英文契約書の相談・質問集107 海外での会社設立というのは難しいのでしょうか。

 

 英文契約書の作成,チェック(レビュー),翻訳(英訳/和訳),修正の依頼を受ける際によく受ける相談・質問に,「海外での会社設立というのは難しいのでしょうか。」というものがあります。

 

 これは,英文契約書の相談というよりは,もう少し広い範囲に属する相談で,事業全体に関わるものといえますが,よく相談を受けるので,記事を書いておきます。

 

 海外での会社設立については,もちろん,現地の会社法などがどう規定しているかの問題ですので,一概に難しいとか簡単だとかいえるものではありません。

 

 例えば,イギリスでは,会社設立(登記)は非常に簡単です。イギリス国外にいながらでも,オンラインで,15分程度でできてしまいます。

 

 資本金も1ポンドで構いません。設立時の住所などもひとまずは,実際に使用することができるオフィスなどがなくとも,仮の住所地(例えば現地弁護士の事務所の住所など)を利用して登記することが可能ですので,簡単です。

 

 ただ,これは,あくまで,会社を設立する(登記する)ことが簡単だというだけで,当然ですが,実際に会社として事業活動をすることが簡単だという意味ではありません。

 

 例えば,銀行口座を開設するのも一苦労だったり,事務所を借りるのも大変だったりします。

 

 イギリスでは,マネーロンダリングの規制が日本より厳しいので,銀行口座を開設できても送金などに日本にはない規制があったりします。

 

 為替レートや物価変動の問題もあるので,事業採算性を読むのが難しく,会社を登記したものの,事業が立ち行かず早々に閉鎖することもあります。

 

 また,日本人を現地の法人で働かせるのは,ビザの問題で非常に苦労したりします。

 

 非常に大雑把にいうと,イギリスでは,移民の大量流入の問題がありますので,自国の労働者の雇用を守るという原則があります。

 

 そのため,イギリス企業が外国人(日本人)を雇うためには,その外国人でないとだめだ,イギリス人では代替性がないということが証明できないと就労ビザが支給されないという事情があったりします。

 

 また,その労働者に年俸もかなり高額の支払いを約束しないとビザが発給されず,ビザ問題は大変苦労を伴います。

 

 上記のような従業員用のビザ以外にも起業家ビザなどもありますが,いずれにせよ,ビザの問題は大きいです。目まぐるしいスピードで改正されてしまうのも,ビザ制度の特徴です。

 

 私もイギリス留学時にビザの問題では本当に悩まされました。自分の住みたい国に住むということがこんなに大変なことなのか,憲法が保証している「居住移転の自由」という人権がいかにありがたいものか,と思ったのを今でも鮮明に覚えています。

 

 ちなみに私が取得した種類のビザは,この記事を書いている時点(2018年3月)ではもう存在していません。

 

 このように,ビザ制度は,ときの政権の政策によっても大きく変わったりしますので,非常に不安定です。

 

 上記はイギリスの話ですが,新興国などでは,そもそも外資規制があることが多いので,日本企業が単独で出資して子会社を設立することが禁止されていることがあります。

 

 そのため,通常は,合弁会社を,Joint Venture Agreementなどを締結して,現地の出資者と共同で設立することになります。

 

 議決権の過半数を外国企業が取得することが禁止されていると,そもそも会社支配が理論上できないということでスタートすることが珍しくありません。

 

 もちろん,株主間契約(Shareholder Agreement)で意思決定に縛りを設けたり,いわゆるノミニー制度などを利用したりしますが,法的立場としては不安定です。

 

 誤解を恐れずにいえば,このような方法は,外資規制をいわば実質的に潜脱するような側面があることがありますので,狙い通りに法的に保護されるかというのは不透明であることも多いのです。

 

 ノミニー制度などが事実上広く利用されている国もありますが,中には,そもそも法的には実効性がなく,紳士協定的に考えざるを得ないような内容になっていることもあります。

 

 そのため,外資規制がある新興国などに進出するのは,そもそも現地法人をコントロールできるのかという意味での検討が必要といえるでしょう。もちろん,そうした理論上のリスクは承知の上であえて進出するという判断をすることはあります。

 

 他にも,国によっては,現地で働く人のコントロールも難しく,実力で会社や工場を奪われるということも起きています。

 

 また,海外子会社を設立する場合には,移転価格税制など,税制度にも注意が必要です。

 

 政治外交などの影響を受けて,日本企業がバッシングされて不買運動につながるなどのカントリーリスクもあります。

 

 要するに,海外に法人を設立して事業展開を図る際は,経営資源である,人,物,金,情報,知的財産権などをその国でどうコントロールし,守り,増やせるのか,ここまで事前に綿密に計画してから進出しないと,利益を確保するのは難しいでしょう。

 

 そのため,一般的には,海外進出の形態として,上記例のように海外に会社を設立して事業展開をするといういわゆる直接進出は,間接進出(現地の企業を販売店などに指名して商品を輸出販売していくような形態)よりもハードルが高いといわれているのです。

 

 以上のように,当然ですが,会社は現地で設立することがゴールではありませんので,設立自体の難易度だけではなく,その後の事業展開,経営資源のコントロールについて十分に吟味した上で進出する必要があります。

 

→next【英文契約書の相談・質問集108】 仲裁条項があるのに裁判をするとどうなるのですか。

 

IMG_6603 resized 2.jpg

 

 

 英文契約書に関するサービス内容のお問合せ,見積依頼は下記からお気軽にどうぞ。

 

 

 正式にご依頼頂くまで料金はかかりません。

 

 

 原則として,当日,遅くとも1営業日以内(24時間以内)に折り返しご連絡させて頂いております。

 

 

 

英文契約書の相談・質問集97 Warranty(保証)の内容を決める際に注意すべき点は?

 

 英文契約書の作成,チェック(レビュー),翻訳(英訳/和訳),修正の依頼を受ける際によく受ける相談・質問に,「Warranty(保証)の内容を決める際に注意すべき点は?」というものがあります。

 

 Warranty Clause(保証条項)は,英文販売代理店契約書(Distribution/Distributorship Agreement)などでは,非常に重要な条項の一つです。

 

 国際取引・海外取引では,異なる国に属する企業同士で取引するため,製品の品質の考えなどに齟齬があったり,商慣習によってお互いの製品保証における具体的な救済方法などについての理解が異なったりするとトラブルの原因になります。

 

 そのため,英文販売店契約書(Distribution/Distributorship Agreement)には,必ず,Warranty Clause(保証条項)を挿入し,商品の保証内容について明確にしておくことが大切です。

 

 Warranty Clause(保証条項)を設ける際には,概ね下記のポイントを記載すれば良いかと思います。

1.保証内容・範囲:何を保証し,どこまで保証するのか,保証内容と保証範囲を明確にします。

 例えば,仕様書に合致することを保証するのか,通常の品質性能を備えていることを保証するのか,機能を保証するのかなど,保証する内容と範囲を定めます。

 
2.救済方法:保証違反があった場合,どのように問題を解決するのか,具体的な救済手段(remedy)について記載します。

 例えば,売主の選択により,①問題のある商品を問題のないものに交換する,②修理する,③代金を返金するなどです。すぐに対応するのか,次回注文時に対応するのか,救済の時期などを決めることもあります。

 

3.救済手段の要求方法:保証違反があった場合に,売主に対しどのような手続きで救済を要求するのかを定めます。

 保証違反の実際の状態を写真などで買主に証明させたり,大きな機械製品などであれば,売主が現地で確認したり,場合によっては該当商品を買主に送ってもらって売主が確認したりすることもあります。

 売主としては,本当にその商品に買主が主張する保証違反があるのかどうかを客観的に確認できるように,保証に関する要求方法について具体的に定めておくと良いでしょう。

 

4.保証期間:いつからいつまで保証するのか,保証期間を定めます。

 例えば,販売代理店が商品を受領してから1年間などと定めます。末端のユーザーが商品を受領してから1年間などと定めると,保証期間の進行の把握が売主にとって難しくなったり,コストがかかったりしますので,注意が必要です。

 

5.免責条項:明示した保証以外には一切保証しないということを通常規定します。

 保証条項に記載した内容と範囲以外については保証されないことを明記します。

 

 また,そもそも現状有姿(As is basis)で引渡し,最初から一切保証はないとすることもあります。

 

 さらに,保証違反があった場合に,買主に損害が生じた場合,損害賠償もするが,その場合でも,「間接損害や結果損害は除く(賠償しない)」,また,賠償限度額(Limitation of Liabilities)として「◯◯円を超えては賠償しない」などとすることもあります。

 

 概ね,上記のようなポイントを意識して,Warranty Clause(保証条項)を作成していくことになります。

 

 Warranty Clause(保証条項)は,非常に重要な条項の一つですので,誤解や,想定していない事態が生じないように,粘り強く交渉して,明確に条項化すべきといえるでしょう。

 

→next【英文契約書の相談・質問集98】 多く売った方が良いから販売店が注文しただけ売っていいですよね。

 

IMG_6603 resized 2.jpg

 

 

 英文契約書に関するサービス内容のお問合せ,見積依頼は下記からお気軽にどうぞ。

 

 

 正式にご依頼頂くまで料金はかかりません。

 

 

 原則として,当日,遅くとも1営業日以内(24時間以内)に折り返しご連絡させて頂いております。

 

 

 

英文契約書の相談・質問集100 英文契約書ではあらゆることを細かく規定すれば良いですよね。

 

 英文契約書の作成,チェック(レビュー),翻訳(英訳/和訳),修正の依頼を受ける際によく受ける相談・質問に,「英文契約書ではあらゆることを細かく規定すれば良いですよね。」というものがあります。

 

 やや抽象的な相談ですが,英文契約書は,日本語の契約書に比べて,長文であることが普通です。

 

 こういうイメージも手伝って,英文契約書を作成する際には,あらゆるリスクや事項をすべて記載しておかなければならないと強迫観念的に考えられている方もたまにいらっしゃいます。

 

