英文契約書の相談・質問集171 不当に安く売られている商品をどこから仕入れたのか調べられますか。

 

 英文契約書の作成,チェック(レビュー/審査),翻訳(英訳/和訳),修正の依頼を受ける際によく受ける相談・質問に,「不当に安く売られている商品をどこから仕入れたのか調べられますか。」というものがあります。

 

 例えば,日本の企業が,海外のメーカーと独占的販売店契約(Exclusive Distribution/Distributorship Agreement)を締結し,販売店(Distributor)となって,日本市場で商品を販売展開していたとします。

 

 あるとき,販売店は,日本市場において,不当に安い小売価格で販売店(Distributor)が取り扱っている商品と同一の商品が販売されていることに気づきました。

 

 販売店(Distributor)が国内で卸した商品が出回っているのか,並行輸入(販売店が仕入れているメーカーとは別の業者からの仕入れ)なのかはわかりません。

 

 また,具体的にどういう商流をたどってその商品が不当に廉価な価格で販売している業者に渡ったのかもわかりません。

 

 このような場合に,その小売店がどのようなルートで商品を仕入れたかを調べる方法はあるのでしょうか。

 

 一つ考えられる方法は,商品を追跡(トラッキング)できるようにしておくことでしょう。

 

 パーケージや商品のものに,卸先ごとに対する番号や記号を割り当てておき,その商品を卸します。

 

 そして,同一商品が不当に安く売られているというような問題がわかったときには,その商品を購入してみて,上記の番号や記号で,どのルートで売られた商品なのかを調査するという方法です。

 

 細かい商流まですべてわかるわけではないですが,大まかなルートは判明することがあります。

 

 これにより,不当な安値での販売に対する対処が可能になる場合があります。

 

 もっとも,商流が判明したとしても,小売価格を規制しようとしたり,並行輸入を阻止しようとしたりすると,独占禁止法により違法になることもあります。

 

 独占禁止法では再販売価格維持は禁止されていますし,並行輸入は一定の要件を充たせば適法であるため,これを阻止する行為は独占禁止法違反になるおそれがあるからです。

 

 このように,不当に安い価格で他社から販売されていると判明したとしても,それに対する対策を取ることが法律違反となる場合がありますので,十分注意が必要です。

 

 このような対策まで取るかどうかは,独占禁止法の専門家などに事前に相談し,適法性を吟味しなければなりませんが,商品を追跡することは一定の意味がある場合もあります。

 

 上記の追跡方法は,小売価格の問題のほかは,商標やロゴの付替え対策などにも有効な場合があります。

 

 メーカーの商品の商標やロゴを勝手に別の商標やロゴに張り替えて,自社ブランドのようにして商品を売られてしまうということが起こりえます。

 

 また,商品そのものを改変してしまうという場合にも,どの商流で購入された商品が改変されているのかを突き止めるのにも有効な場合があります。

 

 このような場合に,どのルートで仕入れた商品かを突き止めることにより,対策を立てやすくなることがあります。

 

 今は,ネット販売が可能となりコストをかけずに販売しやすくなっていますし,3Dプリンターなどの出現で,模倣品の製造も容易かつ精巧になっています。

 

 そのため,前述したような対策がますます必要になってくると思います。

 

 ただ,繰り返しになりますが,対策自体が法律に違反するという場合もありますので,そのようなことにならないよう,事前に専門家に相談するなどの対応をしておくと良いでしょう。

 

→【英文契約書の相談・質問集172】最低購入数量未達の場合に独占権を奪うとの内容に注意点はありますか。

 

IMG_6603 resized 2.jpg

 

 英文契約書に関するサービス内容のお問合せ,見積依頼は下記からお気軽にどうぞ。

 

 正式にご依頼頂くまで料金はかかりません。

 

 原則として,当日,遅くとも1営業日以内(24時間以内)に折り返しご連絡させて頂いております。

 

 

英文契約書の相談・質問集172 最低購入数量未達の場合に独占権を奪うとの内容に注意点はありますか。

 

 英文契約書の作成,チェック(レビュー/審査),翻訳(英訳/和訳),修正の依頼を受ける際によく受ける相談・質問に,「最低購入数量未達の場合に独占権を奪うとの内容に注意点はありますか。」というものがあります。

 

 独占的販売店契約(Exclusive Distribution/Distributorship Agreement)を締結している場合,通常,最低購入数量(Minimum Purchase Quantity/Amount)が定められます。

 

 最低購入数量(Minimum Purchase Quantity/Amount)とは,一定期間に,販売店(Distributor)がサプライヤーから購入しなければならないノルマを指します。

 

 単に「ノルマ」とか「ミニマム」と呼ばれたりもします。

 

 販売店(Distributor)の取引数量・金額がこの最低購入数量(Minimum Purchase Quantity/Amount)を下回ってしまうと,販売店が何らかのペナルティを受けると契約書に定められるのが通常です。

 

 サプライヤーが英文契約書を作成する際に,最低購入数量(Minimum Purchase Quantity/Amount)未達の場合のペナルティとしてよく選択されるのが,下記の3つの選択肢です。

 

①独占販売店契約(Exclusive Distribution/Distributorship Agreement)自体を解除する,

②独占販売権を奪い,非独占販売店契約(Non-Exclusive Distribution/Distributorship Agreement)にする,

③最低購入数量(Minimum Purchase Quantity/Amount)に不足した分の金額を賠償させる

の3つです。

 

 今回の質問は,英文契約書を作成する際に,このペナルティのうち②を選択していた場合に,問題がないかということです。

 

 もし,販売店(Distributor)が一定期間中に最低購入数量(Minimum Purchase Quantity/Amount)を超過して商品を購入することができなければ,販売店は独占販売権を奪われてしまうということになります。

 

 これが販売店(Distributor)にとって不利益だということは明らかです。

 

 そうではなくて,ここでは,サプライヤー側に不利益がないかということがテーマです。

 

 サプライヤーとしては,独占販売権を奪えるのであれば,奪った後はその販売店(Distributor)が販売している地域内で,別の販売店を指名しても良いということになりますので,ペナルティとして有効だと考えます。

 

 ただ,一つ気をつけなければならない点があります。

 

 それは,独占販売権を奪うことで,他の販売店(Distributor)を,非独占的販売店契約(Non-Exclusive Distribution/Distributorship Agreement)としての販売店として指名することができるにとどまるということです。

 

 つまり,別の販売店(Distributor)を,独占的販売店契約(Exclusive Distribution/Distributorship Agreement)としての販売店として指名することはできないということです。

 

 新しい販売店(Distributor)候補としては,独占販売権をもらえる契約である独占的販売店契約(Exclusive Distribution/Distributorship Agreement)を望んでいることが多いです。

 

 ただ,ノルマ未達のペナルティとして旧独占的販売店契約(Exclusive Distribution/Distributorship Agreement)が,非独占的販売店契約(Non-Exclusive Distribution/Distributorship Agreement)に変更されても,まだ契約期間が残っていれば,その残りの期間は,旧販売店(Distributor)は,非独占の販売店としてサプライヤーから商品を購入し販売することができます。

 

 そうなると,新しい販売店(Distributor)候補としては,旧販売店がいる限り,自社が市場独占という本当の意味での独占販売権を得ることができないので,交渉が難航するということが起こります。

 

 もちろん,「旧販売店(Distributor)は,例外的に契約終了までサプライヤーから購入できるが,サプライヤーはその他の会社には商品を一切卸さない」という条件(旧販売店の存在はあくまで一過性のもの)で,新販売店と契約できることもあるでしょう。

 

 しかし,最初から完全な独占的販売店契約(Exclusive Distribution/Distributorship Agreement)にならないということで,交渉を打ち切る販売店(Distributor)候補もいます。

 

 この点が,最低購入数量(Minimum Purchase Quantity/Amount)未達の場合のペナルティとして①契約自体の解除を選択した場合との違いです。

 

 ①の場合には,独占的販売店契約(Exclusive Distribution/Distributorship Agreement)自体を終了させることができるため,終了と同時に別の販売店(Distributor)との間で独占的販売店契約(Exclusive Distribution/Distributorship Agreement)を締結できます。

 

 もちろん,契約には相手がいる以上一方当事者の思惑どおりには進みませんので,常にペナルティが重いほうが良いというわけではありません。

 

 ただ,ミニマム未達の場合のペナルティとして独占販売権の剥奪を選ぶ際にはこのような注意点がありますので,サプライヤーの立場で英文契約書を作成,チェック(レビュー/審査),翻訳(英訳/和訳),修正する際には,この点の不利益を考慮しておく必要があります。

 

→next【英文契約書の相談・質問集173】取引までに契約書を作る時間がないのですがどうしたら良いですか。

 

IMG_6603 resized 2.jpg

 

 英文契約書に関するサービス内容のお問合せ,見積依頼は下記からお気軽にどうぞ。

 

 正式にご依頼頂くまで料金はかかりません。

 

 原則として,当日,遅くとも1営業日以内(24時間以内)に折り返しご連絡させて頂いております。

 

 

英文契約書の相談・質問集174 合意更新の場合に交渉が期限切れになった場合どうなりますか。

 

 英文契約書の作成,チェック(レビュー/審査),翻訳(英訳/和訳),修正の依頼を受ける際によく受ける相談・質問に,「合意更新の場合に交渉が期限切れになった場合どうなりますか。」というものがあります。

 

 何らかの取引をするにあたり,英文契約書を作成する場合,通常,契約の有効期間(Term)を定めると思います。

 

 この場合,契約の有効期間が満了になった場合の取扱いについても,通常,契約書に規定します。

 

 例えば,「期間満了前の3ヶ月前までに,当事者の一方が相手方に対して,契約を終了させる旨を通知しない限り,従前と同一の条件で契約期間が更新される」(Renewal)という内容が定められることがあります。

 

 これは,自動更新条項と呼ばれています。更新しない旨の通知をしない限り,放置していれば自動的に契約期間が更新されるためです。

 

 ただ,例えば,独占的販売店契約(Exclusive Distribution/Distributorship Agreement)などでは,サプライヤーとしては,自動更新条項にはしたくないと考えることもあります。

 

 販売店(Distributor)に独占販売権を渡しても,初期ステージでは,販売店(Distributor)がどの程度のパフォーマンスを発揮するのかがわからないので,最初からあまり長い契約を想定したくないという事情がある場合があるためです。

 

 もちろん,自動更新条項であっても,更新拒絶の通知を出せば,契約は更新せずに期間満了で終了するので,同じではないかという考えもありえます。

 

 ただ,自動更新条項にすると,契約を終了させる場合,「契約を更新しない」という意思を書面通知するというアクションが必要になります。

 

 そして,自動更新条項があるということは,特に問題がなければ更新が続くのだと販売店(Distributor)に期待させるという事情があります。

 

 そうすると,販売店(Distributor)が特に問題ない限り契約継続を期待しているのに,突然,期待を裏切る更新拒絶の通知をサプライヤーから受け取るという流れになるわけです。

