連絡させて頂いております。

 

 

英文契約書の相談・質問集321 現地生産のための合弁企業設立の注意点はありますか。

 

 英文契約書の作成,チェック(レビュー/審査),翻訳(英訳/和訳),修正の依頼を受ける際によく受ける相談・質問に,「現地生産のための合弁企業設立の注意点はありますか。」というものがあります。

 

 例えば,日本企業が海外に販売店(Distributor)を指名して販売店契約(Distribution/Distributorship Agreement)を締結し,海外で商品を販売展開していたとします。

 

 この状態で一定期間が経過すると,より利益を大きく確保するために,サプライヤーである日本企業が,現地生産を開始するということがありえます。

 

 その際,これまで現地の販売チャネルを開拓してきた販売店(Distributor)の協力を得るために,現地製造会社をサプライヤーと販売店との合弁企業とすることがありえます。

 

 ただ,一般的にこれについては慎重になったほうが良いかと思います。

 

 合弁企業の運営がうまくいっているうちは良いのですが,こちらもある程度期間が経過すると,何らかの都合により合弁解消の場面がやってきます。

 

 そして,その際の選択肢としては,一般に,①合弁会社を清算してしまう,②合弁会社の株式を第三者に売却する,③サプライヤーか販売店のいずれかが合弁会社の相手方の株式を買い取るというものが挙げられます。

 

 圧倒的に取られることが多いのは,③で,かつ,サプライヤーのほうが,販売店が持つ合弁会社の株式を買い取るという選択肢です。

 

 なぜならば,もともとサプライヤーの商品に関する事業ですし,販売店が合弁会社を100%保有する同期は通常ないからです。

 

 この場合,サプライヤーが買い取る合弁会社の株式の価格は,設立当時よりも高騰していることがあります。

 

 そして,その原因は,ノウハウを注入したり,技術提供をしたり,人員をかけたりと,主としてサプライヤーが投資してきた価値にあります。

 

 さらに,あまり事例としては多くないと思いますが,何らかの理由でサプライヤーのほうが合弁会社に対する出資比率が低いような場合,いわゆる「コントロールプレミアム」(支配権を持っていなかった側が支配権を取得するために支払う付加価値のようなもの)も上乗せされる可能性があります。

 

 このような事態となると,サプライヤーとしては販売店の持っている販促ノウハウや販売チャネルについて協力を仰ぐ目的で合弁会社を設立したにもかかわらず,結果としてかなりの金銭的負担をさせられるということになりかねません。

 

 そのため,現地生産を行う段階で,販売店との合弁企業を設立するという選択は安易に取らないほうが身のためかもしれません。

 

 もちろん,現地法人を設立しようにも外資規制があって,サプライヤーの100%独資での設立ができない場合もあるので,一概に合弁会社を避けるべきということではないのですが,出口戦略を十分検討してから行わないと当初の計画よりもコストが高くつくということがありえるので注意が必要です。

 

→next【英文契約書の相談・質問集322】Notwithstandingの使い方を教えて下さい。

 

IMG_6603 resized 2.jpg

 

 英文契約書に関するサービス内容のお問合せ,見積依頼は下記からお気軽にどうぞ。

 

 正式にご依頼頂くまで料金はかかりません。

 

 原則として,当日,遅くとも1営業日以内(24時間以内)に折り返しご連絡させて頂いております。

 

 

英文契約書の相談・質問集327 個別契約の違反を理由に基本契約を解除できますか。

 

 英文契約書の作成,チェック(レビュー/審査),翻訳(英訳/和訳),修正の依頼を受ける際によく受ける相談・質問に,「個別契約の違反を理由に基本契約を解除できますか。」というものがあります。

 

 基本契約というのは,基本売買契約(Basic Sales Transactions Agreement)や販売店契約(Distributorship Agreement)のように,当事者が継続的に取引を続けていくことを前提に,個々の取引に共通して適用される条件を合意している契約のことを指します。