 もちろん,あらゆるリスクを想定してリスク・マネジメントをしておくというのは,理想でもあり,それが悪いということではありません。

 

 しかしながら,現実的に,すべてのリスクを網羅するというのはほぼ不可能に近いです。

 

 また,あらゆる事項を事細かに規定するのが常に良いかというと,交渉が難航したり,締結までに時間がかかったりというビジネス現場での不都合を招くこともあります。

 

 他にも,あまり細かく記載してしまうと,例えば,義務であれば,書いてあることを履行しさえすれば契約上問題ないという解釈になりやすくなり,付随的業務や関連業務などがあったとしても,詳細に義務が書かれているのであるから,そこに書いてあること以外は義務ではない趣旨だという理解に近づくことがありえます。

 

 さらに,義務は,書いてしまうと当然ですがしなければなりませんから,事情が変わったり,不要だと考えられるような義務でも,細かく書いてしまった以上,しなければならないという不都合も生じえます。

 

 このような理由から,英文契約書においても,ある程度包括的と考えられる条項,いわゆるバスケット条項や,当事者の裁量が認められる条項などをあえて入れることはあります。

 

 また,条項によっては,何か解釈上の疑問などが生じた場合,話し合って柔軟に対応するのが適切である,または,そうせざるを得ないということもありえます。

 

 その場合には,当該条項をあえて曖昧にしたり,柔軟性をもたせておいたりということも中にはあります。

 

 契約は,最終的には人間の行動にまで落とし込まれますので,機械の動きをプログラミングするというようなものとはやはり性質が異なります。

 

 そのため,リスクは承知で,あえて事細かく記載することを避け,そのことにより自社をより優位な地位に導くということは,現場ではあります。

 

 このような判断は,かなり上級者向きの判断になりますが,法務に長けた人だと,「この曖昧さを指摘するのは藪蛇になる可能性がある」,「ここはあえて包括的な表現にしておこう」という嗅覚が働くということは結構あります。

 

 今回のテーマは,少し抽象的で,具体例を挙げるのが難しいのですが,疑問に思ったこと,書いておいた方が明確になると思うものをすべて記載すれば,それが常に良いというわけではないということを理解しておいたほうが良いかと思います。

 

 契約書を検証する際には,それを書いた場合と書かなかった場合に,自社と相手方にとってどういう主張がありうるか,それにより具体的にどういう不都合が生じうるかを考え,どちらが良いかを考えてみると,「待てよ」というように,立ち止まれて気づくことがあるかもしれません。

 

→next【英文契約書の相談・質問集101】 海外取引の交渉に向いているのはどういう人材ですか。

 

IMG_6603 resized 2.jpg

 

 

 英文契約書に関するサービス内容のお問合せ,見積依頼は下記からお気軽にどうぞ。

 

 

 正式にご依頼頂くまで料金はかかりません。

 

 

 原則として,当日,遅くとも1営業日以内(24時間以内)に折り返しご連絡させて頂いております。

 

 

 

英文契約書の相談・質問集108 仲裁条項があるのに裁判をするとどうなるのですか。

 

 英文契約書の作成,チェック(レビュー),翻訳(英訳/和訳),修正の依頼を受ける際によく受ける相談・質問に,「仲裁条項があるのに裁判をするとどうなるのですか。」というものがあります。

 

 仲裁条項は,Dispute Resolution(紛争解決)Arbitration(仲裁)というタイトルで,英文契約書に挿入されることが多い条項です。

 

 これは,仲裁合意といわれ,基本的に,契約を巡って紛争が生じた場合には,裁判ではなく,仲裁手続によって解決するという当事者の合意を指します。

 

 仲裁の特徴は,いろいろあるのですが,よくいわれるのが,①仲裁人が選べる,②非公開の手続きである,③上訴権がない,④強制執行が容易であるという点です。

 

 こうしたことを考慮して,特に国際取引では,紛争解決手段として裁判ではなく,仲裁を選択することが多いです。

 

 では,この仲裁合意が契約書に存在しているにもかかわらず,裁判を起こすことはできるのでしょうか。

 

 基本的に,その国の仲裁法や,ニュ−ヨーク条約に加盟している国であればニューヨーク条約によって,訴えられた被告は,「妨訴抗弁」を出せば,裁判所は当該訴えを却下して,紛争は仲裁手続に付されることになります。

 

 要するに,訴えられた当事者が,裁判において,「仲裁合意をしているので,裁判はできない」ということを,契約書を証拠として提出して主張すれば,原則として訴訟は退けられるということです。

 

 ただ,国によっては,仲裁合意があっても,法律などで自国の裁判所での訴訟係属を認めるとしている国もあります。

 

 そのため,絶対に訴訟を避けられるということではないので注意が必要です。

 

 ただし,基本的には,ニューヨーク条約加盟国であれば,ニューヨーク条約に明文がありますので,特別な事情がない限りは,訴訟は退けられると考えて良いかと思います。

 

 また,もう一つの例外が,裁判所に申し立てる差止請求です。

 

 英語では,injunctive reliefという用語でよく登場します。これは,例えば,守秘義務違反を当事者がした場合,損害賠償請求(damages)以外の救済手段として,秘密情報の使用を差し止める請求を裁判所に提起する必要があることがあります。

 

 そのため,このような差止請求(injunctive relief)が管轄裁判所に対して提起できると英文契約書にはよく書かれています。

 

 これを根拠に差止請求を裁判所に申し立てた場合には,これは仲裁合意の例外に該当する場合がほとんどでしょうから,この場合は,裁判所も仲裁合意があるからといって請求を却下するということは原則としてないと考えられます。

 

 このように,仲裁合意と裁判というのは原則的には択一的な「トレードオフ」の関係にあるということを覚えておかれると良いかと思います。

 

 また,仲裁手続きは,どの国のどの機関で行うのか,強制執行が容易であるか(ニューヨーク条約加盟国なのかなど),相手国の法律や判例によって,仲裁条項が無効とならないかなどを事前に十分に知った上で,ベストな選択をしなければなりません。

 

 このような観点からは,仲裁地を日本にするということが必ずしもいつも有利ということではないので,その点に留意する必要があります。

 

→next【英文契約書の相談・質問集109】 代理店契約が終了したらコミッションは受け取れないのですか。

 

 

 

 英文契約書に関するサービス内容のお問合せ,見積依頼は下記からお気軽にどうぞ。

 

 

 正式にご依頼頂くまで料金はかかりません。

 

 原則として,当日,遅くとも1営業日以内(24時間以内)に折り返しご連絡させて頂いております。

 

 

英文契約書の相談・質問集106 販売店(代理店)保護法とはどういうものですか。

 

 英文契約書の作成,チェック(レビュー),翻訳(英訳/和訳),修正の依頼を受ける際によく受ける相談・質問に,「販売店(代理店)保護法とはどういうものですか。」というものがあります。

 

 これは,一般的には,販売店契約(Distribution/Distributorship Agreement)や代理店契約(Agency Agreement)を締結する場合に注意する必要がある法律です。

 

 国によって,販売店契約(Distribution/Distributorship Agreement)や代理店契約(Agency Agreement)を締結した場合に,販売店や代理店を保護する法律を定めていたり,法律ではなくても判例によって一定の保護を与えていたりすることがあります。

 

 これらを総称して,一般的に「販売店(代理店)保護法」と呼んでいます。法律の名称は国によって異なりますが,俗にこのように総称しているということです。

 

 ちなみに,日本では,販売店(代理店)保護法のようなタイトルの独立した法律はありません。

 

 ただ,「継続的契約の法理」という判例理論によって,販売店や代理店が一定の保護を受けられることがありますので,この判例理論が販売店(代理店)保護法に相当する理論と考えてよいでしょう。

 

 販売店契約(Distribution/Distributorship Agreement)や代理店契約(Agency Agreement)は,通常は,継続的に長期にわたって取引が持続します。

 

 そして,販売店や代理店がメーカーよりも弱い立場であったり,当該メーカーに対する売上依存度が高かったりすることもあります。

 

 このような場合に,メーカーの都合により販売店契約(Distribution/Distributorship Agreement)や代理店契約(Agency Agreement)を解約されたり,更新を拒絶されたりすると,販売店や代理店が,財務的に大きなダメージを受け,場合によっては倒産の危機に立たされたりすることもあります。

 

 そのため,例えば,契約の終了までに事業の多角化や事業の変更ができるように契約終了までに十分な時間的猶予を与えるべきだとか,契約終了にあたり一定の金額の補償金をメーカーは支払うべきだとかいう議論がなされます。

 

 これが,日本でいうところの「継続的契約の法理」というものです。

 

 同じような趣旨で立法された法律や,成立した判例が外国にも存在します。

 

 そして,これらの販売店保護法については,たとえ当事者が補償金の支払いはしないなどと合意していても,強制的に適用される(強行法規/強行規定)場合があります。

 

 そのため,販売店契約(Distribution/Distributorship Agreement)や代理店契約(Agency Agreement)を締結する段階で,契約を終了する段階になった場合に,どのような保護が販売店や代理店に与えられているのかをチェックしておかなければならないことがあります。

 

 とりわけ,中近東や中南米は注意が必要です。これらの地域の国の中には,販売店や代理店が当局によって登録され,正式に保護がなされているところがあります。

 

 そして,販売店(代理店)保護法が強行法規/強行規定として適用され,販売店や代理店の補償金の支払いなどが強制されると解釈される法律も国によって存在しています。
 

 補償金の額も事案によってまちまちではありますが,販売店や代理店が得た過去1年分の利益などでは済まないような高額にのぼるケースもあります。

 

 もちろん,販売店や代理店としての登録を認めないとしたり,契約継続による利益は期待してはならず,契約が終了しても一切補償金を支払わないなどと英文契約書に記載してリスクヘッジを図るわけですが,これらの当事者の合意が強行法規/強行規定により無効となる場合もあります。

 

 このような場合,そもそも合意によるリスクヘッジができないことになってしまいます。

 