 

 これは,販売店(Distributor)からすると相当なインパクトがあります。

 

 更新を期待していたのに,期待に反して更新しないという通知を受け取るわけですから,何かクレームを入れたいと思うかもしれません。

 

 これに対して,そもそも,期間満了で終了することが前提となっていて,単に契約期間だけが記載され,更新については一切触れていない場合はどうでしょうか。

 

 この場合,販売店(Distributor)は,契約は契約期間中のみ有効なのであり,「問題がなければそのまま契約が何度も繰り返されて長期にわたって継続するはずだ」という期待は抱かないのではないでしょうか。

 

 もちろん,販売店(Distributor)のパフォーマンスがサプライヤーの期待以上に良く,サプライヤーに利益が大きいという状態になれば,交渉により期間の延長,または,いったん契約が終了した後での再契約が行われるかもしれません。

 

 ところが,自動的に更新が想定されているわけではないので,仮に再契約がされなかったとしても,販売店(Distributor)側の受け止め方に差異が生じる可能性はあります。

 

 また,販売店保護法などの法律によっても,更新が予定されているかどうかにより,販売店(Distributor)の保護の程度が変わってくる可能性も考えられます。

 

 もちろん,サプライヤーとしては,独占的販売店契約(Exclusive Distribution/Distributorship Agreement)において,最低購入数量(Minimum Purchase Quantity/Amount)を定めて,パフォーマンスが悪い場合にはそもそも契約を解除できるようにしておくなどの別の対策も重要です。

 

 ただ,契約期間と満了による終了という場面を考えると,自動更新ではないほうが良いこともありうるわけです。

 

 話を本題に戻します。上記のような定めのほか,自動更新ではないけれども,「契約期間の満了の3ヶ月前から再契約または契約延長の協議をし,合意できれば再契約または契約延長をする」という条項を定めることもあります。

 

 この場合,上記の3ヶ月の交渉で更新条件がまとまらず,3ヶ月が経過してしまった場合,どうなるのでしょうか。

 

 準拠法(どの国の法律が適用されるか)にもよると思いますが,基本的には,合意に至らなかったので,そのまま契約期間の満了により契約は終了されると解釈されるのだと思います。

 

 ただし,再契約または契約延長の交渉を真摯に行わなかったり,新契約の条件を,従前の条件よりも大幅に自社に有利=相手に不利なように提案し,事実上交渉を行ったとはいえず,一方的に更新を拒否したと認められるような場合は,別の解釈もあるかもしれません。

 

 自動更新ではなく,協議・合意により再契約や契約期間の延長がありうるとの条項を契約書に入れた場合は,交渉を行う義務は生じますので,この点は注意しなければなりません。

 

 交渉が前提になりますので,この場合も,販売店(Distributor)などは「特段の問題がない限り再契約や期間の延長がされるだろう」と契約更新を期待するかもしれません。

 

 英文契約書の作成,チェック(レビュー/審査),翻訳(英訳/和訳),修正をする際には,こうしたこともよく考慮に入れて,契約期間の満了や,更新条項を作成することが必要です。

 

→next【英文契約書の相談・質問集175】もめている内容で協議があるのですが合意書案を持参すべきですか。

 

IMG_6603 resized 2.jpg

 

 英文契約書に関するサービス内容のお問合せ,見積依頼は下記からお気軽にどうぞ。

 

 正式にご依頼頂くまで料金はかかりません。

 

 原則として,当日,遅くとも1営業日以内(24時間以内)に折り返しご連絡させて頂いております。

 

 

英文契約書の相談・質問集216 品質クレームをしてもメーカーの国では売れると言われます。

 

 英文契約書の作成,チェック(レビュー/審査),翻訳(英訳/和訳),修正の依頼を受ける際によく受ける相談・質問に,「品質クレームをしてもメーカーの国では売れると言われます。」というものがあります。

 

 日本企業が販売店(Distributor)として,海外メーカーとの間で,販売店契約(Distribution/Distributorship Agreement)を締結し,日本国内で海外メーカーの商品を販売展開していくというような場合に,日本企業が受領した商品の品質に問題があることがあります。

 

 例えば,送られてきた商品のパッケージや商品自体にプリントされたデザインがずれていたとしましょう。

 

 そうなると,販売店(Distributor)としては,これではアウトレット品,セカンド品になってしまいますので,メーカーに対し,品質に関するクレームを入れることになります。

 

 ところが,海外メーカーは,これを品質の問題ととらえないことがあります。

 

 日本では,プリントがずれているというだけで,まともな商品としては売れなくなってしまい,アウトレット品,セカンド品になってしまうということがあっても,メーカーの国の市場では,普通に正規品として販売して売れるという事情があることがあるのです。

 

 こうなると,日本では,プリントがずれている商品は,品質に問題がある欠陥品として,メーカーに交換してもらう,返品するなどの対応が可能であっても,海外メーカーにしてみれば,それは日本の特殊事情であり,一般的にこれは欠陥品ではないから,クレーム対応はしないとなってしまいます。

 

 この場合,当然ですが,日本市場の「常識」について丁寧に説明して,理解を得て,返品を受け付けてもらうようにするのが,第一にすべきことなのですが,上記の理由を述べられて堂々巡りになることもよくあります。

 

 「欠陥」に入るか入らないのかの根本的な考え方が違っているので,日本の基準で説得しようとしても,相手の納得を得るのは難しいわけです。

 

 このような「欠陥」の場合,工場のラインに問題がある可能性が高いので,今回の注文分だけに生じるのではなく,発注ごとに毎回何割かはこのような商品が混ざっているということになってしまいます。

 

 そうなると,注文のたびに毎回ロスが生じることになりますので,利益を得るためには小売価格を値上げして調整する他ないという事態になりかねません。

 

 それでは,お客様が離れてしまうということもあるでしょうから,重大な問題です。

 

 長期的に粘り強く交渉して,製造工場を変えてもらうとか,OEMで自社の契約する工場で製造させてもらうとか,根本的な対応をしてもらわなければ,同じ問題が継続するということになってしまいます。

 

 契約締結前のサンプル品の検査だけでは,このような問題は確認できないこともよくあります。

 

 このような事態を避けるためには,事前に販売店契約(Distribution/Distributorship Agreement)において,品質の基準について細かく合意しておくという対策が考えられます。

 

 プリントのずれも欠陥に含むことを明記し,その場合の救済方法(Remedy)(1.商品の交換,2.代金返金など)について合意しておくという対応です。

 

 また,この合意は難しいと思いますが,検査(Inspection)の合格基準は,日本の商慣習による標準的な基準を適用して合格・不合格を決定し,不合格の場合は,1.商品の交換,2.代金返金などの対応をしてもらえると合意することも考えられます。


 このように,一般に,日本の消費者は品質に厳しいといわれていますので,品質基準について事前に細かく合意をしないと,外国の基準・感覚とずれていて,あとでトラブルになることがあります。

 

 また,一部の商品では,日本の輸入審査基準が海外に比べて厳しく,海外メーカーの商品が予定していたほど輸入できないというトラブルもよくあります。

 

 ちなみに,EU圏内の国なども特に食品などの輸入規制は非常に厳しいので,日本企業が輸出側に回る際には注意が必要です。

 

 事前にサンプル検査をすることは当然として,サンプル検査だけでは,すべての品質を管理することはできませんので,上記のように販売店契約(Distribution/Distributorship Agreement)の中で合意をするなど,品質基準についても事前に議論をしておくことをおすすめします。

 

→next【英文契約書の相談・質問集217】外国で類似商標がすでに登録されていたら諦めるしかないですか。

 

IMG_6603 resized 2.jpg

 

 英文契約書に関するサービス内容のお問合せ,見積依頼は下記からお気軽にどうぞ。

 

 正式にご依頼頂くまで料金はかかりません。

 

 原則として,当日,遅くとも1営業日以内(24時間以内)に折り返しご連絡させて頂いております。

 

 

英文契約書の相談・質問集197 Attorney-client privilege(秘匿特権)とは何ですか。

 

 英文契約書の作成,チェック(レビュー/審査),翻訳(英訳/和訳),修正の依頼を受ける際によく受ける相談・質問に,「Attorney-client privilege(秘匿特権)とは何ですか。」というものがあります。

 

 イギリスでもアメリカでも,Attorney-client privilege(弁護士・依頼者間の秘匿特権)というものが存在しています。

 

 これは,イギリスでいうところのDisclosure,アメリカでいうことろのDiscoveryという証拠開示制度に関連して認められている特権です。

 

 証拠開示制度とは,簡単にいうと,裁判手続の際に,当事者は事件に関係するすべての証拠を開示しなければならず,事件に関連する証拠を隠し持っていてはならないという制度です。

 

 日本には,イギリス・アメリカのような証拠開示制度はなく,限定的な文書提出命令がある程度ですので,事件に関係ある証拠がすべて訴訟に出されるわけではありません。

 

 そのため,日本にはAttorney-client privilege(弁護士・依頼者間の秘匿特権)という概念はありません。

 

 余談ですが,私がイギリスに留学中,ロンドンの弁護士に,「日本は,証拠開示制度がなくってどうやって裁判しているの?」と真顔で聞かれたことがあります。

 

 確かに,証拠開示制度が前提になっている国で裁判をしていれば,自社に不利な証拠は裁判に出さなくてもよいし,相手も相手に不利な証拠は出さなくてもよいとなると,真実が明らかになるはずもなく裁判にならないのではないかと考えるのも理解できます。

 

 ちなみに,アメリカのDiscoveryのほうがイギリスのDisclosureよりも開示範囲が広いといわれています。

 

 最近では,e-Discoveryなどと呼ばれ,電子データなどの開示も要求されていますので,開示範囲が膨大です。

 

 この証拠開示に対応する業務を提供する業者があるくらいです。

 

 この証拠開示制度の例外に当たるのが,Attorney-client privilege(弁護士・依頼者間の秘匿特権)ということになります。

 

 簡単にいうと,依頼者が依頼した弁護士とのやり取りは,証拠として開示しなくて良いということです。

 

 依頼者が弁護士に相談する際には,弁護士に対し,自社とって有利なことも不利なことも含めてすべてを伝え,アドバイスをもらう必要があります。

 

 弁護士も,依頼者のためだけに,依頼者にとって利益になるアドバイスをします。

 

 それなのに,依頼者と弁護士の通信記録などもすべて証拠開示の対象になってしまっては,せっかく依頼者のためだけにされた弁護士のアドバイスが公開されてしまうので意味のないものとなり,ひいてはそもそも弁護士から適切なアドバイスを期待できなくなってしまいます。

 

 そのため,Attorney-client privilege(弁護士・依頼者間の秘匿特権)が認められているのです。

 

 ただし,このAttorney-client privilege(弁護士・依頼者間の秘匿特権)は,認められるための要件が複雑です。

 