 

 これに対し,個別契約(Individual Contract/Agreement)とは,基本契約を前提に,商品の発注と受注を行い成立する1つ1つの売買取引のことを指しています。

 

 個別契約は,売主と買主が発注書(Purchase Order/PO)と受注書(Purchase Order Acceptance/POA)を交わすことで通常成立します。

 

 では,例えば,買主が売主から商品を100万円で購入するという個別取引をし,期日までに代金を支払わなかったことを理由に,売主は基本契約である基本売買契約や販売店契約を解除することはできるのでしょうか。

 

 この点,基本契約では,通常,「本契約に違反する事実があった場合に本契約を解除できる」と書かれているかと思います。

 

 この「本契約に違反する事実」に個別契約に違反した事実も含まれるかということが問題になります。

 

 形式的に見ると,個別契約の内容は基本契約に書いてあるわけではない(上記の例で言えば「期日までに代金100万円を支払う」という内容は発注書・受注書に記載されていて基本契約書に記載されているわけではない)ですから,個別契約の違反が直ちに本契約=基本契約に違反したことにはなりません。

 

 そのため,個別契約の違反をもって基本契約を解除することができるようにするためには,個別契約の違反をもって基本契約を解除できると明記したほうが安全ということになるでしょう。

 

 もっとも,基本契約の書きぶりから,個別契約が基本契約の内容の一部を構成することが明らかで,個別契約の違反は,個別契約を統制する基本契約の違反を意味すると構成できる場合もあると思います。

 

 そういう場合は,個別契約の違反をもって基本契約の解除に結び付けられることもあるでしょう。

 

 「個別契約の違反が基本契約の違反を構成する」と基本契約に明記されていないからという形式的な理由だけで,個別契約の違反を理由に基本契約の解除ができないと即断するべきではないと思いますが,明確化したいのであれば,そのように記載しておくほうが望ましいと思われます。

 

 とりわけ,海外展開・国際取引を行っている場合,相手は外国に属する企業ですので,お互いの常識や商慣習,法律の内容にギャップがあります。

 

 そのため,自社の認識と海外の取引先の認識がずれていて,個別契約に違反した場合に基本契約を直ちに解除できるかどうかについて,お互いの見解が異なっているということが,国内企業同士のケースに比べて高い確率で生じます。

 

 このような潜在的な認識の差異が,後に大きなトラブルとなって顕在化すると,自社の利益を大きく圧迫することになりかねません。

 

 特に海外企業との紛争処理は,国内企業とのものに比して解決までに時間や金銭のコストがかかることは容易に想像できると思います。

 

 また,紛争を解決する際に参照する法律(準拠法=Governing Law)が外国法になっていると,個別契約と基本契約の関係もどのように考えられているのか,見当もつかないということもありえます。

 

 このようなことのないように,できるだけ契約書で明確にしておきつつ,法律や判例に従って処理される場合にはどのような結論になるのかについてもある程度理解しておくのが望ましいと言えるでしょう。

 

→next【英文契約書の相談・質問集328】「財務状況が悪化したら担保を提供する」という規定は意味ありますか。

 

IMG_6603 resized 2.jpg

 

 英文契約書に関するサービス内容のお問合せ,見積依頼は下記からお気軽にどうぞ。

 

 正式にご依頼頂くまで料金はかかりません。

 

 原則として,当日,遅くとも1営業日以内(24時間以内)に折り返しご連絡させて頂いております。

 

 

英文契約書の相談・質問集326 裁判所の開示命令を受けた情報は秘密情報の例外にすべきですか。

 

 英文契約書の作成,チェック(レビュー/審査),翻訳(英訳/和訳),修正の依頼を受ける際によく受ける相談・質問に,「裁判所の開示命令を受けた情報は秘密情報の例外にすべきですか。」というものがあります。

 

 これは,秘密保持契約書(NDA)などで問題になるケースです。

 