 法律や判例による保護が存在しているのは知りつつも,取引先が補償金などの請求はしないと合意してくれて契約書を交わしてくれてメーカーが安心していたとします。

 

 通常時は特に問題ないのですが,メーカーが契約を解約する場面になると,例えばメーカーが自社で販社を設立して販売展開したいと自社に都合が良いために解約するということもよくありますから,その段階では,販売店は腹を立てて約束を反故にし補償金の支払いなどを要求してくるかもしれません。

 

 また,交渉時の経営者と契約終了時の経営者が交代している可能性や株主が交代している可能性もあります。そうなれば,前に約束した内容など無視して,法律を盾に補償金の支払いなどを請求してくることも考えられます。

 

 そのため,いくら英文契約書で約束をしたとしても,法律が優先して適用されるとされている場合は,約束を根拠にビジネスを行うのは非常に危険だという場合があります。

 

 このような場合は,一定の補償金の支払いを覚悟してもなお利益が上げられる,別の目的があって,補償金の支払いなどで仮に利益が出なくなっても問題ない,販売店や代理店が補償金請求などをしてくる動機がない(多角的に共同して事業展開しているなど)などの特別な事情がないと,事業展開は苦しいということになるでしょう。

 

 このように,現地の販売店(代理店)保護法は,ときにやっかいな存在になります。もちろん,必ず補償金を請求されるということではないですが,リスクとしては把握した上で事業展開しないと思わぬ損失に繋がる可能性があります。

 

→next【英文契約書の相談・質問集107】 海外での会社設立というのは難しいのでしょうか。

 

IMG_6603 resized 2.jpg

 

 

 英文契約書に関するサービス内容のお問合せ,見積依頼は下記からお気軽にどうぞ。

 

 

 正式にご依頼頂くまで料金はかかりません。

 

 原則として,当日,遅くとも1営業日以内(24時間以内)に折り返しご連絡させて頂いております。

 

 

英文契約書の相談・質問集111 販売店契約で売主は自由に卸値を決められるのですか。

 

 英文契約書の作成,チェック(レビュー),翻訳(英訳/和訳),修正の依頼を受ける際によく受ける相談・質問に,「販売店契約で売主は自由に卸値を決められるのですか。」というものがあります。

 

 販売店契約(Distribution/Distributorship Agreement)などの長期的に売買が継続する契約を締結する場合,買主になる販売店としては,卸値がいくらになるのかは,自社の利益に直結する重要な問題です。

 

 そして,卸値については,基本的にメーカーが自社のプライスリストなどにより自由に設定できます。

 

 もちろん,契約の入り口の段階では,価格交渉を行い,販売店もその価格で商品を仕入れて,自社の利益を乗せて上代を決定し販売展開していけば,利益を出せると考えていますので,最終的にはその卸価格を販売店が受け入れたということになるでしょう。

 

 問題は,契約締結後です。英文契約書で卸値を固定的に記載したような場合(このようなことは珍しいと思います。)を除き,メーカーは,卸値を自由に決定することができます。

 

 つまり,英文販売店契約(Distribution/Distributorship Agreement)を締結して,仕入販売を行っている途中で,商品の価格を値上げされることがありえ(逆に値下げされても販売店には利益になるだけで問題がない場合がほとんどでしょう。),これが販売店の利益に直結してくるわけです。

 

 ただ,メーカーとしては,事前に卸価格を固定し,変更がないという合意はできないでしょう。原材料の価格や製造コストの増大,経済環境の変化などで,将来値上げをしないといけない場面が高い確率で出てくるからです。

 

 しかしながら,販売代理店からすれば,自由にメーカーが卸価格を値上げできるとなってしまうのであれば,メーカーに有利すぎます。

 

 また,こういうことが法的に許されるかはさておき,極端な話,販売代理店との取引をやめたいとメーカーが考えた場合,不当な値上げをつきつけ,事実上,取引継続を不可能にするなどの措置もとれるということになりかねません。

 

 そこで,販売代理店としては,メーカーの自由な値上げを合理的な範囲で阻止したいと考えるでしょう。

 

 このような要請の下,よくとられる措置としては,メーカーが価格を値上げする場合,数ヶ月前に販売店に通知しなければならないと時間的猶予を設けたり,値上げの理由を告げることを要求し,かつ,その理由は合理的なものでなければならないなどと取り決めたりすることが挙げられます。

 

 後者の場合,合理的理由というのは曖昧ですので,より具体的に,値上げの際に考慮してよい要素を英文契約書に書き入れることもあります。

 

 また,「エスカレーション条項」といって,価格を値上げする場合の計算式を予め英文契約書に記載しておき,値上げの考慮要素や,値上げ幅に恣意性が入らないように規定することもあります。

 

 さらには,最恵国待遇条項・最恵価格条項を挿入し,他の販売代理店より不利な価格を設定してその販売代理店に販売することを禁止することもあります。

 

 例えば,A販売代理店に商品を1つ90円で卸しているのに,B販売代理店には100円で卸すということを,Bとの契約書で禁止するわけです。

 

 これにより,Bも90円で卸してもらうか,Aも100円に値上げしなければならなくなります。

 

 つまり,もし最恵国待遇を約束している販売店に対し値上げを要求するのであれば,全世界の販売店に対しても同じように値上げを求めなければならないということになります。

 

 このような対策を施せば,一応,メーカーが自由に価格を設定し,販売代理店が不当に不利な立場に立たされたり,事実上取引停止に追い込まれるような価格変更はできないということになるでしょう。

 

 販売店契約(Distribution/Distributorship Agreement)にとって,商品の価格は最も重要な契約要素の一つといって良いでしょう。

 

 そのため,この価格が販売代理店にとってあまりにアンフェアに設定されたり,メーカーの自由に変更できるというのでは,長期的なビジネスにとって支障をきたす可能性があります。

 

 メーカーと販売代理店が妥協できる公平な条件で価格変更ができるように十分に交渉する必要があるでしょう。

 

→next【英文契約書の相談・質問集112】 売買契約で所有権の移転時期を定めることは重要でしょうか。

 

IMG_6603 resized 2.jpg

 

 

 英文契約書に関するサービス内容のお問合せ,見積依頼は下記からお気軽にどうぞ。

 

 

 正式にご依頼頂くまで料金はかかりません。

 

 原則として,当日,遅くとも1営業日以内(24時間以内)に折り返しご連絡させて頂いております。

 

 

英文契約書の相談・質問集114 ハードシップ条項とは何ですか。

 

 英文契約書の作成,チェック(レビュー),翻訳(英訳/和訳),修正の依頼を受ける際によく受ける相談・質問に,「ハードシップ条項とは何ですか。」というものがあります。

 

 ハードシップ条項は,「事情変更条項」ともいわれます。

 

 日本でも,「事情変更の原則」などと呼ばれて議論されているような事態,すなわち,契約締結当時には予測できなかった環境変化などが後に生じ,契約で約束したとおりに義務を履行することが妥当でないような事態になったときに,契約内容の変更を行うことができるように定める条項のことを,ハードシップ条項と呼んでいます。

 

 わかりやすい例としては,販売店契約(Distribution/Distributorship Agreement)などの継続的な売買契約の場合の商品価格などが挙げられます。

 

 販売店契約(Distribution/Distributorship Agreement)締結時には,そのときの売主の財務状況や事業計画,原材料価格,製造原価,経済情勢など様々な要素を考慮して,価格を決定しています。

 

 ところが,契約締結後に,契約締結時には予想しなかった経済危機が起きたり,自然災害が起こるなどして急激な環境変化により原材料費が高騰したり,製造原価が急に高騰したりということがありえます。

 

 そうなると,売主としては,最初に約束した商品価格を変更したいと考えるでしょう。ところが,最初の販売店契約(Distribution/Distributorship Agreement)において,価格を一定期間据え置きとしているような場合,契約の拘束力により原則として価格変更ができないということになります。

 

 このような場合に備えて,前述したハードシップ条項を挿入し,万一の環境変化などに対応できるようにしておくということがあります。

 

 例えば,上記のような急激な環境変化が生じた場合,両当事者は誠実に話し合い,契約条件の変更を検討するなどと定めるということがあります。

 

 このような取り決めは販売店としては,誠実に協議さえすれば良く,最終的に価格改定に合意する義務はありませんから,サプライヤーにとって実効性はあまりないかもしれません。

 

 もっとも,販売店も商品の安定供給を望むでしょうし,誠実に協議するという義務が課されている以上は,販売店も情報を入手してきちんと検討しなければならず,いい加減に値上げを拒否すればハードシップ条項の違反になる可能性もあります。

 

 そのため,このような抽象的な定めも一定の意味はあるといえるでしょう。

 

 より具体的に売主の救済になるようにするのであれば,「エスカレーション条項」といって,具体的な計算式を英文契約書に書き入れ,原材料費等の高騰がある場合,一定の増加率を超えれば,計算式により自動的に価格が改定されるという内容の条項を入れることもあります。

 

 また,そこまで具体的な規定でなくとも,事情変更という場合の,「事情」についてより具体的な事象を挙げて協議や価格改定の合意をしやすくするという手法もあります。

 

 さらに,商品にもよるのですが,販売店契約(Distribution/Distributorship Agreement)などでは,そもそも価格を固定せず,個別契約に委ねておき,売主側が価格をコントロールできるようにしておくことが最も現実的かつ妥当な解決策ということも多いです。

 

 契約は一度決めればその内容を守らなければなりません。ただ,契約締結時にあらゆる環境変化を予測することは不可能です。

 

 そのため,許容範囲を超えるような環境変化が起きた場合には,例外的に契約内容に変更を加えられるようにしておくことも一定の合理性があるといえるでしょう。

 

 ただ,このような例外的な条項であるハードシップ条項などを挿入する際には,それによって主として不利益を被る当事者としては,小さな事情の変更で相手方に都合よく契約内容を変更されることがないように,契約条件の変更のための要件が妥当なものといえるかを吟味する必要があります。

 