 また,Attorney-client privilege(弁護士・依頼者間の秘匿特権)の例外というものもあり,ある要件を充たすと,弁護士と依頼者のやり取りであっても,開示しなければならなくなるということもあります。

 

 そのため,訴訟に至る可能性のあるようなデリケートな紛争となった場合,現地の弁護士の指示にきちんと従い,不用意にAttorney-client privilege(弁護士・依頼者間の秘匿特権)を失うことがないようにしなければなりません。

 

 私がイギリスの法律事務所で執務していたときも,日本のクライアントが不用意な行動で,このAttorney-client privilege(弁護士・依頼者間の秘匿特権)を自ら放棄してしまったというケースを見たことがありました。

 

 海外展開は,いろいろな問題が自国内で完結しないので,「郷に入っては郷に従え」の精神で,現地の法制度などの調査を怠らないことが大切です。

 

→next【英文契約書の相談・質問集198】当社に不利な事実は弁護士に伝えなくて良いですか。

 

IMG_6603 resized 2.jpg

 

 英文契約書に関するサービス内容のお問合せ,見積依頼は下記からお気軽にどうぞ。

 

 正式にご依頼頂くまで料金はかかりません。

 

 原則として,当日,遅くとも1営業日以内(24時間以内)に折り返しご連絡させて頂いております。

 

 

英文契約書の相談・質問集176 損害額は当事者が協議して定めるという内容は無意味ですか。

 

 英文契約書の作成,チェック(レビュー/審査),翻訳(英訳/和訳),修正の依頼を受ける際によく受ける相談・質問に,「損害額は当事者が協議して定めるという内容は無意味ですか。」というものがあります。

 

 契約書は,円満に話し合って解決できるならば必要ないという側面があります。

 

 例えトラブルになっても,きちんとお互いが合理的・客観的に冷静に話し合って,妥当な結論で和解できるのであれば,契約書などなくても,事実上問題は起きないでしょう。

 

 でも,現実は,お互いが自分の利益を主張し,妥協点が見いだせなくなることがあるので,契約書で予め決めておこうということなわけです。

 

 これは,夫婦の関係が悪くなり,別居することになって,冷静に話し合おうといっても難しいところがあるのと同じです。

 

 つまり,話し合う必要がないように予め解決策を書いた契約書を作成しておくという側面があるわけです。

 

 であれば,損害額について交渉する必要があるというときは,どちらかの当事者に損害が生じてしまい,それを相手方に賠償させたいという揉め事があるときです。

 

 こういう場合に,「当事者が話し合って決める」などとという規定はほとんど何も決めていないのと同じでしょう。

 

 話し合ったとしても,話し合いの内容が合意できるようなものでなければ,「それで?」となってしまいます。

 

 そして,その「それで?」の質問への回答が契約書には書いていないことになります。

 

 このように,単に「話し合いによって解決する」という文言はほとんど意味をなさないという場合が多いのです。

 

 特に海外取引では,文化,言語,商慣習,法律も違うので,単に話し合いを義務付けただけの条項はより意味がないことが多いでしょう。

 

 ただ,では,損害額を予め書いたほうが良いのか,計算式のようなものを書いたほうが良いのかというと,それもそうとは限らないという難しい事情があります。

 

 では,損害を賠償するとだけ書いておき,損害額について協議するなどという無駄な文言は書かないほうが良いのかという疑問がわきます。

 

 矛盾するようですが,書いておいたほうが良いという考えもありえます。

 

 話し合いを義務付けておけば,いきなり訴訟を提起されたりすることはなくなる可能性が高くなります。

 

 また,一義的に損害が決まるということはなく,話し合って合理的な妥協点を見つけようという姿勢が書かれていますので,クレームする側から一方的に金額を突きつけられた際に,「まずは交渉しましょう」と突き返す根拠に使える可能性があります。

 

 さらに,例えば,商品の売買契約で,買主が第三者から知的財産権侵害の損害賠償請求を受けて,それを支払った場合に,売主にその賠償額の補償を求めるというような場合,買主がよく根拠も検討せずに,第三者の言い値で賠償してしまうということを抑止する効果も期待できます。

 

 話し合いもせずに,勝手に第三者に対し,言い値での高額な損害賠償をしてしまうことを防ぐということです。

 

 このように,実質的に無意味と考えられる「誠実協議」条項なのですが,全く無意味とまではいえないところがあります。

 

 とりわけ,紛争解決条項などでよく見られる「訴訟や仲裁の前に,代表者や役員同士が一定の期間交渉して,それでも解決しなかった場合にのみ,訴訟や仲裁ができる」という規定は,紛争解決のプロセスを具体的に規定するものですので,意義が大きいことがあります。

 

 このような紛争解決時に取るべきプロセスを記載した規定は,海外取引の契約書でもよく見られます。

 

→【英文契約書の相談・質問集177】「合理的な」損害額という表現はあいまいではないですか。

 

IMG_6603 resized 2.jpg

 

 英文契約書に関するサービス内容のお問合せ,見積依頼は下記からお気軽にどうぞ。

 

 正式にご依頼頂くまで料金はかかりません。

 

 原則として,当日,遅くとも1営業日以内(24時間以内)に折り返しご連絡させて頂いております。

 

 

英文契約書の相談・質問集178 ADRとは何ですか。

 

 英文契約書の作成,チェック(レビュー/審査),翻訳(英訳/和訳),修正の依頼を受ける際によく受ける相談・質問に,「ADRとは何ですか。」というものがあります。

 

 ADRとは,Alternative Dispute Resolutionの略で,和訳すると「裁判外紛争解決手続」と訳されています。

 

 紛争を解決するための手続きは,これまで司法機関(裁判所)を利用した訴訟・裁判(Litigation)が主流でした。

 

 これに代わって,訴訟・裁判以外の紛争解決を目的とした手続き全般をADRと呼んでいます。

 

 国際紛争において,最もポピュラーなADRがArbitration(仲裁手続)です。

 

 他にも,Mediation(調停手続)というものもADRの一つです。

 

 日本では,まだあまりADRが浸透しておらず,Arbitration(ADR)は国内であまり利用されていないと言われています。

 

 アジアでは,シンガポールや香港では国際仲裁がさかんに行われています。

 

 逆に,調停は,世界的にはあまりメジャーな手続きとはいえないですが,日本では,一定の分野ではよく利用されています。

 

 例えば,離婚調停です。離婚を求める場合は,いきなり訴訟を提起することは認められておらず,まずは調停を申し立てることになっています(「調停前置主義」)。

 

 裁判や仲裁は,当事者が和解できない場合は,最終的に判決や仲裁判断のような強制力のある決定が下されますが,調停の場合,そのような強制力のある決定は出ず,あくまで話し合いによる解決を目指します。

 

 調停で話し合いによる解決ができなければ,調停不成立ということで,手続きは終了してしまいます。

 

 この点が,裁判・仲裁と,調停との大きな違いです。

 

 私がイギリスに留学していたときは,イギリスでは,訴訟はもちろんADRも含めて法的手続きをすることなく,ほとんどが弁護士同士の交渉による和解で紛争が解決していました。

 

 これが圧倒的な率です。おそらく,9割以上ではなかったかと思います。

 

 もしこの弁護士同士の話し合いで解決できない場合の次のステップがArbitration(仲裁)でした。

 

 分野にもよりますが,私が取り扱っていた国際取引や海事の分野では,裁判はほとんど選択されず,法的手続きがとられる場合でもほとんどが仲裁手続でした。

 

 国によっても違うと思いますが,世界的な潮流として,これからは訴訟よりもADRの利用が増えていくといわれています。

 

 両者の違いはいろいろとありますが,ビジネスでの紛争の場合,何よりも解決までのスピードが重視されますので,この点で仲裁が選択されるという事情もあります。

 

 また,特にイギリスで実務をしていて感じましたが,本来,ビジネス上の紛争(知的財産権の紛争などは違うでしょうが)は,国の機関(裁判所)に解決を委ねるのではなく,企業が自主的に解決すべきという側面もあるでしょう。

 

 訴訟に至れば,いわば私的な目的で,税金で運営される公的制度を利用することになります。

 

 そのようなことは最終的な手段として位置づけ,なるべく私的な紛争は私的に,自主的に解決すべきという考えがあるように思います。

 

 そのため,イギリスでは,訴訟を避けるための制度がいろいろと用意されていました。

 

 こうした考えがあるため,私が見聞きした範囲では9割以上が弁護士同士の交渉により解決していました。

 

 ビジネスは,スピードと金銭が重要な要素となることは否めませんので,あながち不合理とはいえないという実感がありました。

 

 こうした流れは,世界の多くの国での潮流になるのではないかと感じています。

 

 紛争になればすぐ裁判という視点を持つのではなく,まずは自主的に解決できるように取り組む姿勢が特にビジネスにおける紛争では重要でしょう。

 

 このような自主的な紛争解決である交渉の際に,いかに自社に有利な主張を,根拠を持ってできるようにしておくかというのが,契約書であり,日々の証拠づくりであるわけです。

 

 もちろん,契約書の作り込みなどの予防法務に取り組むことにより,そもそも紛争の発生率を減らすことが大切であることは言うまでもありません。

 

→next【英文契約書の相談・質問集179】Risk of damage or loss (危険負担)とは何ですか。

 

IMG_6603 resized 2.jpg

 

 英文契約書に関するサービス内容のお問合せ,見積依頼は下記からお気軽にどうぞ。

 

 正式にご依頼頂くまで料金はかかりません。

 

 原則として,当日,遅くとも1営業日以内(24時間以内)に折り返しご連絡させて頂いております。

 

 

英文契約書の相談・質問集180 損害賠償の予定(Liquidated Damages)はなぜ定めるのですか。

 

 英文契約書の作成,チェック(レビュー/審査),翻訳(英訳/和訳),修正の依頼を受ける際によく受ける相談・質問に,「損害賠償の予定(Liquidated Damages)はなぜ定めるのですか。」というものがあります。

 

 多くの国の法律で,当事者が契約違反をした場合,契約違反をされた当事者は,契約違反をした当事者に対して,自社が被った損害の賠償請求ができるとされています。

 

 日本法も,英米法でも,契約違反をされた当事者は,自社がそれにより被った損害を,契約違反当事者に対して賠償請求できるとしています。
 

 ところが,この損害がいくらなのかというのはいつも簡単に算出できるということではありません。

 

 たとえば,当事者が秘密保持義務に違反して,秘密情報を第三者に漏洩したとします。

 

 この場合,秘密情報を漏洩された方の当事者は,自社の被った損害を,秘密情報を漏洩した当事者に請求することができます。

 

 ただ,ここでいう「損害」の金額を算定するのが困難という場合があるのです。

 

 実際に秘密情報を漏洩された先の第三者が判明したとしても,その第三者がどのようにその情報を使用したのか,それによって,自社がどの程度の損失を受けたのかなどを実際に調査して金額を算定するのは困難です。

 