 秘密保持契約書(NDA)には,通常,どういう情報が秘密情報に当たるかの定義規定が置かれ,逆に,どのような情報が秘密情報にならないかの例外規定も置かれます。

 

 例外規定には,もともと相手方が取得していた情報や公知情報などが典型例として書かれます。

 

 これに加え,裁判所や行政機関から法令に基づいて開示を命じられた情報も秘密情報の例外に当たる,つまり,秘密情報としては扱われないとされていることがあります。

 

 しかしながら,このような内容には問題があります。

 

 なぜなら,裁判所などに開示を命じられた情報が秘密情報の例外に当たり秘密情報として扱われないとなると,理屈のうえでは,情報の受領者が秘密保持契約書(NDA)に書かれた目的以外の目的で当該情報を使用したり,第三者に当該情報を開示したりしても契約違反にならないということになってしまうからです。

 

 つまり,ひとたび裁判所から開示命令を受けた情報は,それ以降秘密情報ではなくなり,受領当事者がその情報を自由に使用できるということになってしまうのです。

 

 もちろん,これはあくまで形式的な文言解釈をすれば理論上こうなるということですので,実際に受領当事者が開示当事者の不利益になるような当該情報の使い方をした際に,本当に契約違反にならないかについては検討の余地があるでしょう。

 

 ただ,文言上は秘密情報ではなくなるということになってしまうので,無用な紛争を生じさせないように上記のような定め方については注意したほうが良いかと思います。

 

 具体的にどうしたら良いかというと,秘密情報の例外にするのではなく,「裁判所などから開示命令を受けた情報は,その命令に従って開示ができるだけだ」と規定するのです。

 

 こうすれば,裁判所などの開示命令の対象になった情報も依然として秘密情報ではあり,ただ命令に従った開示をしても秘密保持契約(NDA)違反にならないということを意味するだけとなります

 契約書を作成したり,修正したりする人が,あくまで命令に従って開示をしても契約違反にならないとしたいつもりで文言を作成したとしても,冒頭のような例外規定にしてしまうと,問題を生じる可能性があるので,注意したほうが良いかと思います。

 

→next【英文契約書の相談・質問集327】個別契約の違反を理由に基本契約を解除できますか。

 

IMG_6603 resized 2.jpg

 

 英文契約書に関するサービス内容のお問合せ,見積依頼は下記からお気軽にどうぞ。

 

 正式にご依頼頂くまで料金はかかりません。

 

 原則として,当日,遅くとも1営業日以内(24時間以内)に折り返しご連絡させて頂いております。

 

 

英文契約書の相談・質問集328 「財務状況が悪化したら担保を提供する」という規定は意味ありますか。

 

 英文契約書の作成,チェック(レビュー/審査),翻訳(英訳/和訳),修正の依頼を受ける際によく受ける相談・質問に,「『財務状況が悪化したら担保を提供する』という規定は意味ありますか。」というものがあります。

 

 販売店契約(Distribution/Distributorship Agreement)などの継続的な契約を締結する場合,サプライヤーなど売掛金を回収しなければならない立場の当事者は,相手方の支払能力・財務状況は常に気になると思います。

 

 そのため,契約締結時に,担保を差し入れさせたり,代表者などの連帯保証を取り付けたりすることも考えると思います。

 

 担保としては,保証(guarantee),不動産に対する抵当権(mortgage)設定,質権(pledge)や浮動担保(floating charge)などが考えられます。

 

 ところが,このような要求が取引開始の当初にとおることはまれで,大抵は無担保で取引が開始されるでしょう。

 

 信用状(Letter of Credit: L/C)での取引や,全額前払いの取引などができれば,回収の心配は減りますが,全件このような条件で取引ができるとは限らないでしょう。

 

 中には,全額後払いでの取引を余儀なくされたり,一部前払いを得られるものの大部分が後払いになるということもあると思います。

 