→next【英文契約書の相談・質問集115】 商品出荷前に全額前払いと定めておけば回収リスクはないですよね。

 

IMG_6603 resized 2.jpg

 

 

 英文契約書に関するサービス内容のお問合せ,見積依頼は下記からお気軽にどうぞ。

 

 

 正式にご依頼頂くまで料金はかかりません。

 

 原則として,当日,遅くとも1営業日以内(24時間以内)に折り返しご連絡させて頂いております。

 

 

英文契約書の相談・質問集41 強行法規とは何でしょうか。

 

 英文契約書の作成,チェック(レビュー),翻訳(英訳/和訳),修正の依頼を受ける際によく受ける相談・質問に,「強行法規とは何でしょうか。」というものがあります。

 

 強行法規/強行規定というものを理解するためには,原則の「任意法規/任意規定」というものを先に理解すると良いでしょう。

 

 いわゆる先進国では,一般的に,当事者の合意が尊重されます。日本でも,これを「私的自治の原則」「契約自由の原則」といい,基本的に当事者が合意した場合,原則として合意内容のとおりに法的効果を認めようという考えをとっています。

 

 そのため,例えば,Xという法律には「Aという事実が認められた場合,Bという法律効果が発生する。」と書かれていたとしても,当事者が「Aという事実が認められた場合,Cという法律効果が発生する。」と合意すれば,BではなくCという法律効果が発生するのが原則ということになります。

 

 また,例えば,X法に「責任が発生する」と書いてあってもこれを適用せず,免責してしまうこともできます。つまり,内容を変更するのではなく適用そのものを排除することもできるわけです。

 

 ここでいう,Xという法律(条文)のことを,任意法規/任意規定と呼んでいます。

 

 当事者がXに定められた内容を合意により変更できるので,強制ではない任意の法律,任意法規と呼んでいるわけです。

 

 これに対峙する概念が「強行法規/強行規定」と呼ばれる概念です。

 

 その名の通り,当事者が合意によってその内容を変更したり,適用を排除したりすることはできず,法律(条文)に書いてある内容が当事者の意思にかかわらず強制的に適用される法規のことを強行法規/強行規定と呼んでいます。

 

 例えば,日本法でいうと,労働法(法の適用に関する通則法第12条参照)や,消費者契約法(法の適用に関する通則法第11条参照),借地借家法,下請法,独占禁止法の中の条文などが典型例です。

 

 労働者,消費者,賃借人,下請業者,小規模業者など弱い立場の当事者を保護するために強制的に適用される法律と理解するとわかりやすいかもしれません。

 

 もちろん,民法などにも強行法規/強行規定は存在します。犯罪行為に関する約束などを無効にする公序良俗違反となる合意を無効とする規定などが典型例です。

 

 このような強行法規/強行規定は外国法にも存在します。

 

 海外展開の際に特に注意すべき強行法規/強行規定としては,独占禁止法・競争法のほか,販売店(代理店)保護法があります。

 

 独占禁止法・競争法は市場での自由な競争を阻害するような行為を禁止する法律で,販売店(代理店)保護法は販売店の利益を害する行為を禁止したり,販売店を保護する内容を定めたりした法律です。

 

 このように現地の法律にも強行法規/強行規定が存在する可能性があるため,英文契約書を作成する際には,英文契約書に記載したとおりの効果が本当に発生するのかどうかは強行法規/強行規定との関係で不透明だということがあります。

 

 このような不透明さを払拭するため,準拠法や現地法の強行法規/強行規定をチェックすることが必要になる場合があります。

 

→next【英文契約書の相談・質問集42】 インコタームズとは何でしょうか。

 

IMG_6603 resized 2.jpg

 

 英文契約書に関するサービス内容のお問合せ,見積依頼は下記からお気軽にどうぞ。

 

 正式にご依頼頂くまで料金はかかりません。

 

 原則として,当日,遅くとも1営業日以内(24時間以内)に折り返しご連絡させて頂いております。

 

 

英文契約書の相談・質問集118 販売店の販売地域が複数あるのですが注意点はありますか。

 

 英文契約書の作成,チェック(レビュー),翻訳(英訳/和訳),修正の依頼を受ける際によく受ける相談・質問に,「販売店の販売地域が複数あるのですが注意点はありますか。」というものがあります。

 

 販売店契約書(Distribution/Distributorship Agreement)を締結する際,必ずといってよいほど,Territory(販売地域)を定めます。

 

 販売店が売主の商品を,一定のTerritory(販売地域)内でのみ販売できると定め,その他の地域で販売することはできないとするためです。

 

 販売地域は,独占的販売店契約(Exclusive Distribution/Distributorship Agreement)でも,非独占的販売店契約(Non-Exclusive Distribution/Distributorship Agreement)でも通常定められます。

 

 そして,販売店契約(Distribution/Distributorship Agreement)の中には,このTerritory(販売地域)が複数の国や地域にわたることがあります。

 

 例えば,「販売店はイギリス,フランスおよびドイツについて独占的な販売権を持つ。」などと規定される場合です。

 

 このような場合,通常は,一通の販売店契約書(Distribution/Distributorship Agreement)のTerritory(販売地域)の定義のところに,上記の3カ国を書き込めば良いということになります。

 

 一般的にはこのような規定の方法で問題ないかと思います。

 

 ただ,まれに特殊な法律(強行法規/強行規定として販売店にかなり有利な内容の販売店保護法)などが存在する国が販売地域になっている場合,注意した方が良いかもしれません。

 

 一通の契約書に,販売地域として複数の国が書かれていて,販売店がその特殊な販売店保護の法律が存在する国を所在地としている場合,その国以外で販売地域とされた国に対する販売行為についても,場合によって,販売店保護法の対象とされるという可能性があるためです。

 

 例えば,メーカーが販売店契約(Distribution/Distributorship Agreement)を終了させた場合に,販売店が補償金の支払いを受けられるとして,その金額算定の際に,販売店が存在している国における販売利益だけではなく,販売地域とされているその他の国の販売利益なども考慮されるなどということが考えられます。

 

 こうなると,メーカーにとって,補償金の支払いが大ダメージとなる可能性がありますので,このようなことは回避しなければなりません。

 

 こうした問題は,英文契約書の表現や文言での対策は難しいといえますが,少なくとも一緒くたに一本の契約書にせず,販売地域となっている国ごとにばらばらに販売店契約書(Distribution/Distributorship Agreement)を締結した方が無難かもしれません。

 

 こうすることで,あくまで,各国ごとに条件を交渉し,独立して契約されたものだという解釈がなされやすくなって,すべての販売地域に対する売上をまとめて補償金計算の根拠とされにくくなると考えられるからです。

 

 一本の契約書にしてしまうと,すべての販売店が販売地域で採算を見込み,すべての販売地域を一体とした事業であると見られやすくなり,これが,契約終了時の補償金の金額などに影響を与えてしまうおそれがあるかもしれません。

 

 通常は,このようなことまで心配しなくて大丈夫な場合が多いでしょうが,中には,こうしたリスクがある取引も存在するので,事前の現地の法令調査などは怠ってはならないということになります。

 

→next【英文契約書の相談・質問集119】 相手方にクレームを入れたいのですがどのようにしたら良いですか。

 

IMG_6603 resized 2.jpg

 

 英文契約書に関するサービス内容のお問合せ,見積依頼は下記からお気軽にどうぞ。

 

 正式にご依頼頂くまで料金はかかりません。

 

 原則として,当日,遅くとも1営業日以内(24時間以内)に折り返しご連絡させて頂いております。

 

 

英文契約書の相談・質問集117 買主が商品を引き取ってくれない場合どうすれば良いですか。

 

 英文契約書の作成,チェック(レビュー),翻訳(英訳/和訳),修正の依頼を受ける際によく受ける相談・質問に,「買主が商品を引き取ってくれない場合どうすれば良いですか。」というものがあります。

 

 売主が,商品を出荷する準備して,買主に対して引き渡そうとしているのに,買主がいろいろと難癖をつけて,商品の引き渡しに協力をしてくれないという場合があります。

 

 このような場合に,売主としては,何ができるでしょうか。

 

 日本の民法(2018年時点)では,このような場合を,「受領遅滞」と呼んでおり,法定責任説という考えと,債務不履行責任説という考えが存在しています。

 

 簡単にいうと,債務不履行責任説の立場は,買主は売主に協力して商品を引き取る義務を負っていると考え,もし買主の責めに帰すべき事由により,買主が商品を受け取らないのであれば,それは債務不履行となり,売主は,損害賠償請求や契約の解除ができるということになります。

 

 法定責任説では,債務不履行責任ではないので,上記の損害賠償請求や契約の解除までは認められないとしています。

 

 ここで日本の民法の解説をしても仕方がないので,詳細は割愛しますが,要するに,重要なことは,各国の法律によって,買主が商品を受け取らない場合に売主が取れる行動はまちまちであるということです。
 

 買主が自己の都合で商品の受領を拒絶しているときは,売主は商品を引き渡していないことについて債務不履行責任などを問われないということは,一般的に認められるでしょう。

 

 この場合,買主のせいではなく,売主のせいで商品を引き渡せていないのに,売主が損害賠償責任や契約を解除される責任を負うというのは不合理だからです。

 

 ただ,それでも,売主は買主に商品を引き渡す義務を法的に負っている事実に変わりありません。

 

 では,売主は買主が引き取ってくれるまでずっと商品を保管しておかなければならないのでしょうか。

 

 もしそうだとすると,保管費用がかかりますし,食品や季節性商品であれば,すぐに商品価値が落ちてしまいます。

 

 もちろん,この場合買主の都合で売主が商品を保管せざるを得なくなっているわけですから,商品の保管費用などは買主に請求できるという法律が多いかもしれません。

 

 ただ,それ以外の損害賠償請求が可能なのかどうなのかは一般的と言えるような統一的な結論はないと思われます。

 

 法律でどういう手段が認められているかはさておき,現実には,こういう場合,売主としては,早急に売買契約を解除して,商品を他の顧客に転売したいと考えるでしょう。

 