 一般的に,損害賠償請求をする場合,自社がいくらの損害を受けたのかについては,請求する側が証明しなければなりません。

 

 損害賠償請求者が自社の損害を立証できなければ,請求者は敗訴してしまいます。

 

 こうなると,秘密情報を漏洩した情報は,痛くも痒くもなく,何らの責任も負わないということになりかねず,不当です。

 

 このような場合に備えて,予め予測される損害額を決めておき,それを契約書で合意しておくのが,「損害賠償の予定(Liquidated Damages)(リキダメ)」なのです。

 

 上述したとおり,損害賠償の予定(Liquidated Damages)(リキダメ)の大きな役割の一つは,立証の困難さを手当するという点にあります。

 

 契約違反はあったけれども,その違反により,いくら損害が生じたのかが算定しにくい,立証しにくいという場合に備えて,損害額の予測値を予め当事者で合意しておくことによって,実損額にかかわらず,損害賠償請求をできるようにするという狙いがあるのです。

 

 このように,損害賠償の予定(Liquidated Damages)(リキダメ)は,損害額を予め合意しておくものなので,実際の損害額が損害賠償の予定(Liquidated Damages)(リキダメ)の金額よりも多かったとしても,原則として超過している損害については請求できないことになります。

 

 かといって,金額を多額にしておけばよいかというと,あまりに高額の場合,そもそも相手方の承諾を得られないことも多いでしょうし,仮に合意できても裁判所などの判断により無効とされる可能性もあります。

 

 難しいですが,損害額として妥当な額を想定して合意しておくことが大切です。

 

 なお,この損害賠償の予定の額を請求することを目的としている詐欺のような案件もたまにありますので注意しましょう。

 

 簡単に義務違反になるような契約を結ばせ,義務違反があると見るや直ちに損害賠償の予定の額の損害賠償請求をしてくるようなケースです。

 

 この損害賠償の予定(Liquidated Damages)(リキダメ)は,日本法でも認められていますし,英国法でも認められています。

 

 これと似て非なるものとして,「違約罰(Penalty)」があります。

 

 こちらは,損害額を予定するというものではなくて,民事上の罰金のようなもので,制裁を課すという趣旨のものです。

 

 制裁があることによる抑止効果を狙い,義務違反を防ぐという意図もあります。

 

 この違約罰(Penalty)は,日本法では一応認められていますが,英国法では禁止されています。

 

 もっとも,日本法でも,あまりに高額な違約罰を定めると公序良俗違反などの理由により無効になることはあるでしょうから,注意が必要です。

 

 ちなみに,いくら契約書に,損害賠償の予定(Liquidated Damages)(リキダメ)として記載していても,高額な賠償金が書かれていて,その狙いが制裁にあることが明らかであるような場合,実質的に違約罰(Penalty)と判断されることもあるので,注意しなければなりません。

 

 条項のタイトルをどうするのかは関係なく,実質的な内容が重要であるということです。

 

→next【英文契約書の相談・質問集181】契約書で製造物責任(Product Liability)を免責にできますか。

 

IMG_6603 resized 2.jpg

 

 英文契約書に関するサービス内容のお問合せ,見積依頼は下記からお気軽にどうぞ。

 

 正式にご依頼頂くまで料金はかかりません。

 

 原則として,当日,遅くとも1営業日以内(24時間以内)に折り返しご連絡させて頂いております。

 

 

英文契約書の相談・質問集181 契約書で製造物責任(Product Liability)を免責にできますか。

 

 英文契約書の作成,チェック(レビュー/審査),翻訳(英訳/和訳),修正の依頼を受ける際によく受ける相談・質問に,「契約書で製造物責任(Product Liability)を免責にできますか。」というものがあります。

 

 販売店契約(Distribution/Distributorship Agreement)などでは,製造物責任(Product Liability)について記載することがあります。

 

 製造物責任(Product Liability)とは,簡単にいうと,製品に欠陥があり,その欠陥が原因で,人が怪我をしたり亡くなったりした場合の損害や,物が壊れてしまった場合の損害について,メーカーなどがユーザーに対して責任を負うというものです。

 

 日本の「製造物責任法」をはじめ,多くの国で,この製造物責任(Product Liability)に関する法律が定められており,メーカーは,欠陥製品により怪我をしたり死亡したりした人の損害を賠償することが義務付けられています。

 

 通常,この製造物責任(Product Liability)は,メーカーに過失がなくとも,責任が認められます(無過失責任)し,約款などでユーザーに対して免責を定めておいても免責規定は無効となるとされています。

 

 ただ,販売店契約(Distribution/Distributorship Agreement)などで,メーカーと販売店(Distributor)との間で,メーカーが製造物責任(Product Liability)を販売店(Distributor)に対して負わないという規定自体は有効になることがあります。

 

 直接被害を被ったユーザーが,メーカーにクレームをしてきた場合,ユーザーに対してはメーカーは免責されませんが,このユーザーがまずは販売店(Distributor)にクレームを入れ,販売店(Distributor)がユーザーに賠償し,これをさらにメーカーに賠償してきたような場合の免責規定です。

 

 この規定は,メーカーと販売店との契約当事者間の合意ですので,有効になる余地があるわけです。

 

 ただ,以下に述べるとおり,メーカーは,こうした賠償責任について簡単に完全な免責は受けられないという点に注意が必要です。

 

 製造物責任が問題になるときは,商品に欠陥がある場合ですから,契約責任として契約不適合責任(旧瑕疵担保責任)や,契約書上の保証条項があればそれによって,メーカーが売主の立場で責任を負うことがあるからです。

 

 メーカーが,契約不適合責任(旧瑕疵担保責任)も免責としておき,品質保証もせずに現状有姿で製品を販売していたというような場合でなければ,製造物責任でなくとも契約不適合責任(旧瑕疵担保責任)や保証責任として損害賠償請求を受ける可能性があるわけです。

 

 製造物責任(Product Liability),契約不適合責任(旧瑕疵担保責任),保証責任すべてについてメーカーは免責されるという内容は,なかなか販売店(Distributor)に受け入れてもらえないでしょう。

 

 そのため,メーカーが一切の責任から免責されるというのは,相当にハードルが高いのです。

 

 なお,契約不適合責任(旧瑕疵担保責任)や保証責任は契約書に定めておき,製造物責任(Product Liability)だけが免責されるという内容であった場合は,ユーザーの人身事故に関する損害分については,メーカーは販売店(Distributor)に対して責任を負わないと解釈される可能性があります。

 

 つまり,メーカーは,契約不適合責任(旧瑕疵担保責任)または保証責任として欠陥商品の代金を販売店(Distributor)に返金する必要があるが,それ以外のユーザーの人身事故についての損害は製造物責任(Product Liability)に関する損害のため免責されるということです。

 

 契約不適合責任(旧瑕疵担保責任)や保証責任とともに,責任制限(Limitation of Liability)を定めておき,製品の代金を賠償金額の上限とするという内容が英文契約書に書かれていることもあります。

 

 この場合は,より明確に,商品の代金分についてはメーカーが販売店(Distributor)に賠償する必要があるが,ユーザーの人身事故に関する損害については賠償責任がないとされる可能性が高まります。

 

 このように,一つの事象が生じた場合,理論的にいくつもの責任が同時に生じうることがありますので,どの場合にどの責任が生じうるのかをよく考え,どれを免責にするのが有効なのかを考える必要があります。

 

 そして,契約には相手がいますので,相手の都合も考え,どういう内容であれば,相手も妥協し合意できるのかについてもよく考えて,英文契約書の作成,チェック(レビュー/審査),翻訳(英訳/和訳),修正する際に免責規定を作る必要があります。

 

→next【英文契約書の相談・質問集182】雇用契約書のひな形を作っておけば各国で使えますよね。

 

IMG_6603 resized 2.jpg

 

 英文契約書に関するサービス内容のお問合せ,見積依頼は下記からお気軽にどうぞ。

 

 正式にご依頼頂くまで料金はかかりません。

 

 原則として,当日,遅くとも1営業日以内(24時間以内)に折り返しご連絡させて頂いております。

 

 

英文契約書の相談・質問集187 弁護士には法律問題しか相談できないのですか。

 

 英文契約書の作成,チェック(レビュー/審査),翻訳(英訳/和訳),修正の依頼を受ける際によく受ける相談・質問に,「弁護士には法律問題しか相談できないのですか。」というものがあります。

 

 弁護士は,法律の専門家ですので,一般的には,法律が絡む問題についてアドバイスをしたり,法的な権利義務を規定する契約書を作成したりと,法律に絡む仕事をしています。

 

 ただ,相談するクライアントの側からすると,ビジネスや経営の課題の中に法的問題が入り込んでいて,法的問題だけを解決しても,真の経営課題を解決したことにはならないということが多いと思います。

 

 また,そもそも,経営課題の中から法的問題だけを切り出すことは難しいか,意味がないということがよくあります。

 

 クライアントは,問題意識を広く持っていますので,自社の経営課題・ビジネスの課題として,弁護士に状況を伝えます。

 

 ところが,弁護士は,法律の専門家として,クライアントが話す課題の中から,自分がアドバイスできる法的な問題を抽出し,それだけに回答しようとすることがあります。

 

 こうなると,クライアントのほうは,問題の解決になっていないし,課題全体に向き合ってもらえていない,真の問題点を把握してくれていないと不満を持つことになります。

 

 そのため,本来は,弁護士はクライアントのビジネスをよく理解し,広い視点で経営課題を抽出しなければなりません。

 

 また,法務に関わる部分のアドバイスをすることは当然として,それ以外の点についても,積極的に意見を述べて,経営者が経営課題を正確に認識し,それに対する解決策を取捨選択できるようにクライアントをアシストできなければなりません。

 

 それには,クライアントのビジネスと悩みについて的確に質問をして,課題を発見することが不可欠ですし,ある程度の経営やビジネスに対する理解・知見も求められます。

 

 クライアントが,弁護士にいつも法律問題というものに関してだけ,正解を教えてもらっているだけの感覚を抱いているとすると,その弁護士は,法律問題だけを扱っていて,起業やビジネスの法的「アドバイザー」とまではいえないのかもしれません。

 

 今後,インターネット上での知識の共有やAIの発達などが進むと,法律問題に対して正解を出すというのはこれらのテクノロジーが行ってくれるので,クライアントにとって弁護士の役割は,課題を発見し,提案をしてくれる,良き「アドバイザー」や「コンサルタント」になってくるものと思います。

 

 法的な課題をクライアントが正しく把握していて,それに対する法的結論を得たいだけであれば,インターネット上に答えがあることが少くありません。

 

 弁護士に相談する意味があるとすると,自社の抱えている課題が何であり,解決するためにはどの分野の知識が必要で,その課題を解決するためにはその知識をどのように解釈し当てはめればよいのか,そこまで突っ込んだ内容になるでしょう。

 

→next【英文契約書の相談・質問集188】海外の弁護士の費用はいくらくらいですか。

 