 このように,取引開始のときに担保などで債権を保全することができない場合に「債務者の財務状況が悪化したときは,債務者は債権者に対し担保を提供しなければならない」などという担保提供義務を契約書に記載することがあります。

 

 このような担保提供規定はどの程度実効性があるものなのでしょうか。

 

 端的に結論を申し上げると,残念ながらあまり実効性は期待できません。

 

 というのは,このような義務は「為す債務」と言って,相手方の行動を義務付ける内容なので,相手が約束どおりに担保を提供してくれれば記載した意味がありますが,もし約束を破って担保を提供するという行動をとってくれなければ,法的に担保提供を強制するのが難しいからです。

 

 「為す債務」を強制する手段としては,裁判所に訴えて間接強制(その行為をしないと罰金のようにお金を払い続けなければならない)という方法がありえますが,現実にはこれを実行するのは困難です。

 

 ましてや,国際取引で相手方は外国企業ということであれば,困難さが増すことは用意に想像できると思います。

 

 もちろん,相手が約束どおりに行動してくれれば意味はありますので,記載しないよりはよいと思いますが,これに頼るのは危険です。

 

 したがって,やはり取引開始時に全額前払いとするなど,実効性がある債権保全手段を講じておくほうがよほど重要ということになります。

 

→next【英文契約書の相談・質問集329】不安の抗弁権とは何ですか?

 

IMG_6603 resized 2.jpg

 

 英文契約書に関するサービス内容のお問合せ,見積依頼は下記からお気軽にどうぞ。

 

 正式にご依頼頂くまで料金はかかりません。

 

 原則として,当日,遅くとも1営業日以内(24時間以内)に折り返しご連絡させて頂いております。

 

 

英文契約書の相談・質問集329 不安の抗弁権とは何ですか?

 

 英文契約書の作成,チェック(レビュー/審査),翻訳(英訳/和訳),修正の依頼を受ける際によく受ける相談・質問に,「不安の抗弁権とは何ですか?」というものがあります。

 

 「不安の抗弁権」というのは,簡単に言うと,まだ履行期は来ていないが,相手方が履行期に義務を履行しないことが明らかな場合に,自分の義務の履行を拒否することができる権利のことを言います。

 

 日本では法律では認められていませんが,裁判でこのような概念を取り入れていると考えられるものが存在しています。

 

 英米法の概念では,anticipatory repudiatery breach of contractというものが類似したものと言えます。

 

 Anticipatory repudiatery breach of contractは,契約当事者の一方が,契約の履行期前に契約上の義務を履行しないと宣言した場合,または履行しないことが明確な場合,その相手方は当該契約上の義務から解放されるというものです。

 

 例えば,販売店契約(Distribution/Distributorship Agreement)を締結し,サプライヤーと販売代理店が後払いで取引をしていたとします。

 

 そうすると,サプライヤーは先に商品を納品しなければなりません。こうした条件で,販売代理店がある商品を20ロット×5回オーダーし,サプライヤーは受注していたとします。

 

 オーダーは20ロットずつ5回に分けてされ,受注されているところがポイントです。

 

 この後,サプライヤーが,各オーダーの納期に従い20ロットずつの納品を順番に行うことになります。つまり,個別契約が5つ成立しているということです。

 

 そして,2回分の40ロットが納品分についてはきちんと代金が完済されましたが,3回目の納品後,販売代理店の支払いが遅れたとします。

 

 サプライヤーが催促しても,言い訳を言うばかりでなかなか代金が支払われません。

 

 そうこうするうちに4回目の納品期日が迫ってきます。このような場合にもサプライヤーは約束どおりに商品を納品しなければならないのかというのが,この不安の抗弁権の問題です。

 

 すでに3回目の納品分の代金が滞納されているにもかかわらず,4回目以降の納品をすれば,さらにサプライヤーの債権が焦げ付いて,損害が拡大する可能性が高いです。

 

 このような場合にまであくまで個別契約で約束したのだからと言って,4回目も5回目も先に納品しなければならないとするとサプライヤーに酷すぎるのではないかというのが問題意識です。

