英文契約書の相談・質問集50 予防法務とは何でしょうか。
英文契約書の作成,チェック(レビュー),翻訳(英訳/和訳),修正の依頼を受ける際によく受ける相談・質問に,「予防法務とは何でしょうか。」というものがあります。
企業法務の世界では,①予防法務,②戦略法務,③臨床法務などと区別して呼ばれることがあります。
医療の世界に例えるとわかりやすいかと思います。
予防法務とは,生活習慣などを改善して免疫力を強化し,手洗いなどを慣行し,病気にならないように予防するイメージです。
戦略法務は,上記をさらに進めて,保険の効かない先端的な薬やサプリメントなどを服用して,丈夫な体を作るというイメージでしょうか。法務を経営戦略に活かすという積極的なものが想定されています。
臨床法務は,残念ながら病気になった場合の手術などの治療行為です。
つまり,予防法務は病気にかからないように,もっと手前の段階で予防行為を行うイメージです。
法務の世界でいえば,病気は紛争,トラブル,訴訟などに該当します。
これになると,病気と同じで,治療に多大な労力と,コスト,時間がかかり,下手をすれば治らないということもあります。
このような事態は法務でいえば,紛争が泥沼化し,訴訟で,血で血を洗う戦いをし,最高裁まで7年も争い,結局負けたなどに相当するもので,こうなっては,経営どころではなくなりかねません。
このような重大な損失を避けるために,紛争が生じうる時点よりもっと前の段階で,低コストで少ない労力で紛争を予防する法務を予防法務といっています。
典型的なものは,例えば,日本法人が海外法人を販売店(Distributor)に指名して,自社製品を海外に販売展開していこうと決断したとします。
このときに,何らの手当もしないで,販売店に言われるがまま契約書も作らず事業を開始してしまうと,あとで,過大な要求を突きつけられたり,指示をしても従わなかったり,契約をやめたくても拒否されたりし,ときには意見が合わずに仲違いし,裁判沙汰になるということもあります。
そうならないように,取引を開始する前に,きちんと,取引開始後に問題になりそうな点,販売店から要求されそうな点,自社が要求したい点,要求した際に拒否されそうな点,利益の確保に問題が生じそうな点,損失を生じそうな点などを洗い出し,これらについて手当した内容を事前に英文契約書に落とし込んでおくのが予防法務の一つとなります。
もちろん,取引返し前のこうした英文契約書の内容についてのやり取りの中では,販売店側もいろいろと言い分を述べてきますので,その点を事前にクリアにし,最終的には合意することができます。
つまり,相手方も納得した上で取引が開始されるので,後のトラブルの発生可能性が減ることになるのです。
私が留学していたイギリスでは,この予防法務が中心でした。私が所属していたロンドンの法律事務所でも訴訟はほとんどなく,最初の契約を詰める仕事と,せいぜい紛争になったときにいかに有利に交渉し着地させるかという仕事がほとんどでした。
日本では,まだ予防法務が浸透しているとは言い難いですが,企業にとっては,臨床法務よりも,低コストで,労力もかからないという大きなメリットがあるので積極的に取り組むことをお勧めします。
予防法務は,病気にならない,なっても重篤化しないというようなイメージの行動を指すので,効果が見えにくいという点で積極的に取り組む企業がまだまだ少ないのかもしれません。
これに対し,臨床法務は,裁判などになりますから,勝訴・敗訴のように結果が見えやすいです。「被告は原告に対し金◯◯円支払え」などという勝訴判決を貰えれば,なんとなく成果が上がった感じがします。
ただ,そこに至るまでに実は多大なコストが出てしまっていて,膨大な時間も失われているということを忘れてはいけません。
予防法務は,訴訟のように結果や数字が見えるというものではないですが,実は,潜在的には大きな紛争や損失に繋がりかねないことを意識せずに回避できていたというようなものだといえます。
普通に生活していたら,実はそれが規則正しく健康的な生活だったため,病気を一切しなかったけれども,本人は普通にしていただけでそれが原因だとは気づかないというようなものです。
重い病気にかかって完治できれば,「手術した医者はすごい,治してくれて本当に良かった」と思うでしょうが,そもそもその病気にかからなかった方がもっと良かったという事実は消えないでしょう。法務でもそれと同じことがいえます。
この普段の生活を指導する存在が医療の世界でいう医師,法務でいえば法律家と考えればわかりやすいかもしれません。
このように,予防法務は実はかけなければならない労力は低く,目に見えづらいものの効果は高いものですので,費用対効果は臨床法務に比べて圧倒的に良いです。
みなさんも,この予防法務の大切さについて,病気になぞらえて一度見直してみると良いかと思います。
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