IMG_6603 resized 2.jpg

 

 英文契約書に関するサービス内容のお問合せ,見積依頼は下記からお気軽にどうぞ。

 

 正式にご依頼頂くまで料金はかかりません。

 

 原則として,当日,遅くとも1営業日以内(24時間以内)に折り返しご連絡させて頂いております。

 

 

英文契約書の相談・質問集189 海外本社が契約書の修正を一切認めない場合どうすればいいですか。

 

 英文契約書の作成,チェック(レビュー/審査),翻訳(英訳/和訳),修正の依頼を受ける際によく受ける相談・質問に,「海外本社が契約書の修正を一切認めない場合どうすればいいですか。」というものがあります。

 

 日本企業が販売店(Distributor)となって,海外メーカーと販売店契約(Distribution/Distributorship Agreement)を締結して,日本の顧客に商品を販売展開するというときに,海外メーカーが作成している契約書をそのまま顧客との間で使うようにと指示されることがあります。

 

 これは,ソフトウェアの販売などでよく起こります。

 

 ソフトウェアの販売の場合,販売店(Distributor)が顧客にソフトウェアを販売して終わりではなく,使用条件やその後のメンテナンスなどがあるため,メーカーの用意した契約書そのものに日本の顧客がサインする必要があるということになります。

 

 ただ,日本の顧客の場合,長文でわかりにくい傾向にある英文契約書を敬遠しがちです。

 

 そのため,オリジナルの英文契約書のままでは日本の顧客がサインしてくれないということがよく起こります。

 

 この場合の対策としては,英文契約書を和訳して日本語の契約書にして使うという方法です。

 

 この方法は,海外のメーカー本社も認めてくれることがあります。

 

 ところが,これでも問題が起こります。英文契約書を和訳すると,長文になりますし,どうしても翻訳の限界として文意がわかりにくくなるということがあるからです。

 

 そもそも英文契約書は一般的に英米法の概念で作られており,日本語や日本法の概念にはない概念が入っていたりもしますので,余計にわかりにくくなります。

 

 そうすると,体裁は和文契約書であっても,日本の顧客からすると,内容が不気味でよくわからない契約書だということになり,そのままではサインしてくれないということが起こります。

 

 この場合,顧客の要望に応じて,契約書の一部を修正したり,削除したりする必要が生じます。

 

 ただ,海外本社としては,本来オリジナルの英文契約書の内容は一切変更したくないという方針なので,この修正はなかなか受け入れてもらえないということになります。

 

 こうした場合は,丁寧に日本の法律について説明し,なぜ顧客が受け入れないのかについても説明し,できるだけオリジナルの英文契約書の内容と実質的な意味が変わらない内容で日本語での修正案を提示していくということになります。

 

 ただ,まったく英文の内容と意味を変えずに修正することはできないので,できるだけ影響が小さいように修正するということになります。

 

 削除する場合は,より困難なのですが,その理由と日本の法律にしたがった場合の帰結などを説明し,本社に修正を受け入れてもらえないか交渉します。

 

 他にも,いったん英文の契約書のオリジナルの内容のまま和訳した契約書に顧客にサインしてもらい,その後日本語の覚書で必要な箇所の修正をするということもあります。

 

 この方法をとっても契約の内容を変更することに違いはないのですが,このやり方のほうが,形式的には契約書はそのまま締結されるので,契約書の内容そのものを修正するよりも,本社に受け入れられやすいことがあります。

 

 なお,この和文契約書の削除・修正の際に,販売店(Distributor)である日本企業が注意しなければならない点は,和文契約書を修正したことにより,メーカーに責任を転嫁できず,自社が責任を負うことにならないかという点です。

 

 例えば,オリジナルの英文契約書では,メーカーが免責されると書いてあるのに,日本の顧客がそれをいやがって,免責規定を削除するように要求したとします。

 

 これを,販売店(Distributor)である日本企業が受け入れてしまうと,もし顧客が責任追及をしたいと場面が生じた場合,顧客は和文契約書に基づき販売店(Distributor)である日本企業にクレームをし,貴社は責任を負うということになります。

 

 ところが,メーカーとの間の販売店契約(Distribution/Distributorship Agreement)では,メーカーが免責されていますので,販売店(Distributor)である日本企業はメーカーに責任追及ができません。

 

 このように,ソフトウェアに問題があるにもかかわらず,最終的な責任は,メーカーではなく,販売店(Distributor)である日本企業が負うことになるということがありえるのです。

 

 このようなことにならないよう,基本的には,メーカーとの間の販売店契約(Distribution/Distributorship Agreement)の責任分配と,販売店(Distributor)である日本企業と顧客との間の契約書の責任分配の内容は同じであるべきということになります。

 

 こうした契約書の関係を,「Mirror(鏡)の状態にある」という言い方をすることがあります。

 

 間に介在する者として自社がすべての責任をかぶるということになっていないか,日本企業が販売代理店となる場合は注意して契約書を作成しましょう。

 

→next【英文契約書の相談・質問集190】海外企業との交渉でのコツはありますか。

 

IMG_6603 resized 2.jpg

 

 英文契約書に関するサービス内容のお問合せ,見積依頼は下記からお気軽にどうぞ。

 

 正式にご依頼頂くまで料金はかかりません。

 

 原則として,当日,遅くとも1営業日以内(24時間以内)に折り返しご連絡させて頂いております。

 

 

英文契約書の相談・質問集190 海外企業との交渉でのコツはありますか。

 

 英文契約書の作成,チェック(レビュー/審査),翻訳(英訳/和訳),修正の依頼を受ける際によく受ける相談・質問に,「海外企業との交渉でのコツはありますか。」というものがあります。

 

 海外企業に限りませんが,取引上の交渉は,バーゲニングパワー(交渉上の優位性)を持っている当事者の交渉力が強いのはやむを得ないところがあります。

 

 それでも,バーゲニングパワーが弱いほうの企業が,強いほうの企業の言いなりにならなければならないのかというと,もちろんそんなことはありません。

 

 主張すべきことは主張し,できるだけ自社に有利な,または,フェアな内容を獲得することが大切です。

 

 そうはいっても,相手のほうが立場が強い場合,相手に有利な条件ばかり押し付けられ,自社に有利な条件を飲ませることはかなりハードルが高いということはよくあります。

 

 このようなときに,ただ自社が飲んでほしい要求をするのでははなく,交換条件として提案するということでうまくいくことはあります。

 

 要するに,「私達はここを譲歩するので,この点を承諾してほしい」という提案の仕方をしたり,「あなた達の要求は受け入れるので,その代わりこの点を受け入れてほしい」という提案の仕方をするのです。

 

 英米法の概念がどこまで関係するかはわかりませんが,英米法の考え方では,法的強制力のある契約を締結するためには,Consideration(約因)という要素が必要です。

 

 このConsideration(約因)は,「対価」のようなもので,一方の当事者が何かの義務を負うのであれば,他方の当事者もその対価として何らかの義務を負うべきだという考えです。

 

 こうした考え方の影響もあるのか,とりわけ外国企業に対しては,単に自社の要求を突きつけるより,相手の求めていそうな内容を探り,これを受け入れてくれたら,これを受け入れるという提案の仕方をすると,うまくいくことはあります。

 

 特に英米系の企業は,Consideration(約因)がなければ約束を法的に強制できないことを理解しているため,何らかの負担を相手に強いるなら,自分も一定の負担を負うことに抵抗がないというのが理由の一つなのかもしれません。

 

 もちろん,それ以外にも,人脈や根回しというような「裏技」のような交渉方法も有効な場合がありますが,いつもそのようなカードを切れるわけではないでしょう。

 

 そういう場合は,自社の利益ばかりを追求するのではなく,自社が譲歩できる点を探り,それを譲歩する代わりに相手方にも譲歩を求めるという「和解」のような考え方が功を奏することがあります。

 

 取引交渉時は,まだ取引を開始していない段階ですので,特にお互いが疑心暗鬼になりがちです。

 

 そういうときに,「油断するとやられる」というような姿勢で,攻め一方のような交渉を行うと,どんどん悪い方向に進むことがあります。

 

 そうではなく,信じられないのは相手も同じだと理解して,相手のことを理解しようと努力し,「自社も譲歩できるところはするので,あなた達も譲歩できるところはお願いします。そうすることでお互いがベストな状況に持っていきましょう。」という姿勢が伝わると良い交渉ができることがあります。

 

 考え方として上述したConsideration(約因)を意識すると良いと思います。約束事・義務が当事者双方にとってフェアになるように提案を繰り返していくという姿勢でいると割と相手も話しを聞いてくれるでしょう。

 

→next【英文契約書の相談・質問集191】英文契約書では免責条項が長文になるのはなぜですか。

 

IMG_6603 resized 2.jpg

 

 英文契約書に関するサービス内容のお問合せ,見積依頼は下記からお気軽にどうぞ。

 

 正式にご依頼頂くまで料金はかかりません。

 

 原則として,当日,遅くとも1営業日以内(24時間以内)に折り返しご連絡させて頂いております。

 

 

英文契約書の相談・質問集200 一度締結した契約内容を変更するときの注意点はありますか。

 

 英文契約書の作成,チェック(レビュー/審査),翻訳(英訳/和訳),修正の依頼を受ける際によく受ける相談・質問に,「一度締結した契約内容を変更するときの注意点はありますか。」というものがあります。


 

 一度契約した内容を後に改定(Amendment)する際に注意しなければならない点はあるでしょうか。

 

 日本法が準拠法となっていれば,契約内容の変更については,当事者が変更後の内容を承諾していれば,特別な注意点はないかと思います。

 

 ただし,準拠法が英国法やアメリカの州法などになっているときは,注意が必要です。

 

 なぜなら,considerationという考え方が英米法には存在しているからです。

 

 Considerationは,日本語では,「約因」と約されていますが,簡単にいうと,「対価」のようなものを指します。

 

 英米法の世界では,要するに,当事者のどちらかが一方的に義務だけ負うような約束はこのconsideration(約因)を欠いて無効であり,どちらの当事者も何らかの負担を負うようにして,約因がある状態にしないと契約は有効にならないという考えを採用しているのです。

 

 ちなみに,consideration(約因)がないと契約が有効にならないという考えは,日本法にはありません。

 

 そのため,例えば,契約書において英国法が準拠法になっている場合に,契約当事者の一方が,契約期間の途中で相手方当事者が一方的に不利になる負担を受ける内容の契約改定案を提案したとします。

 

 この場合,いくら提案を受けた相手方当事者がそれで良いと考えても,相手方の当事者は従来の契約と全く同じ義務を負っているだけということになると,約因がないので,その変更は無効になる可能性があるのです。

 

 例えば,会社と取締役との委任契約において,会社が取締役との委任契約を終了させる場合の猶予期間が当初の契約では1年間とされていたとします。

 

 これを,会社が6ヶ月に短縮したいと考え,取締役も合意したとします。

 