 

 なお,販売代理店は3回目の代金を払っていないので,サプライヤーとしては,この契約を販売代理店の債務不履行で解除することはできるでしょう。

 

 ところが,4回目と5回目の取引については,まだ納品前ですので,販売代理店の債務不履行は厳密にはありません。

 

 そのため,サプライヤーは販売代理店の債務不履行を理由に解除することはできないわけです。

 

 こうした場合にサプライヤーを救済する余地があるのが,不安の抗弁権ということになります。

 

 不安の抗弁権のような主張をサプライヤーが行って納品を拒絶できるかは,契約書に記載がなければ,準拠法や判例がこのような救済措置を定めているかによるということになってしまうため,不安定です。

 

 そのため,契約書で予め手当しておくのが妥当です。例えば,「相手方の信用不安が客観的に認められる場合には,個別契約や基本契約の全部または一部を解除できる」としておくことが考えられます。

 

 こうしておけば,3回目の代金支払いが滞った段階で信用不安が認められるので,サプライヤーはそれ以降の個別契約を解除して,納品を拒絶することが可能となるでしょう。

 

 もっとも,現実には,このように契約書に信用不安の場合の解除権が明記されていない場合でも,相手が支払いを遅延しているのに,さらに商品を納品することは経営判断として避けるべきということもあります。

 

 こうした場合は,現地の弁護士とも協議しながら,不安の抗弁権のような主張が通らない可能性があるという法的危険性は理解し受け入れつつ,さらなる納品を拒絶していくということになるでしょう。

 

→next【英文契約書の相談・質問集330】途上国や新興国の零細事業者が紛争相手の場合の注意点は?

 

IMG_6603 resized 2.jpg

 

 英文契約書に関するサービス内容のお問合せ,見積依頼は下記からお気軽にどうぞ。

 

 正式にご依頼頂くまで料金はかかりません。

 

 原則として,当日,遅くとも1営業日以内(24時間以内)に折り返しご連絡させて頂いております。

 

 

お問合せ・ご相談はこちら

 お問合せフォーム・電話・メールでお問合せ頂けます。

 お問合せフォーム・メールでのお問合せがスムーズです。

 

お電話でのお問合せ・ご相談はこちら
03-6453-6337

担当:菊地正登(キクチマサト)

受付時間:9:00~18:00
定休日:土日祝日

※契約書を添付して頂ければ見積回答致します。
受付時間:24時間

 英文契約書の作成・翻訳・リーガルチェック(全国対応),実績多数の弁護士菊地正登です。弁護士22年目(国際法務歴15年),約3年間の英国留学・ロンドンの法律事務所での勤務経験があります。英文契約・国際取引の専門家として高品質で迅速対応しています。お気軽にお問合せ下さい。

お気軽にお問合せください

お電話でのお問合せ

03-6453-6337

<受付時間>
9:00~18:00
※土日祝日は除く

弁 護 士 情 報

弁護士  菊  地  正  登
片山法律会計事務所

東京都港区芝5-26-20
建築会館4F
tel: 03-6453-6337
email: kikuchi@mkikuchi-law.com

片山法律会計事務所

住所

〒108-0014
東京都港区芝5-26-20
建築会館4F

アクセス

都営三田線・浅草線三田駅またはJR田町駅から徒歩約3分です

受付時間

9:00~18:00

定休日

土日祝日

 弁護士インタビュー動画

書  籍

士業・翻訳業者・保険会社・金融機関の方へ

各士業の先生方,翻訳業者,保険会社,金融機関のお客様の英文契約書に関する案件についてお手伝いさせて頂いております。

ご紹介頂いたお客様の初回相談料は無料ですので,お気軽にお問合せ下さい。

ご相談方法

メール・電話・Web会議・対面の打ち合わせによる対応を行っております。

サイト内検索 - 英文契約書用語の検索ができます -