 それには,買主が自己の都合で約束の期日に商品を受け取らないことが,債務不履行を構成し,契約を解除できるとしておくことが安全ということになります。

 

 通常は,買主も納得して商品を注文しているのですから,理由もなく商品の受け取りを拒絶することはないでしょう。

 

 ただ,注文後に転売予定の顧客からキャンセルの申し出が合ったとか,何らかの理由で,すでに発注した商品について,後から受け取りたくないという事情が生じることがあります。

 

 もちろん,売買契約が成立した以上は,売主は商品代金を受け取る権利はあります。

 

 ただ,現場では,代金請求ができるから良いということにはならず,代金の回収が難しかったりして,買主が引き取らない商品をどうするのかということは問題になります。

 

 このような場合に備えて,契約書で買主に受領義務を課し,受領しない場合に売主が何をできるかについて記載しておくことが考えられるでしょう。

 

→next【英文契約書の相談・質問集118】 販売店の販売地域が複数あるのですが注意点はありますか。

 

IMG_6603 resized 2.jpg

 

 英文契約書に関するサービス内容のお問合せ,見積依頼は下記からお気軽にどうぞ。

 

 正式にご依頼頂くまで料金はかかりません。

 

 原則として,当日,遅くとも1営業日以内(24時間以内)に折り返しご連絡させて頂いております。

 

 

英文契約書の相談・質問集40 英文契約書でContractとAgreementと表記されるのでは違いがあるのですか。

 

 英文契約書の作成,チェック(レビュー),翻訳(英訳/和訳),修正の依頼を受ける際によく受ける相談・質問に,「英文契約書でContractとAgreementと表記されるのでは違いがあるのですか。」というものがあります。

 

 確かに,英文契約書,特に英文契約書の本文で,this Agreementと表記される場合と,this Contractと表記される場合と,大きく2とおりに別れています。

 

 もっとも,数としては,Agreementと表記するほうが圧倒的に多いです。

 

 結論としては,どちらの表記でも問題ないですし,実質的な違いはないと考えて良いです。

 

 厳密にいうと,Contractというのは,和訳すれば「契約」ですので,契約である以上,契約として成立し,法的拘束力のあるものとして有効であるという意味が含まれています。

 

 つまり,Contractと呼んだ場合は,契約として効力を持ったものとして表現されているといえます。

 

 これに対し,Agreementというのは,和訳すれば「合意」ですので,契約としての効力を有しているかどうかはともかくとして当事者が合意した事実があれば,Agreementと呼称することになります。

 

 ただ,英文契約書を当事者が作成する場合,単なる合意ではなく,法的拘束力がある有効なものとして(MOUやLOIの意義についてはここでは置いておきます。)作成・締結していることが通常だと思います。

 

 そのため,英文契約書でAgreementという表記がされていても,契約として有効となる要件を満たした契約書(Contract)の意味合いで使用していることがほとんどだといえます。

 

 したがって,両者を区別して理解する必要は実質的にはほとんどないといって良いと思います。

 

→next【英文契約書の相談・質問集41】 強行法規とは何でしょうか。

 

IMG_6603 resized 2.jpg

 

 英文契約書に関するサービス内容のお問合せ,見積依頼は下記からお気軽にどうぞ。

 

 正式にご依頼頂くまで料金はかかりません。

 

 原則として,当日,遅くとも1営業日以内(24時間以内)に折り返しご連絡させて頂いております。

 

 

英文契約書の相談・質問集46 英文契約書の内容変更は不可といわれたら変更はできないでしょうか。

 

 英文契約書の作成,チェック(レビュー),翻訳(英訳/和訳),修正の依頼を受ける際によく受ける相談・質問に,「英文契約書の内容変更は不可といわれたら変更はできないでしょうか。」というものがあります。

 

 相手が大企業などの場合によくあるのですが,そもそも契約書の修正自体一切受けておらず,全件ひな形の通りで契約してもらっていると説明され,全く修正を受け付けてくれないということがあります。

 

 この場合は,その英文契約書の内容のとおりに契約するかしないのかという2者択一になってしまうのでしょうか。

 

 英文契約書の文面の修正を全く受け付けないというだけではなく,英文契約書の実質的な内容を一切変更することはできないという姿勢を相手が崩さない場合,上記のように,そのままの内容で契約するかしないのかの二択になってしまいます。

 

 ただ,中には,英文契約書の文言の修正は一切受け入れられないが,条項の内容自体の変更は一部可能という場合もあります。

 

 要するに,ひな形にはそのままサインして欲しいが,内容の変更は別の方法でなら受け入れるというパターンです。

 

 この場合は,法的拘束力をもたせた覚書(Memorandum of Understanding)(MOU)を締結して,覚書の中で,修正内容を記載すれば変更できることになります。

 

 ただ,通常,英文契約書にはEntire Agreement(完全合意)条項が入っているので,英文契約書以外の合意(この場合は覚書)の内容の効力が否定されてしまう可能性があります。

 

 Entire Agreement(完全合意)条項は,契約書の締結までに成立した契約書以外の一切の合意の効果を否定するという内容になっているのが普通だからです。

 

 この場合は,Entire Agreementにより無効にならないように,覚書の日付を英文契約書より後ろにするなどの対応をする必要が出てきます。

 

 一般的に,Entire Agreementは,あくまで契約書締結までに生じた合意の効果を否定するもので,契約書締結に成立した合意の効果を否定するものではないからです。

 

 また,MOU(覚書)による変更の方法以外には,注文書(Purchase Order)と受注書(Purchase Order Acceptance)で契約書の内容を変更することができる場合もあります。

 

 契約書の内容と個別契約(通常,注文書と受注書で成立します)に定めた内容が矛盾するときは,個別契約に定めた内容が優先するという条項が契約書にあれば,この方法が取れます。

 

 つまり,一旦は契約書にそのままサインをしておき,後に個別契約で一部内容を修正することが可能になるわけです。

 

 他に,英文契約書の内容そのものの修正はできなくとも,英文契約書の条項の文言が,あいまいで広い表現がされてわかりにくいような場合には,その条項の解釈を相手方に質問すると,答えてくれることもあります。

 

 この場合に,Entire Agreementがなければ,メールのやり取りで条文の解釈を明らかにしていけば,あとで英文契約書の条項解釈が問題になった場合に,メールの内容を証拠として主張できる可能性が出てきます。

 

 もっとも,相手方のひな形の場合には,英文契約書にそもそもEntire Agreementがあるのが通常で,これを削除することもできないということであれば,上記の説明も証拠として使えなくなることがあります。

 

 反対に,自社が用意したひな形について相手が譲れないとする修正案を入れてきて,その内容が広範かつあいまい過ぎるなどという場合には,Entire Agreementをあえて契約書から外して,電子メール等を使って契約書外で解釈を明確にし,これを証拠として使用するという方法を用いるということもあります。

 

 この点は,口頭証拠排除原則/法則(Parol Evidence Rule)が日本にはないので,考え方が難しくなっているともいえます。

 

 口頭証拠排除法則(Parol Evidence Rule)とは,上記のEntire Agreementに似た考えで,当事者が最終的に契約書を作成した場合,当該契約書の内容と矛盾し,またはその内容を変更するような他の証拠(例えば口頭による別の合意)を裁判所は考慮しないという原則のことです。

 

 国際取引では,この法則が絡んだり,Entire Agreementが挿入されていたりするために,契約書外での合意の有効性について色々と厄介な問題が生じるのです。

 

 契約書以外の合意の効力を否定するEntire Agreementは一般条項(General Provisions)といってあらゆる契約書に一般的に挿入されていますが,前述したとおり,常にEntire Agreementを入れるのが良いというわけではないので,この点は注意が必要です。

 

→next【英文契約書の相談・質問集47】 英文契約書に記載があっても実際は適用ないと言われました。

 

IMG_6603 resized 2.jpg

 

 英文契約書に関するサービス内容のお問合せ,見積依頼は下記からお気軽にどうぞ。

 

 正式にご依頼頂くまで料金はかかりません。

 

 原則として,当日,遅くとも1営業日以内(24時間以内)に折り返しご連絡させて頂いております。

 

 

英文契約書の相談・質問集43 英文契約書はなぜこんなに長いのでしょうか。

 

 英文契約書の作成,チェック(レビュー),翻訳(英訳/和訳),修正の依頼を受ける際によく受ける相談・質問に,「英文契約書はなぜこんなに長いのでしょうか。」というものがあります。

 

 これにはいろいろな要因があると思いますが,私見を述べたいと思います。

 

 まず,英文契約書は,異なる国の企業同士が締結することが多い(英語圏の契約書は置いておいて)ものですので,できるだけ後で問題が起こらないように,予め多くのことを想定してどのようにするかを取り決めておこうという発想になるのだと思います。

 

 国が異なれば,法律も文化も商慣習も異なりますので,いわゆる「阿吽の呼吸」が通用しません。

 

 そのため,英文契約書では,和文契約書にありがちな無言の理解というのを前提とせず,取り決めるべきことについて詳細に取り決めるという傾向にあります。

 

 また,日本はどちらかというと信頼関係ありき,性善説の考え方で取引に入る傾向がありますが,海外では,いつ騙されるかわからないという姿勢で取引に入る傾向もあるように感じています。

 

 こうした警戒から,必然的に契約書が長文化するものと思います。

 

 もう一つは,日本の法律の起源と,英文契約書の背景となっている英米法(英国コモン・ローの)起源が異なるということも原因として挙げられるかもしれません。

 

 日本は,いわゆる大陸法系の国に属しますので,議会が制定法を定め,そのルールにしたがって経済社会が回るのを基本にしています。

 

 そのため,企業間の取引において問題が生じても,基本的には法律(とそれに関連する判例のこともありますが)を見れば,どのような結論になるかが一応書いてあるということが前提になっています。

 

 これに対して,英国コモン・ローの場合,判例法と呼ばれ,基本的には,個々の案件を裁判所が都度判断した結果の蓄積が法律になっています。

 