 この変更は,取締役が一方的に不利益を受け,会社は何らの対価性ある義務などを新たに負っていないので,consideration(約因)を欠いて,変更は無効となる可能性があるのです。

 

 無効となることを防ぐためには,そのような不利益変更をする代わりに,報酬を少し増額するなど,取締役が受ける不利益に対し,会社側も何らかの負担をすると決めるとよいでしょう。

 

 そうすることにより,consideration(約因)があるということになり,変更は有効になりやすいということになります。

 

 日本にはない概念ですので,英米法が適用される契約書については,このconsideration(約因)という概念に注意する必要があります。

 

 余談ですが,このようなconsideration(約因)という対価を意識するのが英米法の国の人々なので,交渉時に,自社に有利な内容を一方的に提案しても,受け入れてくれないですし,相手方の提案を単に飲めないと言っても受け入れてくれないことがよくあります。

 

 これは,「そういう要求するなら,そちらも何か譲歩をしてよ」,「単にこちらの提案を受けないというのではなく,こういう条件なら受けられると,カウンターで条件を提案してよ」というconsiderationに基礎づけられた考えがあるからという場合があります。

 

 そのため,交渉の際もこのconsideration(約因)を意識してみると良いと思います。

 

 以上のように,英米法の世界では,契約を締結する場面だけではなく,契約内容を変更する場面でもconsideration(約因)の存在は問題になりますので,注意する必要があります。

 

next→【英文契約書の相談・質問集201】日本の弁護士が海外の法律の対応もしてくれるのですか。

 

IMG_6603 resized 2.jpg

 

 英文契約書に関するサービス内容のお問合せ,見積依頼は下記からお気軽にどうぞ。

 

 正式にご依頼頂くまで料金はかかりません。

 

 原則として,当日,遅くとも1営業日以内(24時間以内)に折り返しご連絡させて頂いております。

英文契約書の相談・質問集201 日本の弁護士が海外の法律の対応もしてくれるのですか。

 

 英文契約書の作成,チェック(レビュー/審査),翻訳(英訳/和訳),修正の依頼を受ける際によく受ける相談・質問に,「日本の弁護士が海外の法律の対応もしてくれるのですか。」というものがあります。

 

 私も日本の弁護士資格を持っていますので,日本の弁護士です。

 

 当然ですが,日本の弁護士は,日本法を取り扱う資格があるだけですので,海外の法律を取り扱う資格を持っているわけではありません。

 

 そのため,海外の法律を取り扱う必要があるときは,その国の弁護士資格を持っていて,その分野に詳しい専門家の弁護士に依頼をして,一緒に仕事をしています。

 

 中には,例えば,日本の弁護士資格とNY州の弁護士資格を持っているという弁護士もいますので,こういう弁護士は,どちらの法律も取り扱うことができます。

 

 ただ,2つの弁護士資格を有していても,どちらにも精通し,どちらの実務もしているという人は現実には少なく,実際の実務は現地の弁護士に依頼するのが一般的だと思います。

 

 取り扱う資格があるということと,実際に取り扱うことができるということの間には大きな壁があるので,一人の弁護士がいくつも専門分野を持っているということは現実にはあまりないのです。

 

 専門性を持つということは他のことに時間を割かずに,1つの分野に時間を集中投下するということですから,たくさん専門分野を持つというのは矛盾でもあります。

 

 また,資格までは持っていないが,外国の法律を事実上知っている,外国法に詳しい日本の弁護士という人もいます。

 

 私も,英米法についての弁護士資格はないですが,一定の知識は有しています。

 

 この知識を使って,どこまでの行為をすることが許されるのかは,各国の法律によって定められているということになります。

 

 日本の弁護士で海外の法律に詳しい弁護士は,法律の入り口の説明くらいをして,もっと突っ込んだ対応が必要である内容であれば,さらに現地の弁護士に依頼するということをしているのが通常かと思います。

 

 法律問題は,非常に細分化されていますし,弁護士も特に海外では専門分野が事細かに別れています。

 

 そのため,一人の弁護士になんでもかんでも対応してもらうことは,一見便利のように思えますが,実は危険だと思います。

 

 窓口となる顧問弁護士に普段は対応してもらい,海外の法律に真剣に対応する必要があるというときは,その弁護士と海外の専門弁護士にともに動いてもらい,アドバイスを受けるというのが適切だと思います。

 

 予算の問題で安く済ませようとして,役に立たないか,むしろ有害なアドバイスを元にビジネスを進めてしまって損害を受けてしまっては意味がありません。

 

 法律が絡む問題は,判断を誤ると時に大きな損失を招くことになりますので,しかるべきコストをかけて,その道の専門家にきちんとアドバイスを貰って適切な意思決定をすることが,ビジネスで損失を回避し,確実に利益を上げる第一歩となります。

 

→next【英文契約書の相談・質問集202】弁護士に契約書作成を依頼したら自分で見なくても良いですか。

 

IMG_6603 resized 2.jpg

 

 英文契約書に関するサービス内容のお問合せ,見積依頼は下記からお気軽にどうぞ。

 

 正式にご依頼頂くまで料金はかかりません。

 

 原則として,当日,遅くとも1営業日以内(24時間以内)に折り返しご連絡させて頂いております。

 

 

英文契約書の相談・質問集202 弁護士に契約書作成を依頼したら自分で見なくても良いですか。

 

 英文契約書の作成,チェック(レビュー/審査),翻訳(英訳/和訳),修正の依頼を受ける際によく受ける相談・質問に,「弁護士に契約書作成を依頼したら自分で見なくても良いですか。」というものがあります。

 

 結論としては,弁護士に任せきりにしないで,自分でも読むべきということになります。

 

 弁護士が契約書を作成した場合,問題がない契約書ができている可能性は高いでしょう。

 

 ただ,ミスがないとは言い切れませんし,何より,自社が思い描いているビジネスをきちんと形にできているか,自社がリスクと考えている内容についてマネジメントができているか,当事者として確認する必要があります。

 

 弁護士は,貴社の味方ですが,アドバイザーであり,あくまで客観的な立場での味方です。

 

 そのため,当事者として最終的に意思決定をし,判断をするのは,貴社自身ですから,きちんと内容を把握し,理解しておく必要があります。

 

 仮に弁護士が考えているベストと,自社において考えているベストな内容が異なっていた場合,それに気付けるのは自分しかいないわけです。

 

 弁護士は依頼者の考えを反映していると思っていますので,何度自分が作成した契約書を読んでも,その点には気づきえないのです。

 

 依頼者と弁護士が打ち合わせを丁寧にしていても理想的な形について両者の認識が多少ずれてしまうことはありえます。

 

 これは,英文契約書であってももちろん同じです。

 

 英語が苦手な方にとっては,英文契約書の特殊で難解な表現もあって,読むのが苦痛だというのはわかります。

 

 ただ,やはり理解しないで締結するというのは,非常に危険ですし,経営判断が伴っていないというのは問題があります。

 

 英語が苦手であれば,弁護士に解説をしてもらい,一言一句理解していなくとも,契約書がどういう内容を規定しているのか,ある場面ではどういう責任配分をしているのかということは,最低限理解しておく必要があります。

 

 また,和訳を業者などに依頼して和訳で読むという方法もあります。

 

 和訳は,英語の意味とは異なってしまうことがよく起こるため,あまりおすすめできないのですが,読まないよりは遥かにマシです。

 

 和訳をもらった上で,弁護士に解説もしてもらっておくというのであれば,ほぼ問題ないと思います。

 

 弁護士がリスクヘッジをしてくれているのはもちろんですが,さらに,経営者や担当者の「この理解で本当に正しいのか」,こうした不安を払拭してくれる存在が弁護士です。

 

 契約書は,相手もいますので,自社が作って終わりではなく,相手の要望も踏まえて交渉をしなければなりません。

 

 そのためにも,自社の持つ契約書を自分で読んでいないのでは,交渉上,非常に不利になります。

 

 社長が読んでいなくとも,交渉担当者はきちんと契約書を読み込んで,内容を理解し,経営陣に説明しておかなければなりません。

 

 契約によって権利義務が生じるのは自社なのであり,契約の当事者,ひいてはビジネスの主人公は自社であるということをあくまで徹底しなければなりません。

 

→next【英文契約書の相談・質問集203】準拠法が日本法なら不可抗力(Force Majeure)条項は不要ですよね。

 

IMG_6603 resized 2.jpg

 

 英文契約書に関するサービス内容のお問合せ,見積依頼は下記からお気軽にどうぞ。

 

 正式にご依頼頂くまで料金はかかりません。

 

 原則として,当日,遅くとも1営業日以内(24時間以内)に折り返しご連絡させて頂いております。

 

 

英文契約書の相談・質問集203 準拠法が日本法なら不可抗力(Force Majeure)条項は不要ですよね。

 

 英文契約書の作成,チェック(レビュー/審査),翻訳(英訳/和訳),修正の依頼を受ける際によく受ける相談・質問に,「準拠法が日本法なら不可抗力(Force Majeure)条項は不要ですよね。」というものがあります。

 

 日本法では,債務不履行責任を負うには,債務不履行をした当事者に帰責事由(その当事者の「責めに帰すべき事由」,つまり「過失」のようなもの)が必要とされています。

 

 そのため,例えば,販売店契約(Distribution/Distributorship Agreement)で,売主が,台風という自然災害=売主のコントロールできない事情により,商品の納品を遅延したとしても,売主に帰責事由が認められないため,売主は責任を負わなくて良いということになります。

 

 この当事者のコントロールできない事情のことを,英文契約書では,Force Majeure(不可抗力)と呼んでいます。

 

 前述したとおり,日本の法律では,帰責事由がなければ当事者は債務不履行責任を負わないとされていますので,Force Majeure(不可抗力)によって債務不履行した場合は,法律によって責任を負わないとされているわけです。

 

 つまり,日本の法律では,過失責任の原則がとられているわけです。

 

 では,英文契約書で,準拠法(Governing Law)(その契約をめぐって問題が生じたときにどこの国の法律を適用するのかという問題)を日本法と定めた場合は,そもそも法律で過失責任なので,Force Majeure(不可抗力)の場合は免責されるという当たり前のことは書かなくても良いのでしょうか。

 

 結論としては,日本法が準拠法(Governing Law)となっていても,Force Majeure(不可抗力)は入れたほうが良いです。
 

 日本以外の国を見ると,過失責任の国ばかりではありません。

 

 例えば,英米法では,無過失責任が原則になっているので,たとえForce Majeure(不可抗力)によって当事者が債務不履行をしても,責任を生じます。

 

 そのため,国によって,Force Majeure(不可抗力)による債務不履行の場合に責任が生じるかどうかの考えが異なるのです。

 

 こうした異なる国に所属する企業と契約を結ぶのが海外取引ですから,英文契約書にForce Majeure(不可抗力)の取扱いについて記載がないと,これについて相手方と考えに違いを生じてしまうことがあります。

 

 そして,契約条件の理解に当事者間で差異があると,後でトラブルになる可能性が高まります。

 

 そのため,たとえ,日本法を準拠法(Governing Law)としていても,Force Majeure(不可抗力)の場合を免責としたいのであれば,相手も同じように理解できるように契約書に明記するほうが良いことになります。

 

 また,Force Majeure(不可抗力)といっても,何がForce Majeure(不可抗力)に該当して当事者が免責されるのかについては,日本法によっても明確な決まりがあるわけではありません。

 

 そのため,この点も当事者が明確に理解できるように,Force Majeure(不可抗力)に当たる事由を列挙し,きちんとForce Majeure(不可抗力)とは何であるかを定義しておく必要があります。

 

 このように,たとえ,契約書で,過失責任主義が採用されている日本法を準拠法(Governing Law)としていたとしても,相手もきちんと理解できるようにするため,また,何がForce Majeure(不可抗力)に該当するのかを明確にするため,Force Majeure(不可抗力)条項は契約書に入れておいたほうが良いと思います。

 

 法律で定められていることはあえて契約書に書かなくとも良いというのは,同じ法律や商習慣を共有している同一の国に属する企業同士であればまだしも,海外企業との取引では危険な考えです。

 

 また,法律で結論が自社に有利になるからそれで良いという考えも危険です。相手がその法律を理解していなければ,法律とは異なる主張をされて紛争に巻き込まれるリスクがあるからです。

 

 相手は自社と異なる法律体系に属しており,自社と異なる常識で経営されていますから,「書かなくても当然なのでわかるだろう」という考えは捨て,理解しておくべきことはすべて契約書で共有するという姿勢が正しいことになります。

 

→next【英文契約書の相談・質問集204】弁護士費用について注意点はありますか。

 

IMG_6603 resized 2.jpg

 

 英文契約書に関するサービス内容のお問合せ,見積依頼は下記からお気軽にどうぞ。

 

 正式にご依頼頂くまで料金はかかりません。

 

 原則として,当日,遅くとも1営業日以内(24時間以内)に折り返しご連絡させて頂いております。

 

 

英文契約書の相談・質問集160 金銭支払いトラブルの交渉が有利になるポイントはありますか。

 

 英文契約書の作成,チェック(レビュー/審査),翻訳(英訳/和訳),修正の依頼を受ける際によく受ける相談・質問に,「金銭支払トラブルの交渉が有利になるポイントはありますか。」というものがあります。

 

 まず当たり前のことをいうようですが,自社の側が金銭支払いを求めているということは,相手に物理的に金銭を保有されているということを意味しますので,この時点でかなり不利です。

 

 どういうことかというと,金銭の支払いのトラブルにおいては,基本的にお金を追いかける立場にある当事者が常に不利なのです。

 

 要するに,「お金払って下さい。」という側は不利で,「お金払う必要はないはずです。」という側が有利になってしまうのです。

 

 例えば,販売店契約(Distribution/Distributorship Agreement)で,フランスのメーカーが日本の販売店(Distributor)に商品を900万円で卸したとします。

 

 代金は前払いとなっていたので,商品の出荷前に販売店(Distributor)は全額を支払いました。

 

 商品は,お皿とかマグカップなどの陶器製品だとしましょう。

 

 その後,商品が到着したので,検品をしてみたところ,およそ3分の1の商品で,絵柄のプリントが斜めになってずれていることがわかりました。

 

 販売店(Distributor)は,日本ではこのような商品は,アウトレット品になってしまうため,欠陥品であるから,代金300万円を返金するよう相手に要求したとします。

 

 これに対し,フランスのメーカーは,フランス国内では問題なく正規料金で売れるので,欠陥には当たらないから応じられないと反論したとします。

 

 こうなると,日本側ががんばって日本ではプリントのずれがあるだけでもまともに売れず,欠陥品と考えるべきだということを力説して,フランスのメーカーを説得しなければ返金を受けられないということになります。

 

 仮に,日本の販売店(Distributor)の主張が法的に正しいと仮定しても,フランスのメーカーが納得してくれない限りは,裁判などで無理やり権利を実現するしかなくなります。

 

 ただ,300万円程度の金額ですと,外国企業相手に裁判や仲裁をすれば弁護士費用だけで赤字になる可能性が高く,採算の問題で現実的にはできないという事情もあります。

 

 法的には日本の販売店(Distributor)の主張が正しくとも,それを強制できるとは限らないのです。

 

 では,契約書において,代金の全額前払ではなく,一部前払いが定められていたとしたら事態はどう変わっていたでしょうか。

 

 例えば,販売店(Distributor)は,商品の出荷前に600万円を入金し,検収完了後に,300万円を支払うと定められていた場合です。

 

 この場合は,販売店(Distributor)は,全体の3分の1に相当するプリントのずれがある商品の代金300万円をまだ支払っていません。

 

 そのため,上記の問題が生じたときでも,日本の販売店(Distributor)は,3分の1が欠陥品だから,300万円を支払わないという主張ができるのです。

 

 違いがわかりますか。

 

 この場合は,フランスのメーカーの側ががんばって,それは欠陥品には当たらないから,代金支払義務があるので,販売店(Distributor)は300万円を支払わなければならないと主張し,販売店(Distributor)を納得させなければならなくなるのです。

 

 販売店(Distributor)が納得せずに払ってくれなければ,今度はフランスのメーカー側が訴訟などを提起する必要があるので,弁護士費用で赤字になるのであれば,フランスのメーカー側が訴訟もできず泣き寝入りの可能性が出てくるわけです。

 

 もちろん,一回限りの取引でなければ今後の関係も考えなければならず,このような「喧嘩状態」は避けなければならないので,他にも考慮しなければならない要素があります。

 

 ただ,特に一回限りの売買などでは,上記のようにどこにお金が現実にあるかによって,交渉時の立場の有利不利が大きく変わってくるのです。

 

 そのため,契約書を作る際は,後にトラブルになった場合を見据えて,できるだけ,お金を追いかける側に回らないよう,回るとしても少額で済むように工夫して条件を定める必要があります。

 

 いったん,相手にお金を渡してしまうと,いくら自社の主張に理論上の法的優位性があっても,事実上は追いかける側になって不利になってしまうので,本当にそのタイミングで支払って問題ないかどうか,よく検証する必要があるでしょう。

 

 法的に正しいことがいつも結論になるわけではないことは意識しておく必要があるでしょう。

 

→next【英文契約書の相談・質問集161】独占交渉権とは何ですか。

 

 

IMG_6603 resized 2.jpg

 

 英文契約書に関するサービス内容のお問合せ,見積依頼は下記からお気軽にどうぞ。

 

 正式にご依頼頂くまで料金はかかりません。

 

 原則として,当日,遅くとも1営業日以内(24時間以内)に折り返しご連絡させて頂いております。

 

 

英文契約書の相談・質問集222 販売店契約終了時の在庫処理はどう定めるべきですか。

 

 英文契約書の作成,チェック(レビュー/審査),翻訳(英訳/和訳),修正の依頼を受ける際によく受ける相談・質問に,「販売店契約終了時の在庫処理はどう定めるべきですか。」というものがあります。

 

 販売店契約(Distribution/Distributorship Agreement)の場合,代理店契約(Agency Agreement)とは異なり,販売店(Distributor)が自ら商品を仕入れるため在庫を抱えます。

 

 そのため,販売店契約(Distribution/Distributorship Agreement)が何らかの理由により終了する場合,終了時に販売店(Distributor)がまだ商品の在庫を持っていることがあります。

 

 英文契約書には,販売店契約(Distribution/Distributorship Agreement)が終了すると,販売店(Distributor)は,メーカーの商標やロゴを使えなくなり,営業活動や商品の販売も禁止すると記載されていることが通常です。

 

 そうなると,販売店(Distributor)は,販売店契約の終了後は在庫を売ることが許されずに廃棄しなければならないということになってしまいます。

 

 もちろん,販売店契約(Distribution/Distributorship Agreement)を終了させる場合でも,販売店に債務不履行などの責められる事情があるケース以外は,一般的に,契約書では,突如契約解除できるとはされていません。

 

 普通は,解約や期間満了により終了させる場合は,一定期間の猶予をもって相手方に通知をすることになっています。

 

 そのため,販売店(Distributor)としてはその猶予期間内に在庫を売り切ることが求められているということになります。

 

 ただ,そのような猶予期間があっても,契約終了時までに売り切れずに在庫が残ってしまうことはあります。

 

 また,猶予期間が短い場合に販売店(Distributor)が売り切ろうとすると,在庫一掃セールなどをして,不当に廉価に販売し,現地での商品の販売価格が値崩れしたり,ブランド価値が落ちてしまったりしてメーカーに不利益が生じることがあります。

 

 したがって,販売店の利益のためだけではなく,このような事態を回避する必要があるメーカーの利益のためにも,販売店契約(Distribution/Distributorship Agreement)終了時の在庫処理について英文契約書であらかじめ定めておいたほうが良いかと思います。

 

 具体的には,①メーカーが在庫を買い取る権利を規定する(ただし,買い取り義務はないとされることが大半です。),②販売店(Distributor)が在庫を一定期間販売し続けることができると契約書に定めることが多いです。

 

 ①のメーカーが在庫を買い取る権利を定める場合には,いくらで買い取るのかも明確にしておいたほうが良いです。

 

 メーカーによる買い取りは,販売店(Distributor)に叩き売りなどされないように行うものであり,あくまでメーカーの「権利」として定められるのが通常です。

 

 そのため,この買取権をメーカーが行使すると,反対の立場にある販売店(Distributor)はメーカーに販売する「義務」を負います。

 

 したがって,いくらで買い取るのかも事前に契約書に書いておかないとトラブルの原因になります。

 

 ②在庫の販売期間を定める条項は,新たな販売店(Distributor)との間で独占的販売店契約(Exclusive Distribution/Distributorship Agreement)を締結する場合に影響するので注意が必要です。

 

 契約終了後も一定期間,旧販売店が在庫を売っているので,新しい販売店は,その期間は独占販売権を得られないということになります。

 

 そのため,新しい販売店候補との交渉時に,きちんとそのことを説明して,その旧販売店の在庫販売は例外にするか,在庫販売期間の終了後に新たな独占的販売店契約(Exclusive Distribution/Distributorship Agreement)を締結しないといけません。

 

 もし,黙って独占的販売店契約(Exclusive Distribution/Distributorship Agreement)を結んでしまい,在庫販売期間中に旧販売店が在庫を売っていることが判明すると,新たな販売店が契約違反を主張して,メーカーが損害賠償請求などを受けることがありえます。

 

 以上のように,販売店契約(Distribution/Distributorship Agreement)の終了時の在庫品の取り扱いについても,契約時に十分検討しておくことが大切です。

 

→next【英文契約書の相談・質問集223】代理店に売買契約の代理権を与えるべきですか。

 