 そのため,日本のように体系だって,この場合はこのようになるということが制定法で整理されているというのとは様子が違います。

 

(最近では,英国でも制定法(Statute Law)も多いですし,逆に日本では議会の立法が時代の要請に追いつかないという事情もありますが。)

 

 もちろん,英国判例法をまとめて解説した文献などはありますが,それでも判断内容が変わることもありますので,日本に比べると問題を整理して結論を導く作業が困難といって良いかと思います。

 

 そうなると,必然的に,最初から問題にならないように,または,問題になったときにどうなるかをわかるように契約書に書いておこうという発想になるのではないかと思っています。

 

 そのため,行間や余白を残すというよりは,事細かに取り決めてそれを文書化しておこうとなり,英文契約書は長文になる傾向にあるのだと思います。

 

 このように,英文契約書の長文傾向は,日本の法律や,考え方とは異なる発想から来ているという側面があるので,理解するときには日本的な考えから抜け出して理解する必要があるかもしれません。

 

 「これは書かなくても大丈夫だろう」という発想は日本ではある程度通じるかも知れませんが,国際取引では危険です。

 

→next【英文契約書の相談・質問集44】 英文契約書で修正要望が多いと取引先の気分を害しませんか。

 

IMG_6603 resized 2.jpg

 

 英文契約書に関するサービス内容のお問合せ,見積依頼は下記からお気軽にどうぞ。

 

 正式にご依頼頂くまで料金はかかりません。

 

 原則として,当日,遅くとも1営業日以内(24時間以内)に折り返しご連絡させて頂いております。

 

 

英文契約書の相談・質問集44 英文契約書で修正要望が多いと取引先の気分を害しませんか。

 

 英文契約書の作成,チェック(レビュー),翻訳(英訳/和訳),修正の依頼を受ける際によく受ける相談・質問に,「英文契約書で修正要望が多いと取引先の気分を害しませんか。」というものがあります。

 

 確かに,相手方が出してきた英文契約書のドラフトを,自社に有利になるようにたくさん修正して相手方に提出すると,自社の都合の良いように一方的に要求しているような気がして,気が引けるということはあると思います。

 

 ただ,私の経験からしても,海外の取引先は,むしろ,言いたいことや議論しておきたいことは取引の開始前に出尽くした状態にしておき,取引が始まった後に,あれこれとこれまで話題になっていないような論点が出ないようにしておきたいという動機のほうが強いと思います。

 

 なので,相手のドラフトにたくさん修正要求をしても,意外となんでもないという結論のほうが多いです。相手もそれは織り込み済みで,要求内容を単に再検討してくるだけのことが多いです。

 

 特に日本の文化では,契約書がない状態で長年にわたり取引したり,以心伝心のような考えで,信頼関係を基礎にして取引をしていくといことが珍しくありません。

 

 そのため,取引もまだしていない段階で,相手にいろいろと要求してしまうと,相手方の経営者の機嫌を損ね,取引を開始できなくなるのではないかと心配される経営者の方もいらっしゃることは理解できます。

 

 しかしながら,取引先はそのような考えでいないことが多いですし,こちらがいろいろと修正要求をしたところで,取引先が受け入れられなければ,「修正は受け入れられない。」と単に回答してくるということがほとんどなのが現実です。

 

 遠慮して本来言いたいことをいわずに契約してしまうと,後で紛争になる種を残してしまうことになり,そのことがかえって取引先の信用を失わせるということにもなりかねません。

 

 何でもかんでも自社に有利にするように要求することが良いというわけではないですが(自社の利益ばかりを重視した契約書になると相手方はサインしないということが起こります),国際取引では,あまり遠慮せずにいうべきことはしっかりいうという姿勢が基本的には正しいかと思っています。

 

 その上で,譲歩すべきところは譲歩し,最終的にお互いのビジネスがwin-winになるように英文契約書の内容を確定させるのが定石かと思います。

 

→next【英文契約書の相談・質問集45】 スムーズに英文契約書を締結したいので簡単な内容にしたいです。

 

IMG_6603 resized 2.jpg

 

 英文契約書に関するサービス内容のお問合せ,見積依頼は下記からお気軽にどうぞ。

 

 正式にご依頼頂くまで料金はかかりません。

 

 原則として,当日,遅くとも1営業日以内(24時間以内)に折り返しご連絡させて頂いております。

 

 

英文契約書の相談・質問集42 インコタームズとは何でしょうか。

 

 英文契約書の作成,チェック(レビュー),翻訳(英訳/和訳),修正の依頼を受ける際によく受ける相談・質問に,「インコタームズとは何でしょうか。」というものがあります。

 

 インコタームズは,簡単にいうと,当事者が簡単に貿易条件を設定できるように,一定数の貿易条件を定めた国際的な基準のようなものです。

 

 国際商業会議所(ICC)が制定した貿易取引条件とその解釈に関する国際規則のことを指し,International Commercial Termsが正式名称になります。

 

 International Commercial Termsを略して,Incoterms(インコタームズ)と呼んでいます。

 

 最新版は,Incoterms 2020というもので,10年毎に改訂されています。

 

 インターネットでインコタームズやIncotermsで検索すると,Ex-works,FOB,CIFのようなインコタームズに記載された貿易条件の詳細についての解説記事がたくさん出てきますので読んでみて下さい。

 

 例えば,Incoterms 2020の具体的な条件の内容などはJETRO(日本貿易振興機構: ジェトロ)のこちらの記事で確認できます。

 

 なお,インコタームズは,条約や法律の類ではないので,当事者がインコタームズに書かれた貿易条件を選択しなければ,インコタームズが適用されるということはありません。

 

 国際取引は,異なる国に属する企業同士が行いますし,海上輸送を伴うと,どちらがどこまで物品を輸送するのか,保険はどちらがどこからかけるのか,途中で物品が破損したりした場合どちらが責任を負うのかなど取り決めることが数多く出てきます。

 

 これらをいちいち交渉し,合意していては,選択肢が無限に増えてしまい煩雑です。

 

 そのため,インコタームズという国際準則のようなものが,代表的な貿易の条件を用意してくれていて,当事者はこれを選ぶと簡単に貿易の条件を設定できると理解しておけば良いかと思います。

 

 インコタームズを利用する際に注意しなければならない点はいくつかあります。

 

 まず,どの年度のインコタームズを使うのかを明示する必要があります。

 

 インコタームズは10年毎に改訂されているので,例えば,Incoterms 2000のFOB条件と,Incoterms 2010のFOB条件では内容が異なるというように,貿易条件が変更されていることがあるからです。

 

 また,よく勘違いされているのは,インコタームズで貿易条件を選択すると,危険の移転(Risk of Loss)と同様に所有権の移転も取り決めたことになるという点です。

 

 インコタームズは,危険の移転時期については定めていますが,所有権の移転については何もいっていません。

 

 そのため,取り決める必要があれば,所有権の移転については,英文契約書で別途取り決める必要があります。

 

 他にも,インコタームズを法律のようなものと理解されている方もたまにいらっしゃって,インコタームズを適用するなどと英文契約書に記載し,いろいろな契約書上取り決めるべき条件を取り決めたつもりになっていらっしゃることがあります。

 

 冒頭に申し上げたとおり,これは間違いです。

 

 インコタームズは,法律のようなものではないので,あくまでインコタームズに記載された条件を当事者で約束したということに過ぎず,例えば,売買契約であれば,製品の保証をどうするのか,損害賠償責任についてどうするのか,準拠法についてはどうするのか,などは何も触れていません。

 

 そのため,インコタームズを理解するときは,インコタームズには何が書かれていて,貿易条件を選ぶと何が取り決めされてことになるかをまずは知ることが重要です。

 

 また,インコタームズに記載があっても,この部分は別の合意はしたいということも可能です。

 

 インコタームズはあくまで任意の準則であり,当事者が合意により適用を排除することはもちろん可能だからです。

 

 その場合は,英文契約書にインコタームズとは異なる条件をとることを明記して対応することになります。

 

→next【英文契約書の相談・質問集43】 英文契約書はなぜこんなに長いのでしょうか。

 

IMG_6603 resized 2.jpg

 

 英文契約書に関するサービス内容のお問合せ,見積依頼は下記からお気軽にどうぞ。

 

 正式にご依頼頂くまで料金はかかりません。

 

 原則として,当日,遅くとも1営業日以内(24時間以内)に折り返しご連絡させて頂いております。

 

 

英文契約書の相談・質問集45 スムーズに英文契約書を締結したいので簡単な内容にしたいです。

 

 海外進出・海外展開をするときに必要になる英文契約書の作成,チェック(レビュー),翻訳(英訳/和訳),修正の依頼を受ける際によく受ける相談・質問に,「スムーズに英文契約書を締結したいので簡単な内容にしたいです。」というものがあります。

 

 特にこれまでも取引があるような場合に,改めて英文契約書を作成するというときは,長文の契約書を用意すると,契約内容についての交渉が長期化し,なかなか契約書を締結できないということを心配されるお客様がいらっしゃいます。

 

 確かに,過去に契約書無しで取引してきた場合に,長文の契約書を用意すると検討事項が多くなり,締結までに時間がかかるということはありえます。

 

 ただ,新規の場合も,既存の取引先と契約書を締結する場合も,交渉しておきたい,守ってもらいたいなどという事項については漏らさず取引先と議論し,合意に至った内容を英文契約書に記載することを基本的にはお勧めしています。

 

 たまに,特にこれまでも問題なかったし,銀行に見せる必要があるだけなので,A4一枚程度のごく簡単なもので良いので作成して欲しいという相談を受けることがあります。

 

 契約書の作成目的によって,こうしたご依頼をすべてお断りしているというわけではないのですが,基本的にはお勧めしていません。

 

 仮に銀行に見せるだけであっても,契約書として締結した以上,それが当事者間の合意を表すことになります。

 

 逆を言えば,その契約書に書いていない内容については何も合意されていないという証拠にもなります。

 