IMG_6603 resized 2.jpg

 

 英文契約書に関するサービス内容のお問合せ,見積依頼は下記からお気軽にどうぞ。

 

 正式にご依頼頂くまで料金はかかりません。

 

 原則として,当日,遅くとも1営業日以内(24時間以内)に折り返しご連絡させて頂いております。

 

 

英文契約書の相談・質問集223 代理店に売買契約の代理権を与えるべきですか。

 

 英文契約書の作成,チェック(レビュー/審査),翻訳(英訳/和訳),修正の依頼を受ける際によく受ける相談・質問に,「代理店に売買契約の代理権を与えるべきですか。」というものがあります。
 

 ここでいう代理店契約というのは,Agency Agreementのことで,販売店契約(Distribution/Distributorship Agreement)のことではありません。

 

 両者の違いは,代理店契約(Agency Agreement)では,代理店は買主にならず,あくまで売主が直接顧客に商品を売りますが,販売店契約(Distribution/Distributorship Agreement)では,販売店が自ら買主となって在庫を持ち,これを顧客に転売するという点にあります。

 

 両者の違いの詳細はこちらの記事でご覧下さい。

 

 この代理店契約を締結する際,サプライヤーとしては,自社と顧客との間の商品の売買契約の締結件を代理店に与えるかという点が問題になります。

 

 通常,売買契約締結の代理権がある代理店をエージェント(Agent)と呼びます。

 

 反対に,代理権を持たず,サプライヤーに顧客を紹介するという営業行為だけをする代理店を,セールスレプレゼンタティブ(Sales Representative),略してセールスレップ/レップと呼ぶこともあります。

 

 代理店に代理権を与えたほうが良いのか,与えないほうが良いのかは,一概にはいえず,サプライヤーの考え次第でしょう。

 

 汎用品でたくさん売るようなものであれば,代理権を与えてしまったほうが販促上効果は高いでしょう。

 

 逆に,取引金額が大きい機械やカスタム品などでは,サプライヤーがかけるコストの大きさや代金回収の問題などを考慮すると,サプライヤーが顧客を見定めて販売するというほうが安全でしょう。

 

 ただ,代理店の立場からすると,せっかく広告宣伝費をかけて潜在顧客を獲得して,サプライヤーに紹介したのに,サプライヤーがどんどん注文を断るということでは,代理店は通常コミッションベースで利益を上げていますから,代理店の利益が立ちません。

 

 そのため,代理店としては,受注を自社でコントロールできるように,可能なら代理権が欲しいということになるでしょう。

 

 ただ,販売の代理権まで代理店が取得するとなると,それ相応の責任を負わされ,かなりの業務を任されてしまうということにも繋がります。

 

 責任の大きさと利益の大きさはある程度比例する関係にありますから,多くの利益を得たいとなれば,その分責任も大きくなります。

 

 そもそも代理店は販売店と比べて,自ら在庫を抱えず手数料で利益を上げていくというビジネスモデルで,法的責任が大きくない点にも利点があります。

 

 にもかかわらず,あまり責任が大きくなるようであれば,代理店ビジネスを選択するメリットが薄れてしまうという側面もあります。

 

 そのため,中間的な方法としては,サプライヤーが注文を拒絶できる場面を制限することが考えられます。

 

 例えば,抽象的ではありますが,Supplier shall not unreasonably refuse an order from a customer introduced by Agent.(サプライヤーは不合理に代理店が照会した顧客からの注文を拒絶してはならない。)などと英文契約書に記載することがあります。

 

 以上のように,代理店契約(Agency Agreement)を締結する際は,サプライヤーと代理店の利益を調整し,お互いがwin winになりやすいような権限を割り振っていくのが良いでしょう。

 

→next【英文契約書の相談・質問集224】最低購入金額に未達の場合どうなりますか。

 

IMG_6603 resized 2.jpg

 

 英文契約書に関するサービス内容のお問合せ,見積依頼は下記からお気軽にどうぞ。

 

 正式にご依頼頂くまで料金はかかりません。

 

 原則として,当日,遅くとも1営業日以内(24時間以内)に折り返しご連絡させて頂いております。

 

 

 

英文契約書の相談・質問集208 独占的販売店契約の対象商品はどのように決めたら良いですか。

 

 英文契約書の作成,チェック(レビュー/審査),翻訳(英訳/和訳),修正の依頼を受ける際によく受ける相談・質問に,「独占的販売店契約の対象商品はどのように決めたら良いですか。」というものがあります。

 

 独占的販売店契約(Exclusive Distribution/Distributorship Agreement)の対象となる商品の範囲は,メーカーは狭くしたいでしょうし,販売店(Distributor)は広くしたいと考えるのが一般的でしょう。

 

 たまに,「メーカーが取り扱っている商品すべてが対象となる」とされている独占的販売店契約(Exclusive Distribution/Distributorship Agreement)を見ますが,これはメーカーには不利です。

 

 これまでの製品とはジャンルが異なる新製品ができたときなども,独占販売権の対象となってしまい,その販売店(Distributor)が販売チャネルを持っていないにもかかわらず,新商品について他の販売店(Distributor)を指名できないということになってしまうからです。

 

 そのため,メーカーとしては,「別紙に記載した商品に限る」とか「一定のブランド名が付された商品に限る」などとして,商品を絞って独占販売権を与えるべきでしょう。

 

 他方で,販売店(Distributor)としては,別紙に記載された商品以外に同じジャンルの新しい商品が登場したら,その独占販売権も取得したいと考えるでしょう。

 

 その場合,同一のブランド名が付されていれば,自動的に新商品も独占販売権の対象になるという条項を英文契約書に入れることが考えられます。

 

 ただ,このような方法ですと,最低購入数量(Minimum Purchase Quantity/Amount)が商品の個数や注文金額で決まっていると,新商品が加えられても,特にノルマは上がらず,メーカーにはあまりメリットがないということがありえます。

 

 

 そのため,First Refusal Rightを販売店(Distributor)に渡しておくにとどめるという方法もあります。

 

 どういうことかというと,新商品が発売されることになった場合,その何ヶ月か前にメーカーは販売店(Distributor)に,最低購入数量(Minimum Purchase Quantity/Amount)の増加などの条件を提示して,その商品の独占販売権を販売店(Distributor)が取得したいかを最初に聞くということです。

 

 そして,販売店(Distributor)がその条件を飲むならその新たな商品は独占販売権の対象に加えられるし,もし拒否するのであれば,その商品についての独占販売権は,メーカーは他社に渡すことができるということになります。

 

 メーカーは,新商品についての最低購入数量(Minimum Purchase Quantity/Amount)などの条件を定めることができますし,販売店(Distributor)としても,他社よりも前にオファーを受けることができるのでメリットがあります。

 

 もし,販売店(Distributor)が断った場合でも,メーカーは第三者に対して,販売店(Distributor)に提示したオファーより緩い条件での提示はできないなどと契約書に定めておけば,メーカーとしても無謀な条件を販売店(Distributor)に提示することはなくなり,こうした条項が機能することがあります。

 

 このように,独占販売権は,強い権利ですので,メーカーは最初からあまり広範囲にこれを販売店に渡してしまうと,あとで,後悔することがありますので,注意が必要です。

 

 ちなみに,メーカーが独占販売権の対象商品を一定のブランド商品に限定している場合に,ブランド名を変えさえすれば,類似商品を独占販売店以外の他社に卸しても問題はないと安易に考えるのは危険ですので注意しましょう。

 

 具体的にいうと,メーカーが販売店に独占販売権を渡しているのはAというブランド名の商品だったとして,これと競合する商品のブランド名をBとして,他社に卸して良いかという問題です。

 

 これは,Aブランドと実質的に競合品となる商品を販売店以外の他社に売らせることになります。

 

 そのため,販売店(Distributor)としては,面白くないですから,何らかのクレームを入れてくることが考えられます。

 

 こうしたクレームを防ぐためには,だまし討のようにこのようなことをすることは避け,事前に今後の販売戦略を伝えておき,別ブランドで他社に展開させる可能性があることを販売店(Distributor)に伝えておくなどの対策をしておくことをおすすめします。

 

 Aブランドがその販売地域でかなり知られている強いブランドなのであれば,それだけを扱うのだとしても,販売店(Distributor)にメリットがあるので,上記のような条件でも十分に飲む可能性があります。

 

 販売店契約も長期的な信頼関係を前提とするものですから,契約書上形式的には問題ないとしても,相手の信頼を損ねるような行為を事前に何の説明もなく行うと,紛争の火種になることがあります。

 

 「契約書上問題ない」とか「法的に問題ない」というだけで何でもしてよいということにはなりませんので,信頼関係の維持という点にも十分配慮をしましょう。

 

→next【英文契約書の相談・質問集209】外国企業に対する強制執行は難しいですか。

 

IMG_6603 resized 2.jpg

 

 英文契約書に関するサービス内容のお問合せ,見積依頼は下記からお気軽にどうぞ。

 

 正式にご依頼頂くまで料金はかかりません。

 

 原則として,当日,遅くとも1営業日以内(24時間以内)に折り返しご連絡させて頂いております。

 

 

お問合せ・ご相談はこちら

 お問合せフォーム・電話・メールでお問合せ頂けます。

 お問合せフォーム・メールでのお問合せがスムーズです。

 

お電話でのお問合せ・ご相談はこちら
03-6453-6337

担当:菊地正登(キクチマサト)

受付時間:9:00~18:00
定休日:土日祝日

※契約書を添付して頂ければ見積回答致します。
受付時間:24時間

 英文契約書の作成・翻訳・リーガルチェック(全国対応),実績多数の弁護士菊地正登です。弁護士22年目(国際法務歴15年),約3年間の英国留学・ロンドンの法律事務所での勤務経験があります。英文契約・国際取引の専門家として高品質で迅速対応しています。お気軽にお問合せ下さい。

お気軽にお問合せください

お電話でのお問合せ

03-6453-6337

<受付時間>
9:00~18:00
※土日祝日は除く

弁 護 士 情 報

弁護士  菊  地  正  登
片山法律会計事務所

東京都港区芝5-26-20
建築会館4F
tel: 03-6453-6337
email: kikuchi@mkikuchi-law.com

片山法律会計事務所

住所

〒108-0014
東京都港区芝5-26-20
建築会館4F

アクセス

都営三田線・浅草線三田駅またはJR田町駅から徒歩約3分です

受付時間

9:00~18:00

定休日

土日祝日

 弁護士インタビュー動画

書  籍

士業・翻訳業者・保険会社・金融機関の方へ

各士業の先生方,翻訳業者,保険会社,金融機関のお客様の英文契約書に関する案件についてお手伝いさせて頂いております。

ご紹介頂いたお客様の初回相談料は無料ですので,お気軽にお問合せ下さい。

ご相談方法

メール・電話・Web会議・対面の打ち合わせによる対応を行っております。

サイト内検索 - 英文契約書用語の検索ができます -