 これにより,記載がない事項はなんの基準もない状態となり,相手方は自己の都合の良いようになんでも主張できる基礎固めができたという見方もできます。

 

 また,一度契約書を作ってしまうと,冒頭に書いた問題意識のように,もう一度きちんとした英文契約書を締結するハードルが高くなることもあります。

 

 こういう事態を招くようであれば,むしろ,何も明確には合意されていないという状態(契約書がない状態)のままで,後にきちんとした英文契約書を交わしたほうが良いという場合さえあります。

 

 そのため,経営者の方にお勧めしているのは,目的や書類の必要性を自分だけで判断せず,その書類を交わすことによるメリット・デメリット,代替案の有無,簡単な内容を締結するとして,後の詳細な英文契約書の締結可能性など,アドバイザーに相談してみることです。

 

 この事業には融資がいる→融資元の金融機関がこの書類が必要だと言っている→融資が受けられれば良いから,簡単な契約書で良いというのは,融資のことだけで意思決定していることになります。

 

 しかしながら,この意思決定には,本来考えなければならない多くの要素が抜け落ちてしまっています。

 

 そして,その考えなければならない要素というのは,事業上の要素ではないので,経営者の方が自分で気づくのは難しいです。

 

 そのため,このような点に気づいてくれるアドバイザーを用意しておき,自分だけで決めないということが大切だと思います。

 

 また,意思決定の締切りがぎりぎりですと,多くの要素を考慮した上での慎重な意思決定が時間的にできないという事態を招くので,早めにアドバイザーに相談しながら事を進めることも大切です。

 

 もちろん,例えば,親子会社関係で,監査や税務調査の際に書類がないと困るため,取引の概要を表した簡易な契約書があれば良いというような,実質的に大きな問題が生じないと考えられるケースでは,簡易な契約書を締結しておくということで問題はないでしょう。

 

 ここで想定しているのは,こうした出資関係がない企業同士の通常の取引についてのケースです。

 

 通常の取引では,もちろん相手の言い分もありますから,自社の都合で簡単な契約書が締結できるとは限りませんが,後に利害対立が起こることが十分に想定されるにもかかわらず,自社の都合を押し付けて簡易な契約書を締結してしまうと将来自分の首を締めることに繋がりかねません。

 

 そのため,契約書を交わすからには,すべてのリスクについて検討した上で,できる限り検討項目を漏らさず検討し,相当なリスクヘッジのできた必要十分の契約書を作ることをおすすめしています。

 契約書を作成する際に,作成の目的を考えることは大切ですが,その目的を達成するために不必要な項目を検討項目から外して良いということにはなりませんので,この点は十分に注意してください。

 

→next【英文契約書の相談・質問集46】 英文契約書の内容変更は不可といわれたら変更はできないでしょうか。

 

IMG_6603 resized 2.jpg

 

 英文契約書に関するサービス内容のお問合せ,見積依頼は下記からお気軽にどうぞ。

 

 正式にご依頼頂くまで料金はかかりません。

 

 原則として,当日,遅くとも1営業日以内(24時間以内)に折り返しご連絡させて頂いております。

 

 

英文契約書の相談・質問集47 英文契約書に記載があっても実際は適用ないと言われました。

 

 英文契約書の作成,チェック(レビュー),翻訳(英訳/和訳),修正の依頼を受ける際によく受ける相談・質問に,「英文契約書に記載があっても実際は適用ないと言われました。」というものがあります。

 

 日本企業が海外のブランドの製品を日本に輸入販売するような場合,通常,メーカーがDistribution Agreement(販売契約書)などのドラフトを用意してきます。

 

 このような場合,Distributor(販売店)となる日本企業に不利な内容が数多く書かれているのが通常です。

 

 英文契約書において日本企業側に不利な内容が書かれていれば,当然,日本企業側に有利になるように修正し,カウンタープロポーザルを出します。

 

 しかしながら,相手がある程度の認知度を誇るブランド企業等の場合,修正は容易に受け入れてくれません。

 

 彼らとすれば,自分たちのブランドイメージを守り,浸透させるために,全世界で統一の条件でブランドを展開したいという思いがあるためでもあります。

 

 ただ,メーカーとしてもその日本法人に日本のマーケットは任せてみたいという思いも同時に持っていたりします。

 

 こういう場合,メーカー側は,担当者クラス,場合によっては役員クラスでも,英文契約書のある部分の内容について,「これは,このように記載はされているけれども,実際には,努力をしてくれていれば,この条項を適用することはないから大丈夫です。形式的なものだと理解して下さい。」と説明してくることがあります。

 

 この段階になると,日本企業側も海外の取引先も何度も交渉を重ね,信頼関係もできてきています。

 

 そのため,日本企業側は,海外のメーカーのいうことを信じてしまうというより,取引開始のために信じざるを得ないという状況になります。

 

 こうして,相手方のいうままに英文契約書にサインしてしまうことがあります。

 

 取引開始の当初は,お互いビジネスがうまくいくように協力する意思がありますので,特に問題の条項が浮上することはありません。

 

 しかしながら,日本企業の販促努力が足りなかったり,メーカーのブランディング戦略やマーケティング戦略と,日本企業側が考えた日本のマーケットに向けた特有のアイデアなどが合致せず,次第に関係が悪化していきます。

 

 こうなると,相手方は,容赦なく英文契約書の条項を盾に日本企業の契約違反による契約の解除などを主張してきます。

 

 この段階で,あのときこう説明した,適用はしないと説明していたと言ってみても,Entire Agreement(完全合意)条項により,英文契約書に記載された以外の内容の効力は否定されてしまいます。

 

 そのため,英文契約にサインする段階で,このようなリスクがあることは承知の上で,取引を開始しなければなりません。

 

 相手も騙すつもりがあったとまでは言えないケースがほとんどでしょう。本当にその条項の効果を主張するつもりは当初はなかったのかも知れません。

 

 ただ,条項の効果を主張するか迷う場面というのは関係性が悪くなっている場合がほとんどです。そのため,当初の態度とは異なる態度に出てくるわけです。

 

 当然といえば当然ですが,契約書に書いてあることはすべて実現しても問題ないという覚悟があってはじめて締結するべきです。

 

 もちろん実現する現実的な可能性が低いから受け入れるという判断もありえますが。くれぐれも「書いてあるけど主張しない」という相手の言動は鵜呑みにしないようにしましょう。

 

→next【英文契約書の相談・質問集48】 英文契約書のResiduals条項というのは何でしょうか。

 

IMG_6603 resized 2.jpg

 

 英文契約書に関するサービス内容のお問合せ,見積依頼は下記からお気軽にどうぞ。

 

 正式にご依頼頂くまで料金はかかりません。

 

 原則として,当日,遅くとも1営業日以内(24時間以内)に折り返しご連絡させて頂いております。

 

 

英文契約書の相談・質問集54 過失がない不可抗力で納品できなくても責任はないですよね。

 

 英文契約書の作成,チェック(レビュー/審査),翻訳(英訳/和訳),修正の依頼を受ける際によく受ける相談・質問に,「過失がない不可抗力で納品できなくても責任はないですよね。」というものがあります。

 

 例えば,売主が商品を買主に納期までに引き渡す義務があったのに,台風などの自然災害が原因で,納期までに商品を納品できなかった場合に,売主が責任を免れるのかという問題です。

 

 買主としては,納期までに商品が納品されることを予定して自社の取引先に転売を予定していて,その転売利益を期待しているとすると,転売利益を失うという損害を生じます。

 

 そのため,買主としては,このような損害を売主に賠償請求したいと考えるでしょう。これは可能なのでしょうか。

 

 これは,難しい問題です。まずは,英文契約書において準拠法(Governing Law)がどう定められているかをチェックする必要があります。

 

 仮に,日本法が適用されるとされていれば,日本では,過失責任が原則で,債務不履行責任(契約で約束した義務を義務のとおりに履行しなかった場合に生じる責任)を生じるには,義務を履行しなかった当事者に責めに帰すべき事由というものが必要です。

 

 そのため,冒頭のような自然災害が原因で納期までに商品を納品できなかった場合には,通常,当事者に責めに帰すべき事由は認められないといえるでしょうから,責任を負わないという結論になると思います。

 

 ところが,英文契約書に準拠法が定められていなかったり,英米法圏の法律とされていたりする場合には注意が必要です。

 

 いわゆる英米法では,当事者の契約違反の責任を問うのに,過失や責めに帰すべき事由というものは要求されておらず,Strict Liability=無過失責任(厳格責任)が原則とされています。

 

 そのため,英米法が基礎になる場合には,原則として,不可抗力が原因で契約違反があったときにも契約違反をした当事者は相手方に損害賠償責任を負うということになります。

 

 したがって,英文契約書に定められた準拠法次第では,必ずしも不可抗力を原因とした契約違反が免責されるということではないということになります。(英国では,フラストレーション(Frustration)という後発的履行不能による契約終了などの概念がありますが,ここでは説明は割愛します。)

 

 だからこそ,いわゆる,Force Majeure(不可抗力)条項が重要になってきます。

 

 このForce Majeure(不可抗力)条項が英文契約書に定められている場合には,当事者がコントロールできないような原因で契約違反をしてしまったとしても,相手方に対して損害賠償責任などを負うことはないということになります。

 

 日本法の理解では,不可抗力で債務不履行責任を負わないというのは法律上いわば当然のことです。

 

 ですが,国際取引となると,適用される法律は一義的に決まっているわけではありません

 

 このように,Force Majeure(不可抗力)条項は,一見当たり前と思われる内容の条項でも非常に重要な意味を持っていたりするという代表例といえます。

 

→next【英文契約書の相談・質問集55】 ペナルティにならないようにするにはリキダメと書けば良いですよね。

 

IMG_6603 resized 2.jpg

 

 英文契約書に関するサービス内容のお問合せ,見積依頼は下記からお気軽にどうぞ。

 

 正式にご依頼頂くまで料金はかかりません。

 

 原則として,当日,遅くとも1営業日以内(24時間以内)に折り返しご連絡させて頂いております。

 

 

英文契約書の相談・質問集53 英文契約書で代金の支払方法はどのようなものがありますか。

 

 英文契約書の作成,チェック(レビュー),翻訳(英訳/和訳),修正の依頼を受ける際によく受ける相談・質問に,「英文契約書で代金の支払方法はどのようなものがありますか。」というものがあります。

 

 日本企業が海外の企業を販売店(Distributor)と指名(Distributorship Agreement)して,販売店に自社製品を販売して,現地で商品を展開していくという場面を想定します。
 

 この場合,日本企業がきちんとこのビジネスで利益を上げるためには,当たり前ですが,きちんと代金を回収することが最初の出発点になります。

 

 もちろん,他にも製品の品質管理,契約不適合責任(旧瑕疵担保責任),製造物責任,引渡し責任,解約条件,知的財産権の保護など多くのことに対処しないと利益確保は困難です。

 

 しかしながら,まず基本となるのは,この代金回収です。これができなければ,ビジネスが始まりません。

 

 そのため,代金の回収,つまりは,代金の支払方法の定めは,ことビジネス的な観点から見ると英文契約書でも最も大切な条項の一つとなります。

 

 細かく説明すると代金の支払い方法は数多くあるのですが,私が見る中で特に多い典型的なものに絞って解説します。

 

 最も多いのは,TT送金(Telegraphic Transfer)と呼ばれる銀行送金です。

 

 日本でも銀行から振込送金をしますが,海外の銀行から自社の取引口座に代金を送金してもらうという馴染み深い方法です。

 

 もう一つよく行なわれるのは,信用状(L/C Letter of Credit)決済です。こちらは,簡単にいうと銀行の支払保証付きの決済方法といえます。

 

 L/C取引は全企業ができるわけではないので,私の経験上,中小企業が新たに海外と取引をする際に選択するので数が最も多いのはTT送金です。

 

 この場合,サプライヤーである日本企業としては,いかにして代金を確保するかを考えて,英文契約書に支払条件を記載しなければなりません。

 

 よく取られるのが,商品の出荷前に全額代金を送金してもらう方法です。

 

 こうすると,代金全額の着金が確認できない限りは商品を出荷しなくて済むので,回収の安全性が高まります。

 

 ただし,特注品のようなものは,この方法でも代金確保は安全とはいえません。

 

 なぜなら,販売店から発注を受けてから契約工場に発注をかけて製造し,自社倉庫にいったん在庫にするという流れになっていると,販売店が代金を支払うまでは商品を出荷しなくて済みますが,在庫になってしまっているからです。

 

 こうなると,販売店が代金を支払わない場合,商品を転売できなければ,損失が生じるリスクがあります。

 

 したがって,この場合は,理想は製造開始前(注文時)に全額前払いを受けるということになります。

 

 ただ,いつも全額前払いというのは難しいケースもあります。そういう場合は,製造原価を考えながら,譲歩しつつ分割払いを認めるケースもあります。

 

 発注時◯割,出荷後◯割,検品後◯割などとして分割払いにします。

 

 ただ,やはり分割払いは危険がありますので,お客様によっては全件全額前払でないと受注しないという方もいらっしゃいます。

 

 重要なのは,日本のような感覚(日本でもですが)で,安易に掛売りを認めないことです。

 

 当然ですが,売掛が残ると,国内取引に比べ,国際取引では回収が非常に困難になります。

 

 裁判すれば良い,仲裁すれば良いと簡単に考えてはいけません。

 

 訴訟手続きには実効性に疑問がある場合が多いですし,そもそも多額なコストと膨大な時間を要し,経営資源の問題で選択できないこともよくあります。

 

 そのため,売掛が残るということのないように,事前に英文契約書作成段階でできるだけリスクの少ない支払条件を選択し,交渉する必要があります。

 また,支払方法だけではなく,金額についても争いが生じないようにすることが大切です。

 

 税金はどちらが負担するのか,源泉はどう考えるのか,銀行の送金手数料・着金手数料はどうするのかという点も明らかにしておくと安心です。

 

→next【英文契約書の相談・質問集54】 過失がない不可抗力で納品できなくても責任はないですよね。

 

IMG_6603 resized 2.jpg

 

 英文契約書に関するサービス内容のお問合せ,見積依頼は下記からお気軽にどうぞ。

 

 正式にご依頼頂くまで料金はかかりません。

 

 原則として,当日,遅くとも1営業日以内(24時間以内)に折り返しご連絡させて頂いております。

 

 

英文契約書の相談・質問集48 英文契約書のResiduals条項というのは何でしょうか。

 

 英文契約書の作成,チェック(レビュー),翻訳(英訳/和訳),修正の依頼を受ける際によく受ける相談・質問に,「英文契約書のResiduals条項というのは何でしょうか。」というものがあります。

 

 これは,英文契約書でも,IT系の英文契約書の秘密保持条項に関して挿入されることのある条項です。

 

 日本語では,「残留情報条項」と呼ばれています。細かい議論は置いておいて,簡単に解説します。

 

 企業間で取引する際,お互いの企業秘密を交わすことが多いですが,その場合,自己の秘密情報については,相手方企業に秘密として守ってもらい,契約以外の目的に利用したり,第三者に開示したりしてもらっては困ります。

 

 そのため,秘密保持契約書(Non-Disclosure Agreement)を交わしたり,業務委託契約書(Service Agreement)において,守秘義務条項を入れるのが通常です。

 

 ただ,秘密情報の中にはいろいろな情報が含まれており,有体物やデータとしてある秘密情報を不正に利用したり,流出させたりしてはならないのは当然としても,秘密情報の一部にアクセスした者の記憶に残ってしまったものまで,使用制限するのは不適当な場合があります。

 

 情報そのものに高い価値のある秘密情報というよりは,何らかのノウハウのようなものがイメージとして近いかもしれません。

 

 いろいろな企業がいろいろなノウハウで成果を上げたり,業務効率を上げたりしています。

 

 このようなノウハウを,契約上の義務を履行する上で身につけたとして,そのノウハウを他では一切使用できないとなると形式的すぎて妥当ではない場合があります。

 

 例として適切かどうかはわかりませんが,理解のためには,営業トークのようなものを思い浮かべるとわかりやすいかもしれません。A社との取引で覚えた営業トークの内容や順番を,違う顧客との間で真似してやってみたというような場合がわかりやすいかもしれません。

 

 こういう場合まで守秘義務違反とするのは非常識的というところはあるかと思います。

 

 他方で,契約条項の文言上は,記憶に残ったものは例外的に秘密保持の範囲外という広い規定の仕方をされることもあり,この場合,上記のような常識的に問題ないと考えられるような秘密情報だけではなく,もっと重要な秘密情報まで,従業員の記憶にある限りは,どのようにでも使用して良いとなりかねません。

 

 このような解釈ができることになると,情報開示者としてはリスクが大きいことになります。

 

 したがって,情報を開示する側としては,基本的には,このResiduals条項は挿入しない方が良いことになります。

 

 実際,Residuals条項がなくとも,役員や従業員の記憶に残った情報を使用したという場合に,それが常識的に許容されるべき範囲内で,情報開示者の企業秘密として高付加価値があるようなものではなければ,仮に裁判などで判断されたとしても,秘密保持義務違反を問われる可能性は高くないとも考えられます。

 

 一般的な条項とまでは言い難いですし,情報を受け取る側のNDAのドラフトにこのような条項が合った場合,基本的には削除の方向で検討すべきかと思います。

 

 逆に,情報受領者としても,このような効果の強い例外条項を設けなくとも問題を生じないような体制を作るべきで,Residuals条項に頼るべきではないといえるかもしれません。

 

→next【英文契約書の相談・質問集49】 英文契約書に支払義務を記載すれば払わなければ法的措置をとれますよね。

 

IMG_6603 resized 2.jpg

 

 英文契約書に関するサービス内容のお問合せ,見積依頼は下記からお気軽にどうぞ。

 

 正式にご依頼頂くまで料金はかかりません。

 

 原則として,当日,遅くとも1営業日以内(24時間以内)に折り返しご連絡させて頂いております。

 

 

お問合せ・ご相談はこちら

 お問合せフォーム・電話・メールでお問合せ頂けます。

 お問合せフォーム・メールでのお問合せがスムーズです。

 

お電話でのお問合せ・ご相談はこちら
03-6453-6337

担当:菊地正登(キクチマサト)

受付時間:9:00~18:00
定休日:土日祝日

※契約書を添付して頂ければ見積回答致します。
受付時間:24時間

 英文契約書の作成・翻訳・リーガルチェック(全国対応),実績多数の弁護士菊地正登です。弁護士22年目(国際法務歴15年),約3年間の英国留学・ロンドンの法律事務所での勤務経験があります。英文契約・国際取引の専門家として高品質で迅速対応しています。お気軽にお問合せ下さい。

お気軽にお問合せください

お電話でのお問合せ

03-6453-6337

<受付時間>
9:00~18:00
※土日祝日は除く

弁 護 士 情 報

弁護士  菊  地  正  登
片山法律会計事務所

東京都港区芝5-26-20
建築会館4F
tel: 03-6453-6337
email: kikuchi@mkikuchi-law.com

片山法律会計事務所

住所

〒108-0014
東京都港区芝5-26-20
建築会館4F

アクセス

都営三田線・浅草線三田駅またはJR田町駅から徒歩約3分です

受付時間

9:00~18:00

定休日

土日祝日

 弁護士インタビュー動画

書  籍

士業・翻訳業者・保険会社・金融機関の方へ

各士業の先生方,翻訳業者,保険会社,金融機関のお客様の英文契約書に関する案件についてお手伝いさせて頂いております。

ご紹介頂いたお客様の初回相談料は無料ですので,お気軽にお問合せ下さい。

ご相談方法

メール・電話・Web会議・対面の打ち合わせによる対応を行っております。

サイト内検索 - 英文契約書用語の検索ができます -